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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
四章:《救世主》消失編
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容赦なき姉妹

 ほぼ孤立無援な彼女らにとって、協力者は一人でも多いに越した事はない。

 無論、足を引っ張る無能は御免こうむりたい所だが、候補として挙がったのは、非公式ゾディアックの一人で、あの刹那が盟友として認めていた稀有な人材だ。

 有能さは折り紙付きである。

 尤も、敵味方問わない破壊力も結構なものが予想されるが。


 なので、早速に動き出そうと思ったのだが、二つの理由でそれは暫しお預けとなった。


 一つは、《ラグナロク・システム》が北米大陸に繋がっていない事である。

 大統領令によって、造ろうとする端から《ゾディアック》各員によって破壊されてしまい、いまだカバーされていないのだ。

 その為、秘密裏に北米大陸に上陸する事が難しいと判断されたのだ。


 そう判断された理由の一つが、もう一つの理由でもある。


「そういえば、話を挟む隙間が無かったのですが、美影様、指名手配されておりますよ?」


 移動準備を始めた美影に、永久が何気ない調子で告げる。


「は?」


 思わず振り返ってしまう美影。


 いや、予想はしていた。

 彼女は、傍目にはそうとしか見えない暴走を起こし、周辺に抗えない程の危険を撒き散らしたのだ。

 偶然にも、周りに永久や俊哉、雫がいたおかげで大事にはならなかったが、そうでなければ物的にも人的にも多大な被害が出ていただろう。


 そして、それに対する措置として、現在は拘禁されていなければならないのだが、勝手な理由で脱獄してきているのである。


 第一級の犯罪者と言われても仕方のない状況だ。


 だから、その内、指名手配がされる事も予想はしていたのだが、あまりにも早過ぎる。


 美影が、もう暫しの時間があると思っていたのは、自分が《六天魔軍》だからだ。

 瑞穂の武力の象徴的存在が、罪人に堕ちたというのは、あまりにも醜聞が過ぎる。

 その為、暫くは内々に対処して、可能な限り外に情報が漏れないように追跡してくるだろうと考えていたのだ。


 まさか、第一手で大々的に指名手配されるなんて、思ってもみなかった。


「……証拠あんのかよ」


 悪あがきに問うと、永久は自身の通信端末を取り出した。

 ホログラムディスプレイを起動して、中空に映像を映し出す。


 そこには、雷裂美影の懸賞金付きの指名手配情報があった。


生死問わずデッド・オア・アライブ、とは本気度が違いますね。

 まぁ、金額からして既に暴挙の域ですが」

「…………ぐぬぬ」


 生け捕りにした場合の最大賞金は、なんと500億ドルというギャグとしか思えない額が設定されていた。

 死体の場合でも、100億ドルというのだから大概だ。


「ほぅ。あまり地球人類の経済には詳しくはないのじゃが、これは中々に高額ではないのかの?」


 横で見ていた化け猫が、感心するような面白がるような調子でのたまう。

 それを美影が超反射で蹴り飛ばしている姿をスルーしながら、永久はしみじみと呟いた。


「なんと言いますか……。

 国家予算とはこんなに余っている物なのですね」

「……余ってなんかないよ。特に今は」


 普段であれば、緊急事態用の予備予算があるし、日々、少しずつ貯蓄してきた秘密の財産も存在しているのだが、現在は戦災復興の為にほぼ全てを吐き出してしまっている。

 少しぐらいなら捻り出せない事もないだろうが、500億ドルなどという大金なんて、何処をどうやっても出てこない。


「では、これは嘘の広告でしょうか?」

「……違う。

 あるでしょ。もっと金を余らせてる連中が」

「それは…………、ああ」


 瞬間的には思いつかず首を傾げた永久だったが、悔し気にディスプレイを睨みつけている美影を見て、黒幕の正体へとあっさりと辿り着いてしまった。


「……御実家ですか」

「……うるさいな」


 こんなご時世においてさえ、唸る程に金を余らせている組織がある。

 それこそが大会社サンダーフェロウであり、その支配者である雷裂家だ。

 彼らの金庫を解放すれば、500億ドル程度の金銭など、ぽんと出てくるのだろう。


 そして、それは本家直系の娘である美影を、切り離す事を良しとしたのだと理解できる。


「こう言っては何ですが、雷裂家は随分と冷淡ですね」


 こんなにも即座に切り離しを図るとは、機を見るに敏と言うべきか、冷酷無比と言うべきか、非常に悩ましい所である。


「ほんっとーにうるさいよ、君。

 親の仕業じゃないね、これは」

「そうなのですか?」

「うちは放任主義なんだよ。

 ママもパパも、子供が何していようと大して気にしないよ」


 というか、一発一発のでかさでは、美影は刹那以外の誰にも追随を許していないが、普段からコツコツと小さな前科を重ねるという意味では、母親も父親も大概に酷い。

 あまり表沙汰にされていないだけで、罪科を数値化して計上すれば、美影はまだまだ及ばないだろう。


 そういう訳で、人の事は言えないな、という事らしく、二人はあまり口出ししてこない。

 そんな所だけは、無駄に人間性があるのだ。


「では、一族としての決定でしょうか」


 分家などもある大きな家では、本家だけの意向で全てを決められない事も多くある。

 実際に、炎城家でも八魔制度の廃止を懸念されて、下から色々と突き上げられているらしい。

 姉の久遠が苦労しているのを、永久はその目で見ているし、手伝える部分では手伝っている。

 暇なので。


 だから、雷裂も分家筋などから抗議を受けて、そうせざるを得なかったのか、と考えたのだが、美影は首を横に振る。


「いんや、それはない。

 うちは本家雷裂がいっちゃん強いんだ、色んな意味で。

 だから、これは本家の意向」

「では、誰が?」

「そんなの、決まってるじゃん。

 ママでもパパでもないなら、そんな決定を下せるのは、お姉以外にいないよ」


 雷裂美雲。

 本人は、自分は直系の娘ではあるが、あくまでもそれだけであり、権限など何一つとして持たない、と公言している人物である。


 確かに、その言葉通り、現状では雷裂家及び《サンダーフェロウ》に対する権限を彼女は持たない。


 しかし、一方で、美雲は次期当主として内定している。

 適性としては美影の方が高いのだが、彼女にやる気がない為に美雲へとお鉢が回ってきたのだ。


 だから、次期当主という名を出してお願いすれば、多少の融通は利かせられるのだ。

 あくまで、お願いで実現できる範囲なのだが、そもそもの規模が大き過ぎる為、500億ドルさえもお小遣いの範疇で出てしまったりする訳であるが。


「……薄情なお姉さまですねぇ」

「信頼の証だよ。

 僕がこの程度じゃ死なないって分かってんでしょ」


 命を懸けて己を救ってくれた実姉(久遠)を有難く思いながら永久が呟けば、美影は不貞腐れたように吐き捨てる。


「お姉は本気で僕を捕まえに来てるんだ」


 闇に潜った己を探し出す事は、《サウザンドアイズ》を用いてさえ難しい筈だ。

 こうして無事に逃げきれている現状が、それを証明している。


 その為、少しでも情報収集の効率を上げる為に、こんな事をしているのだろう。

 無論、情報も多くあり過ぎれば、その精査などで労力を取られてしまう。

 しかし、管理するのが美雲である。

 多重高速処理はお手の物だ。

 彼女にとって、情報とは真偽を問わず、あるだけ有り難い物なのである。


「……困ったな。下手に動けば察知されかねない」


 まだ何も糸口を掴めていないのに、掴まる訳にはいかない。

 捕捉されても捕獲されるなんて無様を晒す気は毛頭ないが、一方で相手方を無傷で済ませられるかと言えば、正直な所、自信がない。


 いざとなれば大量虐殺だって辞さない。

 それで兄を取り戻せるのならば、彼女にとって安い代償であるが、好き好んで虐殺を行いたい訳でもない。


 出来れば避けたい事態なのだ。


 だから、なるべく密やかに行動すべきだと思っている。


「では、どうしますか?」


 戻ってきた化け猫を踏み潰しながら、永久が問う。


「…………」


 美影は顎をさすりながら、考え込んでしまい、質問に答えない。


 永久は急かさない。

 急いても仕方ないし、自分は特にアイディアを持たないから。


 答えを待つ間、化け猫を連続でリズム良くふみふみして暇潰しをしている内に、ようやく美影が顔を上げて口を開いた。


「取り敢えず、今はここを動かないでおこう。

《サウザンドアイズ》には、幾つかバックドアが仕掛けてあるから、そこから情報を集めて、外の隙を伺おう」

「承知しました」

「それと、暇な今の内に、こいつを完成させちゃおう。

 出来る限りだけど」


 そう言って、美影は窓の外、メインドックを示す。

 造りかけの《マジノライン三式》である。


「あー……、私、そういう専門技能は持っていないのですが」

「安心しろ。

 君に職人技なんて求めていない。

 そっちの猫にも。

 君たちにできる力仕事を手伝ってもらうだけだよ」


 なにしろ、この工場にはクレーンやら何やら、そうした必需品がほぼ存在していない。

 というのも、利用するのが刹那であるという前提がある為、大抵の事は念力でやれば良い、という結論に落ち着いてしまうのだ。

 結果、工場というにはあまりにも設備の足りていない施設となってしまっている。


 美影だけでこの工場で建造を行うのは、いささか難易度が高いのだ。


「さっ、仕事にとりかかろう。

 永久には資材の精製をお願いしようかな。

 マグマから資源を取り出すだけの簡単なお仕事だ。

 そっちの化け猫は僕のお手伝い。

 念力的な物、使えるんでしょ?

 重機の代わりを頼むよ」

「承知しました。

 素材ごとに分離して固めておけばよろしいですね?」

「我も構わぬが、それよりもまずは魔力を寄越せ。

 でないと、我には大した事は出来んぞ」

「……チッ」


 永久はそれで良いとして、ノエリアからの要求があった。

 確かに、今の彼女にはほとんど残存魔力がない。

 その状態では、矢鱈と重い部品を持ち上げて固定する事も難しかろう。


 約束の件もある。

 彼女には、協力する代わりに純粋魔力を供給する事を約束していた。


 順当な要求に、美影は舌打ちをしつつ応じるしかなかった。


「仕方ないね。

 ここにも、少しくらいは備蓄があった筈だから、そっから勝手に飲んどけ。

 鍵は開けとくから」

「ほほっ。約束を守る娘は好きじゃぞ」

「お前に好かれても嬉しくない」


 行動開始である。


「きゃらふと」という場所を見つけて、遊んでおりました。

結構、良い感じになったので、死蔵するのも勿体ないかと公開してみます。


まずは、雫からで。


挿絵(By みてみん)



みてみんの方では、炎城姉妹ももう載せてありますので、気になる方は覗いていただけると。

筆者のイメージ像です。

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