ネタばらし、そして覚醒へ
気付けば、文庫本サイズで百ページを超える分量に。
でも、まだまだ序盤を抜け出せてない感じですよね。
展開遅すぎだろうか、と思う今日この頃。
元妹への反応が多くてビビる私がいる。
あの、悪い意味で衝撃的だった入学式の夜。
刹那は、ボロ雑巾の様になった姿で、足を引きずりながらなんとか自分の寮室へと帰還した。
「俺は! 帰ってきた!」
「おう、おかえ……って、どうした、センパイ!?
みすぼらしいぞ!? 早速、襲撃受けたのか!?
ざまぁみろ!」
「五月蠅いぞ、トッシー後輩。
俺が雑魚どもに負ける訳がなかろう。
これは、賢姉様の説教を受けた結果だ。
朝まで回復してはならんとのお達しでな。明日まではこのままだ」
「お、おう。雷裂生徒会長か。
中等部時代に少し知ってっけど、相変わらず綺麗な人だよなー。
成長してもっと美しさに拍車がかかってるし。
あれか? 傾国の美女って奴かね?」
「賢姉様を褒め称えるとは、見る目のある奴だ。
だが、あれは俺のだ。誰にも渡さんぞ。
見るだけなら、寛大な心で許してやるがな」
ビシリッ、となんだかカッコいいポーズで宣言する刹那。ズタボロなので恰好ついていないが。
学生寮は、基本的には二人一部屋である。
そして、その部屋割りはなるべく近い実力同士の物という基準で作られる。
その為、入学試験で第一位と第二位の成績を残した刹那と俊哉は、同じ部屋を割り当てられたのだ。
ちなみに、一度、手合わせをしており、俊哉はコテンパンにやられてしまっている。
それ以来、復讐の同志的意味合いでも刹那の事を〝センパイ〟と呼ぶようになった。
それに合わせて、刹那も彼の事を〝後輩〟と呼んでいる。
「にしても、流石は生徒会長だなー。
センパイをそこまで痛めつけられるなんてよ。
あれか? あのクソ硬ぇ謎バリアを突破するコツでもあるのかね?」
理不尽なまでに硬い防御力は、既に嫌というほどに理解している俊哉。
それを抜いてダメージを与えるとは、高等部生徒会長というのはそれ程の物なのか、と感心せずにはいられない。
だが、それに返ってきた答えは、実にシンプルで、かつ自分には真似のしようも無い物だった。
「それは簡単な話だ。
バリアを解除しろと賢姉様に言われたからな。
そう言われれば従うしかあるまい」
単純に、無防備な状態にしてしばいただけである。
他の誰か、たとえ天帝からの命令であっても、刹那は笑顔で拒絶するだろう。
だが、雷裂の姉妹だけは別だ。
彼女たちが命ずるなら、彼は逆に笑顔で死地にも飛び込む。
ただ、それだけの事だ。
「あ、そう……。ま、まぁいいやな」
何か、決定的な価値観の違いを見た気がした俊哉は、これ以上、この話題について掘り下げる事を止める。
登校一日目にして、いきなり破れたり穴が開いたり焦げ目が付いたり、という酷い有様となった制服を脱ぎ、ラフな格好……ではなく、何故かスーツに着替え始める刹那。
寝巻用のスーツらしい。
俊哉はもうとっくに気にする事を止めた。
「でさ、センパイは何でまた、あんな事を言ったんだ?」
「あの入学挨拶の事か?」
「そうそう」
ふむ、と頷きを入れて、
「これから先、世は激動の時代を迎える。
その時、普通に優秀なだけの輩に居場所などないからな。
成長の手助けでもしてやろうと思ったのだ。
もっと簡潔に言えば、俺と並べるほどなんて高望みはしないから、せめて俺の足元並みになって欲しいと思ったのだよ」
高天原神霊魔導学園は、間違いなく日本帝国でトップのエリート校だ。
そして、そこに所属する生徒たちも皆、間違いなく次代の帝国を担うトップエリートである。
だが、足りないのだ。それでは。
そう遠くない未来、世界は修羅の巷と化す。
その時、ただ普通に優秀なだけの者の活躍する場など存在しない。
修羅神仏の戦場の中では、現基準におけるAランク以下の存在は、嵐に翻弄される羽虫の如く状況に生殺与奪の全てを奪われるだろう。
そのようにならない為には、力を付けるしかない。
貪欲に武を磨き、狂気の如き智を蓄え、圧倒的格上にすら立ち向かう勇気を振り絞らねば、自らの命すら守れないのだ。
だから、刹那が立ちはだかる。
己こそが、お前たちが乗り越えるべき巨峰なのだと。
少々厳しいが、一種の愛の鞭だ。
尤も、刹那からの物ではなく、天帝からの物であるが。
それを言ってやるつもりはないが。
「……それってさ、センパイの復讐とかと関係あるのかねぇ?」
「ほぅ? 何故、そう思うのかね?」
関係があると言えば、ある。
直接的な物ではないが、関連はしている。
先日の約束、復讐のネタばらしはまだしていない為、俊哉はそれを知らない筈だが、何かを勘付いているらしい。
興味を惹かれた刹那は、答えを言う前に彼の考えを聞いてみる事とする。
「受験が終わってからよ、俺っちも考えてみたんだよ。
センパイは何をしたんだろうな、って。
キーワードは、あった。
〝世界の為になる〟。
〝徐々に首が締まる〟。
〝俺っちほどピンポイントではない〟。
それらを軸に考えてみたんだ。センパイの境遇も含めてな。
……で、一つ確認なんだけどよ、センパイの生まれって、もしかして八魔か、それに近い場所なんじゃねぇの?」
「肯定を返そう。続けたまえ」
「オーケー。個人的には話が繋がった。そこが一番のネックだったんだ。
じゃあ、答え合わせをしよう。
……センパイは、多分、俺っちみたいに直接ぶち殺す類の復讐を選ばなかったんだ。
なにせ、相手は公的な立場のある存在。
それを襲撃して殺すような事をすれば、当然、犯罪に問われる。
それは、この前の前向きな復讐論に反するだろ?
だから、遠回りにダメージを与える事にしたんだ。
じゃあ、それは何か? ってーと、答えは簡単だ。
八魔の看板を引っぺがす。
八魔家ってのは、その看板を誇りに思って、意地でもしがみつこうとする性質があるからな。
だからこそ、何らかの問題のある子供には虐待紛いの事だって平気でする。
その後生大事にしているそれを剥がしてやろうと思ったんじゃないか、と考えたんだ」
「良い推論だ。それで?」
「八魔から引きずり下ろす、と言っても簡単じゃねぇ。
それこそ、直接的に何かをして魔術師として欠陥を抱えさせて、それで八魔の座を追われたとしても、それはやはり犯罪で殺すか殺していないかの違いしかないからな。
ならば、視点をもっと変えよう、と思った。
八魔から降ろせないなら、八魔そのものを壊してやればどうだろうか?
しがみついているその看板の価値を貶めてやれば良いんじゃねぇか?
と考えてみた訳だ。
そうすれば、一気に繋がった。
センパイ、アンタは何らかの新技術を開発して、既存の魔術師の戦力基準をひっくり返したんじゃねぇか?
八魔家なんて看板を掲げても、何の意味もなくなるような、他の才無き者が活躍できるっていう、そんな技術をよ。
それなら、世界の為にもなる。
技術が浸透するまでは時間がかかるからな。徐々に首は締まっていく。
そして、他の八魔やらその系列などなども巻き込まれるから、ピンポイントな復讐でもなくなる。
それに、他の底上げにもなるからな。激動の時代を生き残る力にもなる」
どうだ、と言わんばかりのドヤ顔に、刹那は手を叩いて喝采を送る。
「マーベラス! 素晴らしいぞ、トッシー後輩!
意外なほどに頭脳派ではないか!」
まさかそれ程に迫るとは思わなかった。
素直に称賛を送るに値する。
強いて訂正をするとするならば、
「一つだけ違う点があるとすれば、俺は最初からそうしていただけだ。
元実家に対しては、そこまでの恨みを抱いていない。
俺の恨みの矛先は、この世界そのもの。
魔術師の才能の為なら、多少の犠牲も仕方ないという虐待を良しとする価値観そのものだからな。
だから、八魔を代表とした名家の看板を叩き壊し、Sランクにも至っていないのに英雄を騙る偽物どもを駆逐してやろうと思ったのだ。
そこぐらいだな」
「うっしゃ! 合格点だぜ!」
ガッツポーズをする俊哉。
刹那も気分が良い。
知恵を絞って正解へと至ろうとする姿勢は、とても好ましく思う。
英雄となる資格がある。
「これは報酬を与えねばならんな」
「あん? 報酬?
なんかくれん、の……か?」
言い切るより前に、急激な眠気が襲ってきた。
それに疑問を覚えるよりも早く、まるで抗う事も出来ずに俊哉の意識は暗闇へと落ちていった。
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俊哉の中に伸ばした念力を引っ込める。
「無事に覚醒したようだな」
刹那は彼の状態を確認し、満足げに頷く。
超能力。
地球人類ならば誰もが持っている可能性ながら、魔力によって奥深くに封じ込められてしまっている奇跡の力。
刹那は、自らの念力でそれに触れ、強引に引っ張りだす事を可能としている。
俊哉に施したのは、それだ。
どうも、それを施すと魂とでも呼ばれる部分に負荷がかかってしまい、強制的に眠りに落ちてしまう様なのだが、命に別状はない。
刹那は楽し気に笑う。
「ククッ、起きた時には自分の新たな力に気付くだろうな」
いまだ目覚めたばかりの、力。
その力は弱く、すぐさまにどうにかなる事はない。
だが、鍛えれば強くなる事は、家族が証明している。
美雲然り、美影然り、義両親然り、である。
新たな混合能力者――《二重螺旋に住まう者》の誕生だ。




