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エピローグ:妖怪ショッキングと、女怪改め……

ショッキングがやりたかっただけなんだ。

「……貴様、正気か?」

「汝、鏡を知っておるか?

 今の汝にだけは問われたくないセリフじゃのぅ」


 時を置いて、遂に再結合を果たしたノエリアは、地球へと再降臨した。

 鋭くその気配を感じ取った刹那は、現場へと急行したのだが、そこで見たノエリアに対しての第一声がそれだった。


 対するノエリアのカウンターに、彼は髪をかき上げながら自信たっぷりに頷く。


「知っているに決まっているではないか、馬鹿め。

 毎朝、一時間は見ているとも。

 文明人として身だしなみは大切だからな」

「……そうか。

 狂人は価値観が違うからこそ、狂人なのじゃのぅ」


 しみじみと復活して早々に世の真理を離界した彼女だが、落ち着く間もなくその身を捕獲された。


「まっ、何はともあれ、復活おめでとう。

 さぁ、これからドキドキワクワク尋問タイムと行こうじゃないか!」

「……まぁ、別に今更構わんのじゃが、この状態は何とかして欲しいのぅ」


 ノエリアは、刹那の腕に簀巻きにされた状態で運ばれている現状をこそ嘆いていた。


~~~~~~~~~~


 瑞穂統一国、情報部。

 ほぼ全てが暗黒に包まれており、その存在と現長官の名前くらいしか知られていない場所に、刹那はやってきていた。


「おい、貴様。

 部下の教育はきちんとしたまえ。

 人を見て、いきなり銃撃してくるとは。

 全く、躾がなっていないぞ」

「ははは、これはおかしな事をのたまう珍生物でありますなぁ。

 今のあなたの姿を見て、攻撃を仕掛けない情報部員はいないでありますよ?」


 情報部長菅にして、《六天魔軍》第三席、ナナシ。


 彼女は、刹那の苦情を一切取り合わず、軽快に笑い飛ばしていた。


 狂人の戯言だ、と。


 それはそうだろう。

 今の刹那は人の姿を取っていない。

 強いて人と言える部分は、頭部のみであり、首から繋がる身体部分は完全に人間ではなかった。


 一言で言えば、触手。


 多種多様な触手がうねうねもぞもぞと蠢いている様は、見ているだけで気分が悪くなる程の醜悪さだ。

 頭部だけは人の形をしているから、その印象が更に助長されている。


「刹那殿は、何故、その様な姿をしているのでありますかな?

 これが噂に聞く、異界存在からの浸食とやらでありますかな?」

「ふっ、勘違いするな。

 今の私は刹那ではない。

 触手の中の触手、触手キング!

 略して、ショッキングと呼んでくれたまえ!」

「……確かに、その見た目はショッキングではあると思うのじゃが、出オチが過ぎるであろう」


 触手の形態は、実に様々だ。


 タコ足のように吸盤が付いている物、ただ細長い肉で出来たひも状の物、全体にイボの様な物がちりばめられた物、基本はひも状と変わらないのだが先端が何故か男根のようになっている物、そもそも有機物ではなく全体が機械で構成されている物、などなど。


 そんな物の塊は、確かに触手の王に相応しく、まさしく衝撃的(ショッキング)である。


「で、先程の質問に答えて欲しいのでありますが」

「ほほぅ?

 そんなに私の事が気になるのかね?

 私が、どの様な経緯を辿ってこの形態へと至ったのかを!」

「いえ、別に」

「よし、ならば答えよう」


 普段とあまり変わらない様子から、浸食ではないな、と結論付けたナナシは首を横に振った。

 そんな彼女に、刹那改めショッキングは、質問の答えを語る。


「始まりはそう、些細な事だった」

「なんか語り始めよったぞ、こやつ」

「あれは私が愚妹の見舞いに行った時の事だった。

 入院生活に暇を持て余した彼女は、母からの差し入れであるエロゲー詰め合わせセットをプレイしていた」

「出だしからして酷いでありますなぁ」

「欲望に忠実である事は良い事だ、と私は感心を示しつつ、愚妹の興味を引いたプレイ内容を確認していく訳だが……」

「ツッコミ役がいないと、絵面が酷過ぎるのぅ」


 エロゲーをプレイする傷だらけの少女と、その横で彼女の成果を確認していく青年。

 犯罪的である。


「確認作業を進めていると、どうにも愚妹の趣味が偏っているような気がしてきた私。

 そして、私の存在に気が付いた愚妹がぽつりと漏らしたのだ。

 触手プレイって、ちょっと惹かれるよね、と」

「あの小娘は、どこまで堕ちていくのでありますかなー」

「そんな訳で!

 私は触手への造詣を深めるべく、触手になってみたのだよ!」

「短絡的に過ぎる男じゃの」

「最初は一本動かすだけでも難しかった触手もこの通り!

 数百本の触手を自由自在に蠢かせる事を可能にした!

 人間の順応能力を舐めてはいかんぞ!」

「ショッキング殿を我々人間と同列に語らないで欲しいのでありますが」


 うねうねうねうね、と気色悪く動き回る全触手。

 ただ見ているだけで正気度が急降下していきそうだ。


「ちなみに、オプションとして媚毒の精製なども可能となっているぞ?

 どんな生娘でも一発でメロメロコロリンな特別製だ。

 尤も、リクエストしてくれた愚妹には、あまり意味はないのだが」

「まぁ、あの小娘には効かないでありましょうな。

 とはいえ、面白い機能でありますな。

 ハニトラ用に少し分けて欲しいでありますぞ」

「ふっ、初回サービスとして割り引いておいてやろう。

 請求書は後で送付しよう。

 宛名は情報部で良いかね?」

「皇居、帝様宛てにして欲しいでありますな」

「経費で落とすつもりか。

 ケチな人間だな」


 この結果、後に皇居宛てに〝媚薬在中〟と書かれた一斗缶と、〝媚薬代〟と書かれた請求書が届けられて、後の時代まで続く伝説になったとか。


 話が一段落した所で、ナナシは先程から視界の端にちらちらと映っていた物体へと視線を向ける。


「それで、それが女怪殿でありますか?」

「女怪と呼ぶでないわ」

「うむ、これが女怪だ!

 もはや女怪ではないがな」


 触手で簀巻きにされて掲げられているそれは、猫だった。


 以前のノエリアの髪色と同じく、毛並みはオーロラの様な色合いをしており、瞳の色も金と銀のオッドアイをしている。

 周囲に浮遊している羽衣も、それがノエリアである事を証明している。


 体形は、中々のデブ猫である。

 憎たらしい顔つきをしており、足元にいれば思わず蹴り飛ばしたくなる外見だ。


「女怪、改め怪描サノバビッチだ!」

「……何故、汝は我をそう妖怪扱いしたがるのか」

「喋る猫など、実質、妖怪と変わらないでありますよ?

 まぁ、それは良いとして、尋問でありましたな」

「うむ、その通りだ。

 場合によっては、拷問も含む」

「どちらかというと、そちらが主目的な気もするでありますなぁ」

「ふっ、ばれてしまったかな?」

「おい」

「バレバレでありますよ~」

「うおい」


 ノエリアのツッコミは当然のように無視された。


「一番頑丈な部屋は開けてあるであります。

 好きに使ってくれて構わないでありますよ」

「ありがとう」

「我の声が聞こえておらんのか、おんしら~」


 そして、情報部の奥へと消えていく、妖怪二人組。

 その背を見送ったナナシは、席を立つと背筋を伸ばし、


「さて、巻き込まれないように退避するでありますかな」


 足早に外へと向かうのだった。


~~~~~~~~~~


 表面に棘の生えた拷問椅子。

 そこに乗せられ、触手で縛り付けられた怪描に、触王が語り掛ける。


「実のところ、貴様に訊きたい事など何一つとしてないッ!」


 先日、朝鮮王宮にて怪描から怪人ナナシへと渡された情報の解析は、既に終了している。

 おかげで、異界側、惑星ノエリアで何があったのかなど、大体の経緯は地球側の知る所となっている。

 なので、今更、怪描を絞り上げて知りたい事など、実は無いのだ。


「では、とっとと解放してくれぬかの?」

「だが!

 貴様を野放しにする事など出来はしない!

 当たり前だろう!」

「懸念としては理解できるのぅ」

「という訳で、こんな物を用意してみた」


 カラカラ、と乾いた音を立てて何らかの装置を載せた台車が引き寄せられる。


 機械に疎い怪描には、それが何なのか一見して分からない。

 そんな彼女に、触王は装置から伸びた電極を取って見せる。


「脳味噌に電極ぶっ刺してビリビリしてやれば、どんな輩も素直な自分を取り戻せるさ。

 なぁに、電圧次第だが、数分もあれば何も分からなくなる」

「おいコラ! ふざけておるのか、汝は!」

「ふざけるだと!?

 貴様、言葉は考えて喋りたまえ!

 私はいつだって大真面目に話しているというのに!

 名誉棄損にも程がある!」

「大真面目にやって、それなのかッ!」


 怪描は羽衣を閃かせ、自身を拘束している触手を斬り裂いて脱出する。


「ほほう、あくまでも抵抗するつもりかね?」

「当たり前であろうが、阿呆め。

 弱っていようとも、我は星の名を受け継ぎし星霊であるぞ。

 甘く見るでないわ」

「甘くなど見てはいない。

 見ていないからこそ、心を込めて洗脳してやろうというのではないか」


 高まる緊張。

 やがて、それが極限に達した所で、二人は動いた。


「「うおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」」


 大した意味もなく、唐突に勃発した妖怪決戦(じゃれ合い)。

 完全なる守護者と、弱り切った守護者の激突の結果は、語るまでもないだろう。


~~~~~~~~~~~


 瑞穂某所、炎城本家の邸宅にて。


「やぁ、元気にしているかい!?

 私はとても元気だ!」

「「「きゃ、きゃああああああああああああッッ!!??」」」


 血まみれの触手の訪問に、つんざく悲鳴が上がった。


 流石は瑞穂を代表する八魔の一角と言うべきか。

 働く使用人たちは、悲鳴を上げながらも異形の妖怪へとしっかりと攻撃を加えていた。


 乱れ飛ぶ炎の嵐を、触手を巧みに操って捌いていく触王。


 少しして、騒ぎを聞きつけた現当主、炎城久遠がやってくる。


「せ、刹那君!?

 どうしたんだ、その姿は!?

 何かの呪いか!?」

「私は刹那ではない!

 私の名は、ショッキングだ!」

「え!? いや……えぇ?」


 躊躇ない断言に、久遠は困惑を隠せない。


「どうしたのですか、お姉さま。

 ……って」


 続いてやってきた永久は、炎の中に蠢く触手を見て、一瞬にして眇めとなり、


「はぁぁぁぁ……」


 それはもう深い深い溜息を吐いた。


「と、永久。

 実は触手がやってきて、それが刹那君で、なのに刹那君ではなくショッキングだと、いやショックは受けているが、そういう意味ではなく……」

「お姉さま、落ち着いて下さい。

 大体、理解しました。

 じきに慣れます。

 ほら、皆を止めてあれを招いて下さい」

「い、良いのかな?」

「しっかりして下さい。

 今はお姉さまが当主なのですから。

 それと、拒絶しても無駄です。

 というか、より酷くなるだけです。

 今度は夜中に枕元に立たれますよ?

 それでも良いんですか?」

「いや、良くない。分かった。

 ……おい、それは大丈夫だ!

  怪しい奴だが問題ない!

 ああ、ショッキング? 君。

 悪かったね。よく来てくれた」

「いや、私こそ唐突の来訪、申し訳ない。

 事前に連絡しておけば良かったな」

「……その姿では、連絡の有無に関わらず騒ぎになっていたと思うが」

「お姉さま、言っても仕方がありません。

 とっとと話を終わらせて、穏便に帰っていただくのが吉です」


 ともあれ、触手を招き入れる炎城姉妹。


「それで、今日はどのような用件で?」


 客室で向かい合った所で、久遠は単刀直入に斬り込む。


 触王は、出されたお茶を一口飲みながら、勿体ぶる事なく本題へと入った。


「うむ。実は、君たちに、どちらかと言えば、特に永久嬢に贈り物があってね」

「……私に?」


 姉の隣に座っていた永久は、名前を出されて困惑と警戒を抱く。


 こいつが真っ当な物を出す筈がない。


 それは互いの関係性を見れば分かり切った事だし、彼の性格を考えても疑う余地が無い。


 いつでも逃げられるように僅かに腰を上げて、魔力を高めながら、彼女は問いかける。


「何を持ってきたのでしょうか?」

「ふっ、これだ」


 一本の触手が永久の前に差し出される。

 その先には、簀巻きにされた猫が吊るされていた。


「ごろにゃ~」

「「……………………」」


 とてもわざとらしい、人が猫の物真似をしてみました、と言わんばかりの鳴き声がそいつから放たれた。

 思わず眇めになってしまう姉妹に構わず、触王は永久の膝の上にその猫を放り出した。


「受け取りたまえ。ペットにでもすると良い」

「…………あっ、あ~。

 いや、なんとなく想像は付きましたが、何ですか、これ?」


 猫の正体へと思い至った永久は、裏付けを行うべく訊ねる。


「本人に訊いてみたまえよ」

「…………」


 視線を猫へと移すと、そいつは永久の膝の上で立ち上がり、何処か焦点の定まっていない瞳で名乗りを上げた。


「ぽきゅ、さのばびっち。よろぴくね!」

「……何、この妖怪。私にどうしろと?」

「可愛い猫じゃないか。ペットにすると良い。

 しばらく、行動を共にしていたのだろう?」

「いや、そうだけど」


 どうしたものか、と悩む永久。


 仮にも始祖とまで呼ばれた大魔術師だというのに、今ではこの有様である。

 このどうしようもない現実に、永久としては涙を流さずにはいられない。


「何をしたのですか?」

「脳味噌に電極ぶっ刺して電流ビリビリ流してやっただけだ。

 少しやり過ぎてショートしてしまったが、まぁ御愛嬌という物だな」

「責任取って自分で飼ってください」

「馬鹿者!

 これ以上、我が雷裂の変態濃度を上げるつもりか!?

 既に飽和状態だぞ!?」

「自分の家がおかしいって自覚があるんですね……。

 はぁ、分かりました。分かりましたとも。

 受け取っておきます」


 知らぬ間に、自分の身の回りに仕掛けられるよりは、ずっとマシだ。

 人生とは妥協と諦めだと思い知りながら、永久は怪描を受け取る事を決断した。


 彼女の素直さに満足げに頷いた触王は、触手の奥から一枚の紙を取り出して差し出す。


「潔いね。

 そんな素直な君には、これを進呈しよう」


 ねっちょりと粘液に濡れているそれを、永久は嫌そうに受け取る。

 広げてみれば、それは幾つもの連絡先が書かれたリストだった。


「これは……?」

「腕の良い三味線職人のリストだ。雷裂家のお墨付きだぞ」

「…………貰っておきましょう」


 いざとなれば処分しても良いと知って、肩の荷が軽くなった気分の永久は、気持ち悪い感触のそれを大切に受け取った。


「では、私はこれにてさらばだ! アデュー!」


 言うが早いか、触王の全身がどろりと溶ける。

 液体となった彼は、建材の僅かな隙間を縫って、この場から消え去った。


 嵐の様な訪問に付いていけてなかった久遠は、やっとの事で再起動して、妹へと訊ねる。


「……結局、どういう事なんだ?」

「我が家にペットが送られてきた。それだけの事です」

「うにゃ~ん」


 炎城家の変態度が上がった瞬間だった。


怪描のイメージは、某クソ猫、の〇こ提督です。


これにて三章兼第一部、完! です。

暫しお休みを貰ってから、四章スタートさせます。


まぁ、その前にちょぼちょぼ閑話を放り込みますが。

せっかく学園にいるのですから、体育祭とか文化祭とか、そうした行事も書きたいな~、と思ってみたり。

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[一言] この怪猫、炎城さん家じゃなくて火星に送られていれば幸せに生きていけていたのに...
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