混迷の入学式
刻一刻と増えるブックマークが、評価が、続きを早く書けと私に囁いてくる……!
本当は週一ペースでまったりとやるつもりだったのに、どうしてこうなった……。
登場人物紹介に、ジャック・ストーンの項目を追加しました。
「第六部分:急所があれば抉らずにはいられない」において、《嘆きの道化師》が放置されている理由を改変してあります。
時は進んで、四月。
春も半ばに至り、世は新年度を迎える門出の季節である。
それは、ここ、高天原神霊魔導学園も同じである。
高天原表層部の一角、第一大講堂において、中等部高等部合同の入学式兼始業式が行われていた。
講堂の中心では、式の主役である生徒たちが整然と着席しており、それを囲むようにスタンド席には生徒の家族たちや来賓が詰めている。
国歌斉唱や学園長からの祝辞、更には中等部及び高等部それぞれの生徒会長による祝辞を終え、次は新入生代表の挨拶となっている。
代表には、中等部と高等部で二名ずつ。
それぞれ内部進学生首席と外部受験生首席が選ばれる。
無難で奇を衒わない、汚い言い方をすれば面白味のない挨拶が続き、最後に高等部外部受験生首席の出番が回ってくる。
『高等部代表、雷裂 刹那君』
「はい!」
名を呼ばれ、最前列に座っていた男子生徒が起立する。
その姿に、僅かにざわめきが起こる。
別に、彼自身の姿に問題があった訳ではない。
制服を大胆に着崩している訳でもなく、騒ぎ立てるほどに見目が整っている訳でもなく、逆に嫌悪を覚えるほどに不衛生な姿をしている訳でもない。
ならば、何故、周囲がざわめいたのか。
理由は二つある。
一つは、彼の名が〝雷裂〟である事。
もはや言うまでもなく、それは八魔家の一角を戴く家名であり、魔術師を志す者なら誰しも大なり小なり注目する姓だ。
にもかかわらず、刹那という名を誰も知らないが故の困惑。
そしてもう一つは、とある噂に起因する。
曰く、難関の筆記試験をほぼ満点で通過した。
曰く、実技試験で試験官を圧倒した。
曰く、にもかかわらず面接で落とされそうになった。
などなど。
入学前から話題に事欠かない人物だからである。
堂々とした歩みで壇上へと上がる刹那代表。
彼は、講壇へと至ると、懐から原稿を取り出して広げる。
「若い草の芽も伸び、桜の花も咲き始める、春爛漫の今日……って、なんだこれは。
誰だこんな面白味もない駄文を書いたのは」
時候の挨拶と同時に、態度が崩れる。
大きくなるざわめき。
当然だ。マスコミも入っているほどに注目されている場で、この様な言葉を紡ぐ馬鹿など、今までに一人たりともいなかった。
教職員席にいる金の髪を持つ高等部生徒会長が、深刻な様子で頭を抱えている。
高等部内部進学生の席では、黒髪の少女が腹を抱えて呼吸困難に陥っている。
「えー、諸君。
俺は新入生代表という事で、一応は調べてみたのだ。
代表挨拶では一体何を話すべきなのか、という事を」
周囲の困惑を無視して、何かを語り始める刹那代表。
「目を惹いたのは、一つ。
学校生活への抱負という項目だ。
他はどうでもいい。
俺は、この場で宣言しようと思う」
一拍置いて、
「俺が、頂点だ。誰にも、そう誰にも、この座は譲らん。
俺が在校する三年間、ずっと二位争いをしていろ。
それを不服だと言うのならば。
己こそがナンバーワンだと誇るのならば。
超えてみせろ。
俺こそが! お前らが超えるべき高き壁だ!」
挑戦状を、叩きつける。
いや、既に彼がトップである以上、挑発状とでも言った方が正確かもしれない。
言葉を理解した後に湧き上がるのは、激情。
特に反応するのは、中等部も高等部も問わず、在校生組だ。
彼らは、高等部入学の刹那代表よりも魔力が高いという自信がある。
彼女らは、高等部入学の刹那代表よりも長く実践的魔術を学んできた自負がある。
それを馬鹿にされた。貶された。無駄な事だと断じられた。
黙っていられる訳が、ない。
爆発する罵声。
怒号が響き渡り、中には制御を外れた魔力を溢れさせる者もいる。
「ハハハハハッ、素晴らしい声だ!
なんというヒーリングボイスか!
録音して毎日でも聞きたいくらいだな!
では、これにて新入生代表挨拶を終わります。雷裂 刹那でした」
講壇を下りた刹那代表は、高等部生徒会長に速攻で拉致されて消えていった。
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『高等部代表、雷裂 刹那君』
高等部生徒会執行部部長――炎城 久遠は、雷裂 美雲の隣でその名を聞いた。
呼ばれて立ち上がる男子生徒の姿に、彼女の瞳に涙が滲む。
記憶を刺激する面影を、彼の姿に見たが故に。
五歳と一五歳では、まるで違う。
記憶にある彼は、自分よりも背の低い可愛らしい子供だった。
今、視界に映るのは、自分よりも背が高く、男らしい体付きと顔立ちをした少年だ。
見比べれば、誰もが似ていないと言うだろう。
それでも、彼女には分かる。
血を分けた姉弟だからこそ、彼が自分の弟であると面影を辿れる。
「せ、つな……。刹那っ……!」
小さく、口の中でその名を呼ぶ。
彼が新入生代表に選ばれたと知った時、早々に出会えると期待した。
だが、彼は予行練習には一切顔を出さなかった。
美雲に訊けば、忙しい、という言葉だけが返ってくる。
己がいるから、己と顔を合わせたくないから、出席してこないのでは、と自虐的に疑ってしまう。
そして、一度たりとも顔を合わせる事無く、今日へと至ってしまった。
彼の姿を見た瞬間、募った罪悪感が溢れ出す。
今すぐに駆け寄りたい。
彼の手を取って謝罪したい。
彼を力いっぱい抱きしめて生存を喜びたい。
だが、それは許されない。
どの面下げて、彼に寄り添おうというのだろうか。
かつて、彼に軽蔑の視線を向け、彼が虐げられる事を良しとしていたというのに。
そんな葛藤を抱いている内に始まる、彼の言葉。
結局、何も考えてこなかったというので、急遽台本を用意したのだが、事態は思わぬ方向へと走り出した。
全ての生徒に対して喧嘩を売りつける宣言。
数多の激昂と罵声を浴びる彼。
久遠自身、自分の矜持を傷付けられる思いがある。
だが、それよりも恐ろしい事がある。
隣で、頭を抱えながら、鬼気を纏う美雲の存在だ。
「……弟君、そんなに……」
死にたいの? と呟かれる声は、驚くほどに冷たく、怖気を覚えるものだった。
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中等部在校生の列の中で、炎城 永久は憎悪を滾らせていた。
「せつな……。セツナ……! 刹那ッ……!!」
この所、姉の様子がどうにもおかしく思っていた。
始まりは二月に入った頃。
突如、炎城家当主である父を追い落とそうと行動し始めたのだ。
久遠は次期当主に内定しているし、彼女が高等部を卒業すると同時に、当主としての実権を徐々に移行、数年後には名目すらも移行して、名実共に炎城家当主に納まる予定だった。
だというのに、何かを焦るように急激に活動を始め、不意を突かれた父とついでに母もほとんどの実権を奪われ、現在ではほぼ引退状態にされて、炎城が保有する別邸に押し込められている。
かと思えば、三月に入る直前辺りから、今度は魂が抜けたように呆けている事が多くなった。
心此処にあらず、という様子で、何があったのかを訊ねても言葉を濁すばかりだった。
首を傾げ、家族として心配もしたが、言いにくい事もあるだろうし、必要があれば相談してくるだろう、と見守っていこうと思っていた。
だが、今、目の前にその答えがある。
雷裂 刹那。
姓を変え、姿も変わっているが、それでも分かる。
それが、自分の恥ずべき兄なのだと。
姉に全ての苦労を押し付けた元凶。
あいつが落ちこぼれだった所為で。
あいつが欠陥品だった所為で……!
姉が苦労を背負い込む羽目になった!
その癖して、何の責任も取ろうとせずに勝手に消えていった屑が……!
目の前に、己たちの世界にのうのうと戻ってきやがったのだ!
永久の中に、憎悪と憤怒が渦を巻く。
奴が挑発的な宣言をする。
言われるまでもない。
己は、お前を絶対に、
「……殺してやる」
呟きは、罵声に飲まれ、誰に届く事も無かった。
元妹が思っていた以上にサイコ状態になってしまった。
まぁ、良いか。
キャラが濃いというのは良い事だと思っておこう。
あっ、明日も投下します。




