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逆神

本当は今回で終わりまで行くつもりだったけど、間に合わなかったので二話に分割……!

無念なりや。

 滅亡をもたらす神の鉄槌は、自らの断片を無数に引き連れて、運命に引き寄せられるように加速を開始した。


~~~~~~~~~~


「……おい。あのバカ、とんでもねぇ事してくれやがったぞ、おい」


 スティーヴン大統領は、空の彼方で行われていた人外決戦の結果を見ながら、途方に暮れたように呟いた。


 瑞穂の魔王雷裂美影と、始祖魔術師ノエリア。

 その二人の激突は、遂に月を割るほどの苛烈さへと至った。

 おそらく、それで何らかの決着が付いたのだろう。

 以降は特に何の魔力反応も探知できず、静かになっている。

 どっちが勝ったのか、誰が生き残ったのか。

 まるで分からないが、それは現状ではどうでも良い。


 問題は、割り砕けた月の半分が、地球の重力に引かれて落下しつつあるという事だ。

 計算してみた所、しっかりと直撃コースを取っており、あと三時間程度で地表に落下してしまう。


 かつて恐竜を滅ぼした隕石ですら、直径10~15㎞ほど。

 今まさに落ちてきている隕石は、最大径にして3500㎞近く、最小径でも1700㎞はある。


 そんなものが落ちれば、氷河期云々以前に、単純な衝撃波だけで人類など滅亡できる。


 スティーヴン大統領は、通信機を取り、自国の戦力たちに訊ねる。


「あー、一応、訊いとくんだが、お前らで何とかできるか?」

『無茶を言ってくれるぜ、このボス』


 最初にランディからの応答があり、ついで最も射程及び破壊力に秀でたジャックから回答が返ってくる。


『まぁ、何㎞か削るくらいは出来ると思われますが、焼け石に水なのでは?』

「だよなぁ。オレもそう思ってたところだぜ」


 恐竜絶滅クラスならば、魔王たちを動員すれば、タイミング次第だがなんとか出来ない事もない。


 自国のみで対応するのは中々難しいが、それでも他国の大規模破壊技能者をかき集めれば、落下前に砕ききれるし、軌道を逸らす事も可能だ。

 どうとでも出来る。


 しかし、今回はとにかく巨大すぎる。

 加えて、時間もない。

 ここまでの戦闘で余力もほとんど残っていない。

 しかも、いまだ敵勢がいなくなった訳でもない。


 ないない尽くしの現状では、どうにもできない、という結論しか出てこない。

 だからと言って、分かりました、と諦めるほどに人間は賢くは出来ていない。


 スティーヴン大統領は、仕方ない、と割り切って、恥を承知で他国へと通信を繋げる。


「で、誰かどうにかできそうな案を持ってねぇか? なぁ、おい」

『ガウリカが無事ならば、瑞穂の《ナイトメア》と組ませれば対処は出来たと思いますが……今、彼女はダウンしておりますので』


 空間属性を極めている魔王ガウリカと、無限の魔力を供給する魔王雫が組めば、それこそ隕石を何処か遠い場所に転移させる事もできただろう。


 だが、肝心のガウリカが、竜騎士連中との戦闘で力を使い果たし、現在、倒れてしまっている。

 死んではいないのでその内目覚めるとは思われるが、覚醒直後からそれだけの大魔術を使える状態だとは、とても思えない。


「インド王国はボツ、と」

『うちは、そもそも満遍なく死ね、って感じだよ?

 あんな大破壊できる奴なんていないの、知ってんじゃん』

「うるせぇな、このショタ皇帝。

 何も切り札もねぇのかよ、使えねぇ。

 欧州もダメ」

『あ、ああああ、あのあの、王さんが殴りに行っちゃったんですけど!

 えと、その……駄目そう、ですよ……ね?』


 中華連邦の天子からの報告に、スティーヴン大統領は月面観測のモニターを見る。


 まだ何の破壊も起きていない。

 そこから徐々に地球へと視点を切り替えていくと、空中遊泳中の筋肉だるまを見つけた。


 頑張って泳いでいるようだが、慣れない宇宙遊泳故に速度はお世辞にも速くはない。

 その内、辿り着けそうではあるのだが、タイムリミットまでに砕ききる事はまず不可能だろう。


「ロシアは……燃え尽きてる感じだよな」


 最有力候補、ロシア神聖国の最古の魔王ヴラドレンだが、彼はよほど危険視されていたのか、四組もの竜騎士たちに襲われていた。

 よく分からん助勢もあり、辛くもその全てを撃破したのだが、代わりに現在活動を停止している。


 荒野の只中で、巨大な恐竜が微動だにせずに佇んでいる姿は、何処か芸術的な光景を思わせるが、隕石対処に動ける状態ではなさそうだ。


「じゃあ、やっぱり元凶になんとかしてもらわにゃならんなぁ、おい」

『そうですねぇ。美雲さん、どうですか?』


 瑞穂に言葉を送れば、天帝がのんびりした調子で元凶の姉に問いかけた。

 通信回線に割込みが入り、声が一つ増える。


『そうですね。

《砕月》はもう撃ってしまいましたので、即座の対処は不可能です』


 一発限りのジョーカー。

 使用すれば、フルサイズの月だって粉々にできる、超威力の化身。

 なのだが、既に使用した後だ。


 もう一度、《砕月》を使おうと思えば、砲台であるマジノラインのフルメンテナンスが必要になる。

 とても落下までの数時間で間に合う状態ではなく、当てにはできない。


『ラグナロクシステムでは砕けませんか?』

『んー、あれは地球圏内が射程なので……。

 大気圏にめり込み始めれば攻撃もできますが、そこから落下までの間に砕ききれるか、と言われますと』


 ラグナロクシステムも大概におかしい代物だが、ハーフサイズの月を砕くようなシステムではない。

 多少程度なら砕けるだろうが、やはり間に合わないだろう。


「つーか、元凶はどうなんだよ。

 責任取って、何とかさせろよ、おい」

『あー、美影ちゃん?

 そういえば、大人しくしてるわね。

 どうしたのかしら。

 ……おーい、美影ちゃーん?』


~~~~~~~~~~


『はーいー。なーにー、お姉ー』


 宇宙空間を漂いながら、脳裏に届いた声に思念だけで応える美影。


『なんだか静かにしてるけど、大丈夫ー?』

『全然大丈夫じゃないー。

 指一本、ピクリとも動かないー』


 大真面目に力を使い果たし、今の美影は自力での活動が一切出来ない状態だ。


 何かが暴走しているのか、体表面には黒い稲妻が意図していないのに勝手に迸っているし、全身が砕けて爆散しそうな程に激痛があるし、超能力も魔力も使えない状態なので痛覚を遮断する事もできなくて泣きそうだし、と散々な状態なのだ。


 痛みをこらえて、なんとか僅かな身体強化を行う事で真空に耐えている訳で、それ以上の事は今は何もできないのである。


『このままだと流星になっちゃうー。

 誰か助けてー』

『うーん。こっちもそれどころじゃないから、暫くそのまま待っていなさい』

『そんなー』


~~~~~~~~~~


『……と、いう感じみたいですので、無理かと』

「やるだけやって放り捨てるとか、無責任の極みだな、おい」

『どうしましょうかねー。

 刹那君もまだ帰ってきてませんし、お手上げですかね』

「おいおい、諦めてどうすんだよ。

 じゃあ、あれだ。

 あの、よく分からん連中はどうだ?

 異界から来たみたいな連中」

『彼らですか。

 手助けは有難いので放置していましたが、彼らの事も考えねばなりませんが……』

『あっ、今、俊哉君から連絡来ました。

 どうやら、こちらでは大きく力が出せないので、今の助勢で精一杯だそうで。

 三か月くらい時間をくれたら、なんとか出来るという回答があったそうです』

「三か月もあったら、オレたちだけでなんとかできるわ!

 三分で何とかしろって言え!」


 精霊種である彼らは、良くも悪くも環境に大きく左右される。


 この地球は、何を言っても彼らにとっては異質な場所。

 自身の領域が一切存在しない異郷の地である。


 そんな状況では、現地人を媒介にした所でそう大きな力を出す事は出来ない。

 これから自身の力を馴染ませて、彼らに適した環境を造り上げて、そうして初めて本領を発揮できるようになるのだ。


 その為に要する時間が、最短で三か月なのである。


 打つ手なし。


 どうにもならない、という結論が出かけた所で、更にもう一つ、回線に割込みが入った。


『呼ばれて飛び出るアタシなのだよ!』

「呼んでねぇよ」


《蛇遣い座》サラが弩アップで映し出され、スティーヴン大統領は心底嫌そうに顔をしかめた。


『あれあれー? 良いのだよー?

 そんな口の利き方をしてー。

 アタシには空から落ちてくるあれを、何とかできるスーパーアイデアがあるというのにだよー?』

「言うだけ言ってみろ、おい。期待はしてねぇ」


 あまり余裕のない現状、彼女の遊びに付き合う時間などない。

 生き急いでいる上司に、やれやれ、とばかりに首を振りながら、サラは端的に語る。


『アークエンジェルのリミッターを外して撃つのだよー。

 一発だけの裏技なのだよー』

「それで、あれを壊せんのか?」

『理論上は可能なのだよ。

 それが机上か現実かは、やってみてのお楽しみなのだよ』

「じゃあ、やるだけやってみろ」

『ラジャー! なのだよ』


 わざとらしい敬礼を最後に、通信が切れる。


「さて、どうなるかね」


~~~~~~~~~~


 鈍色の流体金属が、撃ち込まれた指示に従って作動する。

 一度、最初に出現した時のように球体へと変化し、ついで渦を巻きながら再展開する。


 それはまるで華のようだった。

 上空へ向けて、幾枚もの板状へと変化して重なり合う姿は、上から見れば巨大な鈍色の華のようである。


 燐光が漏れ出る。


 全リミッターを解除された人造の天使は、地脈の中から際限なくエネルギーを抽出し、その身の中へと溜め込んでいく。


 金属の華に罅が入り、大気が震える。


 尋常ならざるエネルギーを溜め込んだアークエンジェルが、許容限界を超えて自己崩壊を始め、そこから漏れたエネルギーによって周囲が震えているのだ。


 やがて臨界へと達する。

 完全崩壊をしてしまうその寸前で、極大の光の柱が解き放たれた。


 アークエンジェル超過駆動《逆神(バベル)》。


 神へと挑む光の塔が大気に穴を開け、宇宙の闇を斬り裂き、そして滅亡をもたらす神の鉄槌を迎え撃った。


 勢い良く削れていく月面。

 光の勢いは衰える事を知らず、深く深く突き刺さり、派手に巨大な大地を抉っていく。


 そして、遂に貫通する。


 隕石の背後へと突き抜けた光の塔は、地球の自転に引っ張られて、半分の月を両断する。


 真っ二つとなる巨大隕石。


 同時に、光も細く収束し、掻き消える。


 余波によって広範に渡って焼け焦げた地上。

 その中心部にて、耐久限界を超えたアークエンジェルが、微細な塵となって、儚く崩れ去っていた。


~~~~~~~~~~


「やっ…………てねぇぞ、おい! 駄目じゃねぇか!」

『いやー、こうなるとは思わなかったのだよ』


 半分に割れた月隕石。

 しかし、それだけであり、いまだ地球への直撃コースを取っている。


 いまだ去っていない危機的状況に、スティーヴン大統領は通信機に向けて唾を飛ばす。


「他に何か案はねぇのか!」

『残念な事に、アタシにはもうないのだよ~。

 では、ばいなら』

「逃げてんじゃねぇ、クソ女!」


 人類最後の時は、刻一刻と迫っていた。


ゲーム版GA無印をしていて思う。

ストーリーが完全に復讐モノなろう小説だ、これ。

敵サイドが。


追放された元皇子が、名も無き辺境を彷徨っている内にぽっと出の力を手に入れて、祖国へと復讐に来るとか、親の顔より見たって気分。

ちゃんと全肯定系美人副官もいるし、ぽっと出の力の傀儡だった、という点もポイント高し。


いやー、視点が違うだけで、同じストーリーは二十年前からあったんですね。

復讐モノの原点は何処にあるのでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 月が破壊されたけど、セツナが建造してたツクヨミも破壊されたのかな? 後で美影は文句言われそう。
[良い点] 使い捨て兵器良いですよ! ただ悲しいかな、大半の使い捨て兵器は収束光線だから真っ二つに出来ても壊さないのだ [気になる点] 女怪無事なのこれ? これ終わった頃にせっちゃんの戦闘が終わった感…
[気になる点] 壊れた月の欠片が地球を破滅させる… ナル○の映画かな…? まるで最終章みたいな流れだなぁ… [一言] 8/19にようやく全てが終わりましたよ…(E7甲制覇) 今回のラスト海域のボス戦…
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