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題名『死せる勇者たち』

前話だけで、評価ポイントが150ポイント近く増加しました。


読者諸君はそんなに大艦巨砲が好きなのか!?

作者は大好きです!

 戦塵が立ち上っている様子がよく見える。


「いやー、大変な状況だねー」


 有事の欧州において、異常事態と断言できる状態に、ヴァレリアン皇帝は爽やかな笑みで言う。


 欧州からアフリカ全土を覆っていた濃霧は、今は完全に晴れて消えていた。

 それを引き起こしていた《霧雨》アレンが、現在、そんな事にかまけていられる状況ではなくなったからだ。

 異界門から出現した黒竜と竜騎士の迎撃に手一杯となり、維持する事が出来なくなったのである。


 その所為で、欧州戦線は明らかな劣勢となっている。

 ここ最近は、アレンの濃霧を前提とした戦術を組んでばかりいた為、地の利がない五分の状況における戦闘経験値が不足していた。

 そのツケを今、支払わされている形となっている。


 さっきまでは微々たる被害であったというのに、今ではあちこちで戦火が上がり、犠牲者も時間と共に増えてきている。

 そうした被害を看過してでも魔王たちの総力を上げて迎撃に動いたおかげで、なんとか竜騎士たちから受ける被害は抑えられている。


「……とはいえ、討ち取るには程遠いね」


《母神》エメリーヌが最初に産み落とし、それから幾度となく産み直されてきた双子魔獣。

 遥か過去より欧州を守り抜いてきた歴戦の守護魔獣である彼らを筆頭として、欧州諸国連盟が保有する魔王たちを、ただ一人を除いて総動員しても、辛くも押し止めているとしか言えない状況だ。


 状況は非常に悪いとしか言えない。


 他国に救援を要請したくもあるが、他にも同様の竜騎士たちが出現しているらしく、他所もこちらに戦力を割いている余裕はないだろう。


「幸いにも、絶対無敵って訳でもないしね」


 出現から最速で討伐してしまった太平洋戦線。

 昨年、瑞穂で起きた惨劇以来、脅威度を高く見積もってきた雷裂美雲だが、それでもまだまだ足りなかったらしい。


 どうやら一発限りの最後の手段らしく、以降は沈黙してしまっているが、それでも充分に脅威としか言えない。


 あんなもの、放たれた時点で終わりなのだから。


 まさに破壊兵器である。

 占領もクソもない、ただただ敵を粉砕する為だけに存在している超兵器だ。


「ふっ、くくっ。

 全く……。

 昔からそうだけど、当代のカンザキは特におかしいな」


 ただ一人で広大な太平洋を制圧し、更には複数の魔王が束になっても敵わない敵を一撃で粉砕する長女、雷裂美雲。


 世界最速の魔王と謳われ、各国の魔王たちからも一目を置かれており、今、単独で始祖魔術師と人外大戦を繰り広げている次女、雷裂美影。


 そして、話に聞いているだけだが、長男も大概におかしいらしい。


「ミカゲちゃんのおかげで、打てる手はまだある。

 彼女にはお世話になっちゃったねぇ」


 彼女に頼んで、アフリカ大陸全土に打ち込んでもらう筈だった新型デバイス群。


 だが、詳細を説明すると、彼女は配置地点の再計算を行い、地球全土をカバーする配置図をその場で完成させた。

 予備も含めて使えば、用意していたデバイスだけで充分に足りてしまう程の完成度だった。


 おかげで、他国に恩を売る余裕だってある。


「くっ、くくっ……」


 ヴァレリアン皇帝の口から、笑みが漏れる。


「あーあ、良い女たちだよ、彼女たちは。

 姉妹揃って、朕の後宮に入って欲しいくらいだ」


 彼にとっての、最上級の賛辞を呟く。


 見目もよく、更には能力もあるなんて、お世辞を抜きにして最高の女たちだ。

 是非とも己の子を孕ませてやりたい、と彼は本気で思う。


 姉の方はともかく、妹の方に聞かれたら殴り飛ばされること請け合いだが。

 それはもう、空の彼方まで。


「さてと、じゃあ、そろそろ手を打ってみるかな」


 姉妹を落とす楽しい算段は後の楽しみにして、皇帝は今すべき事をする。


 通信機を手に取った彼は、つい先程、美影から教えてもらった番号へと繋ぐ。


 ワンコールで目的の人物とは繋がった。


『ああ!? 誰だ、この番号!? です!

 クソ忙しい時にかけてくんな! です!』

「ああ、ボンジュール。

 朕だよ、朕。

 世界中の女性に愛される男さ」


 速攻で切られた。


「ふふふっ、照れているんだね、子猫ちゃん」


 特に気分を害する事なく、皇帝はかけ直す。

 今度は少しだけ待たされた後に、通信が繋がった。


『てめぇ、この野郎、です。

 今、逆探中だから切るんじゃねぇぞ、です。

 すぐにぶちこんでやる、です。

 ……おらぁ! 魔力変換完了だぞ! 受け取りやがれ! です!』

「ふふっ、そんなに朕と話がしたいんだね。

 良いよ。

 ゆっくりと語り合おうじゃないか!」

『……クソウゼェ、です』


 反吐が出ると言わんばかりの、とても嫌そうな声音が通信口から漏れ出てくるが、可愛い女の子に罵倒されたくらいで、愛の男がへこたれる筈もない。


「ねぇねぇ、シズク・ウスイちゃんだよね?

 ミカゲちゃんからこの番号は聞いたんだけどさ。

 ちょっと頼み事があるんだけど、良いかな?」

『あ? ミカから? です?

 やっぱ敵じゃねぇか。

 ぶっ殺してやる、です』

「わお。殺意高いねぇ。

 まぁまぁ、そう言わずに、さ。

 ちょっと、今から言う座標に魔力を供給して欲しいんだよね。

 ああ、言っておくけど、一般魔力じゃないよ。

 君の、魔王の魔力さ」

『……てめぇ、誰だ? です』

「ふふふっ、朕が気になるかい?」

『チッ……』


 舌打ちが聞こえたが、都合の良い耳をしている彼には聞こえない。


「朕の名は、ヴァレリアン。ヴァレリアン・ロンデックス。

 フランス帝国の皇帝さ。

 よろしくね、新しい魔王ちゃん」


~~~~~~~~~~


 魔王たちという支えがなくなり、苦境に立たされる地球の魔術師たち。

 徐々に徐々に押し込まれてゆく戦況が、支えを失った彼らの心に毒を垂らし始めた頃に、それは響き渡った。


 ――――――――~~~~~~~~~~~~~~~~♪♪♪♪


 フルオーケストラによる、大音響。


 美影が打ち込んだ特殊デバイス《虚空音階(ヴォイド・スカーレ)》は、魔力を帯びた特殊な音波を受信して共鳴、増幅する効果がある。


 それらを通して、悲壮にして勇壮な印象を抱かせる美しい旋律が、世界中へと届けられた。


 人々は幻視する。

 戦に傷つき、倒れていく戦士たちの姿を。

 それでも猶、守らねばならぬと立ち上がる勇者たちの姿を。


 ああ、ああ、これこそが自分たちの姿である。

 自分たちもまだ倒れる訳にはいかないのだ。


「……おお、まだ立てるぞ」

「痛みも引いた。力も湧いてくる」

「戦える。

 俺たちはまだ!

 戦えるぞッ!」


 奮い立った心は、垂らされた絶望の毒を拭い去ってしまう。

 痛みを忘れた彼らは、疲れ切っていた筈の身体で軽快に立ち上がった。


 奮起せよ、戦士たち。

 汝らこそ、最後の砦である。


 旋律の中から聞こえるそんな言葉に、彼らは突き動かされ、反撃の咆哮を上げるのだった。


~~~~~~~~~~


 幻属性命属性混合オリジナル術式《魔奏曲》 題名(タイトル)死せる勇者たち(エインヘリヤル)』。


 対象の心情と、奏でる楽曲の情景が合致しなければ効果を示さないが、合致すれば絶大な力をもたらす、名演奏。

 Sランク魔術師にして、天才演奏家でもある少年は、一個にして古今東西のあらゆる楽器の音を奏でられる特殊デバイスへと指を滑らせる。


「紳士淑女の皆々様、ようこそおいで下さいました。

 本日はボクの演奏を、魂の髄まで存分に楽しんでいって下さいませ」


単身楽団ワンマン・オーケストラ》マクシミリアン・レクラム。


 雫と同様に、後方支援に特化した異色の魔王。

 奏でる楽曲と同調する者の心を奮い立たせ、一時的にその能力を底上げさせる術理を操る、欧州諸国連盟が保有する最新の魔王。


 彼が世界へとその名を轟かせる初めてのコンサートが、今ここに開演された。

ゲーム的表現による簡単解説。

雫がMP回復役なら、マクシミリアンはステータスUP系。なお、敵に対してステータスDOWNを仕掛ける事も一応可能。

バフデバフって大切ですよね!


イメージはハーメルンの魔曲で。

あの漫画ももう二十年前とか。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドラムとの戦いの曲ですな。 魔族側ではマーラーの交響曲第6番悲劇的。 人族側ではベートーベンの交響曲第7番第2楽章。 七分位一枚の絵ですませる紙芝居アニメ。 斬新だった。
[良い点] 大艦巨砲大好きです! 波動砲とかね! [気になる点] せっちゃん的に美雲と美影をただのニンゲン程度に渡すはずがないので皇帝ルートはないかな? 雫もトッシー君にぞっこんだからありえないしなぁ…
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