《砕月》
筆が乗ってしまったから仕方ないですよね!
放たれる威圧から、俊哉は敵の強さを推し量っていた。
(……強ぇ!)
その感覚は、間違っていない。
《アマテラス》の手応えと、何よりももたらされた破壊の爪痕を見れば、それは明らかだ。
このままではまともに相手にならない。
ただでさえ全力の《アマテラス》によって、貯蓄分も合わせてほぼ魔力が枯渇しているというのに、たとえ全快状態だろうと無理だ。
それを直感した彼は、通信機の向こう側へと叫ぶ。
「雫ッ! やれッ!」
短い指示。
だが、それだけで何を要求しているのかは分かる。
通信機からは、尋常ではない騒ぎが聞こえてくる。
おそらく、向こうでも何かが起きたのだろう。
『トシッ! 大丈夫なのか!? です!』
「良いから、やれ! 時間がねぇ!」
空に浮かぶ黒竜の喉の奥に、再び極光が集まり始めている。
今の状態で撃たれれば、間違いなく全滅してしまう。
躊躇している時間はない。
だから、強く俊哉は叫び返した。
『~~~~ッ!
絶対に生きて帰りやがれ! です!』
瞬間。
次元を飛び越えて、極大の魔力が飛来した。
「く、おっ……!」
一瞬にして己の限界魔力保有量を超過し、それでも猶、送り付けられる濃密にして莫大な魔力の塊。
魔王魔力の供給だ。
全身の魔力流路が悲鳴を上げ、張り裂けそうになる。
だが、彼はそれを堪えて、肉体の全てを限界まで活用して、制御する。
高魔力負荷分散法《廻天》。
(……廻れ、魔力!)
訓練では、ほとんど成功させた事はない。
成功しても、維持が難しく数秒と経たずに解除してしまっていた。
だが。
魔力にしても、超能力にしても、結局は魂の力である。
それを制御する為に絶対的に必要な条件は、順序だてて作られた理論でも技術でもない。
究極へと至る、極限の意思だ。
強烈な怒りの意思が、暴れ出そうとする魔力をねじ伏せる。
魔王の魔力を受け入れた俊哉は、全身を廻る万能感を滾らせながら、空を見上げた。
魔王級風属性魔術・技巧《風神鉄槌》。
空属性や幻属性の様な特殊属性を除いて、単純な物理攻撃の投射において、風属性は最強候補として特に挙げられる。
何故なのか?
答えは簡単だ。
使用する全魔力を、推進力として余す事無く利用できるからだ。
火の魔術を放つ。
水の魔術を放つ。
土の魔術を放つ。
どれにしたところで、弾丸である何かを発生させて、それを飛ばすようにしなければならない。
だが、風属性は違う。
人間が、空気が無ければ生きていけない以上、弾丸は常に周囲にある。
そういう戦場でしか戦えない。
故に、周りの大気に推進力を与えてやるだけで、攻撃も防御もできる。
その真価が、今、解き放たれた。
黒竜のブレスが放たれる。
内包する魔力量は膨大の一言であり、オーバーキルも甚だしい。
とてもではないが、防御できる物ではない。
だから、俊哉は吹き飛ばしてやる事にした。
いくら魔王級とはいえ、比較すれば相当に小さなエネルギーだけを利用した風の鉄槌が、正面からブレスへと向かう。
しかし、これを使っているのは、風を操る事に長じた達人級の風属性魔術師である。
最大効率で放たれた鉄槌は、ブレスを後押しする推進力を簡単に上回り、そのまま押し戻してしまった。
『――――!!』
驚きの感情が、空から降ってきた。
黒竜と竜騎士は、自身たちが放った攻撃に飲まれたのだ。
俊哉は、出来た間隙に空へと上がる。
これで勝てたなどとは思っていない。
これからが本番なのだ。
そして、国土と人民を背にしていては、回避運動も碌に取れない。
だから、彼は敵と同じ土俵へと昇った。
閃光が消える。
「チッ、やっぱりな」
そこには、無事な姿を保った敵がいた。
期待していなかったと言えば嘘になるが、こうして無事な姿を見せられれば、やはり落胆は隠せない。
しかも、侮りを捨てたのか、感じられる威圧が明らかに増している。
少しでも気を抜けば、気絶してしまいそうなほどの重さだ。
魔力超能力混合術式 《ムラクモ》。
俊哉は、手の中に閃熱の剣を作り出して構える。
「……おおっ!」
言葉はなかった。
彼は、自身で造り出した無数の風の道を辿り、高速で敵へと突っ込んでいくのだった。
~~~~~~~~~~
「くっ……! です!」
激震する高天原の巨体。
突如、異界門から現れた竜騎士たちの攻撃を、まともに食らってしまったのだ。
そもそもが、近付かれるよりも先に、攻撃されるよりも前に、敵を撃滅せよ、と言わんばかりの巨体と鈍重さを持つ兵器が《マジノライン》だ。
相手が一瞬で滅せられない耐久力を持っていて、なおかつ強力な超遠距離攻撃手段を持っていた場合、良い的にしかならない。
直前にブレスを察知した美雲の手によって、幾重にも重ねられた防御壁が展開されたが、攻撃はそれらを貫通して高天原に風穴を開けていた。
「おい、ミク! です!
大丈夫なのかッ!? です!」
「沈みはしないわよ。
隔壁は即座に降ろしたから、浸水も微々たるものだし。
でも、砲台が結構潰されちゃったわ。
全く、もう」
焦った様子もなく、美雲は淡々と述べる。
その態度に、雫は苛立ちを覚える。
俊哉がひとまず魔王魔力を物にした事は僥倖だったが、今度は直にこっちが危機感を覚える場面である。
その中でも、まるで余裕の態度を崩さない美雲は、普通の神経をしていれば不安を覚える物だろう。
「おい! です!
あれを倒せんのか!? です!」
感じられる魔力量は尋常ではなく、己に匹敵しそうな程だ。
それが二体もいる。
戦力差は絶望的と言えるだろう。
「あのね、雫ちゃん。
よく聞きなさい。
この《マジノライン》ってね、弟君が造ったのよ?」
「承知してんぞ! です!
それがどうしたんだ!? です!」
「浪漫兵器を装備してるに、決まってるじゃない」
美雲とて、敵の脅威を感じていない訳ではない。
むしろ、はっきりと理解しているからこそ、切り札を切る決断をしたと言える。
彼女は、高天原全区域へと通信を繋ぐ。
「えー、テステス。
こちら、雷裂美雲です。
これより、敵主要戦力撃滅の為、デバイス《マジノライン》は完全破損してしまいます。
これは確定事項です。
ですので、後の戦場は皆々様に引き継いでいただきます。
よろしいですね?」
美雲の確認に、高天原が人の声で震えた。
応。応! 応ともッ!!
ここは我らの土地!
我らが守らずして誰が守ると言うのかッ!
そんな叫びが、あちこちから聞こえてきた。
「流石は高天原の学生ね~。
よく訓練されてるわ」
「つーか、訓練され過ぎだろ、です……」
主に、毎年恒例の卒業試験の所為だ。
敵が攻めてくる事に、彼らは驚くほどに慣れ過ぎている。
実際、この戦場が開かれた時、わざわざアナウンスをするまでもなく、運悪く居合わせた観光客を除いて、全ての職員や学生は自主的に避難、及び戦闘配置に着いていた。
他国が見れば、まるで理解できないほどの早業だった。
《マジノライン》が展開してしまい、手持無沙汰だった彼らだが、遂に出番がやって来たのだ。
戦意が滾らない筈がない。
美雲は、最終兵器を使用後の高天原の状況予想図を、関係各所に送付する。
それを元に、彼らは新しい配置に着いていく。
「じゃあ、さっさと処理しちゃいましょうか」
そして、美雲は《マジノライン・砕月モード》を起動させた。
~~~~~~~~~~
入力されたコマンドに従って、《マジノライン》の巨体が展開した。
一度、ほぼ全部品がバラバラに分解され、発生した電磁力に引っ張られて順番に再接続を果たしていく。
重厚な音を響かせて組み変わり始めた超重兵器に、敵がわざわざ待っていてくれる道理はない。
雨のように大量に、そして狙撃のように正確に降り注ぐ砲撃が止んだ隙に、異形たちは高天原を制圧、撃沈してしまおうと殺到する。
だが、彼らは高天原を前にして、見えない壁に遮られてしまう。
障壁の様なそれは、どれだけ攻撃を加えてもビクともしない。
彼らの背後から、異常魔力の高まりが波動となって伝わってくる。
竜騎士たちの攻撃だ。
敵からの妨害がない事を良い事に、ゆっくりとエネルギーを溜めたそれは、やがて臨界へと到達する。
閃光。
光の槍となって空間を貫く、竜騎士の援助を受けた黒竜のブレス。
大地を揺るがすほどの威力を秘めたそれは、異形たちの侵入を阻んでいた不可視の障壁へと、異形たちの被害も考慮せずに激突した。
数分にも及ぶ閃光が消える。
その後には、跡形もなく吹き飛んだ異形たちと、そして傷一つなく変形を済ませた《マジノライン》の姿があった。
本式念力バリア。
刹那が自身に張っているそれと、全く遜色のない強度を持つ地球最強の防御壁である。
敬愛する美雲の安全を確保する為に、《マジノライン》には特注の念力バリアを張る装置が幾つも組み込まれているのだ。
地球上で最も安全な壁の中で、組み変わった《マジノライン》は、まるで砲台の様な形をしていた。
一対の尖った巨塔がある。
それらが隙間を空けて並び、その先端を竜騎士たちへと向けていた。
隙間では、力場が発生し、力を溜めている。
危険だ、と、竜騎士たちは直感した。
それは、彼らに残された僅かな生命の本能が鳴らした、決死の警鐘だった。
これが最後で良い。
この一撃に全てを込める。
そのつもりで、竜騎士たちも力を溜めていく。
解放は、同時だった。
《マジノライン》からは不可視の一撃が、竜騎士たちからは先程の数倍はあろうかという極大の閃光が放たれる。
それらは両者の中心点で激突し、拮抗する間もなく、一瞬にして不可視の一撃が閃光の一撃を貫いた。
止まるどころか、弱まる事すらなく直進した一撃は、竜騎士たちを容赦なく穿つ。
破裂させる。
彼らの保有エネルギーの遥か数倍を行くその一撃は、純粋な力業によってエネルギー生命体である竜騎士たちを屠るのだった。
~~~~~~~~~~
《無敵要塞マジノライン》、最後の切り札。
各所に埋め込まれている刹那の骨格を介して、潤沢な地脈エネルギーを惜しみなく無尽蔵に汲み上げる反則機構。
莫大なエネルギー量に耐え切れず、使ったが最後、完全に機能を喪失してしまうが、ただ一度のみ、絶大な破壊力を生み出す人智を超えた超兵器。
それによって放たれる念力砲撃は、まさに星を砕く一撃である。
故に、《砕月》。
新作の方もよろしくお願いします。
ポイントはどうでも良いけど、感想をくれると作者が喜びます。
否定も肯定もウェルカムです。
何の反応もないのが、一番寂しい。
題名:「旅の終わり……」
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