加熱する戦場
久し振りに一週間以上、間が空いてしまいました。
何が悪いのかと言えば、ふと思い立って、新作を書き始めてみた作者が悪いのです。
仕方ないとです。
溢れ出る熱いパトスを抑えきれんかったとです。
今のところ、順調に進んでおりますので、よろしければ覗いてみてください。
でも、おかしいな。
まだ投稿始めて一週間経ってないのに、もう五万字も書いてる。
こっち換算で、約10話分やぞ……。
題名:「旅の終わり……」
https://ncode.syosetu.com/n2104gj/
「ずあっ!」
風属性魔術《風刃・草薙》。
全長十メートル強ほどにまで拡張した風の刃で、巨人型を頭から唐竹割りにする。
「ちっ!」
巨人型の陰からは、既に攻撃が殺到しており、残身など考えていられない。
俊哉は風の流れに身を任せる事で、刃を振り抜いた姿勢のまま、不自然な動きで回避する。
「流石に! 多過ぎ! だろっ!」
雲霞の如し、という有様で次から次へと出てくる敵勢に、俊哉は愚痴を吐き出す。
『文句叫んでねぇでさっさと片付けろ、です。
おら、次、もう来てんぞ、です。
八時方向、仰角プラス二十二度、距離四七〇〇』
「はいはい!」
通信越しに雫から言われた方向へと、視線を向けぬままに指を鳴らす。
爆炎。
調整された《カグツチ》は、狙い違わずに纏まっていた一団を焼き払う。
竜型や巨人型の様な個体でなければ、ある程度、アバウトな範囲攻撃でも焼き切れる。
雫が何も言ってこない以上、今の攻撃で殲滅できたと判断した彼は、次なる目標を見定めた。
発生した爆風を背に受けて加速した俊哉は、眼下で砂の壁に降りた竜型へと向かう。
そう簡単に破られるような障壁ではないが、竜型が吐き出す咆哮は強力だ。
何発も喰らっていては、《金剛》香織への負担が重なり、いずれは突破されてしまう事は想像に難くない。
ブレスを吐こうと喉奥に力を貯めていた竜型の後頭部に着地した俊哉は、勢いそのままに首に沿って滑りながら、鋼の左腕を叩きつける。
魔力超能力混合術式 《ムラクモ》。
剣の形に圧縮された《アマテラス》によって、真っ二つに捌いてしまう。
そのまま、彼は身を翻して、対処が間に合わずに砂壁へと取り付いている敵勢の排除へと走り出す。
その上空を、幾つかの軌跡が飛び回った。
『風雲隊長、カバーします!』
「助かる!」
俊哉の抜けた空の穴を塞ぐべく、援護に入った者たちの影だ。
彼らは選抜課程のメンバーであり、つい先日まで、ろくな戦闘経験もなく、能力値だって物足りなかった現役学生たちだ。
だが、《六天魔軍》二人による、脳味噌の構造を疑う訓練を生き延びた結果、やたらと胆力と経験値は増えてしまった。
今の状況は大概に酷い劣勢にあるというのに、彼らからは何処か余裕さえ感じられていた。
『ヒャーッハァーッ! 鴨撃ちだぜぇ!』
『狩りじゃあ! 狩りの時間じゃあ!』
『逃げてんじゃねぇぞ、ヘタレが!
戦え! 首を寄越せぇ!』
少しばかり、戦闘狂の気が芽生えている気もするが、この際、役に立つのなら何一つとして問題ないのである。
俊哉は襲い掛かってくる獣型を正面から蹴り砕き、鬼型の口へと爆裂術式を放り込んでは爆殺し、悪魔型の尻尾を掴んで燃やしながら武器として振り回すなど、兎に角、乱暴な戦い方をする。
(……数を減らしていかねぇと!)
戦い方に拘っていられるほどの余裕が失われつつある。
「これ、いつまで続くんだよ!」
耐えられず、大声で愚痴を吐き出す。
直後。
耳をつんざく雷鳴が響き渡り、上空一帯を黒い雷が薙ぎ払った。
「うおっ!? み、美影さん!?」
一瞬の雷光だったが、たったそれだけで空を舞っていた敵勢の過半数が蒸発して消えていた。
『あっ、俊哉君。
それ、援護じゃないから次もあるとは期待しないで頂戴ね?
……美影ちゃーん、このままじゃ地球が壊れちゃうからー。
遊ぶなら地球のお外に出てくれないかしらー?』
『うおぉ、マジすげぇなぁ、あいつ、です。
ほんとに強かったんだな、です』
若干、呑気に過ぎる口調で美雲から通信が入り、美影に対して辛辣な雫からも、素直な賞賛と畏怖が伝わってくる。。
「えぇ? 今の、余波かよ。
何と戦ってんだよ、あの人」
幸いにして、今の一撃でによる脱落者はいないが、通信の内容を聞く限り、これは偶然の産物なのだろう。
おそらく、美影の方も余裕がないのだ。
周囲への被害を考慮して戦っていない。
故に、運が悪いと彼女の攻撃に巻き込まれかねない消し飛びかねない。
それを知った俊哉は身震いする。
「超、こえ~。
人外大戦なら地球の外でやってくれよ」
とはいえ、偶然の援護のおかげで少しばかり余裕が出来た事には感謝する。
今のうちに、崩れかけていた態勢を立て直す。
「っし! やったるぞぉ!」
『その意気だぞ、です。
魔力なら幾らでも回してやるから、力の限り頑張りやがれ、です』
~~~~~~~~~~
それは、不快に感じていた。
自身を傷つける外敵の存在が不快だった。
いつまで経っても食事にありつけない事が不快だった。
それをなせない、役立たず共の存在が不快だった。
だから、それは押し潰してやる事を決めた。
威嚇の咆哮を外敵に浴びせながら、号令を下したのだった。
「クックックッ、さぁ、本番だぞ。地球人諸君」
外敵が、楽しそうにしている事が、何よりも不快だった。
~~~~~~~~~~
俊哉は、皮膚が粟立つような強烈な悪寒を感じ取った。
弾かれた様に空の異界門を見上げた彼は、直感する。
(……何か、来る!)
これまでとは桁が違う何かがやってくる。
俊哉は、敵の力量を自身が想定しうる最上位に、美影クラスだと見定めて左の義腕を掲げて構えた。
「カノン・モードだッ!」
義腕が展開する。
腕の形から、砲の形へと。
花開き、組み替えられ、真価を発揮する為の姿へと変形した。
充填される火と風のエネルギー。
赤熱の光が各部から漏れ出し、左腕を中心として蜃気楼が揺らめく。
魔力超能力混合術式 《アマテラス》。
臨界点に達した時点で、俊哉は躊躇なくそれを撃ち放った。
そうしなければならないと、幾度となく死線を彷徨う中で培われた彼の直感が叫んでいたから。
結果として。
俊哉のその判断は正しかったと言える。
空へと打ち上がる太陽の神剣に対抗するように、異界門の中から一条の閃光が走った。
衝突する二つの威力。
拮抗したのは僅かな時間だけ。
天秤はすぐに傾いた。
《アマテラス》が、閃光を弾き飛ばして異界門を貫いたのだ。
何度でも言うが、彼の判断は正しかったのだ。
自分の命を守り、共に轡を並べる戦友たちを守るという意味では、間違いなくそれは的確な判断だった。
だが、しかし。
国家を、民を守るという意味では、果たして正しかったのか。
《アマテラス》によって千々に引き裂かれた閃光は、死んではいなかった。
細く引き裂かれながらも内包する威力を保ったままだったそれらは、無数の光の雨となって砂の障壁へと降り注ぐ。
炸裂。
目を焼く光と息をする事すら辛い熱量が爆発して、周囲を焼いた。
やがて、それらが過ぎ去る。
「ン……だよ、これ……」
目を開けた俊哉が最初に見えた物は、穴だ。
分厚く流動していた強固な砂の壁。
それに、無数の巨大な穴が開いていた。
そして、その下にも。
何処まで続くのか分からない奈落の穴が大きく口を開いていた。
とある穴の淵に、僅かに建築物の残骸が見える。
丁度、そこに都市があったという事を示す証拠。
守れなかったのだ。
守るべき場所を。
守らねばならなかった場所を。
「野郎……! テメェ、この野郎……!」
俊哉の意識は、瞬間的に沸騰した。
何故、戦闘魔術師が英雄のように称えられ、人々から厚遇されているのか。
それは、いざという時に命を賭して自分たちを守ってくれるのだと、彼らが信頼しているからだ。
だからこそ、彼らは日々を一生懸命に働いて、自分たちを支える為に税を払い、下げたくもない頭を下げて、おべっかを使って持ち上げてくれる。
その信頼を、引き裂かれてしまった。
風雲は、末端といえど、八魔に連なる血筋。
いざという時には、先陣に立って命を懸けて戦えと教え込まれている。
視界が赤く染まる様な激情を滾らせて、俊哉は閃光が放たれた異界門を見つめる。
そこからは、一組の竜と竜騎士が躍り出てきた。
これまでの竜型とは違う。
溶けた様な、腐った様な姿ではなく、純黒の色を持つ確かな形を持つ竜。
そして、その背にはやはりしっかりとした人型を保った、六枚翼の光の翼と、複雑な文様を描いた天輪を頂いた存在が、いた。
奴らを、奴らだけは、絶対に。
「ぶっ殺してやる……!」
俊哉は知らない。
それが惑星ノエリアにおいて、最強種だと語られた存在たちだと。
天竜種。
そして、上位精霊種。
単純なスペックにおいて、世界中の魔王たちをも凌ぐ怪物たちが、戦場に降り立ったのだ。
今回は俊哉の戦場ですけど、竜騎士たちは世界中に同時に出現しております。
全部の描写を書いた方が良いですかね?
ちとテンポが悪くなるかと思いまして、ここは省略して三章終了後に閑話で当時の事、という感じで書こうかとも思っているのですが。