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迫りくる魔王の影、迎え撃つ魔王の御手

ルー語って、いざ書くとなると案外難しいですね。


本当は昨日投稿するつもりが今日に延期になってしまった理由の大半です。

 豪華客船《イストワール号》。

 刹那謹製、美雲保有の例の客船である。


 その舳先でタイタニックごっこをして遊んでいる二人の影がある。


「たーまやー」

「すまん、愚妹。意味が分からん」

「実は僕、例の映画、見た事ないんだよね。

 だから、この場合、何を言ったら良いのか分かんない」

「ならば、仕方ないな」


 抱き合う姿勢を解除した二人は、星空を見上げる。

 タイタニックごっこは単なる暇潰しの遊びだが、別に何の理由もなくこんな所にいる訳ではない。


 待ち合わせだ。

 人を待っており、それまでの時間潰しである。


 海の上であり、人工的な光も少なければ、空気も澄んでいる。

 おかげで、星空が実に見応えのあるものとなっている。

 その中心にあるのは、綺麗な満月だ。


「……そういえば、月面都市計画とかあったけど、あれ、どうなったの?」

「ああ、《ツクヨミ》城だな。

 既に完成はしているとも。基礎部分のみだが。

 来年には移住も始まるだろう」


 広範囲に及ぶ重力発生装置と、大気循環と太陽光調整用の装置を組み込んだ大天幕を設置し、内部には地球からこっそりと転送し続けた水分を貯蓄しており、水浄化システムも完備済み。

 現状、生命維持システム管理用の《ツクヨミ》城しか建築物は存在していないが、不毛の荒野を歩き回るだけなら生身の人間でも可能となっている。


 これから植樹したり、最低限の住居を作ったりなどすれば、一年後くらいには小さい都市くらいにはなる筈である。

 最終的には、帝国民が纏めて移住できる規模まで拡張していく予定だ。


「お兄がいると、大規模計画でもとんとん拍子に進むよね」

「ふっ、それが俺の持ち味だからな。もっと褒め称えろ」


 雷裂家のおかげで金は掃いて捨てるほどあり、計画次第だが天帝からの鶴の一声も貰える。

 あとは、労力なのだが、星をも砕く念力を以てすれば、大概の難作業などどうという事も無い。

 月面開発だって、物資と人員を超能力で転送して、念力バリアと超能力重力操作で環境を整えれば、あっさりと急ピッチで計画は進められてしまうのだ。


「ねぇ、お兄」

「何かな、マイシスター」

「星空の下で、っていうのも、一つのロマンチックなシチュエーションとしてありじゃない?」

「それを言っている時点で駄目なのだと気付け、愚妹」

「えぇー、良いじゃん。

 繁殖可能なメスがOKだって言ってんだよ!? 男なら潔くやっちゃおうよ!」

「ロリは駄目だぞー。

 世の中には18禁という素晴らしき掟があるのだ」


 一人の男として、決して無欲でいる訳ではない。

 むしろ、美人で性格も良く、更には自分に——それぞれに形は違えど——懐いてくれる二人の姉妹の事を、男として大変に欲情している。


 同時に、心から大切だとも思っている。


 己を獣から人へと変えてくれた姉妹。

 暖かい場所があるのだと教えてくれた姉妹。


 二人には、返しきれない大恩がある。

 だからこそ、自分の情欲に任せて傷つける訳にはいかない。

 たとえ、向こうから望んだのだとしても、日の当たる所をきちんと歩ませる為には、今は我慢の時である。

 制限が消えたら我慢はしないが。


 少しの沈黙。


 冬の海風が二人の身体を撫でていく。

 刹那の念力式バリアで二人は包まれているので、はっきりと寒さを感じる事は無いのだが、今は冬の夜で風の吹きすさぶ甲板にいるのだという事実が、幻の寒さを感じさせる。


「……遅いね。何処、ほっつき歩いてんの、あいつ」

「約束の時間は既に過ぎているな。調べてみるか。

 ……見つけたぞ。太平洋上を優雅に飛行中だな」

「一発かましちゃえ、お兄」

「よしきた任せろ」


 念力式千里眼で周辺を走査して、北米大陸から飛び立ち、こちらへと悠々と飛行している人影を見つけた刹那。

 こっちは五分前行動で約束の時間よりも前から待っているというのに、相手方は優雅に空中遊泳中だという事実に、僅かに苛立ちを覚えた美影は、即座に兄に攻撃指令を出す。


 普通は冗談で終わるやり取りだが、美影は本気で、刹那にはそれが出来る能力がある。


 油断しまくっている対象に念力ビンタを叩き込み、海に撃ち落とす。


 軽く大地にクレーターが出来るくらいの威力はあるのだが、相手は美影と同クラスの怪物だ。

 ダメージは入るだろうが、致命傷には程遠い。


 その証拠に、海中に沈んだその者は、そのまま潜水状態でこちらへと移動してきている。


 追撃は、できるがしないでおく。

 そもそも文句を物理で叩きつけただけなのだ。

 幸いにして、文句の内容をちゃんと受け取ってくれたらしく移動速度が上がっているので、これ以上はよしておこうと思ったのだ。


 それから、数分後。


 海面が小さく弾ける。


「Hey.Mr!

 遅刻したからって、いきなりのAttackは酷いと思うのだゼ!?」


 水浸しで甲板に上がり込んでくるのは、カウボーイスタイルをした灰色に緑色の混じった髪を持つ中年男性。


 名を、ジャック・ストーンという。

 ふざけた格好をしているが、これでもアメリカ合衆国が誇る最高戦力者、《ゾディアック》の筆頭だ。

 制限付きの状態は当然として、完全体の美影でも絶対に勝てるとは断言できないという地上最強の一角である。


「どうせ死なないのだから良いだろう。

 大体、なんだ貴様、その恰好は。

 貴様、普段、ホワイトハウスにいる時はフォーマルな背広姿ではないか。

 安易なキャラ付けか!? 底が知れるという物だぞ!?」

「お兄、ブーメラン刺さってる」

「俺は良い、他人は駄目、だぞ、愚妹よ」

「Oh,そりゃあ傲慢が過ぎるゼ、Mr。

 これは、あれだゼ。君たちの濃いCharacterに負けないように、っていう苦肉のPlanなのだゼイ?」

「……クソウゼェ」


 心の底から吐き出す様に言う刹那。


 このジャックという男、普段、ホワイトハウスで働いている時は、きちんとしたフォーマルなスーツ姿であり、日本語も流暢に話せる知識人なのだ。

 こんな半分、母国語交じりのふざけた事を言う輩では断じてなかったのだが、どうやら見誤っていたらしい。


「まぁ、この際、どうでもいいとしておこう。

 で? 何の用があって俺を呼び出したのかね?

 まさかそのコスプレのお披露目という訳ではあるまいね?」

「もしも、Exactlyと言ったら?」

「本気の念力パンチをぶち込む」

「……うわ」


 刹那の真顔での返答に、彼の隣で美影が可哀想な者を見る目をジャックに向ける。

 そして、ジャックもその応えに真顔を作り、


「……それはまずいですね」


 素の呟きを漏らし、すぐにおどけてみせる。


「No! NoNoNoNo!

 そんな事、全然、Nothing! だゼイ!」

「ならば、とっとと話す事を話せ。

 こんな寒空の下に長時間いて愚妹が風邪をひいたらどうしてくれるのだ。

 兄の株、大暴落だぞ!?」

「そんな事で好感度は下がらないよ?」


 実際、今も念力バリアで冷気を遮断しており、体感気温は丁度良い物に調整されているのだ。

 なので、風邪をひく心配はまるでないし、そんな気遣いを何も言わずともしてくれる為、刹那が自分を大切にしてくれているのだと嬉しく思う。


「OK。では、早速に。

 YouたちのEmperorから、うちのBossに回ってきた話について、どれくらいのSerious度なのか、確認に来たのだゼ。

 Do you understand?」

「……ちょいちょい混じるのがムカつくね。殴って良いかな?」


 グッと拳を握る美影。バチッ、という放電が拳から放たれる辺り、彼女の本気が窺える。

 だが、それに対して、ジャックは余裕だ。


「HeyHey、やめておきな、Thunder Girl。

 Limiter付きのYouなんて怖くもなんともないゼイ?」


 忠告を聞かず、美影は一足飛びに殴りかかる。


 即座に薄く魔力を纏ったジャックは、滑るように彼女の側面へと回り込んで躱す。


 躱される、と判断した時点で、美影は左足に力を込めて踏み込み、回し蹴りへと移行。


 速度は高速。

 行動を途中でキャンセルして次の行動へと繋げる動きは見事の一言。


 だが、それすらも跳躍によって躱されてしまう。


 蹴り足の軌道を下へと捻じ曲げ、踏み込みとする美影。

 無防備に空中にいるジャックを殴ろうと左拳を振り被る。


 しかし、そんな彼女に彼もまた、手を伸ばす。


 先に届くのは、ジャックの方……だったが、


「と、とと……」


 まるで宙を滑るように、美影から距離を取る。


「HaHaHa!

 流石に、Mrの前でThunder Girlを傷つける訳にもいかないのだゼ。

 MeもLifeが惜しいものでね!」


 もしも、ジャックの手が美影に届いていれば、その瞬間に彼の身体はミンチとなっていただろう。


 なにせ、この場には過保護な彼女の兄がいるのだ。

 外交問題だとか、それ以前に殺人罪だとか一切気にせず、それをする意思と能力がある。

 それが分かっているからこそ、振りの段階でジャックはじゃれ合いを終わらせたのだ。


「チィィィィィ……!」


 美影は悔しそうに唸る。

 制限が付いているから仕方ないとはいえ、殴れなかった事が大変に不満なのだ。


「落ち着け、愚妹。

 後でちゃんと抑え込んでサンドバッグを作ってやるから、今は我慢だ」

「むぅ、仕方ないなー」

「……聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたのですが」

「あれれー!?

 キャラ付けが剥がれてっぞー!? どういう事かなー!?」

「そんな事は、Nothingだゼ、Mr!?」


 慌てて取り繕い、次いで咳払いをして話を戻す。


「ま、まぁ良いさ。

 それで? どの程度、Seriousなんだゼ? 例の話は」


 ふむ、と顎に手をやりながら考え込む刹那。


「一つ、訊かせてくれ」

「どうぞ」

「どの話だ?」

「あー……」


 刹那と天帝は、なんだかんだで付き合いが深い。

 というか、刹那が思い立って何かしらやらかす事を、天帝が娯楽として楽しんでいるのだ。


 その為、やらかした物の詳細を説明する為に、色々な事を話しており、そのどれがジャックのボス――合衆国大統領に伝わったのか、刹那には分からないのだ。


「あれだゼ。

 Magic Powerの源泉、っていう奴だゼ」

「ああ、それか」


 魔力を持たず、魔術を使えない刹那だからこそ、答えに辿り着けた分野。


 そもそも魔力とは何ぞや? という命題に対する答えだ。


 刹那は、本能的な部分で知っている。

 地球人類が、本来、持ち合わせている力は〝超能力〟なのだと。

 地球人類は〝魔力〟など持っていないのだと。


 ならば、魔力は何処から来たのか、何故人類に宿ったのか、という事の研究結果を天帝には提出していたのだ。


「陛下がどれくらい語ったのか知らんがな。

 少なくとも、俺から陛下に伝えた話は百%本気だ」

「Oh,my God!

 Worldが引っくり返るゼ!」


 おおよその内容を聞いているジャックは、悲観するように天を仰ぐ。


 それはそうだろう。

 自分たちが持つ力が、今現在も進行形で高めているそれが、最悪、世界を破滅に導きかねない物だと言われれば、悲嘆の一つも叫びたくなる。


 二秒で平静に戻った彼は、今度は真面目な顔となる。


「……セツナ君、当面の敵は判明した訳だが、本当にそれが起こるという証明はしてくれるのでしょうね?」


 キャラ付けが剥がれた事を茶化す事無く、刹那は答える。


「陛下からの依頼だからな。

 近いうちに事を起こすつもりだ」

「よろしい。

 その時は大統領も観覧する事でしょう。席を用意していて欲しい」

「構わんよ」

「そして、おそらく本当の事だと信頼して訊くのですが、対策は出来ているのですか?」


 刹那は、僅かに言い淀む。


「……有効な対策はある。

 だが、永続する物ではない。

 向こうが何もしない訳ではないからな。

 おそらくイタチごっこにしかならん」

「それでも、あるにはあるのですね。ならば、良い」


 そう言って、踵を返すジャック。

 早急に帰還して、大統領に報告を上げて対抗策を作り上げるつもりなのだろう。


 魔力が滾る。


 莫大の一言に尽きる魔力が吹き上がり、それが彼の背中に刃の様に鋭い光の六枚翼を形作る。

 足に力を入れて、飛び上がる寸前、思い出したようにジャックが振り返る。


「あっ、忘れてたゼ!

 あのMoon City! Youの仕業だろう!?

 Bossが一枚噛ませろって言ってたゼ!?」


 今までは未完成だったのでステルス化していたのだが、最低限の設備が完成して人の生存圏が確保された為、世界へのお披露目(自慢)の為にそれが解かれたのだ。

 おかげで、突如、月面に現れた謎の人工物として一部から騒ぎになっている。


「あれは天帝陛下の肝煎りだ。俺の一存でどうにかなる訳ないだろう。

 ……火星テラフォーミング計画で我慢しろと伝えろ。

 そっちならまだ俺の個人計画だからな」


 何処からともなく取り出したデータチップを指先で弾いて渡す。

 それを受け取ったジャックは、一瞬微妙そうな顔をした後、呆れたような苦笑を浮かべる。


「……君は本当に何でもやっていますね」


 呟き、今度こそ飛び立っていった。


~~~~~~~~~~


「お兄! サンドバッグ忘れてる!」

「あっ! あの野郎! 逃げやがった!」


 兄の株が下落した。


何かの小説の後書きで言っていました。

「風呂敷を広げる事どこまでも出来る。それを綺麗に畳めるかで作者の力量が問われる」と。

細部は違ったかもしれませんが、今まさにそんな気分です。


大きく広がる世界を私は畳み切れるのでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あとがきのやつ、確か川原礫かとあるの作者だったかと。どこだったっけかなぁ。
[一言] 面白過ぎる。こんな小説を読みたくてなろう読み続けてました。
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