表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/417

暴走する力

そろそろ終わらせる為に、取り敢えずイベント消化していくぜ。

まだまだ御後が残ってますし。

 燃え盛る炎魔霊。

 彼女から流れ出るエネルギーの波動は、周囲を炎の海へと変えていく。


 意図して、そうしている訳ではない。

 ただの性質として、炎魔霊は存在しているだけで周囲の環境を塗り替えてしまうほどの存在感を有しているだけだ。


 睨み合いを崩し、先手を取ったのは久遠だった。

 彼女には悠長にしていられるだけの時間がなかったが故に、早急に決着を付けに行く。


 魔力超能力混合術式《炎魔・火尖鎗》。


 左面を前に出し、半身に構えた久遠の右腕が、炎の槍へと変貌する。


「ふっ……!」


 彼女はその穂先を全力で前へと、永久に向かって突き出す。


 まるで届かない距離。

 だが、そんな物に意味はない。

 炎魔から供給される魔力により、《火尖鎗》は何処までも伸長する。


 永久は、迫る穂先を見て、この戦闘が始まってから初めて危機感を覚えた。


 これまでのどの攻撃も、はっきり言って無防備に受けても問題ない程度の些細な物だった。


 だが、これは違う。


 正面から受け止めれば、致命となり得る。

 そうと確信できるほどの圧を持っていた。


 攻撃は馬鹿正直な直突き。

 身を沈めるだけで簡単に躱せる。


 頭上を通過する火炎は、そのまま氷へと突き刺さり、膨大な水蒸気を発生させながら貫通した。


 獣の如き四足の姿勢から瞬発する永久。


 攻撃直後の硬直からまだ解けていない久遠は、その接近に気付いていながら、反応が遅れる。


 一閃。


 間合いにまで入った永久は、大剣を斜めに切り上げる。

 確かに間合いの内に捉え、確かに斬り裂いた、筈だった。


 だが、手応えは感じない。

 見た目には、久遠は真っ二つになっているというのに、まるで霞でも斬ったかのように何の抵抗も感じさせなかった。


(……炎魔霊に、物理攻撃は効かんぞ!)


 内心で答えを言いながら、至近まで近付いてきてくれた永久へと次なる一撃を見舞う。


 魔力超能力混合術式《炎魔・炎陣剣》。


 久遠の左腕が炎の刃へと変貌し、お返しとばかりに永久を一閃する。


『ひゃ――ッ! 良い匂いだぜぇ!』


 燃える隕石さえも蒸散させた熱量を受けた永久は、大きく後退して距離を取る。


 半身が焼き落とされ、残っている部分も爛れているが、ショゴスの再生能力は即座に彼女の全身を修復させていく。

 同時に、触腕を伸ばし、周囲の氷雪を喰らって質量の補填を行う。


 永久は、今の攻防の中で、今の久遠の状態を察していた。

 どういう原理なのかは定かではないが、簡潔に言えば、ただの魔術であり、魔力の塊というだけなのだ。


 ならば、話は簡単だ。

 より強大な魔力で圧し潰すのみ。


「火、風、土、水、雷」


 永久の髪が五色に染まる。

 溢れ出す禍々しい魔力は、威力となって世界へと顕現した。


 火属性風属性土属性水属性雷属性混合魔術《廃滅世界(カタストロフ)》。


 吹き荒れる、天災の嵐。

 空からは燃える巨星が雨のように降り注ぎ、大地にはマグマが溢れ、天地を繋ぐ竜巻の群れは、灼熱の炎熱や極寒の氷雪、そして神威の稲妻を帯びて乱舞する。


 この世の終わりを見るような極大範囲攻撃。


『ケッケッケッ、派手な娘っ子じゃねぇかぁ!

 なら、こっちも全力行くぜぇ!?』

「ッ、分かっている……!」


 対する久遠は、全身に魔力を巡らせる。

 火属性しか持たない彼女に、現在の永久の様な多様な芸当は出来ない。

 ならば、その単一属性を純粋に極めるのみである。


 魔力超能力混合術式《炎魔・陽炎陣》。


 ただ、莫大な魔力を熱量へと変換しながら放出するだけの、力業。


 同じような事は、ただの魔術でも可能だろう。

 だが、全魔力を熱量に回してしまう為、自身を守る事が出来ない。

 結果、焼身自殺をする事と何ら変わりない物となる。


 だが、今の久遠ならば、炎魔霊ならば違う。

 炎と同化している今の彼女には、熱量によるダメージは一切入らない。

 むしろ、飲み込み、自身の糧としてしまうだろう。


 自身の身を顧みない炎熱の爆発は、周囲の大災害を蒸散させて、地上に太陽を顕現させる。

《廃滅世界》を展開していた永久もまた、逃げ遅れて太陽の中に飲み込まれてしまう。


 灼熱の光が、極夜の大地を薙ぎ払った。


~~~~~~~~~~


「はっ……! はっ……! はぁ……!」


 半球状に大きく抉れた氷床の中心で、久遠は膝を突いた姿勢のまま肩で息をする。


 大魔力の瞬間放出は、流石に堪えた。

 出来れば、二度としたくないと思うほどに。


 まだまだ荒い息をしながらも、彼女は身体に鞭を打って立ち上がる。

 顔を上げた彼女の右目が、深紅に染まっていた。


「クッ……!」


 違和を感じ取った久遠は、自身の右顔面を叩くように押さえる。


『ケッケッケッ、使い過ぎだなぁ、マぁスター?

 随分と浸食が進んだんじゃねぇのぉ?』

「……五月蠅い。まだ私の時間だ」


《存在変換・炎魔霊》。

 これは命系統の超能力の奥義だと、刹那が明言するだけあって大変に強力なものだ。


 なにせ、炎魔は魔力の塊である。

 久遠の魔力を喰って成長する彼は、自我のある魔力の外部タンクとも言える。

 つまり、美影がその才覚によって行っている極限技法《連弾》を、生物として確立させる事によって自然に維持しているのだ。


 そして、炎魔と融合し、火属性魔術そのものとなる事で、彼女は全身を魔力流路として使う事が出来る。

 魔力の出力を大幅に向上させる《廻天》を、最大レベルで発動させている状態と言える。


 それ程に強力な奥義であるが、当然、リターンに見合ったリスクもある。


 そもそも、炎魔は久遠の分身、あるいは半身とも言うべき存在だ。

 久遠が理性ならば、炎魔は本能と言えるだろう。


 それ故に、二人の立場は対等であり、どちらが上か、という事はない。


 肉体という椅子はただ一つ。

 それを使える資格を持つ者は二人。


 久遠が現在主導権を握っているのは、その椅子に先に座っていたからに過ぎない。

 隙を見せれば、容易く取って代わられるほどに、彼女の中は不安定なのだ。


 今、久遠の精神は《陽炎陣》という過負荷を受けて、相当に弱っている。

 椅子から、滑り落ちかけている状態だ。


 その隙を突いて、主導権を得る為に炎魔が表に出始めていた。

 それを根性で黙らせる。


 まだ、終わっていない。

 だから、まだ終わる訳にはいかない。


 深呼吸一つで、右目の深紅が引いていく。


「…………生きているな」


 落ち着いてきた久遠は、ふわりと浮き上がり、半球の中から脱出する。


 クレーターの外、その一角から永久の魔力がまだ感じられた。

 かなり弱々しくなっているが、確かにまだ存在している。


 油断なく近付いていくと、やがてその姿が見えた。


 氷雪に埋もれるように、小さな粘性生物が蠢いている。

 人の姿は完全に取っておらず、もはや感じられる魔力の質以外に、永久だと認識する事も出来ない形をしていた。


「……《炎陣剣》」


 久遠は、哀れな姿となった妹を見下ろしながら、炎の刃を形作る。


 それの動きは緩慢で、放っておいても死にそうである。

 だが、ショゴスと融合しているのだ。

 あらゆる物質を餌として無限増殖していく生物の特性を考えれば、自然死するとはとても思えない。


 だから、止めを刺すべく久遠は力を発現させた。


 隙があれば、余裕があれば、永久を救いたかった。

 救う為の方法も、僅かだが刹那に頼み込んで用意して貰っていた。


 だが、あまりにも前提条件が厳し過ぎて、結果、クリアする事は出来なかった。


 永久の回復を待てば、再びチャンスを狙う事はできるだろう。


 しかし、その代わりに必ず勝てるとも分からない戦闘を、もう一度、行わねばならない。


 救済は、久遠の我儘である。

 地球上の誰もが、積極的にそれをする事を望んでいない。

 殺せる時に殺しておけ、というのが世界の意思だろう。


 チャンスは一回こっきりで、久遠はそれを逃した。

 再度の博打は許されない。


 ならば、殺してしまうしかないのだ。


《炎陣剣》を振り上げる。

 小さな粘体を蒸発させるには、充分な熱量を秘めた凶器だ。


 これが最後になる。


「出来れば……お前を救いたかった」


 振り上げた姿勢で停止した久遠は、躊躇を、未練を吐き出すように呟く。

 強く目を伏せて、妹との別れを決断する。


 僅かな時間。

 僅か数秒程度の隙間。


 だが、それが目を覚ますには、充分な時間だった。


「て・け・り・り」


 粘性生物が、爆発するように拡散した。


「なっ……!?」


 永久ではなく、彼女と同化していたショゴスが目を覚ましたのだ。

 それは、本能に従って触腕を伸ばし、手当たり次第に何もかもを喰らっていく。


 触腕は久遠の身にも迫ってくる。


 火力を上げる事で即座に焼き払うが、その隙に栄養の摂取を完了させたショゴスは、大きく身を膨らませていた。

 目に見えて、目を疑うほどの勢いで、だ。


「……、チッ!」


 あまりにも突然の変貌に、やや茫然としていた久遠が我に返り、攻撃を仕掛ける。


 しかし、《陽炎陣》によって消耗した後の半端な攻撃力では、巨大化したショゴスを焼き尽くすには足りていない。

 炎陣剣を振り回し、振り回される触腕を切り落とすだけで精一杯だった。


 ほぼ一瞬でと言えるほどのわずかな時間で、ショゴスは体高数百メートルという山の如き巨体へと成長していた。


「てけり・り」


 極太の触腕を幾つも振りかざすショゴス。

 狙いは足元をうろちょろしている小さな火の粉。


 払いのける為に、それらを叩きつける。


「お、おおおおおおおお……!!」


 久遠は、火尖鎗や炎陣剣など、即座に出せる火力を集中し、触腕の群れを迎撃していく。


 だが、あまりにも手も火力も足りない。

 大質量という暴威の前では、今の久遠が振り回す火力など、火の粉程度でしかない。

 やがて間に合わなくなり、彼女は魔力を帯びた触腕に押し潰されてしまう。


「がふっ……」


 罅割れた氷床にめり込んだ久遠は、破裂したように全身から血を噴き出していた。

 すぐにそれらの傷は炎の中に飲まれて消え、流血も蒸発してしまうが、刻まれたダメージがなくなる訳ではない。


『あーあー、さっさと止めを刺さねぇからそんな事になるんだぜぇ?』

「……愚かだった事は認めよう」


 自身の迷いが招いた事態だ。

 愚かという誹りは幾らでも受け付ける。


 まだ生きている久遠を見て、ショゴスは追撃の触腕を振り上げる。


 だが、それよりも先に反撃の一手は放たれていた。


「こちらも奥の手を出すしかあるまい!

 出番だぞ、《イフリート》!」

『はい! 頑張ります!』


 分厚い氷床を砕き割って、巨大な金属の塊が飛び出す。

 その大きさは、五百メートルを超えており、巨大化したショゴスさえも見下ろせるほどだ。


 冷たい海水の飛沫を撒き散らしながら登場したそれは、目の前のショゴスへと掴みかかり、派手にぶん殴った。

 大質量という暴力を前に、ショゴスの巨体は千々に飛び散る。


 炎城久遠専用デバイス《巨神兵》。

 そして、それに命を与える事で自己を確立した制御システム《イフリート》。


 それが鉄巨人の正体である。


『さぁ、かかってこい!

 お母さんを虐める奴は許さないぞッ!』

「…………母と呼ぶな」


 呼び名に、複雑そうな表情を浮かべる久遠だった。


追い詰められた怪人が巨大化するのはお約束。

対抗する為に巨大ロボを召喚するのもお約束。


もはやカビさえ生えているような黄金の殺陣である……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最近は観てないがまだそのパターンやってるの? ライダーシリーズはクウガ、アギト辺りが良かったなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ