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各国の状況――欧州諸国連盟

そういえば、前回で遂に百話行ってましたわ。

よくもここまで書きも書いたり。


まだまだ続きますので、お付き合いくださいませ。

 欧州諸国連盟、イギリス王国。


「クックックッ、元ではあるが、世界記録保持者(レコードホルダー)の力を見せてやるのであるな」


 再建された比較的新しい印象を受ける時計塔の上で、初老の男性が一人、楽し気に振る舞う。

 燕尾服にシルクハット、手には素敵なステッキを携えた青髪の髪を持つ、何処か芝居がかった仕草の男性魔王。


《霧雨》アレン・ウィンザー。

 魔力保有量史上第二位という、化け物の中の化け物である。


 雫に抜かれてしまう前までは、魔力量史上最多という世界記録を持っていた魔王である彼は、世界中で戦火が巻き起こるという状況において、我慢する事を止めた。


 溢れ出す、膨大という言葉ですら生温い魔力の嵐。


 その全てが、霧という形に変わって、濃密に欧州全域に広がり、そしてアフリカ大陸全土をも包み込む。


 アレンオリジナル水属性魔術《霧幻世界(ミスト・ワールド)》。


 光も通さぬ純白のカーテンは、ただ視界を遮るだけの物ではない。

 魔力によって構成されている為、魔術師にとって最も重要な感覚である魔力探知を無効化し、更には機械技術によるあらゆるセンサーをも阻害する防御幕となっている。

 意図的に開けられている覗き穴を通してしか外界を感知できない霧の世界は、一種の別世界の有様と言える。


 更に言えば、アレンが本気を出した場合、濃霧は世界を見えなくするだけには留まらない。


 酸性を帯びるのだ。


 然程強力な物ではないとはいえ、入るだけで肌を溶かし、息をするだけで体内が爛れていくそれは、まさに地獄が地上に現界したような物だろう。


「とはいえ、流石にアフリカの方はそういう訳にもいかんのであるがな」


 若干、不本意そうに呟くアレン。


 欧州は、彼の力を知っている。

 故に、彼の力に合わせた対策を講じており、霧の世界でも時間制限などはあるものの、問題なく活動できる。


 だが、本来、勢力圏ではないアフリカ大陸はそうではない。


 霧による認識阻害だけならまだしも、酸霧まで有効にしてしまうと、守るべき地球人類をその地にある文明や自然ごと溶かしつくしてしまいかねない。


「やれやれ。致し方なし、であるな。

 こうなれば、フランスの淫魔と、オーストリアの新星に期待するしかあるまいな」


 異界門から産み落とされた異形たちは、恐れ知らずに霧の世界に突入してくるが、まんまと認識阻害に引っかかって右往左往した挙句、タイムリミットを迎えて溶けて死んで行っている。

 偶然にも都市部に入り込んだ個体も、霧対策を施した一般魔術師部隊による真正面からの奇襲を受けて、あっさりと処理されていた。


 今しばらくは、欧州サイドは己一人だけでも充分にもたせられるだろう。


 その間に、フランス帝国の魔王、《母神》エメリーヌの怪物軍団がアフリカ方面に展開してくれれば、大変に楽ができる。


「あとは、雷裂の娘の働き次第であるな。

 あの気分屋がしっかりと働いてくれるのか、些か疑問であるが」

「呼んだ?」


 独り言を呟いていると、霧の中に僅かな雷光が奔り、直後、アレンの近くに一筋の雷が着弾した。

 噂をすれば影、という所だろう。

 雷の名から現れたのは、黒髪の少女――雷裂美影だった。


「呼んでいないのであるな。

 何故、ここにいるのであるか?」


 嫌そうな顔を隠しもせずにアレンが訊ねれば、美影は視線を逸らしながら、バツが悪そうに答える。


「いや、実は迷子で」

「この方向音痴めがッ!」

「うっさいな、似非紳士!

 この霧の所為でどっちに行けばいいのか、全然分かんないんだよ!」

「そういう術であるからな」

「自慢げにすにゃ!

 迷惑こうむってんだよ、こっちは!」


 迷子になるだけでなく、美影は酸の霧を全身に浴びてしまったせいで、全身の衣服がぼろきれの様になってしまっているのだ。


「まぁ、それは見れば分かる事であるな。

 ところで、更にもう一つ、質問があるのであるが……」

「あんだよ。スリーサイズは答えないよ」

「同じ数値を三つも並べられる寸胴に興味などないのであるな」

「ちちち、ちがわい!

 ちゃんと凹凸くらいあるわい!」

「ふっ、そういう事にしておくのであるな。

 で、だ。

 君は何故、そんなにボロボロになっているのであるか?

 吾輩の術による物ではないであろう、その傷は」

「ああ、これ?」


 衣服のみならず、美影の全身には焼け焦げた様な痕が散見された。


 単純に考えれば、アレンの魔術の影響で傷を負ったと結論付ける所だが、対象が美影である。

 若くして魔王業界に様々な伝説を残している彼女が、特に酸性を強めている訳でもない霧にやられるとはとても思えなかった。


 その思考を肯定するように、彼女は馬鹿な事をほざく。


「実は病魔を一秒でも早く北極に放り込む為にロシアを縦断してたら、ヘビの攻撃に巻き込まれた」

「アホであるな」

「うるさい!

 じゃあ、僕に長くあの病原菌と手を繋いでろっての!?

 殺す気か!」

「それが役目であるな」


 などと漫才をして、程よく鬱憤が晴れた所で、美影は本題について訊ねる。


「でさ、見かけたから訊くんだけど、フランスってどっちよ?」

「ふぅむ」


 アレンはざっと霧を見渡し、何処かの方角を指差す。


「大体、あっちの方であるな」

「大体かー」

「大体であるな。吾輩は地理に明るくないのである」

「まっ、いいや。取り敢えず行ってみるよ。あんがとね」


 礼を言った美影は、早々に雷光となって消える。

 それを見送りながら、アレンは僅かな不安を覚えていた。


「……フランス皇帝が消し炭にならないと良いのであるが」


 たくさんの愛に生きる愛の男と、一筋の愛に生きる愛の女。

 似て非なる生き方をしている彼らは衝突を免れない。

 そして、その場合、武力的に劣る皇帝の方が負ける事は確実だ。


「まぁ、なるようになるのであるな」


 やる気も無ければ、どうしようもないので、アレンは放り投げる事にした。


~~~~~~~~~~


 フランス帝国。

 帝宮の奥にある一室に、嬌声が響く。


「んっ……あっ、はぁ……うふふ」


 どちゃり、と思い肉塊が落下する音が鳴り、次いで、ずるり、と何かが這いずる様な音が広がる。


 そこは、部屋そのものが一つのデバイスとして機能している。

 ヴラドレンに次いで旧き魔王、《母神》《淫魔》《生命の冒涜者》エメリーヌ・ラクルテルの為だけに造られた部屋だ。


 彼女は、命属性の魔王。

〝命〟を産み落とす母なる神である。


 この部屋は、言うなれば産室だ。

 彼女の腹で造られた異形の生命体たちを、産み落とす為の、人間の狂気と冒涜を詰め込んだ醜悪な部屋。


『キー……キー……』


 キメラ、と評すべきだろうか。

 様々な生命体をごちゃごちゃに繋ぎ合わせた様な醜悪な生き物が、母であるエメリーヌに甘えるようにすり寄る。


 エメリーヌは、我が子に確かな愛情の籠った笑みを向ける。


「うふふ。ええ、良いのですよ。

 お腹一杯に食べてくるのですよ」


 今まさに生まれたばかりの、地球が生んだ異常生命体を、彼女は外へと促す。


 外には、たくさんの餌がある。

 幾らでも食べて良い生き物たち。

 潤沢な魔力を持っていて、栄養満点だ。

 きっとお腹いっぱいになるまで食べて、健やかに大きく育ってくれるだろう。


 母らしい願いを込めて、エメリーヌは笑む。


 直後、彼女は丸く大きな腹を抱えて蹲る。


「う、ぐぅ……!」


 陣痛だ。

 魔王としての魔力が次から次へと彼女の腹に新しい命を宿らせていく。


 まだまだ、たくさん産み落とさなくてはならない。

 外に蔓延るたくさんの害獣たちを、絶滅するまで食い荒らさなくてはならない。


 その為に、エメリーヌは確かな愛情を込めて、我が子を産み落とす。


「うっふふふっ、さぁ、生まれておいでなさい。可愛い赤ちゃん」


 エメリーヌオリジナル命属性魔術《悪徳の仔》。


 人間の罪は、何処までも深く、醜い。


~~~~~~~~~~


「ほいっと」


 がちん、と噛み合わされた牙から逃れながら、美影は帝宮の庭へと降り立った。

 背後では狙いを変えた怪物が、近くの異形へと食らい付いている。


 醜悪な怪獣大決戦な様相となっているが、彼女はまるで気にした様子はない。

 そんなものは、廃棄領域の中で見慣れているからだ。


「やぁ、ボンジュール。

 実に扇情的な姿だね、カンザキの。

 どうだい? 朕と一発、熱い夜を過ごしてみないかい!?」


 庭先で幾体かの怪物に守られながら、呑気にティータイムを楽しんでいるヴァレリアン皇帝が、ほぼ全裸に近くなっている美影に早速と粉をかけ始める。


 美影はにっこりと笑みを見せながら、丁寧に殺意を向けた。


「死ね。

 じゃあ、まずはお茶からだね。とっておきの茶葉があるんだ。

 それ飲んで死ね」


 何処からともなく、毒々しい色合いをした葉を取り出すと、それを強く握りしめる。

 絞り出された液体が、皇帝のカップの中へと垂らされると、たちまちカップが溶けて崩れ、更にはテーブルにまで穴を開ける。


「うっわ!? うわうわ! うわぁ!

 何これ!? 何入れたのさ!?」

「え? ごく普通のお茶っ葉だよ?

 廃棄領域産だけど」

「それ、全然普通じゃないよ!?

 うわ、地面にまで穴がッ!?

 やば過ぎじゃない!?」

「飲むと内臓が盛大に溶け落ちるくらいの酸味があるけど、慣れるとこれが中々クセになる味わいでね。

 君もどうだい?」


 ぎゅっ、と握りしめた拳を笑顔で向ける美影。

 その手には、周囲の酸霧とは比べ物にならない威力の溶解液が纏わりついていて、大変に危険だ。

 常人では触れられただけで死に至るだろう。


「ごめんごめん! ほんっとにごめんって!

 朕が悪かったから!

 ほら、お仕事の話をしようよ! ね!? ねっ!?」


 怪物の陰に隠れながら、全く心の籠っていない謝罪を繰り返して、露骨に話を変えようとする皇帝。


 美影としては、見るだけならともかく、本当に手を出そうとしてくるゴミは処分できる時に処分しておきたい所だが、今は緊急事態だ。

 この後も予定のある身としては、あまり悠長に時間をかけていられない。


 なので、舌打ち一つで感情を飲み込んで、気楽な話題へと移る。


「チッ。仕方ないね。

 で、何か運んで欲しいんだって?」

「うん。それ」


 ヴァレリアン皇帝が指差す方向には、やたらと長い金属棒が束になって置かれていた。


 その数は軽く百を超えるだろう。


「……何これ?」

「新手のデバイスかな?」

「これが?」

「新進気鋭の超新星がいるのは、瑞穂だけじゃないって事さ。

 EUの次代を担う魔王のデバイスでね。

 それをアフリカ大陸全体に、満遍なく突き刺してきてよ」

「なんだ、それだけか。ちょろい仕事だね」


 言って、美影は金属棒の束を片手で持ち上げると、肩に乗せて担ぐ。

 その見た目にまるでそぐわないパワーに、皇帝はドン引きである。


「……うわー。それ、全部で数十トンはある筈なんだけど。

 君って人間じゃないよね」


 普通ならば、侮辱とも取れる言葉。

 だが、美影は得意気な笑みを見せる。


「そう? そう見える?

 そんなに褒めても何も出ないからね?」


 刹那(人外)へと追い付きたい彼女にとっては、最高の誉め言葉なのだ。


 気分の良くなった美影は、足に力を入れて、スキップするような軽い足取りで空へと駆け上がっていく。


「……女心は複雑だって言うけど、彼女の場合はまた別物な気もするなー。

 攻略するには手間取りそうだね」


 愛に生きる男。

 彼には、女に手を出さないという選択肢はない。


欧州の戦術、「満遍なく死ぬが良い!」という大雑把攻撃。


各国編は、あとアメリカで終わり。

明日までに間に合うか……!?

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