復讐に囚われた青年達
序章
――これだから夏は嫌なんだ。
ツンと伸ばした健康的で黒々とした髪の毛から塩水を滴らせながら荒木克也は気だるげに呟いた。
まだ7月の初旬だというのにこの暑さだ。
歩道脇の街路樹から聞こえてくる蝉達の阿鼻叫喚。
いや、どうなのだろう。
彼らはこの時を7年間もの間待ちわびたのだ。歓喜の歌と言った方が適切かもしれない。
ただ今の克也にとってはそれは邪魔でしかなかった。
日本人は風鈴の音色で涼む一方、蝉の声で汗をかくのだ。
夏におけるプラセボ効果とノセボ効果とでも言うのだろうか、いやパブロフの犬だったか?
拙い知識を総動員したが、適切な喩えが出て来そうになかったので克也は考えるのをやめた。
しかし、ほんとに暑い。
眼前にそびえ立つビルがユラユラ揺れる。
それが陽炎によるものなのか、熱中症による目眩なのか、判断が難しかったが、手に持ったペットボトルの茶を飲むと多少治まったようなので後者だったのだろう。
こんな暑いならタクシーで来れば良かった。
そう後悔したが、目的地までもう近くのところまで来ている。
何より、普段運動などしない克也にとっていい運動になると思っていた。
実際、汗はとどまるところを知らず首筋にまで侵略してきていた。
克也はあまりの暑さに辟易していたが、果たすべき大義名分があることを思い出すと自然に足に力が湧いてきた。
復讐ーー。なんと甘美で魅力的な響きだろう。
人知れぬ過去を持つ克也にとってその言葉の魔力は絶大だった。
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