失せもの探しのお礼日
本日は八月二十七日。
朝から各家々で香辛料と焼かれる小麦粉のいい匂いが漂っております。
皆様朝早くから張り切っておりますねえ………
まあ、そういう我が家も今から始めるのですが。
「さて、まずは材料から用意しましょうか?陽さん。」
「イエスマム!!」
「素晴らしいお返事ですね。」
と、こんな感じで陽さんと一緒に調理開始します。
実は陽さん、何度もこの国にいらしているんですが、今回の行事は初めてですので、
せっかくだからブツから一緒に作ろうと思った次第でございます。
さて、本日は何をするのかといいますと………
「アギオス・ファヌリウスの日に作るファヌローピタ、です!」
「いえーいぱちぱちー!
………で、その人何の人?アギオスってことは聖人なのはわかる。」
「アギオス・ファヌリウスは失せもの探しの聖人です。
失くした物があれば彼の方に祈れば見つかったり、
何かのヒントがポンっと目の前に出てきたりするんですよ。
あとは人生に迷ったら何かのヒントをくださったりとか。」
あ、失業したときに祈る人もいますね。
新たな就職先に導いてくださるように、と。
「あ、物だけじゃなくてそういうのまで導く感じの人か!」
「探偵や迷子が信仰しそうですよねー。」
「あと失くしもの多い人とか?休む暇ない聖人だなぁ!」
笑いながら言うのはやめてあげてください。まあ、そうなんでしょうけど。
とりあえず何か失くしたり、人生に悩んだりしたら、
【アギオス・ファヌリウスの宗教画に向かって祈りましょう。】と、
いうのが習慣化してますしねえ……
ちなみに14世紀までその存在は無きものとされていて、
ロードス島で宗教画が発見されて徐々に有名になったんですよね。
一説ではセイント・ジョージと同一人物だとか……
ちなみに我が家ではよくお祈りさせていただいてます。
母が迷子になったときとか私が迷子になったときとか、
母が迷子になったときとか私が迷子になったときとか!!
(え?二回も同じことが言われてる?キノセイデスヨ?)
「で、リーンシェフ!どんな材料が必要ですか!!」
「ふふ、ファヌローピタはちょっとした特徴があるんです。
はい、陽さん、なんだと思いますか?」
「え?えっとえっと………ピタっていうからにはケーキであること?
新年に食べるバシローピタもピタって言われてるけどケーキだし!」
「ぶっぶー!違います!」
「え?!じゃあ普通にパイってこと?あ、大穴でパンとか?」
「どれも違いまーす!」
「満面の笑みでの否定あざっす!ちくせう楽しんでるなあああ?!」
いやですねえ……楽しんでるんじゃなく、愉しんでるんですよ!
まあ、これは予想するのは難しいと思います。
「正解は材料の数です。」
「は?!」
「材料が七つから九つか十一個までと決まってるんですよ。」
「そんなんわかるかああ?!ちゃぶ台…もとい!テーブルひっくり返すぞおお?!」
「日本の伝家の宝刀チャブダイガエシ!生で見られるとは!!」
母の持ってるビデオで見たことありますが実際に見るのは初めてです!
「ハイそこー!こんな微妙なとこで外国人にならなーーい!
ワクワクしてないで説明ぷりいず?」
「まあ、地域によってちょこっと変わりますけど。うちの地域では材料は7つですね。
何故かといいますと!!」
「なぜかっていうと?」
「教会で行われるえっと、儀式の数にちなんでます!ほら、結婚とか名づけとか………」
「あ、思ったよりちゃんとした理由だ!」
「ですです。
さて、材料を用意しましょうか!」
「はーい!」
「材料は、小麦粉、オリーブオイル、粉砂糖、オレンジの絞り汁、クルミ、干しブドウ、シナモン です。」
「ケーキじゃん。卵を使わないケーキじゃん!
クルミのザクザクで触感がいいやつじゃん!!」
「だから、二スティアをしている人でも食べれるんですよ―これ。
オリーブオイルだから出来上がりはしっとりしますし。」
ちなみに二スティアとは大きな行事の前に肉類や魚類を一切食べない期間を言います。
人によってはオリーブオイルも口にしません。
日本でいう精進料理に近い食事が続くんですよね。
お肉大好きな人には地獄の期間です。
特にメジャーなお豆の水煮は……アライケナイ、イッシュウカンズットタベテタトラウマガ。
「で、作り方は?」
「ボウルに材料を適当に入れます。」
「ん?!」
「で、混ぜた後、型に入れて焼いて終わりです!
あ、冷めたら上に粉砂糖をまぶします。」
「ここで国民性出ちゃってるううう?!」
失礼な。覚えやすくていいじゃないですか。
「まあ、ほかの家では大体そうやって作りますね。
我が家は油とお砂糖をよく混ぜてからほかの材料を様子を見ながら入れます。
生地がもったりしたらアルミを敷いた型に流し入れて、焼きます。」
「それでもどのくらい入れるのかとかはないんだね?
お菓子ってグラム数が命なんじゃあ……」
「これは適当でもできるやつなので!」
「てかこれ膨らむの?」
「そこまで膨らみませんけど…膨らむのがいいですか?
膨らまし粉の入ってる小麦粉使います?ありますよ?」
「いつもやってる方法がいいかな?」
「まあ、教会でいろいろな種類のファヌローピタが食べれますし。
あ、陽さん、その大きなボウルにお砂糖と油を入れて混ぜてください。
残りの材料の用意しますから。」
「どういうこと?
あ、うん。お、これシリコンの泡だて器だ!使いかっていいよね~。」
「教会のミサが終わった後、持ち寄った各家のファヌローピタを交換するんですよ。
【アギオス・ファヌリウスのお母様に救済を。】って祈りながら。
私はステンレス製の泡だて器の『カシャカシャ』って音が好きなんですよねえ。
こう、お菓子を作ってる!って感じがして。」
「へー…ってなんで母親?!
わかる。
混ぜ終わったよージャンジャン入れちゃって!」
「彼の母親の業が深いから、と、いう説が有力ですね。
なんでも生前、他者に対して厳しくて、
唯一の善い行いは、物乞いに与えた玉ねぎの皮のみだそうです。
もったりとするまで混ぜてくださいね?その間にオーブンと型の準備しておきます。」
「それって善い行いにカウントしていいの?!ごみ捨てただけじゃないの?!
あと混ぜ終わり!」
「それ私も思います。
あと死に方も間抜けだったらしくて、アギオス・ファヌリウスが違う聖人に理由を聞いたら、
玉ねぎの皮の分ましになったって言われたという逸話もありますねえ。
では、クルミと干しブドウもサクッと混ぜて。
この四角い型に流し入れてくださいね。」
「待って物乞いに玉ねぎ上げなかったらどうなってたの?!怖いんだけど?!
あ、表面はならしておく?」
「それ私も気になります。
お願いします。オーブンももう少しで用意できますよ。」
「おっけーい。
しかし、聖人本人じゃなくて母親かあ。」
「面白いですよねー。
あ、オーブンの準備できました。」
「いれろいれろー!」
そして、出来上がったファヌローピタをめぐって幼馴染たちと一戦あったことや、
教会に行ったとき、陽さんが多くの人にファヌローピタの交換を求められて目を回したり、
その後、出店でいろいろとおまけ多めに食べ物を買ったり、
豚の丸焼きの多さに陽さんがドン引きしたりしたのは、
その日の夕方の話。
「香る、香るぞ!!」(ニック)
「おいしいファヌローピタの匂いが!!」(ジム)
「悪鬼退散?!」(陽)
(ニック、ジムvs陽 の攻防を見つつビシナーダを飲むリーン)
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「っちょ、まって?!す、すていぷりいず?!うえいとおおおお!!
り、リーン助けてえええええ!」
「がんばってくださいねー」
「ハゲタカかハイエナの群れかこの人たちいいいい?!」
(四方八方から湧いてくるファヌローピタと同時に入れ物から消える自作のファヌローピタ。
最早マジックである。
なお、リーンは少し遠いところでおばあさん達とのんびり交換している模様。)
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「何このえぐい量の豚の丸焼き?!今日で全部売り切れるの?!」
(出店でおまけ多めに買ったギリシャドーナツのルクマーデスと炭火焼トウモロコシを両手に持った陽は叫ぶが騒動でそこまで目立たず。
のちにリーンが家用に買った豚の丸焼きの量を見て再びドン引き。)
ちょっとしたおまけを乗せて……
それでは、感想お待ちしております!(ぺこり)




