滴る紅はすべてを染める
バチン!
と金属があたる音が響き、
コロコロ………
ところがる音が聞こえたと思ったら、
ぺシーン!
と我が家のわんこが前足で捕獲する音が聞こえてくる。
そんなBGMが聞こえてくる、夏の昼下がりのお話にございます。
と、まあ、ふざけてみました。
ただいま作業中のリーンです。
皆様知ってましたか?
赤か黒い色って赤いシミが見えにくいんですよ!
と、いうわけで。
本日は赤いエプロンをつけての作業です!
(黒じゃないのかって?この国の真夏の気温で黒を着る方々は狂ってると思います。
少なくとも私はぶっ倒れる自信しかありません。)
え?何の作業ですって?
それは………
「やっはろ―!リーン遊びにきt………」
「ああ、陽さん、おひさしぶりです。
って何フリーズしてるんですか?」
「ついに殺ったの?!だれ?!前村長?!
それとも最近はやりの詐欺集団?!
っは!まさかのニック?!」
「とりあえず落ち着きましょうか?
美奈が寄りかかってる椅子に袋がぶら下がってますでしょう?
そこにご近所さんお手製レモネードがありますよ。水で薄めて飲んでください。」
「ああ、うん。飲ませてもらうわぁ………」
まったく、陽さん、あなたもっと常識的な人でしたでしょう?
なぜベランダから入ってきてるんですか?
そういうところは感化されなくていいんですよ?
そして、殺るってなんですか、殺るって?!
失礼な。
だいたい、はやりの詐欺集団ってこの前うちの村のおばあさま方が逆にお金をもらってたじゃないですか。
そのあと現村長に連れられて大人しく(?)警察に出頭しましたよ。
それと、前村長を殺れる人間なんているんですか?
もし居るならぜひとも弟子入りさせたいですね、ニックを。
だって私、か弱いですし?
その点、彼は大丈夫でしょう。
しぶといですから。
「で、何で殺人犯呼ばわりされたり、急にフリーズしたりしたんですか?」
「友人が血まみれになってたら誰だってこうなると思うんだけど?!
手が真っ赤だし、服や顔に飛び散ってるし!!」
「血まみれ?………ああ!
違いますよ!?これ、ヴィーシノの汁が飛び散っただけです!」
そう、先ほどからやっている作業とは、ヴィーシノの種とりです。
ヴィーシノ、英語ではサワーチェリーといいまして、サクランボの一種なんです。
これをお砂糖と一緒に煮て、シロップを作るんです。
あとはお水で薄めて飲むだけなお手軽自家製ジュースの完成です!
甘酸っぱさのハーモニーが何とも言えなくてですね……
気が付けば1,5リットル分が三日で消えます。
「これがヴィーシノ?すっごく熟したサクランボみたい。
まっかっか。ねーね―食べていい?」
「いいですけど、すpp………」
「すっっっぱああああああい?!」
「ああ、いわんこっちゃない。ヴィーシノ、またの名はサワーチェリー。
その名の通り酸っぱいサクランボなんですよそれ。」
見た目はまんま濃い赤色のサクランボなのですけどねえ。
熟しても酸っぱいんですよ。
「うう……すっぱいぃ……あ、レモネードおいしい。」
「ご近所さんのレモネードは年々おいしくなってます。
もうこれで商売できそうなレベルです。あ、もうしてました。」
「あ、もしかして向かいのカフェのおばさまの手作り?!
まじか―あそこギリシャコーヒーだけだと思ってた!」
「この時期だけの隠れメニューですね。お孫さん達用に作るので。
ちなみに最近は伝統料理も作ってますよ?お酒のおつまみも結構ありますし。」
「……かふぇとは。」
「こっちの田舎のカフェはたいていこういう感じです。」
「まじか。今度色々食べに行こ―!
で、結局何作ってるの?」
「ぜひともおばさま特製のパチャーをお食べくださいませ。少し風変りですがおいしいですよ。
今作ってるのはビシナーダと言う、薄めるタイプのジュースです。グレナデンシロップみたいなものです。」
「へーこんどためそー。 グレナデンシロップ……なんだっけ?なんかおしゃれな響きだけど……」
「ザクロをお砂糖で煮詰めたシロップです。水で薄めるもよし、カクテルに使うもよし、ジュースと混ぜて飲むもよし、なシロップです。
個人的にはバナナジュースやパイナップルジュースと合わせるのが好きですね。
混ぜる前は二層になってるんですがとてもきれいですよ。」
「ほえー。え、お店でも飲めるの?バーとか、カフェとか?」
「飲めますよー?まあでも、グレナデンシロップはお酒に混ぜる方が多いですね。
ジュースとかだとビシナーダが人気ですね。スーパーでバナナジュースと合わせたのが売ってますよ。」
あとはチーズケーキに乗せたりケーキの上に塗ったり、アイスにかけたりしますね。
ビシナーダを作るときは実も一緒に煮詰めるので、
実をそのままコーヒーのお供として4,5粒食べたり、パウンドケーキの中に入れたり、
あ、クッキーに練りこむのもいいですね。
そうそう、ブラックフォレストという、クリームたっぷりのケーキの中に入れたりと、
いろいろ作りますねえ……
でもやっぱり普通にシロップと実をコップに入れてから水で薄めて飲むのが好きですねえ。
パフェスプーンですくいつつ、ジュースを飲む方法も乙なものです。
「あ!あれか!!ずっとサクランボとバナナってあうの?って思ってた!
へーサクランボじゃなかったのねあれ。
ところでビシナーダってどう作るの?」
「まず最初にこの道具を使います!」
「それ……もしかして種取り器?」
「よくわかりましたね!ヴィーシノとサクランボ専用種取り器です。うちのは祖母の時代からあるやつですね。」
「この、くりぬき機みたいな形は覚えてる。
スプーンみたいな部分には小さい穴が開いてるし、取っ手が余計に伸びてて、しかも曲がるし、反対側の先端には細い棒みたいなのがあるしで気になってさ、お店の人に聞いたのよ。」
「なるほど。なら……予備のやつをどうぞ?」
「待て待て待てなんだそのイイ笑顔。」
「お手伝いしてくれたら1.5リットル分差し上げます。
いえね?このままいくと終わりそうにないなあ……と。なので!
作り方の説明しつつ一緒に作りましょう!」
「道連れにされたああああ?!」
飛んで火にいる夏の虫ってこういう時に使うんでしょうかねえ?
いやはやさすがにこの量を一人でやるのは骨でしたし、
祖父以外の家族はこういう作業は苦手ですし、
肝心の祖父は今ブドウの様子見に行っておりますしと、
ちょっと途方に暮れてたんですよねえ。
「素晴らしいタイミングに来てくださって本当にありがとうございます。」
「ものっそステキな笑顔ですねコノヤロー。やったらあああ!この袋のやつでいいの?」
「はい、そこにあるスーパーの袋、全部です。」
「ぜん……ぶ?待ってあれ一つだけだよね?」
「いやですねえ?私の隣にあと4袋あるじゃないですか。
どうやら今年は豊作だったようで……夢中になって収穫してたら……」
「てへ?って感じに言うな?!え、待ってこれ今日中に終わるの?!」
「種取りは終わりますよ?あとは一晩お砂糖となじませるんです。
だからどちらにせよ、今日中に終わりませんね?」
「いやそれでも今日中に終わるの?もう夕方だよ?!」
「どうせいくつかは虫がいたりするので捨てるのも結構出ますって。
最終的にはたぶん三袋半になるはずです。
それに種を取りつつ大なべに入れますから種取りが終わる=本日の作業終わり。
ですよ。ふぁいとおー!」
「それでも三袋半じゃん!?って、何してるの?」
「ああ、種を取った実が鍋の底部分を埋めたので、お砂糖を実が埋もれるくらい入れてます。最後にお砂糖入れるより効率がいいんですよー。」
「……ビシナーダって……カロリーお化け?」
「1キロのヴィーシノに対して1キロのお砂糖を入れますから……結構行きますね?」
「ひいい?!」
「ほらほら手を動かしてくださいねー?あ、あと汁は服についたら取れないのであっちにある割烹着で作業してくださいねー?」
「なんで外国なのに割烹着があるのおおおお?!」
父の趣味です。
次の日、ビシナーダをかけたアイスがおいしくてオカワリしまくり、見事おなかを壊した彼女がいました。
前回もこのオチでしたね?
腹痛に苦しむ彼女をしり目に、私はバナナジュースとビシナーダの二層ジュースを飲むのでした。
*パチャー:ギリシャ版煮凝り。暖かくても冷めても食べれる。主材料は豚の耳や皮や足。
暖かい時は強烈なにおいがする。でもおいしい。匂いがダメな人は冷めたやつを食べる。
初心者はヴィジュアルでビビる。
今回はギリシャの伝統的なジュースのお話です。
とってもおいしいんで機会があったら是非試してください!
それでは、感想お待ちしております!(ぺこり)




