大蒜がかおる祝日
ちょっと飯テロです。
皆様お久しぶりです、リーンです。
このご時世いかがお過ごしでしょ
「ヤッハローリーン!
って………うっわ?!なにこのにおい?!」
……う……か。
えー。ごほん。
脳内モノローグをぶった切って我が家のキッチンに来たのは陽さんでした。
………まあ、確かに今この部屋のにおいはえげつないですよねえ……
換気扇は頑張ってくださってるんですが、敵が強すぎました。
そう、なぜここまで凄いにおいがするのかと言うと、ここ数分くらいにんにくの皮をむいたり、生のそれを刻んだりしているからです。
本日のメニューはタラを揚げたものと、スコルダリャーと言うもったりとしたソースなのです。
「こんにちは、陽さん。ちょうどいいところに!こちらのジャガイモの皮をむいた後、賽の目に切ってお湯に放り込んでください。茹で上がったら、水気をきって、もう一度お鍋に入れて水分をなくしてください。」
「待って、待って?!今、手を洗うから?!」
そういって慌ててシンクに行って石鹸で手を洗う彼女はほんとにいい子だと思います。
日本人ならではですねえ。ニック達だと水洗いで終わらせますもの。
「エプロンはそちらのど派手な鳥のやつをお使いください。
……あ!今着てる服は多少においがついても大丈夫な奴ですか?」
「うわあ……この外国でよく見るようなド派手なヤツ見ると私も外国にいるんだって実感するわあ……
なにこれ?クジャク?キジ?それともフェニックス?
いやでも緑が多いからやっぱり孔雀かな?
よくもまあ緑だけ使ってここまで目にうるさい柄ができるわね……
あれだ、大阪のおばちゃんのトラ柄シャツみたいだわ。
無駄にギラギラしてるやつ。
ん?におい?まあ、この服は汚れてもいいやつだから別に?」
すみません、祖母の趣味のそれしか予備がないんですよ……
それだったらにおいがしみ込んでも罪悪感がないんですよ。
てか、大阪のおばさま方はそういうものを好むのですか……
祖母と語り合えそうですね……
(*作者の偏見ですのであまり真に受けないでください。)
「それはよかったです。では始めてください。お昼までに済まさねばなりませんので!!」
「あ、やっぱりこれお昼ごはんか!今日のメニューはなあにー?」
「タラを揚げたものと、スコルダリャーです。
毎年この日はこれを食べるのがなぜか伝統なんですよー。」
「スコル……だりゃああ!!!」
ああ、確かにそう聞こえますよねえ。
ここは、
うまい!座布団いっちょう!
と、叫ぶべきでしょうか……
いやここは冷静に諭しましょう。
「気合い入れてどうするつもりですか、もう。
スコルダリャーですよ。ニンニクたっぷりのもったりとしたソースです。
揚げたお魚に良く合うんですよ。」
「へー……ポテトも入れるんだ?そのソース。味の想像が全然つかないや。」
「そうですよ。まあ、食べればわかります。ちなみに食べ過ぎたら気分が悪くなりますのでお気をつけて。」
「はーい!そういや、今日はどこの家もタラだよね?しかも揚げたやつ。なんで?
ここに来るまで香ばしいにおいがすごっくて……
もうあれは一種の飯テロだったわ。」
「伝統ですよー。ほら、来週の日曜日は復活祭でしょう?」
「そうそう。
……地獄の肉なし、乳製品なしの一週間が始まるぜ……アハハハハ。」
棒読みはやめてください、目もうつろで怖いです。
包丁の持ち方も戻してください。
それは何かを刺すときの持ち方ですってば。
毎回やらなくていいと言ってるではないですか。
なのに、せっかくこの国に居るんだから!!
と言って私たちと同じことをするんですから、まったく……
後で出来立てのハルヴァをデザートとして出してあげましょう。
「まあ、それは置いておいて、
本日は『キリアキ―・トン・バイーオン』と、いう日なんですよ。
日本では、枝の主日(もしくは日曜日)、棕櫚の主日、聖枝祭などと呼ばれていますね。
で、この日はなぜかタラを揚げたものを食べるんですよ。理由は知りませんが。 」
「ごめん、日本語で教えてもらってなんだけど……
意味わからん!あとポテト出来やした!
そして理由は分からんのかーーーい!?」
ナイスツッコミです。
多分おばあさま方に聞いたら誰かしらが理由を知って……るかもしれないかもしれません。
「まあ、馴染みがないと分かりませんよねえ。
あ、じゃがいもはこのミキサーの中に入れてください。
簡単に言えば、イエス・キリストがエルサレムに入場した日ですね。」
「はーい!他何か入れようか?
え、ごめんそれってそんなにすごいの?」
「そうですねえ、ニンニクは私が入れますから、そこにある少量の玉ねぎを入れてください。
あとはミキサーにかけているときに少しづつオリーブオイルを入れるだけです。
まあ、すごいですね。救世主が来たわけですから。
入場の時、イエス・キリストの弟子たちは子ロバを連れてきて彼を乗せ、通る道に服をレッドカーペットみたいに敷いたんですよ。」
「え、いれるのそれだけ?塩コショウは?てか量って適当なの?!
レッドカーペットって!相変わらず言葉のチョイスが!!」
「そうですよー。あとは感覚便りです。
実際、レッドカーペットの代わりに敷いたんですよ。何せ待ちに待った救世主、もとい王ですし。
服が足りなくなったら、ナツメヤシの葉を敷き詰めたんですよ?」
「へーでもこれ日本でも作れそう!油は入れすぎない方がいいの?
……ちょっと聞くけど。その時エルサレムって王様いなかったっけ?いいの?そんなことして。」
「結果もったりになればいいんですよ。油入れすぎたらソースみたいになりますからお気をつけて。
うん、これでよし!できましたよー。パンに塗って試します?
え?もちろん、居ましたよ?だから復活祭があるんですよ?」
彼らの行動を聞いた当時の王が嫉妬した後、危機感を持ってしまって、イエス・キリストを逮捕させて死刑にしたんですよねえ……
それまでは、ええ、はい。
予言にビビって色々してましたねえ……
で、その三日後にイエス・キリスト復活。
王様ドンマイです。
「試す試す!
……から?!え?わ?!
なにこれ~~!一瞬口の中が辛くなったと思ったら、次にニンニクが爆走かましてきた?!
初めて食べたよこんなの!あ、でもおいしい……やみつきになるうう……
そしてなんかいろいろ察したぞ?!王様ヤッチマッタンダネ?!」
「多分ご想像のとうりかと。
さて、あとはタラを揚げるだけですね。
そしてオカワリしてもいいですけど、あとで胃がムカムカしますから食べすぎはだめですよ?」
「おーう……
まあ、生ニンニクだしねえ。あ!ニンニクと言えば!!
ニンニクの漢字って知ってる?」
「なんか色々ありますよねえ、たしか。」
「そうそう!私最初『人の肉』ってかいてニンニクって読むんだとおもってたんだよー!
だってスーパーで見たし。まあ、あとでただの言葉遊びだって教えてもらったけど。」
「それはまた猟奇的な……私は『おおびる』ってかいてニンニクだと思ってました。」
「あ!それはね!ノビルっていうニンニクの種類があってそこからきてるらしいよ!!」
「蒜って漢字は確かユリ科の食用植物の古い日本語での呼び方だったと記憶してます。
だから大蒜があってると思ってましたねえ。あと漢字四文字で仁牟仁久って俗称があったとどこかで読みましたね。」
その四文字の方が言いやすいから皆そっちの方を使うといわれてますねえ。
あと仏教由来の物もありましたね。たしか、怒ったり、怨んだり悪意も持たないように耐える修行にあやかってた様な……
今度調べてみましょう。なんか面白そうですし。
「そういえばそこに活けてあるこの丸っこい葉っぱの枝は何?ずっと気になってたの。」
「教会でもらったバイヤと言う枝ですよー。うちの地域では月桂樹なんですよ。場所によっては違う枝なんですよねえ。祝福のおすそ分けですね。
陽さんの分ももらってきてますからあとで持ち帰ってくださいねー?」
「わーい!って喜んだのはいいけど……ニンニクのにおいしみ込んでない?これ?あと揚げ物も。」
……月桂樹ににおいがしみ込んでいたかどうかは……ご想像にお任せします。
ちなみに、揚げタラとスコルダリャーを二回もオカワリした彼女は見事におなかを壊しました。
スコルダリャーは控えめに食べるのをお勧めします。(真顔)
生にんにくがたっぷり入ってますから!!
それでは感想お待ちしております!(ぺこり)




