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偉人録  作者: Squall
序章 全ての始まり 全ての終わり
4/4

序章 四話 ただの葬儀屋

翌日 2018年12月3日午前8時

「おはよう2人とも。昨日はよく寝たかい?」

福島県にある小さな宿を出て、3人は顔を合わせた。

「ああ、久しぶりによく寝たよ。隣はバカはどう考えても寝すぎだけどな。多分合計で10時間ぐらい寝てるぞ」

「分かってねえな界斗。めちゃめちゃ寝たら、次の日めちゃめちゃ動けるだろ?元気溜めてたんだよ!」

「あーはいはいいい考えですね。さあ、行こうぜ、早くそいつの元へ」

「あ、界斗今お前俺の元気溜め込み理論軽く流したろ!許さん!」

「うるせえ、お前さっきから俺が朝弱いの知っててそんな大声で喋ってんだろ。喧嘩売ってんのか?」

睨み合う松本と御原。それを一歩下がって見ている瀬戸は...

「朝から元気だね。じゃあ、早速行こうか」

軽く流した。




宿を出てから歩き続けてきたが、一体何分経ったのだろうか。ふと気になって携帯をのぞいてみると、すでにもう30分が経過していた。

東北の冬の山道は寒すぎる。瀬戸は息一つ乱さず歩いているが、御原に関しては寒すぎて震えている。

そんなことを考えていた松本の心を読んだかのようなタイミングで瀬戸が、

「少し休憩しようか。まだ道のりは倍近くあるからね」

と言い、水を飲み始めた。

「よくそんなの飲めるなぁ。俺なんて寒すぎて寒すぎて...もう一歩も動きたくねえぜ...」

「駄々こねんな錦。お前最初は一番元気だったじゃねえか」

「だって宿めっちゃあったかかったじゃん。界斗も思っただろ?」

「確かにそうだが、お前は差がありすぎだバカ。もう少しすれば、例のやつに会えるんだ。待つしかねえだろ」

会えばわかるはずだ。どんな奴なのか。瀬戸にあそこまでの説得力を持たせる何かが、その男にはあるはずなのだ。

「如月誠...」

誰にも聞こえぬ声で、界斗はつぶやいていた。




更に歩く事40分。山を越えて小さな村に着いた。そしてさらにその村の中を歩いて、瀬戸が立ち止まったのは...

「ここだ。彼の職業は葬儀屋。同じ村の人たちの死後の火葬、埋葬、葬式...全てを彼は1人で行なっている」

葬儀屋?どんな男かと思えば...果たしてその男はどれくらいの年齢なのだろうか?

「まあ、まずは入ってみよう」

大人は腰を曲げなければ入れなさそうな少し小さめの扉を開けると、ギギィーという低い音と共に、外側まで大量の埃が舞ってきた。中は薄暗く、小さなライトが5,6個あるだけだった。扉を開けて右側には棺桶のようなものが十数個、左側にはカウンターと机があった。

「やあ、如月。いるかい?」

瀬戸が発した声は部屋の中に小さく響き渡った。 しかし、返事はない。

「だ、誰もいねえのか?ってかこんな所、本当に今もやってんのかよ。もう何年も前に使われなくなったとこなんじゃ...」

予想以上の不気味さに目的地が本当にここなのか疑う松本。その時、ズラリと並んでいた棺桶の内の一つがゆっくりと開いた。そしてその中から一人の男が出てきた。

「いらっしゃいませ。すいませんね今棺の掃除してて... って、なんだ悠一か。予定よりえらく早いじゃねえか」

棺桶から出てきた男は、ガラガラと下駄を鳴らしながらこちらの方へ歩いてくる。

年齢は三十手前くらいだろうか。灰色の袴を履いており、黒を基調とした羽織を着ている。まるで二つ三つ前の時代に生きている人のようだ。

「お、お前が松本界斗か。ふむ...確かに“良い眼”をしているな。しかしまだ完全に解放できてないのか」

男は松本の前に立ち、少しかがんで松本の目をじっと見つめながら何かブツブツと言っている。

「なんだよいきなり、近えし。あんたが如月誠か?」

「ああ、いかにも俺が如月(きさらぎ) (まこと)だ。どうだお前ら、カードは集まったか?」

「残念ながらまだ一枚も。どうせ君ならもう3,4枚持ってるだろうと思って貰いに来たんだよ」

如月の質問に笑顔で答える瀬戸。

「惜しいな悠一、もう5枚だ」

瀬戸よりも更に満面の笑みでそう答える如月。

まさか本当に彼はもう5枚偉人録カードを集めたと言うのか?

「なんだオメー、俺が嘘ついてるって言いたいのか?」

「な、何ですぐ俺に突っかかってくんだよ。それにまだ何も言ってねえだろ」

まるで心を読んだかのように松本の目を見る如月。

如月と目を合わすと何故か鼓動が速くなる。やはり何か彼には秘密があるんだろうか...

「まあ、思ってねえならそれで良いんだが。それに1000枚もあるんだ。5枚なんてちっぽけな数だぜ?まあ俺はその1000枚の中でも上等モンを引き当てたつもりだ。せっかくだからお前らに一枚ずつやるよ。どうせこの後も見つけられねえだろうしな」

そう喋っていた如月の手はいつの間にか5枚のカードを握っていた。

その5人の偉人は〈織田信長〉〈坂本龍馬〉〈豊臣秀吉〉〈フーディーニ〉〈土方歳三〉。

「フーディーニって誰だよ」

5枚のカードを眺めながらそう呟く御原。

そういえばここに入ってから初めて喋ったなこいつ。

「フーディーニってのは1900年代にアメリカで活躍した奇術師だ。全身に鎖を巻きつけられた状態から抜け出したという偉業を成し遂げていて脱出王とも呼ばれていたんだ。カード的に見ればこの5枚の中じゃ一番微妙かもな」

「なら...これは僕が頂こうかな」

そう言って、机に並べられた5枚のうち、〈フーディーニ〉を瀬戸が取り、ポケットに入れた。すると如月は、

「確かにお前の事を考えると...それが一番かもな。あ、すまねえが〈土方歳三〉は俺が使うから、お前らは残りの3枚から選んでくれ。余った1枚を俺の2枚目にするからよ」

不敵な笑みを浮かべながら瀬戸の方を見た後、笑顔でこちらにそう言った。

(〈織田信長〉に〈豊臣秀吉〉、〈坂本龍馬〉か。どれも超有名な歴史人物だ。多分ハズレは無いだろうが...)松本がそう考えていると、

「俺、こいつにするぜ!」

そう言って御原が、〈坂本龍馬〉のカードを手に取った。

「このカードに惹かれちまったぜ、俺の直感ででな!」

やけにテンションが高い御原を見て瀬戸は、

「うん、いいんじゃないかな。さあ、あとは界斗だけだ。どれにするんだ?」

松本に視線を向け答えを待つ。それと同じ視線を如月も松本に向けている。

まだ100%信じているわけじゃない。地球のほとんどの人々が消滅し、特殊なカードを使って最後の1人になるまで殺し合う...。

馬鹿げているし信じられない。でももし真実なら、残りの人生全てを捧げる事になるかも知れない。最初のゲームマスターの話ではカードにはそれぞれ能力が定められているらしいが、現物にはそれらしい記載はない。第2ラウンドが始まってから表示されるのか、それともカード自体に記載されることは無いのかは分からないから、どのカードが強いだとかは見ただけでは分からない。だから正直運に任せるとこが多い。


2枚並ぶカード。これからの人生を賭ける1枚。

「だったら俺は...」

こいつに全てを託してみようと思う。

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