序章 三話 偉人たち
「偉人ってどんな人らがいるのかなー」
車に揺られて30分。伸びをしながら御原が言葉を発する。
「有名どころだと織田信長とか坂本龍馬とかか?卑弥呼とかも偉人になんのかな?」
パッと思いついた名前を挙げる松本に瀬戸が言葉を返す。
「何も偉人は日本にしかいないわけじゃない。ナポレオンやコロンブス、ダーウィンなんかも世界的に有名な偉人だよ」
「最後の2人俺知らねえよ?」
「バカは黙ってろ。 それに偉人ってのがどこまでの範囲かも分からねえしな。偉業を成した人物だけなのか、歴史人物全てを取るのか」
「大泥棒石川五右衛門、三日天下明智光秀。偉業とは言い難いが、歴史に名を残す人物は結構いるんじゃないかな」
少量の会話で沢山の名前が挙げられ、改めてこのゲームのカードの種類の多さ(予想でしかないが)に驚かされる。
「そんなにいっぱいいる偉人全員が違う力持ってるんだろ?すげえよな、それって!」
1人無駄に高いテンションではしゃぐ御原を置いて、松本と瀬戸は考察を続ける。
「問題なのはそれぞれのカードの強さだ。流石に全部一緒じゃないだろうから当たり外れがあるのは仕方ないとして、問題は上下でどれだけの差が生まれるかだよな」
「有名な人物はまず強いと思って良いだろう。あとは能力か。どんな種類の能力があるんだろうか」
「やっぱり爆発とかそんなスッゲーのがあるんじゃねえか!?いきなり矢の雨が降ってくるとか!」
「そこまでやられると生存者ゼロだろ」
あくまでもリアルゲームということは、生身の人間同士が戦うはずだ。そこまで凄いことは出来ないはずだが。
「あのゲームマスターと名乗る彼も、相当力を持っているはずだよ。カードの能力もそんな簡単なものじゃないはずだ。本当に爆発や矢の雨だって有り得るかも知れないね」
「だろ〜?悠一がそう言うんだから間違いねえって。界斗ももっと軽く考えようぜ?」
「お前が軽すぎんだよバカ。それにゲームマスターがどれだけの規模の事が出来るかも分かんねえしよ」
「間違いなく僕らの想像の遥か上を行くことを彼はできる。まずカードを持っていない人間全てを消滅させると宣言している時点で、確実な何かを持っていると思って間違いないだろうしね」
何故だろう。
今は瀬戸の発言がイマイチ信用できない。何か隠している事は間違いないのだ。それも、とても大きな事を。
「なあ、悠一。あんた俺らにどんだけの事を隠してる?明らかにあんたには見えてて俺らには見えてねえもんがある。それもだいぶでけえもんがな。俺ら3人は生まれてからすぐの付き合いだ。隠し事すんのやめねえか。俺もあんたの手札考えながら喋るの疲れるんだよな」
これだけ言葉を連ねれば折れてくれると信じたい。
しかし、瀬戸は...
「すまない。今から説明できるほど簡単なものじゃないんだ、今回の件は。しかし、疑われ続けてもだからね、少し予定を変更して“あいつ”に会いに行こうか。本当は4日後の予定だったが、今から連絡してあっちに向かえば明日には会えるだろう」
あいつとは、多分偉人録が事実だと語る瀬戸の知人だろう。
果たして瀬戸に全幅の信頼をよせられる人間とは、どんな奴なのだろう。
「そいつに会えば、俺らも信じれるのか?偉人録が本当に起こるってことが」
「それは彼と君ら次第だが、信じる割合は上がるだろうね。特に界斗、君はね」
「どうして俺なんだ?もしかして知ってる奴なのか?」
「いや、僕は君らが知人同士かは知らない。だが、まあなんというか...直感だよ。会えばわかるはずだ」
どうしてそこまで言い切れる?そう思ったが、これ以上問い詰めても先には進みそうにない。ならば切り口を変えてみよう。
「そいつの、名は...?」
果たして知っている名前が出てくるのか。苗字だけでも知っていれば、関連する人間が出てくるかもしれない。松本は唾を飲み答えを待つ。
「その男の名は“如月 誠”。今は東北の都市近郊で葬儀屋をやっているはずだから、今からそこに向かう。といっても場所が福島県だから、着くのは明日になるだろう。途中で宿を探して適当に今日は過ごそう」
パッと誰かは分からなかった。でも間違いなく、俺はその男を知っている。
「なあ、お前は知ってるか?錦...」
見るからに絶対高級であろう黒いリムジン。その真ん中に松本と瀬戸は向かい合って座っている。さらにその奥に座っている御原は...
「ぐがー。ぐがー。...」
いびきをかいて寝ていた。