序章 二話 それぞれの歩み出し
-埼玉県某高校-
「昨日のあれ見たか⁉︎」
「偉人録だろ⁉︎やべえよな!俺ら一ヶ月後には消えてるかも‼︎」
高校二年生って言ってもこんなもんか...
俺のクラスにはこんなのしかいないのかよ...
「おーい!!界斗ーー!!!」
うわ、バカが来た。朝からうるせえ...
「なあなあ、昨日の放送見た⁉︎偉人録だって‼︎かっこよくね⁉︎俺もカードで能力とか使えるかな⁉︎」
「あーうるせーうるせー。錦、お前本気で信じてるのかよ。俺は絶対信じないからな」
いつも騒がしいのに、今日は格段と騒がしい俺の親友、御原錦。バスケ部だ。勉強はダメダメのくせにスポーツは万能。もちろん部内では負けなしで、一時期辞めようとしてた時期には顧問に辞めないでくれって頭下げさせるレベルですごいやつ。こんなポンコツみたいな感じなのに動けるから余計にうざい。
「なんだよ、界斗は信じねえのかよ。お前ゲームとか大好きじゃん。ああいうのも好きそうだし」
「良いか?ゲームってのは、ゲームの中だからこそ楽しいんだ。俺はそれを一切現実にしようとは思わないね。遊びと分かってるからこそより没頭できるんだよ」
俺は松本界斗。陸上部だから走力と跳躍力はそれなりにある。それと同時に重度のゲームオタクであり、テレビゲームから携帯ゲーム、パソコン、スマホとあらゆるゲームをやってる。毎日楽しい。ってか誰に説明してるんだろ、俺。
「よく分かんねえよ。いつも言ってるけど俺はずっと身体を動かしときたいんだ。じっとしてるのなん...」
そう言ってる最中だった。校内放送のチャイムが鳴った。
《休み時間中失礼します。生徒会より生徒の呼び出しを行います。2年5組の松本界斗くん、同じく御原錦くんは、至急生徒会室に集合して下さい。繰り返します。2年5組の...》
二人は目を見合わせる。そして声を揃えて...
「「俺ら、なんかやったっけ?」」
-生徒会室-
生徒会室に着き、ドアの前に立つ二人。何もしてないはずなのに妙に緊張する。ドアをノックし、失礼しますと声を揃えて中に入っていく。
「やあ、来てくれたね。界斗、錦。この部屋には誰もいないし、今は先生すらも立ち入り禁止だから楽にして良いよ」
この学校での生徒会の力はとても強く、先生の決定をも揺るがす事もある。その頂点に立つのが瀬戸悠一。この学校で知らないものはいないほどで、実は裏にファンクラブもある(本人把握済)。だが、実は俺ら二人は彼の親戚である。
「瀬戸先輩、俺たちなんかやっちゃいました?」
何が起こってるか分からないから、丁寧に切り込む。
「言っただろ?楽にして良いって、今は“いつも通り”でいい」
「おい悠一!どうしたんだよいきなり呼び出して、俺たちに最近会ってなくて寂しくなっちゃった?」
さすがバカ。大丈夫と分かった瞬間これだ。生徒会長と肩を組む二年生。生徒会副会長のあの人が見たら半殺しにされるだろう。ってか多分殺される。
「はは、確かにそれも“いつも通り”だな、錦。それと界斗、君は僕に何かやらかしたかと聞いたね。答えるならば何もやっていないが、“これからやってもらう”」
「は?何?どういうこと?」
「ついさっき僕の祖母が亡くなった。遠方に家があるので葬式に出ようと思えば丸々一週間くらいは休まなければいけない。もちろん親戚の君たちもだ。とまあこんな感じで適当に嘘をついて学校を欠席してもらう」
何を言ってるんだろう。唐突な彼の発言に状況が飲み込めない。
「意味が分からねぇ。同時に三人も休みが貰えるかよ。しかも一週間だろ?」
みんな昨日のあれで頭がおかしくなったんだろうか。
「出来るさ。何せ僕は『生徒会長』だから」
たしかに、ここでのその言葉はこれ以上にない説得力だ。
生徒会長の祖母の死。その親戚二人も含め場所の関係で約一週間の欠席。この学校なら容易に許可が出るだろう。
「あーくっそ。確かに許可はおりそうだ。じゃあまあ仮におりたとして、その一週間俺らは何をする?」
「...『偉人録』」
「あんたからその言葉を聞くとは思わなかったぜ。本当にあんなの信じて...」
「いるさ。カードは本当にばら撒かれてる。これを見たまえ」
悠一の持っていたタブレット端末にSNSの写真付きの投稿が映し出される。
《偉人録カードあった!『ピカソ』だって!カッケー!》
写真にもそれらしきカードが写っていた。
「でもこれが本当だって確証はねえだろ?」
「あるにはある。君たちには信じられないかもしれないが、僕の知人がこれを事実だと言っている。一ヶ月後、人類の殆どが消滅すると。
彼は嘘をつかない。私たちはこれからそのカードを探しにいく。まずは3枚。一週間で探し出す」
「待て待て待て。聞きたいことが三つある。
まず一つ、お前の知人の言うことは何故事実だと言い切れる?それに、何故そこまでそいつを信用する?
それと、3枚だけって事は、俺ら以外の家族とかは全部見捨てるのかよ」
「一つ目と二つ目の質問に関しては、僕が彼の素性を知っていてそれが信頼に値するものだからだ。特に今回の件に関しては。
三つ目に関しては、この内容を簡単に話せて、かつ戦力に成り得る人間が僕の周りには君らしかいないからだ」
止まらない言葉の応酬。既に錦はダウンしてる。あいつは後で全て説明すればいい。最悪しなくても大丈夫だろう。
「とりあえず一刻も早く動き出さないと。一週間で3枚、埼玉に何枚あるかすら分からないのだから県外に出る覚悟で行かねばならない。すぐに家に帰って支度したまえ。基本の移動は車だから心配する事はないさ」
瀬戸にそう言いくるめられて家に帰ると、既に家族には別の理由で一週間帰ってこないとの説明が入っていてとてもスムーズに出発できた。
「では出発だ。1週間で見つからなければこの1ヶ月探し回る事になる。もしかしたら家族と永遠の別れかもしれない。それでもいいな?」
「もう今更言っても遅えだろ。俺ら二人とも覚悟は出来て...」
錦の目には涙が溜まっている。
「あーもう!大丈夫だっての。早く見つけて早く帰ってこりゃ母ちゃんともまたいっぱい会えるから」
「あ、ああ!そうだな!よーし出発だぁ!元気に行くぜぇ!」
ここにきてこのテンションの復活はすごくうざい。まあ暗くいかれるよりかは幾分かマシかも知れないが。
「じゃあ行こうか」
ここから始まる。俺たちの長い長い道のりは...
-移動開始5分前-
「予定通り、あの子を勧誘する事に成功したよ。ついでにもう1人いるけど、動けるから問題ないだろう」
《意外とすんなりいくもんだな。生まれながらの“神能”持ち、果たしてどれ程なのか楽しみだ》
瀬戸は誰かと電話をしているようだ。
《しかし良いのか?もし違えば、その子は自滅するぞ?》
相手の問いかけに、少し黙ってから...
「大丈夫。彼ならやってくれる。必ず君が言うようになるはずだ」
《—偉人録。このゲームの裏には必ず“神能”がある。俺らには手に負えないような何かが》
「それをどうにかするのが君だろ?今回の戦いは、君の言う通りなら切り札は君と彼の“神能”しかない」
《使わずに済めば一番いいんだが、そんなわけもない。まあまずはカード集めだ。互いに全力を尽くそう》
「ああ、ではまた5日後に」
そういって瀬戸は電話を切った。
「—果たしてどれ程なのかな?彼の持つ『狂乱』は」
それぞれの思惑がぶつかる第1ラウンドが、今始まる。