3話 天国から地獄
次の日、俺は休みで莉奈は仕事だった。
布団の中で起き上がれずにボーッと莉奈が支度しているのを見ていると
『休みでいいなぁー。今日何すんの?』
そういえば、何しよう。
『もう少し寝てから決める』
『ふーん。ほんと休みが合わないから二人で遊びに行けないよね』
『ほんとだな。今度有休とってどっか行こう』
『あ!じゃあ今度ディズニーランド行こう!』
『いいよ』
『約束ね!じゃあ行ってくる!』
上機嫌で莉奈はバイバイをし、うちの家から出て行った。
布団の中から出られない。
残業とかの疲れだろう。
携帯を開いても、まだ弟から返事はきていない。
ただ昨日とは違うことがある。
『既読になってる…シカトかよ』とショックを受ける俺。
それでも一応、安心した。
そういえば、最近叔父さん家に行ってないなあ。
忙しかったし。
今日、行ってみよう。
もう少し寝たら連絡してみよう…。
二度寝して起きたら12時だった。
『寝すぎた』
アクビをしながら叔父さんに電話をする。
『久しぶりー!叔父さん今日休み?…あ、奇遇だね俺も休み…ちょっと顔出すわ!またあとで!』
叔父さんが休みじゃなかったら仕事終わるまで待とうと思ったけどよかった。
すぐに着替えて家を出た。
叔父さんの家まではそんなに遠くない。
歩いて30分くらいの距離だ。
仕事の日は、今日はあれをしなくちゃ。とか色々考えて歩いてたりで何も見てなかったけど今日は空は青くて雲もゆっくり流れてて凄く綺麗だ。なんか癒される。
毎日、心に、このくらいのゆとりがあればなあ。
叔父さんの家につき、インターホンを鳴らす。
ドタドタという足音が聞こえ、すぐに『い!いてぇぇ!小指、うったぁーーー!』と声が聞こえた。
まだ対面はしてないが、いつもの叔父さんだ。
いま、床に倒れこんで、もがいてる最中だ。待とう。
やっと扉をあけてくれた叔父さんは平然そうにしていた。
笑える。
『よく来たな!さっ!入れ!』
『おじさん、見る限り元気そうだね』
靴を脱ぎ、居間に向かう。
ここの家に来ると落ち着く。
ここで育ったから。
『ゆうひ、何飲むか?』
『お茶』
『よし!まってろ!特製のお茶を作ってくるから』
『叔父さん、アレンジなしでヨロシク』
『なんでだよ!』
『俺はシンプルなお茶が今は飲みたいの』
『わかったよ』
『お茶っ葉、入れて湯を注ぐだけにしてね』
『うるせぇーなぁ。わかったよ』
不服そうにキッチンに行く叔父さん。
やっぱここが俺の我が家だ。
シンプルな普通のお茶を、言われた通りに出してきた叔父さんと二人でこたつに入り、お茶を一口飲んでホッとし近状報告をしあう。
『叔父さん最近仕事はどう?』
『早く、定年がこねぇーかなぁって毎日思うぞ。』
『ここら辺、通り魔出てまた大変なんじゃない?』
『おう、そうなんだよ。今その事件を俺が担当してるわ。警察も大変よ』
『早く捕まえてよ。』
『わかってるよ!目撃情報が少なくてよ、被害者も犯人が黒の覆面してて顔が分かんねぇーって言うし証拠も残してかねぇーし、今のところ何も進展なしだ。困ったもんだよ』
叔父さんは、高校を卒業してからずっと警察の仕事に就いている。
仕事しながら俺とあさひの面倒まで見て大変だったと思う。
『叔父さんも気をつけてね』
『お?なんだ可愛いこと言うじゃねぇーか?』
『葬式ってなんか眠れなくて大変って言うから。今、俺仕事忙しいから勘弁』
『なんてやつだ!』
『ははは!』
楽しいなあ。ここにあさひもいればもっと楽しいのに…。
『あさひさぁ、ここに来てないよね?』
『ん?お前ら喧嘩でもしてんのか?』
『いや、喧嘩じゃないよ。俺が何かと過保護すぎた部分があったのかな?ちょっと距離置かれたみたい。母親みたいになってたのかも(笑)』
『昔からずっとお前、あさひの母ちゃんになるって言ってたもんな(笑)あさひはちょいちょい顔出してたけど最近は来てねぇーなぁ』
『俺のこと何か言ってた?』
『うるせークソ兄貴だ。家出する。って言ってた』
『絶対そんな事、あさひは言わない。叔父さんいつもそういう時、からかう!』
『誰かさんもそうじゃなーい?』
『叔父さんの悪いとこが似たんだよ』
叔父さんに聞かなきゃよかった。と後悔したが
『まぁ、あさひなら戻ってくるだろ』
『そうだね』
そう言ってくれるだけどホッとした。
色んな昔話をして笑いあってたら、いつの間にか外が薄暗くなっていた。
『あー、もう1日が終わる。明日からまた仕事だ。叔父さんそろそろ俺帰るわ。』
『おう!忙しいだろうが、また来いよ!』
『わかった。叔父さんもちゃんと仕事して犯人捕まえてね』
『俺が仕事せずに、サボってるような言い方すな!』
『ははは!じゃあ、またね』
『おう!』
叔父さんは笑顔で見送ってくれた。
いい休日だった。
また疲れたらここに来よう。
ゆうひが帰り、叔父さんは居間に戻った。
立ったまま深刻そうな顔をしていた。
隣の部屋に行き、扉を開ける。
『帰ったぞ』
机に座って本を読んでいた男が振り返る。
その男は、あさひ本人だった。
あさひは、その言葉を聞くと携帯を開き何かを、うちはじめた。
宛名、ゆうひを選択した。
真っ暗になった夜道を歩くゆうひ。
携帯の通知音に気付きスマホをポケットから取り出す。
*あさひ*
新着メッセージあります。
あさひからの返事が届いた。
『返事、遅すぎだろ!』
心配して損した。と思いながら内心嬉しい。
メッセージを開く。
『は?なんだよ?これ…』
---ソロソロ、シラベハジメロ。オマエノ、マワリノヤツラニモ、イウナ。ケイサツニモ、イウナ。イウト、オトウト、ドウナルカ、シラナイ---
俺の手が震えてる。
かなりヤバイのかもしれない。
何がどうなってるんだよ。
頭が真っ白になった。