2話 悩みの種
ご飯を食べながらパソコンと睨み合いこ。
『お疲れ様』と次々とみんなが帰って行く。
プレイボーイの成瀬が俺に近づいてきて『先輩!パソコンが彼女なんですか?もっと人生楽しみましょうよー。僕は今から合コンですけど一緒にどうですか?』と誘ってきた。
『ごめん。俺、彼女いるから殺されちゃうよ(笑)』
『え!いるんですか?!彼女!てっきり…いないのかと』
なんて失礼な男の子なんだろう。
『彼女さん可愛いんですか?』
『まぁね(笑)』
『今度会わせて下さいねー。じゃあ、さよならー!』
絶対に会わせたくないと思いながら成瀬を笑顔で見送った。
俺のキーボードの音だけが部屋に響き渡る。
時計を見ると8時過ぎ。
もうそろそろ切り上げて帰らないと…。
あ、そうだ。
安部さんから渡された封筒を思い出した。
引き出しから取り出し開けようとすると、
誰かの手が俺の肩に触れた。
驚いて振り返るとそこには同僚の西村ともこが立っていた。
『あの…彼女いるって本当ですか?』うつむき俺に聞いてきた。
いつ聞いていたんだ…。
『え…はい。まぁ。そうですね』と困りつつそう答えた。
すると、うつむいてた顔をあげ『…どんな人?…どこが好きなの?』と深刻そうな顔をして追求してきた。
『どんな人…どんな人…うーん。分からないです。そう聞かれるとね、ポッと出ないですね。どこが好き…うーん…』
好きだから好きなんだと答えればよかったが、女性はそれじゃ納得しないだろうと思い、一番ベストな答えを絞りだそうと考えていると
『じゃあ…あたしにもまだチャンスあるわね…またね…』そう不気味な微笑みを浮かべて帰って行った。
(まだ何も言ってない…。怖かった。ちょっと西村さんヤバくないか?)
西村さんのことで封筒を手に持っていることも忘れてしまっていて、やっと存在を思い出す。
西村さん、どうしよう。
何か怖いな。ああ。
色々考えながら封筒から1枚の紙を取り出した。
『手紙か。誰からだ』
2つに折られた紙を開くと俺の目に衝撃な文字が写りこんだ。
------オマエノ、ハハオヤハ、コロサレタ。ダレニモ、イウナ。ジブン、ヒトリデ、シラベロ。ダレカニ、イエバ、オマエノ、オトウトハ
シヌ------
なんだよ、このタチの悪いイタズラは。
誰だよ。
怒りがこみ上げてきた。
すぐにその手紙をゴミ箱に捨て、家に帰った。
風呂に入りながら考える。
なんで俺の勤め先まで…しかもなんで俺の母親が死んだことまで…。
一応、弟に連絡してみるか。
風呂から上がり髪の毛を拭きながら電話をかける。
発信音は鳴るが出ない。
布団に寝転び、LINEを開き、
----あさひ、元気?-----
と素っ気なく送った。
本当は、色々送りたい。
ちゃんと飯食ってる?とか
この前のあの漫才番組観た?とか
あそこの料理美味しいよとか
なんで俺と距離をおいてるんだ?とか
迷惑だったか?とか
話したいことはたくさんある。
でも我慢だ。弟が嫌がるかもしれない。
まあ明日には返事が帰ってくるだろうと思いながら、そのまま寝てしまっていた。朝の日差しで目が覚める。
また1日が始まった。
顔を洗って歯磨きをしながら携帯を確認した。
あれ?既読にもなってない。…まだ見てないのかも、もうちょっと待ってみよう。
また心配性だとか過保護だとか言われたくないし。
あ、莉奈からLINEきてる。
---帰った?---
---シカト?---
---スネて寝ます(`Δ´)---
全然、気付かずに寝ていたようだ。
---ごめん。昨日帰って風呂入って速攻寝てたm(__)m今日残業ないからご飯作ってほしいです---
と返事を打ち着替えて仕事に向かった。
向かっている途中、後ろからトンと背中を叩かれた。
『ストーカー参上』
『びっくりした。莉奈か』
『昨日ずいぶん寝てたようですねぇ』
『残業でかなり疲れてたみたい』
『そっか。しょうがないから、ご飯作ってあげましょう。リクエストは?』
『んー、カレー』
『またー?この前も食べたじゃん』
『カレーなら毎日食べれるし、食べたいの』
『わかったわかった。1500円ね。この前のツケの1500円合わせて3000円ね』
『鬼彼…』
『仕事終わったら、ゆうひの家行くからねー』
『はーい』
莉奈と別れて職場に到着。
出勤早々課長の不機嫌そうな顔が見える。
デスクに座り、いつも通りの1日だなと顔をあげると、いつも通りじゃない光景が目の前に飛び込んできた。
西村さんが化けている。
髪の毛を切り茶髪に染め、明るい口紅をつけて目元もちゃんと
メイクを施している。
どうしたんだ。
なにがあったんだ。
待て落ち着け。
昨日があってこれだから、恐い。
恐ろしい。
しかも髪型、メイクどことなく莉奈に似ている。
色々考えていると西村さんが近づいてきた。
(平常心平常心平常心平常心平常心)と心の中で呟く。
『高城さん…』
『あ、西村さん。おはようございます。あ、なんかイメチェンですか?似合ってますね』
『高城さんに誉められたくて…』
『い、いいと思いますよ!』
(ダメだ!誉めちゃ!俺!また勘違いをさせてしまう!でも似合ってないとも言えない!)
『誉めらちゃった。嬉しい』
頬を赤らめ、席に着く西村さん。
やってしまった。どうしたらよかったんだ。と、頭を抱えた。
成瀬なら、どうするんだろう。
今度相談しよう。
あのプレイボーイなら交わし方を…いやアイツは交わさないか。
全ての女性を受け入れる男だった。
山積みになった仕事を優先させよう。
莉奈が来る前には帰らないと。
昼休憩。今日は残業なしで定時で帰れそうだとホッとしていると課長が近づいてきてこう言ってきた。
『高城、明日までどうしても完成させないといけないやつがあって、担当のやつがインフルエンザになっちまってよ。お前、これ代わりに今日やってくんねーか?』
『残業ですか?』
『そうなるなぁー』
断れないのが俺の悪い所。
『わ、わかりました。』
『さすが俺が育てた部下だな!頼んだぞ!』ご機嫌そうに課長が去っていった。
…莉奈にLINEしとこう。
---急遽残業。カレーまた今度お願い致します---
昼御飯の時間も勿体なくなった。
できるだけ早く帰るために仕事を始めることにした。
休むことなくパソコンを打ち続け、外は真っ暗。
やっと出来上がった。
座ったまま背伸びをし、時計を見ると9時。
早く帰ろう。
莉奈には悪いことをしたな。
既読にはなってるけど返事がないし。
会社を出て家の近くのコンビニでオニギリを買って店から出ると電話が鳴った。
着信*莉奈
謝らないとと思い電話をとる。
『ゆうひくん?あたしなんか誰かにつけられてるみたいな気がする。迎えきてくれない?ちょっと怖くて…。』
『え?!どこにいんの!?』
『あ、人が多いとこに逃げ込んだから大丈夫!スーパー佐藤にいる!』
『わかった!すぐ行くから!』
安全だと分かっても、莉奈のとこまで走って向かった。
最近ニュースになっていた通り魔事件のこともあったから、いてもたってもいられなかった。息が苦しくなっても俺は走り続けた。
莉奈が怯えるなんて、そうそうないこと。
早く行って安心させてあげたい。
スーパーに着き、店内に入り莉奈を捜す。
お菓子コーナーで、しゃがみこんでる莉奈を見つけた。
『莉奈!大丈夫か?!』
ビックリした莉奈は、尻餅をついた。
『ビックリした!ゆうひ、声大きい!もっと普通に話しかけてよ!』
『いや、しゃがみこんでるから何かあったのかと思って…』
『これ見てたんだよ』
そう言い莉奈はお菓子を指差す。
『はんぶんっちょ?』
2つに分けられる棒つきキャンディだ。
『これ見ると小さい頃を思い出すんだ。ゆうひ覚えてる?あたしが違うお菓子を食べててそれを落として泣いてたら、これ半分くれてさ、あげるから泣かないでって慰めてくれたの。本当は、ゆうひと、あさひで食べるはずだったのに、ゆうひだけ食べずにあたしにくれたよね』
『ああ、なんかそんな事あったなぁ。その頃から食い意地はってたのか』
『それは幼かったから!』
『懐かしいからこれ買って帰るか?』
『そうしようー!』と笑顔になる莉奈。
『…って、違う違う!その前に何があったんだよ?』
と話を戻した。
『いや、ゆうひを驚かせようと思って既読無視してたの。突撃訪問してカレー作ろうと思ってさ、食材買いに行こうとしてたらずっと後ろをつけられてる気がして。』
『姿見たのか?』
『うん』
『今ニュースになってる通り魔の男かもしれないから無事で、よかった。もう夜は出歩くなよ。心臓止まるわ』
『いや、女の人だった』
『…え?女?』
『うん。茶髪であたしと同じぐらいの髪の長さで、顔はサングラスかけてたから分からなかった。あたしが気付いたら違う方向に歩いて行ったの』
ふと、俺の頭にうかんだのは西村さんだった。
でもそこまでするか?
確信が持てるまで莉奈にはまだ言わない方がいいが、姿が莉奈にどことなく似てきたのも納得できる。
『女でも男と一緒だ。気を付けろよ。今日は俺ん家、泊まって』
はんぶんっちょを買って、二人で食べながら帰った。
『おいしー。半分になっちゃうから、もう1個買えばよかった』と莉奈が残念がる。
『やっぱ変わってない。食いしん坊』と俺は笑った。
やっぱ西村さん本人に確かめるしかないのかもしれない。
でももし違ったら?
犯人扱いして、もし間違っていたら?
でももしそれが西村さんだったら、また莉奈に近付かれても困る。
答えが出ない俺の悩み事が増すばかりだ。