荒 野
まずは荒野を抜けて、ノーマの町に行くことにした。
鬱蒼とした森を進むこと三日、木々の密度が徐々に薄れていき、背の低い草花に明るい日差しが照らされるようになった。
進むと間もなく草木はまばらになり、濃緑色から枯葉色へと変化を遂げていく。
気がついたときには岩と砂が広がっていた。冷たい、砂混じりの風が『葉繋ぎの赤布』をなぶっていく。
曇り空の下、色のない荒野には生き物の気配はなかった。地平線の向こう側に黒々とした山脈が連なっているのが見える。あの山を越えれば人里に出られるという。
果たして鬼が出るか蛇が出るか。
たとえどんな困難が待ち構えていたとしても文人には行かなければならない。
あの徽章を見てしまった以上は。
かつては文人もどこにでもいる普通の人間だった。それがある日突然、異能の力と異形の姿、老いることのない肉体……望んでもいない力を手に入れてしまった。いや、転生させられてしまった。あの禍々しい徽章を持った悪魔どもに。
人類殲滅という常軌を逸した思想と、どの大国よりもずば抜けた科学力を持った秘密結社だった。密かに人間を誘拐し、超人的な力を持った兵士を生産すべく、人体改造を繰り返していた。
その事件を取材していた文人は、逆に彼らに誘拐されてしまった。拷問の末に洗脳され、異形の怪物へと姿を変えられた。そのまま行けば、怪物のまま大勢の人間を殺し回っていただろう。それを救ったのが『相棒』だった。
命を救われた文人は『相棒』とともに、命を賭して戦い、結社を壊滅させた。【総督】と呼ばれた男の死とともに。
何故、壊滅させたはずの組織が異世界で復活を遂げたのか。何を企んでいるのか。そもそも何故文人だけがこの世界に転移させられたのか。わからないことばかりだが、確実なのは、これまでにない困難な闘いになるということだ。
文人には……レグルスには大勢の仲間がいた。結社を壊滅させた後も残党や同様の組織が暗躍を続けた。犠牲者も大勢生まれた。その中から正義のために戦う仲間も生まれた。
ドレイク、テュール、ネレウス、バジリスク、アトラス、イカロス、拳聖、ジライヤ、ヤタガラス……そして、かけがえのない『相棒』。
苦しいとき、ピンチのとき、どこからともなく駆けつけてくれた。だが、異世界とあってはさすがに救援は望めない。たった一人で悪党共と戦わなくてはならないのだ。
「面白いじゃないか」
文人は口元を緩ませた。
条件は厳しい。最悪といっていい。だが、それをやり遂げてこそ男というものじゃないか。
この世界に文人を呼んだ存在の思惑はどうあれ、なすべき事は一つだ。
今度こそ、奴らとの決着を付けてやる。
この世界に来られない『相棒』の分まで。
貴様らが作り上げた『神鉄鋼』の体で必ず貴様らの野望を打ち砕く。
さて、行くか。
ずだ袋を抱え直すと文人は荒野へと足を踏み出した。
誇り高き騎士のように。
力強き獅子のように。
THE END
お読みいただきありがとうございました。
文人の冒険はまだ始まったばかりですが、オチありきの話のためこの話はひとまずここで終わりとさせていただきます。
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次回の更新は5/31の午後0時頃を予定しています。
最後は後書きということで本作の裏話やネタバレなんかを。




