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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
7/31

第7羽 食べ物の話は大好物です

「……あなたは来世、日本の四国地方の○○県○○市○○○○で転生することになりました。性別は女性です。……はい、これで手続きは完了です。それでは、良き来世を」

 ふう、これで担当分はすべて終わりのようですね。

 わたしは、両親から就職祝いで貰ったフェニックスの羽根ペンを机に置きながらホッと一息つきました。

 この羽根ペンは500年は使えて、尚且つ、その後に桂皮と乳香と一緒に燃やすと、その液体の中から再び元に戻って使えるようになるという優れ物です。

 しかも、この神式会社ベンヌ製「フェニキアクス モデル」は、わたしの髪の毛と同じ薄い紫の羽根で作った限定品で、とても気に入っています。

 汎用の羽根ペンだと、窓口に持って行ったり、記載台に置き忘れていったりして、何処にいったか分からなくなる時もあって、備品から出しては行方不明になっていることが多いんですよね。

 でも、自分の愛着のある物だとしっかり管理するので、使いたい時に手元に無いという事が少なくて済みます。

 わたしは、机の上の書類を整理し、羽根ペンをナツメヤシのケースにしまい、自分の事務机に戻ろうと席を立ちました。

 やっぱり、仕事終わりはホッとしますよね。何と言いますか、開放感と言いますか充実感と言いますか、そういった感覚が一気に浮かんで来る瞬間ですよね。


   ◇


「クラリエル。仕事帰りにちょと何か食べて行かない? ギリシア・ローマ神界日本支部近くでネクタルの美味しいの入れてるトコ見つけたのよ」

 わたし達が『ろ組』の方に引継ぎを終えて帰り支度をしていると、サフィエル先輩が心の底から嬉しそうな笑みを顔に浮かべながら、こちらにやって来ました。

 普段、仕事中はきっちりこなす、これぞ『ザ・天使』とか『ザ・女神』という感じのわたしの憧れの先輩ですが、休憩中や仕事が終わると、とても砕けた雰囲気になります。……これもギャップ萌えと言うものでしょうかね?

「パスティエルとメルエルもどうかしら、一緒に行かない?」

「サフィエル先輩お疲れ様です。ネクタルですか。わたしお酒はちょっと、ギリシア・ローマ神界の飲み物なら、できればアマルテイアミルクがよいですね」

 わたしは書類の束をトントンとまとめながら応えました。

「う~ん、アマルテイアミルクかぁ? あったかしらねぇ?」

 サフィエル先輩が頬に指をあてて考えています。

「アマルテイアミルクと言うと、山羊のミルクの蜂蜜割り。って、離乳食かい!」

「何ですかクラリエルさん。いっ、いいじゃないですか。美味しいんですよ。それに、いろいろ成長するかも知れないじゃないですか」

「そりゃまあ美味しいけど、皆で食事に行って頼むものじゃないのでは? それにいろいろ成長するって?」

 クラリエルさんから胸をえぐられるような質問が返って来ました。

「……何でもないです」

「まぁまぁ、みんなで仲良く食事に行きましょうよぉ」

「……」

 メルエルちゃんになだめられましたが、メルエルちゃんの胸元を見て絶句です。

 わたしもいつの日にかきっとと、胸の内に誓いつつ……希望は誰の胸の中にも眠っているんです。

 っと、兎に角、そう言う訳で、サフィエル先輩のお薦めの場所に皆で行くことになりました。どんな所か楽しみです。

 ちなみに、ミサリエルさんとトワエルさんは、残業があるとのことで今回は不参加です。とても残念です。

「う~ん、行きたかったけど、また今度だね」

「……お土産……期待……していい? ……」

 そんな可愛くコテンと小首を傾げられても

「……半分冗談? ……更に半分戯れ? ……」

 何故に疑問形? 25%は本気なんですね。そして、また、反対側に可愛くコテンと小首を傾げられても……お土産、何か探して来ましょう。<負けたな>


 ◇


 サフィエル先輩のお薦めの場所は、ギリシア・ローマ神界のオリンポスにある神殿の様な造りの内装で、中央に調理用の釜があり、周りにテーブルが配置されています。テーブル数は12くらいでしょうかね。

 室内を見渡せば、女性は青春の神ヘーベー、男性は金色に輝く美少年ガニメデスのコスチュームに身を包んでお酌をして回っています。

 神殿から見える中庭では、色とりどりの花が咲き誇る庭園で、牧畜の神パーンに扮した男性が吹く葦の笛の軽快なリズムに合わせて美の女神カリスに扮した3柱の女性達が舞を披露し雰囲気を盛り上げています。

 わたし達はメニューを開きながら何を注文しようかと思案している真っ最中です。毎回当たり前のことなんですけど、メニューを見ながら選んで決めるのって、なんだかちょっと楽しくなりますよね。

「私はネクタルね。クラリエルもそれでいいでしょ?」

「ええ、あたしはそれでいいよ。パスティエルとメルエルはお酒じゃなくてもいいからね」

「そうですね。そうします。メルエルちゃんは何を食べますか?」

「わたしはぁ、アンブロシアをお願いしますぅ」

「分かりました。ちょっと待ってて下さいね」

 メルエルちゃんの言ったアンブロシアをメニューで見てみると、アンブロシアには幾つかのバリエーションがあるようですね。

「んっ? アンブロシアって、スープ? ケーキ? 飲み物?」

「そうですねぇ、じゃあ、スープでお願いしますぅ」

「わたしはどうしようかな……アマルテイアミルクは置いてないみたいだし、わたしもそれにしようかな。クラリエルさんは食べ物は何にしますか?」

 アマルテイアミルクが置いてなかったのはちょっと残念です。お持ち帰りとかでもあれば確保しておきたかったのですけど。

「あたしは、この『当店お薦め! プロメテウス風 牛の丸焼き』にしようかな。肉と内臓を丸ごと皮で包んでそれを胃袋に入れてオオウイキョウを使ってじっくり直火焼きしましたって書いてある」

 そう言って、クラリエルさんがメニューに載っている単品の料理の項目の一つを指さしました。

「前に来た時にはたのまなかったんだけど、聞いた話だと、骨を丁寧に外してあるから食べやすいし、脂身も取り除いてあるから見た目よりとてもヘルシーみたいよ」

「うわぁ! 物凄く美味しそうですぅ! わたしもぉ、それにしようかなぁ」

「ただ、牛丸ごと一頭だからボリュームがすごいみたいで、何柱かでシェアしないと食べきれないかも知れないわね」

「う~ん、挑戦してみたいけど、牛丸ごと一頭っていうのは、流石に多すぎるかなぁ」

「そうですねぇ……あっ、それなら、皆で分けて食べませんかぁ?」

「そうね。他の神界の子達と食事する時があるんだけど、食べられない食物とかもいろいろで、牛とか豚とかそもそも四本足は駄目とか、特定の調理法でないと駄目とか、中々シェアする料理は頼めないから、こういう時でもないと頼めないものね」

「どうする、サフィエル? みんなで食べてみる?」

「クラリエルに任せるわ」

「パスティエルとメルエルはどうする?」

「食べてみたいですぅ」

「わたしも挑戦してみたいです」

「じゃあ、決まり。あっ、すみません、注文お願いします。ネクタル2つ、アンブロシアスープ2つ、プロメテウス風牛の丸焼き1つで。あと、プロメテウス風牛の丸焼きはシェアしたいので取り皿を4つお願いします」

 テキパキとクラリエルさんが、水瓶を抱えた金色に輝く美少年ガニメデスのコスプレをした給仕さんを呼び止めて注文を出していきます。


   ◇


 しばらくして料理が運ばれてきましたが、やはりすごかったのは『当店お薦め! プロメテウス風 牛の丸焼き』でした。

 何がすごかったかと言うと、やはりそのおおきさです。

 流石、牛丸ごと一頭ですね。骨と脂身を取り除いているとはいえ、かなりのボリュームです。

 これ単品料理の項目に載っていたのですが、どう見ても一柱ではとても食べきれない量のような気がしますが、大皿料理の項目に載せていないのは何故でしょうか?

 果たして、わたし達女性4柱だけで、これを食べきれるでしょうか?

 そんな事を考えつつ中庭を見ると、今度は、太陽と芸術の神アポロンに扮した男性が、舞台の様にして横向きに置かれた石柱の上に腰を掛けながらつま弾く竪琴に合わせて、詩の女神ムーサに扮した9柱の女性が歌を披露しています。

 何と言いますか、演奏していいる姿がとても様になっていますね。

 わたし達は、そんな光景を眺めつつ、食事を楽しみながらおしゃべりに花を咲かせています。

「この前行ったゲルマン神界日本支部近くのお店でアウズンブラミルクって言うのを飲んだんですけど、ちょっと変わっていて塩の氷を舐めながら飲むんですよ。あと、インド神界日本支部の近くのミルク粥屋さんも美味しいですよ」

「流石ミルク好き! って、パスティエル、あんた休みの時ってミルクの飲み歩きをしているんかい!?」

「だから、いいじゃないですか。好きなんですから」

「ああ、それってもしかして『スジャータ』でしょ。わたしも行ったことがあるわ。空腹のときにも良いけど、お酒飲んだ後も良いのよね。あそこだとソーマかな」

「それなら、あたしはどっちかって言うとハオマかな」

「ああ、それも美味しいわね」

「わたしは、アムリタならいけますね。でも、ハオマって、ソーマと同じ飲み物ではないんですか?」

「やっぱり乳関係なんかい! それぞれに地域のアレンジがされてて違うのよ」

「へぇ~、わはしも同じはほ思っていはしたぁ」

 メルエルちゃんが『当店お薦め! プロメテウス風 牛の丸焼き』と格闘しながら会話に参加してきたのですが、大きく切り分け過ぎたのか両頬いっぱいに肉を頬張ってしまい、うまく喋れていません。何だかリスの様になって悪戦苦闘している姿が実に愛らしいですね。

「メルエルちゃん、スープで流した方がよいのでは?」

「……こくん、ありがとうパスティエルちゃん、少し欲張り過ぎちゃいましたぁ。えへへ」

「パースが狂うよね、これ」

「大丈夫、メルエル? 同じと言えば、アムリタも中国神界では甘露酒って言うらしいわね。ここ日本でもあるみたいよ」

「サフィエル先輩、本当お酒好きですよね。デュオニソス酒とかでも平気で飲めちゃうんじゃないですか?」

「デュオニソス酒? あぁ、前に神界通信のデルフォイ放送局の報道番組ガイアポロンでやってたわね。何でも「男性神が神界女性に飲ませたいお酒1000年連続ナンバーワン」で殿堂入りしたって言うあれでしょ。ここにもあるかしらね?」

「あっ、それわたしも見ました。お持ち帰りできる確率が上がるかもって。でも、あれ脱ぎ癖とか踊り癖とかあると大変らしいですよ。終いに酒乱になって暴れ出すらしいし」

「大体、男性神なら酔わさなくても有無も言わせずにお持ち帰りするでしょうに」

「そうね。実際、ギリシア・ローマ神界本部の主神様なんて女神からニンフ果ては人族の娘までお持ち帰りや足しげく通ってるって話よ」

「でも、奥さんが嫉妬深くて有名ですぐ見つかって毎回大騒ぎ。報道番組ガイアポロンにネタ提供してるんじゃないかってくらい」

「そう言えば『ガイアポロン』で、日本神仏界の天津神の主神のお孫さんなんて、国津神の娘さん姉妹を両方お嫁さんにしておきながら、姉の方は美神じゃないからって実家に帰したって話よね」

「何ですか、それぇ! ひどいですぅ」

「えっ、あれは国津神のお父さんが、姉妹二柱も同じ男に嫁に出すのはって、反対して拒否したのを、天津側が対面を保つために姉の方を美神じゃないって噂を流したって聞いたけど」

 あれ?食べ物の話をしてたはずなんだけど、いつの間にかゴシップ話に。流石に、他神界の神様のゴシップ話なので伏せトークにはなっていますが……試しに戻してみましょうか。

「食べ物の話から逸れたような……」

「食べ物と言えば以前噂に聞いた話なんだけど、冥界料理が絶品で一口でも食べると天界に還って来られなくなるとか。それで冥界神様が意中の娘さんの心をガッチリ掴んだんだって」

「けど、娘の母親が家出したり引きこもって仕事放棄したり大騒ぎ。その元々の原因に主神様も絡んでたらしくて、もう大変だったのよね」

「えぇ!ほんとですかぁ!」

 戻りませんでした。

 食べ物の話がゴシップに……しかも、微妙に曲解されていますし……女性同士の話は虚ろいやすいです。

 ちなみに、食後のデザートは『期間限定特別企画他神界スイーツフェア』の中から、エデン産リンゴのタルトタタンと桃源郷産仙桃のシャーベットでした。

 そしてお土産はアンブロシアのケーキにしました。今度の休憩時間にでも皆で食べることにしましょう。


<『当店お薦め! プロメテウス風 牛の丸焼き』、完! 食! です!>

「それは報告しなくてもよいです」


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