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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
4/31

第4羽 転生課は大忙しです

 こんにちは、パスティエルです!

 皆さんは『繁忙期』と言う言葉をご存知ですか?

 あまり馴染みの無い方は『仕事が忙しくなる期間』って考えてもらえば良いでしょうか。

「はいは~い! サルのグループはこっちだよ! ちゃんと一列に並んでね」

 転生課が忙しくなる時期と言って皆さんが思い浮かべるのは、多くの人が無くなるという事で、突発的に発生する事態……そうですね、人間班の場合は、大きな自然災害が有ったり、戦争が起こったり、伝染病が流行したりを思い浮かべるかもしれません。

 確かにそう言った事態が発生すると多くの亡くなられた方がここにやって来て大変忙しくなりますが、ただ『繁忙期』とはそう言った場合ではなく一年を通してある決まった忙しくなる期間を指して『繁忙期』と言っています。

「……ヤモリ達……集合……」

 転生課にも、この『繁忙期』と言う物があります。

「……番号……始め……」

 全種族通して冬の時期が、生命のサイクルが重なり、こちらに来られる方が増えるその時期に当たります。

「……前へ……進め……」

 もちろん、全部が全部と言う訳ではありません。種類によって、個別の生命のサイクルがある種も数多く存在します。

「……全員……休め……」

 ですが、やはり冬の時期は多くの種類の植物が厳しい寒さに枯れ、それにより多くの種類の動物が食糧を失い寒さに倒れ、生を終えこちらにいらっしゃいます。

「……イモリ君……キミ、違う……両生類班……あっちね……」

 そんな繁忙期には、他の余力のある班が忙しい班のお手伝いに回ることも珍しくありません。

「……ふぅ……」

 ですので班には分かれていますが、他の班の手続きが出来ない訳でもありませんし、転生先として知っておく上でも他の種の事を学べるので、わたしはよく応援に回っています。


   ◇


 この天界は神界の一画とは言え、途方もない広さを有しています。

 そして、その天界の一つの建物に過ぎない日本支部もそれなりの広大さを有しています。

 一つの課に過ぎない転生課の受付ホールですら、わたし達が全力で端から端まで翔んで数時間は掛かるでしょうか。

 その大ホールを見渡せばあちらこちらに、文字通り多種多様の種が入り混じって順番が来るのを待っています。

 わたしは、鳥類班のメルエルちゃんの手伝いと尋ね事をする為、ホール内を探していましたが、しばらく歩いていると、聞き覚えのある鳥たちを集める為に呼び掛けている声が耳に入ってきました。

「はぁーい。ハシブトガラスさんたちはこちらでぇーす。おとなしく一列に並んでくださぁーい」

 うん、いつもながら力一杯叫んでいるのに、こっちの力がいっぱい抜けていくなぁ。

 メルエルちゃんがカラスの方々を集めている所に近付いて行きましたが、ふと見ると、メルエルちゃんの肩のところに1匹のセキセイインコがちょこんと乗っかっています。

 青と黄色が鮮やかで、嘴の上の鼻のあたりが薄い茶色をしています。

 メルエルちゃんのピンク色の髪の毛を咥えて遊んでいる様ですが、う~ん、とても微笑ましい光景ですね。

「どうしたのですか? その肩のセキセイインコは?」

「あ、パスティエルちゃん。どうやら懐かれてしまったようでぇ。この子は生まれてあまり経たないうちに落鳥してしまって、まだまだ甘えん坊さんなんですよぉ。なのでセキセイインコさん達の順番が来るまで一緒にいて上げようと思いましてぇ」

「そうなんだ。ところで、メルエルちゃん、何か手伝える事ある?」

「パスティエルちゃんありがとうございますぅ。とても助かりますぅ。じゃぁ、あちらにニワトリさんを集めてもらえますかぁ。そろそろ日本は寒くなってきましたので病気が流行ってきているみたいで、手が足りなかったんですよぉ」

 確かに日本支部に配属となって着任してからまだそんなに経っていませんが、この日本は四季の変化の特徴が比較的顕著に出る興味深い地域です。

 物質界とこの神界は以前は境が曖昧でしたが、今では次元の違ういわば『遠くて近い場所』となっています。ですが、こういった四季などの変化は微妙に同期しているようです。

 なので通勤するときなどは、その変化を眺めながら来るのがわたしの密かな楽しみとなっています。

「了解。あとさっき、ヤンバルクイナって鳥類の方が何処に行けば良いのかって聞かれてね、向こうで待っててもらってるんだけど、どうすれば良い?」

「ああ、ヤンバルクイナさんは個体数が少ないですから、ここで仲間の方に会えるのはほとんどありませんからねぇ」

「そんなに少ないの?」

「はい、ヤンバルクイナさんは日本の南の島だけに住んでいて、以前はその島には天敵となる生き物さんが殆どいなかったんですよぉ。ですから、飛ぶ必要がなくなったので羽が小さくなり、その分足が発達して地面で生活するのに適した進化を遂げたんですぅ。巣も地面に作るんですよぉ。あ、眠る時はシイの木に登って太い枝の上で眠ったりしますねぇ。ですが、近年、マングースさんやネコさん……カラスさん達がやって来て、ヤンバルクイナさんを捕食するようになりまして、もともと少なかった数が一気に数を減らすことになってきているんですよぅ」

「……なるほどね」

 流石に関わってはいないでしょうが、メルエルちゃんも同じ種の前なので言いにくそうに最期の方は小声で話してくれました。

「あっ、そうでしたぁ。何処に行けばいいのかでしたねぇ。あちらの列に案内していただいていいですかぁ?」

「分かりました。じゃあ行ってきますね」

「お願いしますぅ」

 わたしはメルエルちゃんと別れると、先程尋ねて来たヤンバルクイナの方のところに向かい歩き出しました。

「植物の方の受付はこちらです! 受付の後、種ごとにまとまってもらいますので、しばらくお待ちください。そこ、枝をあまり広げないでください!」

 植物班のクラリエルさんが列を裁いている横を通り抜けて、シイの木の枝の上で休みながら待たれているヤンバルクイナの方を見つけて近付いていきました。

「お待たせしました。ご案内します、どうぞこちらへ」


   ◇


「ニワトリの集合場所はこちらになります! 一列になってお並び下さい!」

 わたしはヤンバルクイナさん(……メルエルちゃんの言い方がうつっちゃいましたが)の方の案内を終えると、次に、ニワトリの方々を一か所に集め誘導を始めました。

鳥は鳥、植物は植物で分けたんだから、それ以上は分けなくても良いのでは?と思われるかもしれませんが、実際に手続きを進める上で、先に更に細かく分けておくと手際良く手続きを進めることができるので、一見手間を掛けているようにも見えますが、後で地味に効果が出てきますので、皆さんにもお薦めです。機会が有ったら試してみて下さい。

 人間班では行いませんが、何しろ他の班の場合、種類が多いのでこれは必須です。『繁忙期』には特に効果が顕著にでてきますよ。

 あと、これは余談ですが、休憩時間に哺乳類班のミサリエルさんと爬虫類班のトワエルさんとご一緒したので、マングースについて聞いてみたのですが……。


「マングースはね、もともと日本には生息していなかったんだよ」

「そうだったのですか?」

「……パスティエルさんの前で言いにくいんだけどさ、人間に害をなすハブを退治する事を期待されて、近年になって人間の手で、他の地域から連れて来られたんだってさ。最初の頃にここに来たマングースが言っていたのは「20匹位で連れてこられた」って話で、それから根付いて数が増えたらしい。で、最近ウチの窓口でもたまに見かける様になったんだよ。それでも最初の頃は、知らない土地で必死に生き残る為に、大分苦労したみたいだね。さっき最初の頃に連れてこられたっていってたマングースのお爺ちゃんが切々と語っていたのを覚えてるよ」

「そうだったんですね。担当が人間班というだけなので、気にしなくても良いですよ」

 ミサリエルさんが申し訳なさそうに頬を掻きながら言ったので、わたしも気にしてないと首を振って返しておきました。

「ところが、連れて来たマングースは主に昼に活動する昼行性」

「……ハブは主に夜間に活動する夜行性……」


 なのだそうで、マングースは、殆どハブとお互い対峙する事も無く、退治の役目が達成されないまま、捕食しやすいヤンバルクイナやアマミノクロネコなどを糧として数を増やしていったそうです。

 まぁ、当然ですね。わざわざ毒を持っている危険な相手を選ばなくても、周りには飛ばなくてよくなった環境で暮らしている鳥や小動物がたくさんいるのですから、それを狙った方が遥かに楽に糧を得ることができるでしょうし。

 これも一つの生態系の変化なのでしょうね。ですが、メルエルちゃんとミサリエルさんが言いにくそうに語ってくれた部分は、同じ方向性を示しているのに、違った要因を含んでいるとおもいました。

 片や海を渡り移り住んできた種。

 片や海を越え人間によって連れてこられた種。

 その生態系の変化が『神の見えざる手』ではなく『見えざる手』によるものならば、そこに『神』は介在していません。

 ですが『見えざる手』を人間種の都合の良い解釈をしつづけるのであれば、果たして、その先に『神の見えざる手』は、両手を広げて出迎えてくれるでしょうか?

 『繁忙期』の『期』は、一つの区切りの意だそうです。

 『転生』は、『生』の最初と最後を繋ぎ転じさせる事です。その最後が『最期』とならず、次の生に転じる事を願って。


「良き来世を」

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