第32羽 双六遊びは大好評です
こんにちは、パスティエルです。
えーっと、物質界の人間の方々から言えば「お久しぶりです」と言うべきでしょか?
わたしたちからすると、それ程の時間は経っていないのですが。
それとも、只今の物質界の人間社会では「あけましておめでとうございます」と言った方がよいでしょうかね?
◇
『異世界転生双六ゲーム ~ 目指せハーレム人生! ~』
「なに? これ?」
休憩室(休憩室)の床の上に広げられているものを見て、サフィエル先輩が呟きました。
「ああ、サフィエル先輩、丁度良いところに。これは物質界の人間社会での遊戯の一つで『双六』というゲームだそうです」
わたしたちは丁度、物質界の人間社会の年の変わるころ、勤務に当たっています。今はその休憩日間です。
で、私は折角なので、この日本支部の人間社会の伝統風習を、みんなで楽しんでみようかと、密かにこの『双六』を用意しておいたのです。
「いえ、そういうことじゃなくて、このゲームにつけられているタイトル名のことなのだけど」
「ああ、これですか、最近物質界の人間社会の間で、『転生モノ』というものが、流行っているらしく、いろいろな転生モノが出ているんですよ。その中でも『異世界転生モノ』は群を抜いていて、数が多いんです。これもその中の一つですね」
「それにしたって、ハーレムって、このメンバーでやって誰が得おするのよ?」
「まあ、いいじゃない面白そうだし」
「クラリエル、貴方ねえ」
「みんなで遊んだら、楽しそうですぅ」
「メルエルまで、もう、仕方ないわね」
「で、これ、確かサイコロを振って出た目の数だけマスを進んで、止まったマスの指示に従うんだよね」
「はい、ミサリエルさん」
「それで、サイコロはどうするんだい?」
「ご心配なく。じゃーん! 入手したは良いけど、今まで一回しか役に立ってなくて、なかなか使いどころのなかったこの100面ダイスを使いましょう」
「……100面体……ほぼ球体……」
「待ちなさい。それで双六やったら、転がり過ぎてなかなか出る目が決まらないでしょうが。その上、99なんてでたら、あっという間に終わっちゃいそうじゃない」
「正に『乾坤一擲』だね」
「ミサリエル、使いどころがかなり違ってるわね」
『乾坤一擲』は確か、「運を天に任せるような覚悟をもって、一度だけ賽の目を振るような大勝負に臨む」というような意味合いだったでしょうか?
「パスティエル、他のサイコロはないの?」
「やっぱりダメですか。残念です」
というわけで、仕方なく付属の10面ダイスを使うことにしました<初めからそうしようよ>
ちなみに、この双六、初めから分岐で、勇者になって魔王を倒すルートと、城から逃げて魔王になるルートがあったり、途中で仲間に裏切られて魔王になる分岐ルートがあったりするんです。
それが故に、最後の方でプレイヤー同士が、対決して潰しあう場合もあったりします。
あと、サブタイトルの由来でもあるハーレム人生は、馬車を手に入れることでヒロインを最大5人まで連れて行くことができるようになり、ゴール時、一人当たり金貨200枚換算。馬車は100枚換算として扱われるようです。
最終的には全部の所持品や仲間などをお金に換算して、一番多かった方の勝利になるようです。
◇
「ではわたしから行きますね」
『他所の町から来たため、門番に止められる。サイコロを振って3以下なら二回休み』
「行きますぅ」
『冒険者ギルドで柄の悪い冒険者に絡まれる。サイコロを振って5以下なら一回休み』
「あうぅ」
「何か、メルエルちゃんだと容易にその光景が想像できますね」
『ギルド内で絡まれ、あっさり撃退し、ギルド長に目を付けられ、冒険者証(Cランク)を手に入れる』
「クラリエルさんらしいね」
「らしいって、どう意味よミサリエル!?」
「じゃあ、次ボクだね」
華麗にスルーしてますね。
『スラム街で猫耳獣人少女を助ける。馬車があれば連れていくことができる』
「ミサリエルさん、双六でも動物系の方に好かれてますね」
「あはははっ」
……
『学園に入学する。金貨10枚を払う。払えなければ借金となる。学生証を手にいれる』
『ギルドに加入する。銀貨1枚を払う。払えなければ借金となる。冒険者証(Gランク)を手に入れる』
『薬草を採取する。冒険者証があれば銀貨2枚、なければ銀貨1枚手に入れる』
『ゴブリンを退治する。冒険者証があれば銀貨10枚、なければ銀貨5枚手に入れる』
『冒険者証Cランク以上があれば高難易度ダンジョンに挑め、金貨100枚手に入れる』
『ドラゴン退治をする。9以下なら協会に戻り金貨100枚払う。払えなければ借金となる。10が出たら討伐成功!金貨1000枚手に入れる』
……
「8が出た。分かれ道になってるね。勇者コースト魔王コースか……どっちにしようかな」
「クラリエルさんならどっちでも行けそうだね」
「だ~か~ら、どういう意味よ、ミサリエル? まあ、いいわ。面白そうだから、魔王コースにしてみようかな」
「……コスプレする? ……衣装いろいろ用意してきた……」
流石、トワエルさんですね。
多分、運んだのはカルキノスでしょうね。
「魔王になったら着てみようかな」
<おい天使!>
天の声さん、他の方には聞こえてませんよ。
「次は私の番ね。……3ね」
『騎士に取り立てられる。俸給として金貨10枚を貰う』
「サフィエル先輩にぴったりですね」
「そう?」
「……コスプレする? ……衣装いろいろ用意してきた……」
「いえ、私は止め……」
「……コスプレする? ……衣装いろいろ用意してきた……」
「……わかったわ」
トワエルさんの押しに負けましたね。
実際、私も見てみたいですし、トワエルさんに一票です。
「じゃあ、次ボクね……3か」
『協会に祈りをささげる。所持金の一割を寄付する。(銀貨未満端数切捨て)』
「あちゃ、折角貯めたのに1割教会に持っていかれたか」
<おい天使! 協会に寄付して嘆くな!>
だから天の声さん、他の方には聞こえてませんよ。
……
「次、サフィエルの番よ」
「ええ……9ね。だいぶ進んだわ」
『騎士であれば捕まり牢獄へ入れられる。その際、床に両手をついて「くっ、殺せ!」とみんなの前で叫ぶ。2回休み』
「って、何よこれ? やらなければダメ?」
「ダメです! サフィエル先輩、さあ、どうぞ」
「ルールなんだから、ほら、サフィエル早くやったやった!」
「仕方ないわね……じゃあ……くっ、殺せ!」
「何か恰好良いですぅ」
「妙に似合ってるよね」
「……オーク……ミノタウロス……どっちが良い? ……」
「トワエル、何の話?」
「……タコとか……イカでも良い……」
「だから何の話?
そんな感じでわたしたちがワイワイ盛り上がっていると、リーン課長と秘書課のサホック課長が、休憩室に顔を出されました。
「なかなか楽しそうじゃのう」
「あっ、リーイン課長」
「リーイン課長もやりますか? 日本の物質界の伝統的な正月遊びの一つみたいなんですけど、結構、面白いですよ」
「うむ、知っておるよ。じゃが、儂は止めておこうかのう」
「やっぱり神様はサイコロをふらないんですね」
「んっ、何の話じゃ?」
「リーインの代わりに、俺が振ろうか?」
「サホック、お主は仕事せい!」
……。
では、今年も。
「良き来世を!」




