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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
31/31

第31羽 始めはやっぱり大麦です!? それとも大吟醸です!?

 こんにちは、パスティエルです!

 転生課の繁忙期は冬の間がピークとなります。人間班は大きな災害や戦争でも無ければ、一年を通してそれ程の変化という訳ではありませんが、他の班は生命のサイクルの影響を強く受けるのでこの時期生命を終え、次の生命へと転生していく方が急増します。

 その為転生課は互いにフォローし合いながら窓口をこなしていきます。その後の書類整理などは業務時間内にはできないので、必然、残業になってしまいますが……。ええ、残業になってしまいますが。

 そして、繁忙期もどうにかこうにか何とか終わり、今わたしたちは以前サクラが咲いたら皆で行こうと話していたお花見をしようとクラリエルさんお薦めのスポットに向かう為、集合場所で待ち合わせをしています。

 今回のお花見のメンバーはサフィエル先輩、クラリエルさん、ミサリエルさん、トワエルさん、メルエルちゃん、ロムエルちゃん、ノマエル、そしてわたしの8柱です。おっと、カルキノスも荷物を運んでくれるという事で参加していますので、8柱と1匹です。<一応、不意の突っ込み天の声もいます>

「あっ、サフィエル先輩にクラリエルさん」

 声を掛けるとクラリエルさんが軽く手を上げて応えてくれました。

「えっ、サフィエル先輩って! まさか!」

 んっ? ノマエルの反応がおかしいですね。急にそわそわしたような態度になって。

「あのお、サフィエル様ですよね」

 なんだかノマエルがいつもらしからぬ丁寧さと眼差しでサフィエル先輩に話掛けています。

「様? えっと、サフィエルは私だけど」

 サフィエル先輩がそれに気圧されてちょっと引き気味ですね。ノマエルを遊び用に持ってきたハリセンでしばくべきでしょうか?

「うわあ、あの『世紀間守護対象者天寿全う率 No.1』のサフィエル様ですよねえ! 会えて光栄です。私、パスティエルの幼馴染のノマエルと言います! 現在日本支部の守護課に配属されています! 以後お見知りおきを」

「えっ、ええ、よろしく」

「サフィエル先輩って、そんなに有名だったんですか?」

「あんた直接の後輩なのに何も聞いてないの!? サフィエル様と言ったら、さっきも言ったけど、新世紀採用時、北アメリカ支部の守護課に配属になっていきなり『新神賞』はおろか並み居る先輩天使を押しのけて『世紀間守護対象者天寿全う率 No.1』を叩き出した逸材よ!」

「ふええ、これぞ『ザ・天使』だとは思っていましたが、まさかそれ程とは」

 初めて知りました。そう言えばサフィエル先輩って、いろいろな事を教えてくれますが、あまり自身の事を話してくれる事は有りませんでしたね。

「5世紀前の話だから、もう過去の話よ。さあ、ここで話していても始まらないから皆揃ったのなら行きましょうか」

 サフィエル先輩が照れ隠しの様に皆を促します。何だか新鮮ですね。

「「は~い」」

「……」


   ◇


 わたしたちは今、クラリエルさんのお薦めのお花見のポイントに向かって行軍中です。

 翔んでいけばいいのにと思われる天使の方もいますが、こういうのは歩いてこその風情ですし、わたしは割と通勤途中も歩いて雲の下の景色を眺めたりしていますので、こういうゆったりした時間は大好きです。

 雲の上からだと『花霞』と称される様に少し淡く見えていますが、やはり近くで見ると綺麗な桃色ですね。

「パスティエル、おもいよぉ~!」

 「何が?」と聞いたらきっと負けです。<何と戦ってるんだ?>

 わたしは振り向かずに前だけを向いて進むのです。行軍とはそういうものです! <だから、何と戦ってるんだ?>

「……スイカなんてこの季節に珍しい。しかも二つ……ノマエルさん、重いからカルキノスに乗せると良い」

 トワエルさんがそう言うとカルキノスのはさみがノマエルの<ものすご~く大きな>胸に伸びていきました。

(よしカルキノス! そのままチョキンと)

「ちょっ! ちょっと待った! 待った! スイカ違う! 違うから!」

 慌ててノマエルがカルキノスのハサミから逃げる様に走り出します。

「ちっ! 剪定に失敗しましたか。カルキノス惜しい」

「コラ、パスティエル、何舌打ちしてるのよ。聞こえてんだからね! どうでもいいから助けなさいよ!」

 それにしてもカルキノス。踊りを披露してくれた時も思ったのですが、なかなかに素早いですねえ。これは期待しましょう。

「そのまま大人しくご厚意に甘えて剪定されてなさい」

「剪定って何よ!」

「大丈夫ですよ。きっとまた生えて来ますから」

「んな訳あるかあ!!!」

「楽しそうだね。ボクも混ぜてよ!」

 ミサリエルさんがカルキノスと一緒になってノマエルを追いかけ始めました。

「だから。違いますって!」

「ほんとうに楽しそうですねぇ」

「そうだね」

 メルエルちゃんとロムエルちゃんがほのぼのと見守っています。

「あっ、しまった! スイカ割りの棒、どうしましょうか?」

「だから、聞こえてる、パスティエル! 馬鹿な事言ってないで助けなさい!」


   ◇


「楽しそうだね、パスティエル」

「そうね。ギリシア・ローマ神界の旅行も良い気分転換になったみたいだし、もう大丈夫そうね」

「その旅行がそもそもの原因の様な気もするんだけどね。それは置いておくとしようか……そろそろ止めに入る?」

「そうね」

「あんた達、何お花見の前からはしゃいでるの?」

「気持ちは解らないでもないけど目的地に着いてからにしましょうね」


   ◇


「みんな~! ここが良さそうだよ~!」

 いつの間にやら、さっきの騒ぎのうちに先行したミサリエルさんが元気良くこちらにブンブンと手を振ってわたし達を呼んでいます。

 わたし達もそれに続いて丘を登って行きます。

「「うわあぁぁ」」

 わたし達は見えてきた光景に感嘆の声を上げます。

 雲の上から歩きながら眺めた事も有りますが、こうやって近くから見渡せる桜が満開の光景はまるで桃色の雲の中にいる様ですね。確かにこういった景色を物質界の日本の人間社会で『花の雲』とか『桜雲おううん』とか言うのも頷けます。

 物質界と神界は元は境が曖昧だったため、季節などの変化の移り変わりは連動しています。

 日本は四季の特徴が比較的顕著に見受けられますので、大変興味深いです。

「いいわね」

「本当に」

「じゃあ、この辺で準備を始めようか」

「「は~い!」」

 わたし達はそれぞれにお花見の準備を進めていきます。

 それにしても甲斐甲斐しくメルエルちゃんが動き回っているのですが、メルエルちゃんの髪の毛の色は、サクラの中だと溶け込んで目立たないですね。

「ロムエルさん、そっち持って」

「了解ですミサリエルさん」

「あっ、そのレジャーシート、この前のギリシア・ローマ神界に言った時にわたしが選んできたんですよ。女神アテナ製オリーブの木模様のレジャーシートとアラクネ製動物柄のレジャーシートです! どうですか?」

「うわぁ、どちらも綺麗ですねぇ」

「えっ? アラクネ製!」

「どうしたんだいロムエルさん?」

「アラクネ製って、確か元は大々的に作っていたんですけど、神式会社アテナと張り合って負けて、現在では細々と経営をしているって話ですけど、質も良いし生産量が少ないから、意外とプレミアが付いているらしいですよ」

「さすが広報課のロムエルちゃん。良く知ってますね」

「えっへん!」

「へえ、そんなにレアな物、良く手に入ったね。探すの大変だったんじゃない?」

「ふふふっ、よくぞ聞いてくれましたミサリエルさん! 実はですね、クラリエルさんのおかげで、軍資金、もとい必要経費は潤沢に頂きましたから存分に購入して来ました。ええ、そりゃあもう存分に、ふふっ」

「うわぁ、すごいですねぇ」

「ちょっとクラリエル、パスティエルまだ治ってないんじゃあ?」

「う~ん」


   ◇


「日本支部だから、やっぱり初めは日本酒かしらね」

「……純『日本神仏界』産『神式会社 アシナヅチ&テナヅチ』醸造、大吟醸『堕天使』」

「このお酒のネーミング、どうなんでしょうか?」

「ネーミングはともかく、サフィエルがこれをチョイスしたことの方が気になるわね」

「いやねえ、他意は無いわよ」

「この平べったい朱塗りの皿みたいなのに注いでいいんですよね?」

「そう、さかずきと言うのよ……皆、いき渡ったかしら? それじゃあ、満開の桜に」

「「乾杯~!」」

「お料理はたくさんあるから、遠慮しないで食べてね」

「うわあぁ、これ全部クラリエルさんが作ったんですかぁ」

「クラリエル様、そう言えば広報課のインタビューの時、趣味が料理って言ってましたもんね」

「……カルキノス、食べる? ……」

 突然、カルキノスが怯えだしメルエルちゃんの後ろに隠れて震え出しました。とは言っても身体が大きすぎて頭隠して尻隠さずになってますが、と言うか足隠さずですね。

「トワエル、アクセントが違うよ。もしくは言葉が足らないよ。それだとカルキノスが贖罪になっちゃうよ」

「カルキノスさんは何を食べますかぁ?」

 トワエルさんに代わってメルエルちゃんがカルキノスに食べ物を取ってあげてますが、完全にメルエルちゃんに懐きましたね。流石、天使の様なメルエルちゃんです。<天使です! あなたも!>

「私、次ワイン貰うわね」

「あっ、私、注ぎますね」

「有難う、ノマエルさん」

「流石サフィエル先輩、飲むの速いですね。そう言えば物質界の人間界でワインやウィスキーを寝かせている時樽の中身が少しずつ目減りする現象を『天使の分け前』って言うそうですよ。何でも年間数パーセント程目減りするらしいです」

「……上前……ピン跳ね……」

「サフィエル先輩だと半分以上なくなりそうですね」

「あははっ、それだと『天使の分けエンジェルズ シェア』じゃなくて『悪魔の取りデビルズ カット』だよ」」

「クラリエル、何か言ったかしら?」

「いやぁ、サフィエルならワイン樽一つ飲み干しそうだなと」

「どんどん増えてますねぇ」

「失礼ね。全部飲んだりなんかしないわよ」

「あはは、そっ、そうですよね。いくらなんでも、それはな……」

「年に一回物質界の山梨県への試飲ツアーがあってね」

「「えっ!?」」

「日本は今ワインの生産で評価が高いのよ」

「「はあ」」

「で、ツアーの時は一つの樽から飲む量は決められているのよね」

「「(もうすでに行ってるんだ)」」

 そんなこんなで賑やかに酒宴は続きゆったりとした時間が流れて行きます。

 皆、程よく肌が桜色になって来ましたね。

 ふと、不意に花散らしの風が桜の木の間を遊び歩き、桜の花びらが空に舞い踊り肩に散りかかってきます。

 杯やグラスに入った桜の花びらとともに飲むのも風情があって良いですね。こういうのを『乙』と言うんでしたっけ?

「サフィエル、あなたまだ引きずってるの?」

「知ってるの? 本部だったのに。流石クラリエルね」

「まあね。同世紀採用に凄い子がいるって噂ぐらいは聞いていたからね」

「……そう。それで、直接見た感想は?」

「そうだねえ、普通に良い先輩してるんじゃない?」

「ふふっ、そうだと良いわね。それよりもクラリエルこそ、キクス様とはどうなのよ?」

「なっ! 何を言い出すのよサフィエル」

「日本支部が面白そうだからなんて、理由で本部のエリートコース蹴って来たなんて見え透いてるでしょ。追っかけて来てからはあまり会ってないみたいだったけど、最近はどうなの?」

「うっ! ……最近は……ちょっと、会えてるかも……」

「なんれすかあ? こいばなれすかあ? ロムエルもお、まぜてくらはいよお」

「ああ、ロムエル、飲み過ぎでしょ!」

 そんな感じで楽しい日々は過ぎて行きました。


   ◇


 ー 某神界の居住区の一室 -


「「「乾杯!」」」

「ぷはあ、一杯目はやはりビールだな! いやあ無事仕込みも終わったしそろそろ次に進むとしますかね」

「最近、少し動くのに急ぎ過ぎてませんか?」

「何言ってやがる。俺等の戦いはまだ始まったばかりだからな」

「サホック、何ですかいきなり? 物質界の日本の人間社会の書物を読みながら」

「事実だろうキクス? リーインもそうは思わないか?」

「お主が言うと何か引っかかるんじゃがのう」

「さて、次は物質界の日本の人間社会のお酒といこうや! 純『日本神仏界』産『神式会社 アシナヅチ&テナヅチ』醸造、大吟醸『神殺し』! ここの酒は蟒蛇うわばみでもイチコロだぜ!」

「やはり、お主が言うと何か引っかかるんじゃがのう」

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