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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
3/31

第3羽 転生先は大問題です

「はぁーい。ハトさんたちはこちらでぇーす。おとなしく一列に並んでくださぁーい」

 メルエルちゃんが、力が抜けそうな声で一生懸命鳥たちに呼びかけています。

 和むのですが、あの娘が全力で叫べば叫ぶ程、わたしの力が抜けていくのは気のせいでしょうか?

 ここ最近人間班で話題に出て来る、異世界転生での特殊能力として名づけるなら『モチベーションドレイン』なんてどうでしょう? 結構良いと思うのですが……。


   ◇


 生まれ変わりの希望先もいろいろありますが、基本的に大まかな道筋は、それぞれの『界』の担当責任者によって決められています。

 例えば書類上、『哺乳類』となっていれば、犬や猫や人間、コウモリやクジラも入ってきますし、『人間』となっていれば人間のみとなります。もっと大まかに『陸上生物』と言う者も有りますね。

 『哺乳類』や『陸上生物』の様に選択の幅があれば、ある程度はわたし達が転生者の希望に添って調整することが出来ます。

 その調整を行うのが、わたし達天使の仕事の一つとなっています。

 一方、これを決済なしに即断即決で変更できるのが、神様になります。

 わたし達もできるだけ希望に沿えるようにと考えてはいるのですが……只、全体のバランスの関係上、全ての方の希望を叶えてあげることは難しいのが現状です。

 むしろ、希望に沿える方が稀ですね。

 なにせ、動物・植物をはじめ微生物に至るまで文字通り多種多様な種があるもので……そんな中でも、特に人は、来世も人に生まれ変わりたいと言う方が多いです。

ですが、先程からお話ししている様に他の種から人間種に転生する方もいらっしゃれば、その逆で、人間種から他の種へと転生することになる方もいらっしゃいます。

 いくら来世も、人間種にと転生を望まれても、他の種への転生に決まっている方の中には揉めるケースも見受けられます。

 揉めはしないまでも、結構悩むケースは多かったりもします。

 今回はそんな中での人間から他の種への転生手続きの様子です……


   ◇


「えぇ~、何でもいいよぉ~。寝てたいいしぃ~めんどくさいぃ~」

 ……選ぶの楽そうに見えますけど、こういうのが一番悩むんですよね。

 しかも、この方の転生先の候補は生前と異なる哺乳類と言う事なのでかなり選択の幅が広いですし。

 真っ先にナマケモノと言いたいところですが、ナマケモノは食事してても餓死することがありますし、少し激しく動いただけでも自身の体温上昇でやられて死んでしまいますし、肉食動物に見つかれば逃げることもできずに糧になってしまいますし……この方だと本当に餓死しそうですね。

 睡眠時間の長い哺乳類で……日本だと……それなりに数がいる……やはり奇をてらわずにコウモリでしょうかね。

「良き来世を」


   ◇


「……わたしは……貝になりたい……」

 思いつめた表情を浮かべた男性の方がポツリと呟きました。

 生前、かなり大変な思いをされたのでしょう。『生前経歴書』を見てみると……。できれば、転生した後は穏やかに過ごして頂きたいと心から思います。

 幸いこの方の場合、海洋生物への転生となっていましたし、貝類ならばどの種類にも空きがあったので、好きな貝を選んでもらうことにしました。結果、クマサカガイに決まりました。クマサカガイは他の貝や石を自分の貝殻にくっつける性質を持っています。思う存分殻に閉じこもってもらいましょう。ですが、その後は殻を開いて前に進んで頂ける事を願いまして。

「良き来世を」


   ◇


「僕は、鳥になって大空を飛ぶんだ!」

 病気で亡くなったと言う、思わずイジメたくなるような男の子が元気よく笑顔で答えました。

 この型の場合、鳥類への転生は可能なのですが、ダチョウとかキウイとかの飛ばない鳥なら空きがありますがとか言ったら、泣いちゃいますかね? 試してみたくなる気持ちをグッと堪えて、ツバメを勧めてみました。

「良き来世を」


   ◇


「てんせいー? そんな事より、キミ可愛いね。自然の薄紫の髪の毛って初めて見たよ、凄く綺麗だよね。そのツインテールの髪型もきみに合ってるし。キミみたいなコがこんな処で仕事してるなんてもったいないよ。ああ、そのコスチュームはとても似合ってるけどね。だからさぁ、これから食事に行こうよ。いい店知ってるんだ。おごっちゃうよ」

「……」

 何でしょうか、ほめているのでしょうが、そこはかとなく怒りが沸いてきます。軽薄にしても、これはちょっと。店って、この辺見てないでしょう。後、神力ないとおごるの無理ですよ。

 えっと、『生前経歴書』を見てみると……ああ、生前もこの軽薄な口調が元で3人の女性から同時に刺されてこちらにいらしたのですね。納得です。亡くなっても治らなかったんですね。

 異世界転生になりそうなパターンですがって……いけませんいけません。最近そういうケースを何回か立て続けに扱っていた為、感化されてきている様ですね。

 この方の場合は、虫に転生先が決まっているので……そうですね、ユスリカが良いのではと。ユスリカは、蚊柱という大勢の雄達が、飛び込んできた一匹の雌に群がって柱の様になる行動を取りますが、あの蚊柱の中でも雌にたどり着ける気がします。ちなみにユスリカは、蚊柱と言っていますが蚊ではなく、むしろ蠅の仲間に近いです。

「良き来世を」


   ◇


「美少女で!」

 髪ボサボサで無精髭を生やした中年の男性が勢い欲……そりゃぁもう勢い良く答えました。

「……いえ、生き物の種別を訪ねているので、美少女は生き物の種別ではありませんから。取りあえず、性別は女性が希望ですね。性別、女性っと……」

「美少女一択で!」

 何この可愛くない生き物。

 そもそも、この方の来世は海洋生物なので……んっ? 海で美少女と言えば人魚……は、空きがないですね。そうだそれなら、ジュゴンにしましょう。確か日本でも南なら生息していた筈……あっ、有りました。我ながら明暗ですね。

「良き来世を」


   ◇


「俺はよぉ、来世でも必ずビックになるんだぜぇ! パォー!!! 」

 髪を真っ赤に染めて逆立てた、滑舌の良くなさそうな青年が、天高く拳を掲げ絶叫しています。

 Big? 大物? この方はそんなに生前有名だったでしょうか? 確か『生前経歴書』を見ると無職で自称ミュージシャンとなっていましたが??

 ところでどうでもいいことですが、十分天高い天界で「天高く」だと何処ら辺を指すのでしょうね?

 取りあえず、転生先が生前と異なる哺乳類という事なので、この方は象で決定ですね。アフリカ支部の担当か、インド支部の担当の方に空きがないか問い合わせてみましょう。

「良き来世を」


   ◇


「わたしは お星さまになりたいのぉ♪」

「無理です!」

 思わず即答してしまいました。

 そんなに目をキラキラされても……ヒトデなら空きがあるのですが駄目でしょうか? 聞いてみましょうか? ……もしくは、お花畑のお花なんて、どうでしょうか? 何かしっくり来るのですが……。

 この方の転生先は植物でしたので、シイタケなら「干し」になれますと言いたかったのですが、何か妙な気配を感じたので、スターフルーツにすることにしました。

「良き来世を」


   ◇


 えっ、悩んでる様に見えないって? 何か対応が雑じゃないかって? 

 それはきっと気のせいですよ。

 そう、気のせい。

 リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシも、カノウモビックリミトキハニドビックリササキリモドキも、ウケグチノホソミオナガノオキナハギも、皆さん亡くなられてここへ来られてるんです。《ろっ、呂律が……》

 幾千、幾万……それこそ皆さんの感覚で考えると途方も無い数の魂を迎え、送り出しています。

 わたし達は、亡くなられた魂を新たな世界へ送り出すことが役目ですので、ここは一つの一時的通過点と考えています。ですから、人間から見れば「亡くなって来た者に対して」と思われるかもしれませんが、わたし達から見れば、「生を転ずる」場で、迎える終着店であると同時に、送り出す出発点ともなります。

 通過点とは言いましたが、何故、『転生課転出入係』は、『転出入係』であって『転入出係』となっていないと思いますか?

 それは、ここが魂の循環の出発点と言う処に重きを置いているからです。

 循環と言えば、日本支部に配属になって知ったのですが、漢字の熟語の中に『息を吸ったり吐いたりする事』を一言で『呼吸』と言うそうですね。これは、『息を吐き出す』ことに重きを置いて『呼』が先になっているとの事だそうですが、まさに、生命において『出す』と言う事が大切な事であると認識している言葉だと思いませんか?

 その新たな『生命』には、人間が考える様な、『良い生き物・悪い生き物』や『当たり・はずれ』と言ったものは元来ありません。

 ですので、前世では、恵まれていた方も、そうでなかった方も、次の生では充実した生涯を送れますよう、わたしは必ず送り出す際にこの言葉を添えています。


「良き来世を!」

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