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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
28/31

第28羽 気が付いた時には大抵後の祭りです

さて、本月(人間種の感覚で本日)は、特別にわたしが選ぶことになった異世界への転生者の方々に説明をして、要望を聞いたのちに転出手続きを行うことになっています。

 とは言っても通常業務もあるので、該当者が来た時だけ別室で手続きを行う事になりますので、行ったり来たりとかなり忙しくなりそうではありますが。

 それは兎も角、ここは第一印象が重要ですよね。やはり『初めの挨拶は大事です!』でいってみましょうか!

「おめでとうございます! あなたはお亡くなりになりましたが特別に異世界転生の権利を獲得されました!」

 あれ? 元気よく言ったつもりなのに反応が薄いですね。もしかしてタイミングが良くなかったとか? もう一回やり直してみましょうか?

 (……死んだ?ボクが?……えっと、ボクは病気で、ずっと入院してて、それから……それから……そのまま、ボクは本当に死んだのか?)

 ああ、やはりまだ具現化してから状況整理と把握が追いついていませんでしたか。いつもだと大ホールに来た時に具現化して順番待ちなので、その時間も有るのですけど、今回は特別応接室『白い世界の間』にいきなり直行で連れてきての対応でしたからね。失敗失敗。次回は少し考えた方が良いでしょうか?

 この特別応接室は幾つか種類が合って、普段は『門』を通るくらいの『格』を持った方が来られた際、神様直々か、もしくは神様の使いとして神獣や上の天使が対応する際に使用される場所なので、わたしみたいな一介の天使が使用することはなかなか出来ないのですが、今回は特別に使用することの許可が頂けました。

 いやぁ、リーイン様の「必要な事が有れば遠慮なく言うと良い」とのお言葉だったので、遠慮なく言ってみるものですね。<いい性格してるなぁ>

「……とても神秘的で不思議な所」

 感じからして第一印象は悪くない様ですね。一先ず何よりです。

「お気に召してもらえた様でここを選んで良かったです。今回は『特別』なのでこの場所を用意してみました。他にも雲の上とか、神殿とかありますよ。まぁ、言ってみれば背景セットだと思って下さい」 

 どうやら落ち着いてきたみたいですね。なので、和ませる意味でちょっと裏話を冗談交じりに話してみることにしたのですが、微妙な表情をされた後こちらをジッと見ています。

 なんでしょうか? その表情が何となく化現、いえ怪訝そうな顔をしていますね。

「何か失礼な事を考えてませんか?」

「その髪はオシャ」

 わたしは、その先の言葉を制する為、愛用の弓を出して引き絞りました。この弓はわたしが学生時代から使っている愛着のある弓なんですよ。ちなみに弓術は得意で大会にも出た事があるんですよ。

「自・毛・で・す」

 わたしの心を込めた、そう心を込めた言葉に胸を貫かれたのか、両手を挙げて首を縦に振って理解を示してくれました。<矢を番えた弓に貫かれたのでは?>何か? <いえ!>

「ちなみに普段はあなたのいた日本の役所の受付みたいな所で手続きしてますよ」

「何か知りたくなかったかも」

「申し遅れました。わたくし転生課転出入係人間班のパスティエルと申します!」

 大分話が逸れてしまったようなので戻すことにしましょう。

「名刺をあいにく切らしてまして申し訳ありません」

 窓口業務だと営業と違ってなかなか名刺を使う機会が無いので作ってなかったり、作ってても持ち歩くことがまずないんですよね。

「いらないよ!いや、ちょっと欲しいかもしれないけど、今はそこじゃないよ!」

 そうでしたね。ちゃんと状況説明をしなければなりませんでした。

「あなたはこれからしかるべき手続きの後、異世界に転生することになりますが、何か希望はありますか? もちろん、叶えられる事と叶えられない事がありますが、一応お聞きします。ちなみに、あなたの転生先は魔法のある世界ですよ」

「希望ですか?」

 目の前の方が目を閉じて考え始めました。わたしはじっくり待つことにします。

「あっ、そうだ。異世界に転生できるのなら、日本のネットスーパーが使える能力とか貰えませんか?」

「ネットスーパーですか? 最近多いですよねぇ」

 思わず言葉がこぼれてしまいます。アンケートでも日本の物を欲しがる意見が多かったですし、ネットスーパーですか。物資の流通関係ですね。……これも『縁』でしょうかね?

 まぁ、これなら業務改善案でわたしが提案した『神速連絡便による物資輸送』を使えば何とかなりそうですし、表示機能は水晶盤の画面を流用すれば簡単でしょう。

「そんなに多いんですか?」

「あぁ、いえ、六道とか喜びの野とか、皆さんが聞いたことがある話の世界は死後の世界を垣間見て戻ったひとや前世の記憶をある程度持って生まれた人が広めたもので同世界の転生なのですが、これらの世界に転生すること自体は普通のことです。そうですねぇ、一つのグループと考えてください。そのグループが複数あるとします。その他のグループの世界のある所に転生するのが異世界転生となりますが、これはかなり稀な例となります。その稀な例だったものが最近私達が管轄する日本で増えてきてまして、まぁ、全体数から言えば少ないと言えば少ないのですが、過去5千年を比較してもここ2・30年での増加は顕著ですね。通常は魂の因果等に引き寄せられて行くというのが自然だったのですが、最近は積極的に自ら異世界を望まれる方が増えまして、その際スキルとか能力や魔法が存在する世界をと……そして、生前読まれていた『ラノベ』というものの影響で無茶なスキルや能力を希望される方が増えまして……」

 勢いあまって無茶とか言ってしまいました。

「あっ、無理ならいいんです、無理なら。可能な能力とかスキルとかでいいですから付けてもらえませんか?」

 あらら、萎縮させてしまったでしょうか? これはまずいですね。

 折角思ったよりも簡単に行きそうなのですからこのまま勧め、いや進めましょう。

「はっ!失礼しました。ちょっと最近対応と後処理に追われまして……コホン、ですが、あなたの場合は別です。最初に私が言いましたとおり、あなたは転生する『権利』を獲得されています。なので多少の無茶は叶えてあげたいと考えています」

「えっ! 僕が……何故?」

 心底不思議そうな顔をされていますね。無理も無いでしょうか。ここは素直に説明しておいた方が良いでしょうか。ですが……。

「何故獲得されたかと言うと……イコロの出た目です」

「……えっと、何と?」

 聞き返されてしまいました。 もう開き直って一気に言ってしまいましょう。

「サイコロの出た目です! あらかじめ今回の勤務中に担当する人の何人目に異世界転生の権利を与えるかをサイコロを振って決めました。ちなみにサイコロは100面ダイスです!」

 どうです! この清廉潔白さ!

 唖然とされている目の前の方に駄目押しで選び方に疚しいところがない事をアピールしておきます。

「安心してください。機会は公平です」

 何故でしょうか? さらに微妙な顔をされてしまいました。

 なのでさらに補足します。

「それに丁度私が業務改善案として提出したものに近い能力なので多少調整すれば可能です。……あぁ、また仕事が……残業が……」

 ああ、自分で言ってて過去の辛かった残業の月々(人間種での日々)が思い浮かんできます。

「あの、労働組合とかあったりします?」

 わたしがちょっと虚ろになりかけていると、労りの気持ちのこもった目を向けられて問いかけられてしまいました。

「そんなのある訳ないじゃないですか。組織立って神に弓引けば、即堕天ですよ、堕天。堕天の理由が労働争議とか笑えないでしょ」

 思わず愚痴が漏れてしまいました。この特別応接室『白い世界の間』は特別な対応をする部屋だけあって、神様でもこの中の会話は聞く事はできません。

 なので、今の愚痴は知られることは有りませんが、どうにも居心地がわるいですね。

「それでは、手続きを行って来ますので席を外させていただきます。あっ、これ『転生のしおり』です。手続きを行って来る間、これを読みながらしばらくお待ちください」

「……」

 わたしは早口で説明を済ますと、諸々の手続きやシステムの調整の為に足早に特別応接室『白い世界の間』を後にしました。


   ◇


 システムは一部保守などの管理運用を総務課にお願いしてあります。

 クラリエルさんのおかげで、この辺の話し合いが随分とスムーズに言ったのは本当に助かりました。まあ、それで総務課の天使の方が一部涙目で「クラリエル様」と呟いていたのは見なかったことにしておきましょう。

 『天使危うきに近寄らず』です。<君子な、君子>


 * * * * * * * * * * * *


 『日本版ネットスーパーの操作画面を対象の魂に定着させます。よろしいですか?』


 <ok> <キャンセル>


 * * * * * * * * * * * *



「これで良さそうですね」


 * * * * * * * * * * * *


 『定着後は遠隔での変更はできなくなります。よろしいですか?』


 <ok> <キャンセル>


 * * * * * * * * * * * *


 水晶盤を操作しつつ、一通りの機能を確認していきます。


 * * * * * * * * * * * *


 『最終確認です。本当によろしいですか?』


 <ok> <キャンセル>


 * * * * * * * * * * * *


 システムに確認画面と確認ボタンが何度も出て来るのが、何時ものことながら少し難儀ですね。

 時折、他の天使からコメントが入ってたりしますが、大体が毎度の事なので、気にせず『OK』を押していきます。


   ◇


「お待たせしました。それでは、日本のネットスーパー形式の能力を所持させておきますね。画面を表示するには、「ネットスーパー オープン」と心で念じて下さい。使い方は画面表示内の説明文を読んでください。あと、あなたはテストケースにもなっていますので、すぐに死なれても困りますので飛びぬけてとはいきませんが、能力値も上げておきますね。それと、前世の記憶も残しておきますね。普段ならこれだけでもかなりの特典なんですよ。何か質問はありますか?」

 わたしがこの特別応接室『白い世界の間』に戻って来て声を掛けると、律儀にも『転生のしおり』を読んでいた様で、しおりを閉じてこちらに顔を上げました。あの『転生のしおり』って配ってもなかなかちゃんと読んでもらえないんですよね。意外とちょこちょことお得情報が載っているんですけど。

「いえ、ありがとうございます」

 特に質問も無さそうなので、あとはいつもと同じに手早く転出手続きを行います。


「では、良き来世を!」


   ◇


「しまった!」

 わたしはある重大な事を失念していました!

 なのでそれを訂正すべく、わたしは大急ぎで総務課に確認に行き、その足で送迎課のゲートに先程の魂の方を捜しに行ったのですが、時すでに遅く神速連絡便が出てしまった後でした。

 ちょうどそこにサフィエル先輩とミサリエルさんが見送りに来ていました。

「パスティエル、慌ててどうしたのよ?」

「実は、特別に異世界への転生をされる方にスキルを付ける事になり、日本のネットスーパーを希望されたので日本版のネットスーパーの操作画面をそのまま魂にスキルとして定着させたんですけど、異世界に『円』は無いですよね」

「無いわね」

「変更とか確認の画面は見なかったのかい?」

「あれって何度も出て来るので、ついいつもの事だと思ってあまり確認せずにOKボタンを押しちゃったんですよ」

「ああ、急いでる時良くやっちゃうのよね。前はよくミサリエルがやっていたわよ」

「あははっ、今はやってませんよ」

「それにしてもそれじゃあ、その異世界への転出者、向こうの世界でスキル使えないって事になるわね」

「……はい」

「仕方無いわね。せめてフォローとして、いずれにしても何かしら考えた方が良いわね」

「……はい」

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