第26羽 ハロウィンの日は大変身です
こんにちは、パスティエルです!
『日本神仏界』では10月を『神無月』と称して一年に一回、日本にいる神々(おそらく出張所や連絡所に勤務している神々も含むのでしょう)を集めての総会が『イズモ』というところで大々的に行われるそうです。
人間社会の感覚に置き換えるなら、『週に一度の管理職級定例会議』と言ったところでしょうか?
ちなみに総会の会場となる『イズモ』では『神無月』ではなく『神有月』と称するそうです。
天使も総会を……ってこれはマズいですね。
聞いた話だと、以前別の界の天使達は神があまりにも自分達を軽視することに憤り、待遇改善を求めて天使達の1/3が神に対し決起するという労働闘争と言う大事件が起こったそうです。結果、その天使達は『堕天』と言う降格及び免職と言う厳しい処分を受けることとなったそうです。
噂ではその後、その方々が集まって起業し、新たな『界』を創り、元の神界と壮絶なシェア争いになっているそうですが……。
それ以外には最近『ハロウィン』が広まってきている様ですが、元の『ケルト神界』では、『収穫祭』と『門』に関わる儀式や祭事のようですが、物質界の日本の人間種の社会ではかなり様相が変わってしまっているのが実情の様です。
まあ、業務改善案を考えている時に日本の物質界を調べたんですが、どちらかと言うと儀式や祭事と言う感じより、お祭りとかコスプレパーティーの様相が強いように見受けられましたが……。
他の神界だと別の神界のイベント事は容認されないか、自分たちの神界のイベントで上書きしているところも見受けられますが、うちの神界は、割と何でも有りな神界なのでこの辺は比較的寛容です。
そんな訳で経緯は兎も角、少し、具体的には一か月程遅くなりましたが手伝ってくれた皆さんと『業務改善案募集! 明日の天界を変えるのは君だ! 最優秀賞おめでとう&神速連絡便を使った定期連絡便の物資輸送の試験運用の無事成功おめでとう!』の打ち上げも兼ねて、自宅で日本の人間種の社会風ハロウィンパーティーみたいなものをやろうということになりました。人間種の社会での一か月は大分遅れていると言う事なのですが、わたしたちからすると人間種の感覚で言うところの一日遅れ程度の事なのでまあ良くあることですので気にしないでください。
<……すみません>
「どうしました? パーティーのタイトル、少し長かったですかね? 誰にでも一目で分かる時代の世相に即したタイトルの付け方だと思うのですが」
<いや、そうじゃなくて、なんとなく?>
と言う訳で折角なのでわたし達もコスプレパー……じゃなくて日本式のハロウィンのようなものをやってみようという事になりまして、それならとトワエルさんに着ぐるみを借りるために仕事が終わってから、コスプレパー……じゃなくハロウィンパーティー会場となるトワエルさんの家に遊びに来ています。
「あははっ、また増えたみたいだね」
あっけらかんと笑いながらミサリエルさんが着ぐるみが所狭しと置いてある部屋の中を見渡しています。
「うわぁ、すごいですねぇ」
「ほんとね」
サフィエル先輩とメルエルちゃんは呆気に取られて眺めています。
所狭しと言いますか、以前物質界の人間社会の事を調べている際に見た『ラッシュアワーの満員電車』のイメージがピッタリ重なる気がします。
「乗車率何パーセントですか?」
「……八百万パーセント……百鬼夜行電車……」
「駆け込み乗車とモンスタートレインはご遠慮下さい」
「……そろそろ増築か倉庫を建てるか借りるかしないと置き場に困る」
減らすという考えは無いようですね。
「……ああ、カルキノスこの蓮糸で織った布を型通りに裁断しておいて」
本当に無いようですね。言ってる傍から増やしてます。
トワエルさんがカルキノスに指示を出すと、カルキノスはハサミをカチカチ鳴らし、多分了解の意を示してから、即座に生地を裁断し始めました。
実に器用なハサミ捌きですねって、カルキノスってペットじゃなくて従業員だったんですか!? まあ、副業じゃなく趣味でしょうけど。
「ところで毎回着ている着ぐるみって、全部トワエルさんが作っているのですか?」
「……ほとんど自作自演……」
「使い方間違ってますね」
「……出来合いの物は、最近『中国神仏界』の日本支部付近にできたお店『天衣無縫』とか……」
「ああ、生地に縫製の痕が一切無いっていう話の……」
そんなこんなで、折角ですのでテーマを決めようという事で、今回のテーマは『物質界の日本』の関係のものという事になりました。
◇
- パスティエルの場合 -
「まずはわたしですね。『日本神仏界』でわたし達と同じような職務に付いている『天女』の方々のユニフォームを選んでみました」
この羽衣が良いですね。空を翔ぶギミック付きなのがメルエルちゃんに『ギリシア・ローマ神界』からのお土産に買ってきた『神アテナ様・神ヘルメス様共同デザインモデル、神式会社ニケ製造・販売 限定版金色の羽の付いた靴』みたいです」
「うわぁ、パスティエルちゃん、とても似合ってて可愛いですぅ」
「有難うメルエルちゃん。何か他の神界の制服を着るのって気恥しいね」
「ああ、分かりますぅ」
◇
- サフィエルの場合 -
「サフィエル先輩は巫女服ですか」
「どうかしら、和装って初めてするから変じゃないかしら?」
そういって動く度に着物の前の合わせた部分が乱れて、谷間が! 谷間が!
「どうしたのよ、パスティエル? 両手を床に付いて?」
「母なる山々が無ければ挟谷はできないのですね」
<峡谷な、峡谷>
◇
- クラリエルの場合 -
キッチンに入って行くと、わたしが『ギリシア・ローマ神界』からお土産に持ってきた『神ヘスティア様モデルの小型卓上コンロ』を前にして二本のしっぽの付いた猫の着ぐるみを着て後ろ向きにぺたんと女の子座りをしてこちらを振り返って見つめて来るクラリエルさんの姿がありました。
その頭にはコンロで使うはずのゴトクが載せてありそのネコ手には息を吹いて火を強める為の竹筒を持っています。
「クラリエルさん、何ですか? その狙いまくった感じの衣装と構図は?」
「ふふふ、『日本神仏界』の『妖怪』の所を見ていたら面白そうなのを見つけてね。「五徳猫」って言うんだけど、これ、書いてある通りにしたら可愛いのではと思ってやってみたんだけど、どうかな?」
可愛いはかわいいのですが、何故でしょう? クラリエルさんがやるとあざとさが前面に出てくるような感じがひしひしとしますね。
「どうしたの、パスティエル? 今、この前お土産にもらったA5ランクのミノタウロスのミノ・タン・ロースの炭火焼きが出来るからね」
「いえ、何でもありません。とてもお似合いです」
<変身、じゃなくて、変わり身、速いね>
◇
- メルエルの場合 -
「ああ、これは解ります。確か『日本神仏界』の職員の方の中にもいらしたと思うのですが、『カラステング』の衣装で良いですよね」
「当たりですぅ」
何とも嘴がチャーミングでメルエルちゃんにぴったりですね。
「もしかして鳥類班だから鳥関係を意識しました?」
「えへへ、はい、やっぱり分かっちゃいましたかぁ」
「その羽根は染めたの?」
「いえ、自分の羽根は小さくして、トワエルさんから借りた付け羽根ですぅ」
「これもウイッグでいいのかな?」
そんな事を話しているとまだ着替えていないミサリエルさんとトワエルさんがやって来ました。
「そう言えば、物質界の人間社会の髪染めに結構派手なのがあったよね。紫とかオレンジとか」
「……オシャレ染……」
「!!!」
紫のオシャレ染。
「わっ、わたしは違いますよ!」
「んっ、どうしたんですか、パスティエルちゃん?」
◇
- ミサリエルの場合 -
「じゃ~ん! どうかな? 『くの一』になってみたよ。ジャパニーズシノビってね」
『ジャパニーズシノビ』って、『シノビ』は元々日本では?
袖が無く太腿が露わになる程丈の短いド派手なショッキングピンクの色の着物に袖から腕にかけてはキラキラと光る鎖帷子。脚にはニーハイソですか? 物質界の日本の人間社会で言うところの所謂『絶対領域』と言うやつですね。
手には、あれは確か『手裏剣』と言う物でしたよね。何か星の様に輝いていますけど? 元々は闇夜に紛れる為、つや消しまでして目立たない様にしている筈ですが……。
うん、全然忍ぶ気、有りませんね
日本の忍者象の破壊も甚だしいですね。
「そういえば『忍者』って『モンスター』なの?」
「えっ?」
珍しくサフィエル先輩がとんでもない事を言って来ました。
「わたしが北アメリカ地区の守護課にいたのは話したわよね」
「はい。前にここでカルキノスのお見舞いに来た時に聞きました」
「ちょっと前にその北アメリカ支部の同僚から資料を貰ってね。そこには、死んでも魂が刀に乗り移ったり、他の西洋モンスターと一緒に勇者達に襲いかかって来るなんて記述があったのよ」
「一体何の資料ですか!? その同僚の送って来た資料は!?」
ここにもいました!
「違うの?」
「違います! 『ニンジャ』は物質界の日本の人間種の職業の一種な筈ですが」
忍者がモンスター扱い。
「『ニンジャ』がモンスターなんてそんな訳……」
「あっ、でもあたしが見た日本の妖怪資料の中に忍者の原型とされる『鬼』があったような」
「有りました!」
◇
- トワエルの場合 -
トワエルさんの場合、しょっちゅう着ぐるみ着ているので、言ってしまえば普段通りなのでは?」
そう言えば『日本神仏界』のなら、以前『八岐大蛇』を見せてもらいましたね。
今回はどんな
「……新作……ゴスロリ風メイド服……」
想像の斜め上でした。
「それ、どっちも本来ヨーロッパが本場ですよね?」
「……でも、ヨーロッパの女性が日本じゃないとゴスロリ着れないって言ってた……」
「何処でも文化は変化するものなのですね」
「……日本、良いとこ……」
「そうですね」
◇
- おまけ、カルキノスの場合 - <やるんかい!>
「……カルキノスは化けガニ……」
「そのまんまですよね」
カルキノスのハサミには以前、わたしがカルキノスのお見舞いに持ってきた松葉杖を再利用して作ったらしいプラカードが挟まれて掲げられています。
「何やらかいてありますが、何々『問題です! 両足8本。横歩きが得意で、眼は天上を見る。さて、わたしは何でしょう?』……さっき、トワエルさん答え言っちゃってますよね」
あっ、カルキノスが悲し気に部屋の隅に……悪い事してしまったでしょうか。
「……独鈷杵……鉄扇……」
「それ、化け蟹が退治されたときの武器だよね」
コスプレの為妖怪を調べていたというクラリエルさんがすかさず突っ込みを入れました。
「トワエルさん、とどめ刺そうとしないで下さいね」
◇
「取り敢えず着たは良いけど、これからどうするの?」
「はっ、考えてなかった!」
「……支部八区廻廊でも……練り歩く? ……」
「「それはぁ、ちょっと」」
「……じゃあ、支部八区廻廊でも……掃除する? ……」
「それ、トワエルさん以前にやってましたよね」
<周りに迷惑にならない様に楽しみましょう>




