第24羽 お土産は大量です
こんにちは、パスティエルです!
搭乗ゲートで係員に止められる事も無く、トラブルも何事も無く無事ギリシア・ローマ神界の旅から帰ってまいりました。
はあ、それにしても、夢の様な時間はあっと言う間に過ぎてしまうものなのですね。
次の機会は何世紀後になるでしょうか……。
それどころか、機会すらあるかどうか……。
「また行きたいなあ」
いけませんいけません。折角楽しいリフレッシュ休暇だったのですから心機一転張り切って行かないといけませんね。
「よしっ!」
わたしは両手で軽くパンパンと頬を叩きつつ気合を入れ直して職場である転生課に出勤して来ました。
そして職場に出勤して早速、皆さんにギリシア・ローマ神界のお土産を配って回ることにしました。
転生課の方々全員には、胡麻を蜂蜜で固めたお菓子のパステリとカスタードパイをシロップに漬けた感じのボリューム感のある食べ応えのガラクトブレコ、それに餅々とした食感に粉砂糖をたっぷりまぶしたルクミを買って来ました。
提案した『神速連絡便を使った定期連絡便の物資輸送』の試験運用の検証と称して……こほん、兼ねて、これでもかと買い込んで来てみましたよ。
もちろん、大部分が経費として神力を頂いていましたので、懐具合を気にする事無く思う存分買い込んでみましたよ。
ええ、それはもう、苦労した分、遠慮なく。
こういうのを物質界の日本の人間の社会では『大人買い』と言うのでしたっけ?<大人気無い大人買い>
この辺はクラリエルさんの有り難い入れ知恵と言う名のアドバイスのおかげです。<逆だ! 逆>
横から見ていて改めて思ったのですが、わたしだけでやっていた時は総務課への根回しとか手続きとか苦労していたのがあんなにあっさりと進むなんて、やっぱりクラリエルさん凄いというかなんというか……一部、総務課の天使が涙目になっていたのは見なかった事にしましょう。その際に「クラリエル様」と言う悲鳴にも似た声がちらほらと聞こえて来たのも幻聴ということで聞こえなかったことにしましょう。
そう言えばその中に広報課のロムエルちゃんの声も混じっていた様な気がしますが、きっとあれも幻聴と言う事なのでしょう<不憫な>
「……はむ……」
普段から言葉数の少ないトワエルさんが一言も話さずに黙々と食べ続けています。
無口キャラで食いしん坊キャラですか。更にもう一つ欲しいですかねぇ?
「ほら、トワエル、ほっぺたに胡麻が付いてるよ。あっ、こっち側には粉砂糖が付いてるし。はい、こっち向いて、拭いてあげるから」
「…はふ……はひがほう……かぷ……」
トワエルさんの頬をミサリエルさんがポケットティッシュを出して拭って上げています。何でしょう? ボーイッシュなミサリエルさんがお姉ちゃんキャラになってます。
あのポケットティッシュ「残念賞!」とデカデカと書いてありますが何なのでしょう? 何か前に聞いたような気がしますが?
「もう。口に食べ物入れたまま喋らないの」
「……ふぁい……ほへんはふぁい……ほふ……んぐっ!」
「ほら、お水。だから言ったんだよ。喋らないで良いから、まずはコレ飲んで。慌てないで少しずつゆっくり飲むんだよ」
そう言いながらミサリエルさんがトワエルさんの背中を優しくさすっています。
訂正します。ボーイッシュなミサリエルさんがお母さんキャラになってます。
それはさておき、他の組、特に普段ならほとんど会うこともなかった『は組』の皆さんとも、残業の時に知り合いまして……。
だって、殆どおうちに帰れていませんでしたからね。ぐすん。
<また、涙ぐむし>
今思えば、あの苦しかった残業の数少ない良かった事のひとつですかね……。
もちろん、他の組の皆さんにも、十分行き渡る様に買ってきてありますのでご心配無く。ええ、それはもう、じゅ~ぶんに。
それ以外にも、総務課連絡送迎係や秘書課他神界調整係など、今回の企画の実行に当たってお世話になった各部署の方々へのお土産も忘れていません。
それとは別に、親しい方々や日ごろお世話になっている方々には、もう一つお土産を用意して来ました。
「サフィエル先輩にはオリンポス山限定ネクタル。何と限定版ヘーベーボトルとガニメデスボトルの詰め合わせ」
「ありがとうね。早速、帰ったらうちでゆっくり飲ませてもらうわ」
サフィエル先輩が満面の笑みで受け取ってくれました。日本地区にあるギリシア・ローマ神界日本支部周辺では手に入らない一品です。しかも限定版ボトル。これは絶対にサフィエル先輩のお土産にぴったりだと思って購入しましたが、大正解だった様で何よりです。
「メルエルちゃんにはこれです! 神アテナ様・神ヘルメス様共同デザインモデル、神式会社ニケ製造・販売 限定版金色の羽の付いた靴」
「ありがとうございますぅ。うわぁ、可愛いですぅ」
「この靴、宙を翔べるギミック付きって……私達天使にはあまり関係ないけど」
(わたしも現地でそう思ったんですけど……と言うか、メルエルちゃんには必要なさそうな気もしましたが、妙に合いそうで、気になって買ってきてしまいました)
「そんなことないですよぅ。羽が疲れた時なんかとても便利そうですぅ」
そもそもメルエルちゃんには羽すら必要なさそうなのですが……。
「まぁ、鷲が翔ぶよりは速く翔べるみたいだから通勤には便利かもね」
「クラリエルさんにはこれです! 神ヘスティア様モデルの小型卓上コンロ。ギリシアコーヒーから日本のお鍋まで火加減バッチリの優れものですよ!」
「へえ、これは便利そう。んっ? なになに『火種を大切に』って書いてあるね」
「さらにさらに、今ならパスティエルセレクション、豪華ミノタウロス牛A5ランクのミノ・タン・ロースのセットも付いてきます!」
<駄洒落かい! それクレタ島のミノタウロスにひっかけたつもりなのかい!?>
「おお、これは良いね。帰ったらうちで早速何か作ってみようかな」
「にしても、パスティエルちゃん、なんだか話し方が慣れてますねぇ」
「あはは、ちょっとね」
「ん?」
物質界を見ていた時、人間種の深夜のテレビショッピングが何気に面白かったのでついつい見入ってしまって、どうやらその影響を受けた様です。口調にあのセールストーク調の喋り方が出ちゃってましたか。
「ミサリエルさんには『鍛冶師キュクロプス作 三叉の矛 ポセイドン様モデル』です」
「うわぁ、ありがとう! すごくバランスが良いね!」
早速、手に取ると、頭上でヒュンヒュンと音を立てながらクルクルと素早く回転させてから、ピタリと構えをとりました。鮮やかなものですね。
おお、スポーツ少女キャラですか。と言うより格闘キャラですね。と言うか、とても様になっていてなんだか天使と言うよりゲルマン神界のワルキューレの様ですね。
ちなみにこの三叉の矛、水の中に入れて神力を通すと水流を起こせるので洗濯にもとても便利です。
「トワエルさんには、クノッソス遺跡の立体パズルです。付属品としてミノタウロスやテーセウス等のフィギュアも付いてます。ラビュリントスの部分が完成するとミノタウロスになって生贄を得るか、テーセウス達となってミノタウロスを倒すか、ミノタウロスとテーセウスの両方に別れて対戦するかの3種類のゲームが楽しめるボードゲームとして遊ぶこともできますよ」
「……はひはとほ……むぐっ!」
まだ、頬張っていたのですね。
「だから。口に食べ物入れたまま喋らないの」
ミサリエルさんが『鍛冶師キュクロプス作三叉の矛 ポセイドンモデル』を持って『日本神仏界』の金剛力士の如く仁王立ちしていますが、中々の迫力が有りますね。
「……ごめんなひゃい……」
スポーツ少女キャラでも、格闘キャラでもないですね。
訂正します。やっぱり、お母さんキャラです。
それから長期出張中の係長の机の上には、長持ちするオリーブと蜂蜜の詰め合わせを置いておきましょう。
「おお、意外とまとも」
「クラリエル、一体何を期待しているのよ」
「そしてリーイン課長にはこれです! じゃん! 『炎と鍛冶の神ヘパイストス作 黄金の椅子』のレプリカです。どうぞ、お座りください」
「ほう、これは座り心地がええのう」
レプリカとはいえ『ギリシア・ローマ神界』の十二神の一柱で有らせられる女神ヘラ様に、まだ神ではなく駆け出しの頃とは言え炎と鍛冶の名工ヘパイストス様が献上したと言う一品です。
「にしても、あれってお土産に貰っても後の置き場に困るわよね」
「あんな大きい物をどうやって持って来たんでしょうぅ?」
「ああ、何でもこの前の業務改善案募集の時にパスティエルが提案した『定期連絡便を使った物資輸送』の試験運用の検証も兼ねたそうよ」
「それ良いのかなぁ」
「さぁ? でも、手伝ってた時、何やら書類作って支部長決済まで取っていたし、問題はないんじゃない?」
「あの娘は……意外と余裕あったのか?」
「そう言うけど、半分くらいはクラリエルの入れ知恵でしょ?」
「やだなあ、入れ知恵だなんて天使聞きが悪い。ちょこっとアドバイスをしただけと言ってほしいなあ」
「はあ、まったくこの子は」
「まぁまぁ、それだけ元気になったんですよぅ」
「……そうね。クラリエルも元気付けるつもりでやってたみたいだし」
「まあね。頑張ってたしね」
「それにしても……あれ、鎖とか出たりしないわよね?」
「(ボソリ)ダモクレスの剣とか吊るして……ああ、しまった! レプリカ買って来れば良かった」
「パスティエルから黒いもやが見える! 残業の影響まだのこってるじゃん!」
「あははっ、パスティエルちゃん、ほんとうに残業がんばりましたからねぇ」
「リーイン課長、この『炎と鍛冶の神ヘパイストス作 黄金の椅子』はレプリカとはいえ、12段階リクライニング機能付きでベットにもなる優れものなんです!」
「ほほう、こりゃええのう」
「……やっぱり、鎖とか出たりしないわよね?」
「良き来世を!」
「……出たりしないわよね?」




