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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
2/31

第2羽 勤務条件は大切です

 新神しんじんは笑顔が基本です!

 ……実際はまだ天使ですが、来られる方にはそんなこと関係無く見られている事もあるようです。

 まぁ、地域によっては、勢力争いに敗れた神々が吸収されて神格を下げられ天使となっているというところもありますので、的が外れている訳ではないのですが、この辺りは本当に長い歴史の中で複雑になっていますので説明は割愛させていただきます。

 ちなみにわたし達天使の名前の最後に付いている『エル』ですが、ヘブライ語で『神』を表していて、伝統的に名付けられています。中には『エル』の付いていない方もいらっしゃいますが、その方々は人から天使になられたりと少し変わった事情があるようです。

 と、言う訳で、初めの挨拶行ってみましょうか!

「初めまして! 転生課へようこそ!」

 ゴツン!!

 わたしとしては、飛び切りの笑顔で対応したのですが、後ろから先輩天使のサフィエルさんに拳骨を落とされました。ものすご~く痛いです。

 金髪のロングウェーブで、スタイルが良くて……わたしの憧れの先輩ですが、同時に仕事はきっちりこなす厳しい先輩でもあります。

「痛いですよ。サフィエル先輩」

「パスティエル。何でそんなに満面の笑顔で出迎えてるのよ」

「前回、『初めの挨拶は大事です!』と謳ってしまっていたので今回もすべきかと思いまして、元気良くやってみました」

「なんの話よ! あのね、ここに来る人は、ほぼ100%亡くなられて来た人達なの。そんなに嬉しそうに出迎えてどうするのよ。笑顔は大切だとは言ったけど、優し気な慈愛に満ちた笑顔を心掛けなさいな」

 いきなり怒られてしまいました。笑顔って難しいです。

「すみません。サフィエル先輩」

「次から気を付けてね」

「はい、以後気を付けます」

 わたしの直接の先輩になるサフィエル先輩が、自分の持ち場に戻って行くのを見送りつつ、気を取り直して、もう一度いってみましょう。

「はじめまして。転生課へようこそ」


   ◇



「はぁーい。鳥さんたちはこちらでぇーす。おとなしく一列に並んでくださぁーい」

「植物の方の受付はこちらです! そこっ、根を列からはみ出さないで下さい!」

「は~い、ワンちゃ~ん、集まれ~!」

「……トカゲ達……整列! ……気を付け! ……前ならえ! ……休め! ……」

 各班の担当が、それぞれの種族に振り分けて手続きがスムーズに行える様に誘導しています。

 ちなみに、最初の全力で力の抜けそうな声で鳥たちに呼びかけているピンク髪のフワフワロングウェーブのが、鳥類班でわたしの同期のメルエルちゃんで、語尾が間延びする見た目通りのおっとり感のある天使です。羽が無くても浮かびそうです。……わたしは密かに信じてます。

 その向こうでキビキビと植物の列を仕切っている緑髪ショートヘアの天使が植物班のクラリエルさんです。サフィエル先輩と仲が良い関係で、わたしもお世話になっています。何処からともなく噂話や裏話を仕入れて来る情報通です。

 あっちで犬を呼び集めている茶色の髪のボーイッシュな天使が哺乳類班のミサリエルさんで、見た目通りの元気っでボクっ天使です。

 そして、最後にトカゲに何やら芸を仕込もうとでもしている青髪セミロングの天使が爬虫類班のトワエルさんで、口数の少ないおとなしい方です。ミサリエルさんと仲が良いのでよく一緒にいます。

 「鳥類とか植物とか犬とかトカゲとか、言葉は通じるのか?」って、ああ、その疑問はもっともですね。

 それはですね、ここには亡くなられて『たましい』の姿で来ることになりますので、多少の違い……そうですね、日本で言うなら方言のようなものが有りますが、意思疎通、つまり会話は問題なく行えます。もちろん、日本語も他の外国語も同様です。感覚的には、話し手が考えている様に聞こえてくる感じでしょうかね。


   ◇


 先ずは、基本的な事からお話ししていきます。

 人間界で天使は、幾つかの宗教で神様に仕える者として登場しています。

 一般的には『一神』に仕えているケースが有名ですね。

 ですが、わたし達のいる天界は、一般的に人間界で知られているものとは違い多数の神様が存在しています。主に管理職として……。

 ちなみに『神界』と『天界』の人間の社会における考え方は様々あるようですが、わたし達の『界』に関して言いますと、例えるなら、山の裾野の一区画が『天界』で、残りの山全てが『神界』といったところでしょうか。まぁ、広さは、山とは比較にならないほど広大ですが。

 『神界』も『天界』も同じ『界』が付く為、同格と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、天使は神様の指示の元、勤めを果たしているので、主に神様が在す『神界』と主に天使のいる『天界』には明確な格の差が存在しています。

 なので、天使は『神界』に立ち入ることが出来ず、逆に神様が『天界』に来られて指示を出されることになります。

 天使で『神界』に入れるのは、大天使などの格を上げた天使が、尚且つ、神様からお召しになられない限り、ほぼ有り得ません。

 なので、一般的な窓口や事務室、会議室はもちろんの事、管理職の執務室なども天界にあります。あっ、天使達の居住区もです。

 そして、見たことはありませんが、『神界』にも神様方専用の会議室や執務室などが当然有るそうです。

 そうですね。少し違うかも知れませんが、人間の社会でイメージし易く言うと、一般区画と管理者区画の違いみたいなものでしょうか。実際はもっと厳しいですが。

 ですので、通常は『天界』を含めた全体を指して『○○神界』と呼称することが多いです。

 まぁ、わたし達のいるこの場は『天界』になりますが、『神界』の一部となりますので『神界』でも『天界』でもどちらでも間違いではありませんよ。

 そして、わたし達は神力を貯める事によって神格を上げて行きます。文字通りの昇格ですね……。

 要するにここは、あまり人間界では知られていない『神界』と言う事になります。

 他の神界での天使は圧倒的に男性が多く女性は少ない、所謂、男性職場なのですが、わたし達の神界……特に、ここ日本支部は女性の天使が多い職場です。

 ここ数百年くらい前から、他の神界でも女性天使が増えてはきているようですが、この日本は他の神界と比べて圧倒的に女性天使の比率が高いという事が、総務課統計係の調査で出ているとクラリエルさんが教えてくれました。

 どうやら何か受け入れやすい土壌があるようですが。

 興味深いですね。

 まぁ、男性女性と言っていますが、人間の居る物質界と違い、神様の形に似せず、自由な形をとっている天使も多数いたりします。特に上位天使様になる程、そのフリーダムさは際立ってきますね。

 他の神界の上位天使様の中には、翼の数を増やしていくのは普通で、顔の数が複数だったり、手や目の数が数十にのぼったり、それどころか身体が輪っか状で翔び回っていたりと、流石上位天使様と言ったような個性の豊かさです。

 わたし達では、精々翼の大きさを変えたりできるくらいですね。しかも、翔ぶ時は、大きく広げていないと翔べません。

 やはり、第一線で活躍し光り輝く方々は、何処か違っているのでしょうね。

 割と何でも有りの日本人の方々なら受け入れやすいのではとわたしは思っていたりしますが。……だと良いなぁ。

 話を戻しまして、次に勤務体制や待遇面について少しお話したいと思います。

 あくまで目安ですが、勤務は人間の日にち間隔で約7日、わたし達の感覚を人間に合わせるなら約7時間と言ったところでしょうか?

 四交代制で、約28日で一回りします。人間では一日にあたりますかね。多生の調整は入りますが、おおよそこんな感じです。これによって、人間の社会で言うところの「24時間、365日、年中無休で休まず営業!」が実現しています。

 あっ、ここで誤解のないように言っておきますと、時間間隔の話をしていますが、あくまで長く生きている為気が長いと言う事と連続稼働している事を何となく理解していただければと思い例えてみましたが、人間の社会と同じように一日は過ぎますし、1年は1年として認識していますよ。

 年齢換算も1年で1歳大きくなります。ただ、数千年生きているので、みなさんとはこの辺の感覚がずれるのではないのかと思いまして……分かりずらかったでしたかね? まぁ、この先も時折この例えを使うと思いますが、イメージ程度と考えて下さい。

 4交代制のそれぞれの呼び名は日本好きの神である日本支部長の「日本なのだから日本的な言い方が良いだろう」との天啓により、以前、日本にあった『町火消し』と言う組織の名前にちなんで、『い組』、『ろ組』、『は組』、『に組』の4組に分けられてシフトを組むことになったそうです。ちなみに、わたし達は『い組』ですので、『ろ組』と『に組』の方々とは引継ぎで話すこともあるのですが、『は組』の方々とは会う機会が殆どありません。……正直、分かり辛いです。何で上は、こんな変な……いえ、何でもありません。

 呼び方は兎も角、この『シフト制』は最近になって取り入れられたそうで、なんでも暇をしていた上層部の神様が人間の社会を見ていた……コホン、監視していらした時に、面白そうだと……コホン、効率が良さそうだと取り入れることにしたそうです。……クラリエルさんからの裏情報でした。

 まぁ、神界も神材不足じんざいぶそくが深刻で、どうにか神員じんいんを効率よくやりくりしようと考えての事のようですが。

 聞いた話だと、以前別の界の天使達は神があまりにも自分達を軽視することに憤り、待遇改善を求めて天使達の1/3が神に対し決起するという労働闘争と言う大事件が起こったそうです。

 結果、その天使達は『堕天』と言う降格及び免職と言う厳しい処分を受けることとなったそうです。

 噂ではその後、その方々が集まって起業し、新たな『界』を創り、元の神界と壮絶なシェア争いになっているそうですが……。

 そんな訳で、わたし達の神界の上層部の神様方も他神事たじんごとでは無く「これではマズい!!!」と、いろいろ配慮してくれる様になったそうです。

 そのおかげで、急な休みや交代も可能ですし、もちろん勤務の間の中で交代して休み時間もちゃんと取ることができます。

 後は、先程の地球との日にちのずれの調整も兼ねて、各種イベント、支部内運動会や『忘世紀会』なんかも執り行われたりもします。

 あと大切なのは、人間の社会で言うところの『給与』というものは無く、それぞれの与えられた役目を果たすことによって『神力』が溜まっていくことになります。これは人間の社会では、出来高制に当たるでしょうか? 時折、神が成果を上げた天使に対して、特別に『神力』を与えて下さることも有ります。こっちは、特別手当ですかね? わたし達は、この『神力』によっていろいろなことが出来るようになります。

 おっと、そろそろ勤務も終わりの様です。最後の担当の方を見送って、後片付けと『ろ組』の方に引継ぎをすることにしましょう。


   ◇


「ありがとうございました! 良き来世を! またのご利用をお待ちしています!」

 ゴツン!!

「痛いですよ! サフィエル先輩」

「だ~か~ら~」

「あぁ、パスティエルちゃんまた拳骨貰ってますぅ」

「……わざとやってないかしらあのは?」

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