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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
18/31

第18羽 芝生の上では大の字です!

「お~い、パスティエルちゃん! メルエルちゃん!」

 わたしとメルエルちゃんが受付窓口の大ホールから休憩を取る為に廊下を歩いていると、遠くから、わたしたちを元気良く呼ぶ声が聞こえてきました。

 ふと振り返って見ると、長い廊下の向こうから手を振りながら笑顔でタッタッタッタッという効果音がして来そうな感じで黄緑色のポニーテールを揺らしながら走り寄って来る広報課のロムエルさんの姿が見えました。

 彼女は同世紀採用で採用研修の時もわたしやメルエルちゃんと同じグループだったので、お休みのときも一緒に遊びに行ったりする仲です。

「ロムちゃん、こんにちはですぅ」

「ああ、メルエルちゃんこんにちはって、パスティエルちゃんも、今から食事休憩?」

「はい、こんにちは。ロムエルさ……ちゃんは職場内広報誌のインタビューの帰りですか?」

「うん、そう。あはは、それにしてもパスティエルちゃん、ほんと治らないね、それ。私も今から食事休憩を撮るつもりだったの」

「それではロムエルちゃんも一緒に食べませんかぁ?」

「いいの?」

「もちろんですぅ」

「はい。よろしければ、折角ですから庭園に出て芝生の上に座って日向ぼっこでもしながら食べませんか?」

「いいね、それ」

「はい。前々から一度やってみたいと思ってたんですよ。で、今回、メルエルちゃんに話をしてみたらメルエルちゃんもやってみたかったらしくて。ロムエルさ……ちゃんも来てタイミングも良いですし、三柱で行きましょう」

「賛成ですぅ!」

 わたし達は庭園に出ようと、皆で廊下を歩き始めます。

「そう言えばパスティエルちゃんにメルエルちゃん、この前はインタビューに協力してくれてありがとうね」

「いえいえ」

「でもぉ、あまりお話しできなかったのが残念でしたぁ」

「あの時は仕事の都合上あまり時間が無くてゆっくり話せなかったしね。あっ、思い出した。パスティエルちゃん、総務課企画係の『業務改善案募集! 明日の天界を変えるのは君だ!』に応募したんだって?」

「そうなんですよぉ。パスティエルちゃん、ものすごく頑張っていたんですよぉ」

「よく知ってますね。流石は広報課。情報が速いですね」

 そうなんです。業務改善案募集の商品『最優秀賞 ギリシア・ローマ神界ご招待!』に思わず目が眩み、何かにとりつかれたかの様に応募してしまいました。

<ちがうよ! 何もしてないからね>

「まずは一次審査通ると良いね。応援してるよ」

「有難うございます」

 わたし達は他愛もないおしゃべりをしながら中庭の芝生の上へと歩いて行きました。


   ◇


「う~ん、芝生の上、気持ちいいね」

 食べ終わって一息ついた後、ロムエルちゃんが両手を伸ばし両足も投げ出してそのまま芝生の上に寝転がりました。

「ロムエルさ……ちゃん、食べたばかりで寝るのははしたないですよ」

「いいじゃんいいじゃん。パスティエルちゃんとメルエルちゃんもやってみなよ。気持ちいいから」

「それじゃあ、わたしもぉ」

「……そうですね」

 ああ言ったものの実は内心わたしもやってみたかったりしてました。なので素直に提案に乗ります。

 わたしとメルエルちゃんもロムエルちゃんに倣って両手を広げ両足を投げ出して芝生の上に寝転がります。

 三柱で頭を突き合わせるような形で空を仰ぎ見ています。

 流れ行く雲をながめつつ耳ををすませば、風に吹かれて揺れ騒ぐ草木の音が直接頭の中に心地良く響いてきます。その風は微かにわたしの頬を撫で、目を閉じればそのまま夢の世界へといざなってくれそうです。

「それにしてもパスティエルちゃんの話し方、もう少し砕けた感じにならないかなぁ?」

「そうですか? 自分ではそれなりに砕けているとは思うんですけどね」

「それだよ。その話し方。メルエルちゃんにもそんな感じでしょ?」

「そうですねぇ。でもぉ、パスティエルちゃんはこれで合っていると思いますよぉ」

「まぁ、合っているかと聞かれればキャラ的に合ってはいるけど。う~ん、そうだなぁ、試しに私達のこと『エル』を取って呼んでみようか」

「キャラ的って、何か狙って作っているみたいで天使聞きが悪いですね。『エル』を取ってですか? わたし達天使は大体『エル』が着くのが一般的ですし、付けないで呼ばれると何だか違和感といいますか……天使じゃなくなった気がするといいますか……落ち着かない感じがしますね」

「別に『エル』がなくなっても格が下がる訳でもないし。右回りでやってみようよ。始めに私からいくね。パスティちゃんにメルちゃん」

「はいぃ。じゃあ、次わたしがやってみますねぇ。パスティちゃん、ロムちゃん……両方ともあまりイメージが変わらない気がしますねぇ」

「と言うか、メルエルちゃんが言うと違和感そのものが無いんですけど」

「うん。いつも通りのような気がする。はい、次パスティちゃん」

「え~っと、では……メルちゃん、ロムちゃん。何か慣れませんね」

「ノマエルちゃんにはかなり砕けた話し方だったと思うけど」

「ああ、ノマエルは幼馴染ですから……まぁ、所謂腐れ縁と言うヤツですね」

「そうなんだ」

「ええ、実家も近所ですし、見事に学生時代は全学世紀同じクラスでしたよ。就職も同じで配属地区も同じ。唯一と言うか、今回初めて所属が別になったんですけど」

「わぁ、すごいですねぇその確率。なかなか幼馴染でも有ることじゃ無いですよぉ」

「うん。何かの陰謀があるんじゃないかと思うくらいに」

「わたしも最初は凄い偶然とか思ってましたけど、流石に高等部に進学した時あたりにそう思いましたね。現在では「ああ、やっぱりね。またか」って感じですよ」

「で、ノマエルちゃんは今どうなの?」

「守護課は物質界と天界を行ったり来たりで忙しいみたいですよ。日本地区に配属になった後に新世紀採用研修を受けてからだと殆ど会ってませんから、あまり話は聞けていませんけど」

「へえ、そうなんだ。今度取材対象として企画を立てて上げてみようかなぁ」

 そういうとロムエルちゃんは何事か考え始めているようです。

 わたしもボンヤリと空に目をやります。おおっ、あの雲の並び北斗七星みたいになっていますね。惜しむべきはミザールのそばにアルコルがないことでしょうか。実際の視力検査で星座を見たなら見えるのですけどね。

「さっきの続きで試しに、周りの方々でも『エル』を取るの、やってみましょうかぁ」

「そうだね。パスティちゃん、転生課でやってみようか」

「まだ続いてたんですか。まあ良いですけど。では、最初は……サフィ先輩」

「おお、流石! やっぱり恰好良い感じがするね」

「すでに、砕けた呼び方の練習というよりも、聞こえ方の感想になってますねぇ」

「あははっ、いいじゃんいいじゃん。面白そうだし。続けて続けて」

「クラリさんとミサリさんだと何だか姉妹みたいですね。両方ともサバサバしてるし、性格も近い感じがしますから、もう姉妹でも良いのでは?」

「でも、クラリエル様は見た目によらずインドア派みたいだよ。ミサリエルさんは見たままアウトドア派だけどね」

「「『様』って?」」

「あはは、何でもないよ。何でも」

「「んっ???」」

「それよりパスティちゃん、続き行ってみようよ」

「えっ、あっ、はい。トワさんは……何だかとても日本的な名前になりましたね」

「趣のある響きがしますねぇ」

「そうだね。日本語の響きで『とわ』だと『永久』って意味があるらしいしね。それはそうと、トワエルさんって変わってるよね」

「そう言えば、トワエルさんと言えば、ミサリエルさんが今のわたし達みたいに食べた後すぐ横になると牛になるって日本の物質界の言い伝えにあるという話をしてくれたんですが、それを聞いて次の勤務の食事休憩の時に休憩室でミノタウロスの着ぐるみを着て横になってたんですよ」

「何でミノタウロス? って言うか、よくミノタウロスって分かったね」

「寝ている前に大きな斧がありましたので。でも、何故かカルキノスが『挑戦者求む!』と書いた立て札を持ってましたね。あ、カルキノスと言うのはトワエルさんのところのお供のカニです。その前にボロボロの剣が置いてありましたけど、あれは模擬戦のお誘いだったのでしょうか? にしても、あちらは大きな斧でこちらはボロボロの剣なのはズルい気がしますね」

「引っかかったところそこ? いや、多分模擬戦のお誘いじゃないと思う……どうなんだろ?」

「ちなみに今はバクを作っていますよ」

「バク? アリクイに似てる動物?」

「中国神仏界の霊獣のバクです。ちなみにミサリエルさんの話だと動物のバクとアリクイは全くの別物だそうですよ」

「中国神仏界の? どんなのだっけ?」

「胴は熊、尾は牛、足は虎、鼻は象、目はサイで悪夢を見た次の日の朝にお願いするとその悪夢を食べてくれてその悪夢を二度と見なくしてくれるそうです」

「それ、キメラじゃないの? 悪夢を食べるというより夢に出て来そう」

「キメラと言えば、この前はヌエの着ぐるみを着てましたね」

「ヌエって、頭がサル、胴はタヌキ、手足はトラ、尾は蛇の?」

「そうそう。本当、掴みどころのないですよね。まあ、ヌエも実際は鳥のトラツグミの事みたいですけど。ねっ、メルエルちゃん?」

 わたしは鳥の話は鳥類班だろうとメルエルちゃんに話を振りました。

「……」

「あれ? メルエルちゃん?」

「スーー。スー」

「あれまあ、完全に眠っちゃってるね」

「そうですね。でも、そろそろ起こさないといけませんね。メルエルちゃん、起きて下さい」

 わたしはソッとメルエルちゃんの身体をゆすって起こします。

「……ムニャムニャ、あと5時間ですぅ」

「「……」」

 ロムエルちゃんとお互いに顔を見合わせて微笑みます。

「お約束な寝言ですね」

「そうだね」

 わたし達はこの後、もう少しだけこの穏やかな雰囲気を楽しんでから仕事に戻りました。

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