第16羽 クレーム対応は大変です
「だーかーらー、俺にチート能力をよこしやがれってさっきから何度も言ってるだろうがよう! 理解できてる? ドゥー ユー アンダースタンド!?」
「ですから、何度も言っている様に、あなたは地球の人間として転生がきまっています。しなければならない付与手続きは特に有りませんから、この先の説明を続けさせてください」
「てめえこそ、何度言わせれば分かるんだよ! 地球じゃなくて、異世界だよ! い・せ・か・い! あんた、ちゃんと聞こえてるぅ? わざわざ本に書いてあった通りに『トラック転生』して来たんだから、希望を叶えるのが神様の役目ってもんじゃねえのかよ! そんな事も知らねぇのか。ああ!」
「もう一度初めから説明させて頂きますね。あなたは……」
◇
あの人は、かれこれ3日程、ああやって窓口でサフィエル先輩に突っかかっています。勤務内の約半分を費やしている訳ですが忙しい時でない事がせめてもの救いですね。これがもし忙しい、例えば繁忙期のような時であれば順番を待っている周りの方々が殺気立ってピリピリとした雰囲気になってしまいます。
3日というのは長いとお思いでしょうが、まぁ、それは人間の感覚で、わたし達の感覚からすると、人間の感覚に当てはめると3時間と言ったところでしょうか? ともあれ、人間世界でも窓口で3時間も、ああやってごねられたらうんざりするでしょうが……。私達も同じですね。
確かに、亡くなられてくる方の中には亡くなられたことに納得がいかなかったり、物質界に未練が有ったりする方も多いですが、大体の場合は説明することにより理解してもらえることができますし、そうでなくても手続き自体は進めることも可能です。
他の種では窓口でごねてもめると言う事は殆どありませんので手続きもスムーズに進むのですが、この人間班では物質界に戻りたいと言う『生き返り』を望まれる方もちらほらと見受けられます。
あっ、ちなみに日本地区では『生き返り』と同じ意味で『蘇り』と言う言い方をするそうですが、これは『日本神仏界』の『黄泉帰り』からきているそうで、つまりは『黄泉の国』から戻って来ると言う固有の言い回しになりますので、他の『界』では使用されていませんね。わたしも受付窓口担当になった初めの頃、人間種の方がさかんに「蘇(黄泉帰)らせてほしい」と言われた時には『日本神仏界』への転出手続きの希望の方なのかと困惑したものですが、サフィエル先輩に教えてもらって納得しました。
少し話が逸れましたが、それらの方々の対応も人間班を個別の班に分けた理由の一つではないかとわたしは最近思うようになってきました。
実際問題、列を捌く効率が良くないという点もありますが、確かに一方的に手続きをしてしまえば効率的で楽でしょうが、納得してもらえないまま転生させてしまったのでは魂の形質に合った転生先を選択することがうまくできず、結果、以前にサフィエル先輩や皆さんが教えてくれた『格』を効率的に上げることが逆にできなくなってしまいます。なので、わたし達も極力説明して納得してもらえるように努力しています。
大体の場合が亡くなられたときに魂が無くなった事を受け入れる方向に向くのですが、それでも説得するのに時間が掛かるケースもしばしば見受けられます。
とは言え、流石にこういったもめ方をするケースは本当に希なのですけどね。
サフィエル先輩は、あのような方でも納得して転生してもらう為、根気強く説得を続けています。ほんと、頭が下がる思いです。わたしも、いつかあんな風になれるでしょうかね? ですが、流石のサフィエル先輩も、あそこまで話が平行線だと疲れてきてますね。
それはそうと、あの方は先程から窓口で、「チート チート」と連呼していますけど、『チート(cheat)』は英語圏での意味は、『不正する』『イカサマをする』と言う事になるのですけど、解ってますかね?
神様や天使の前で堂々と不正の強要をしているんですよ。何考えているのでしょうか? 何も考えてないのでしょうね、きっと。 それこそ、Do you understand? ですよ。
せめて「魔法を仕えるようにしろ」とか、「特殊能力をよこせ」とか叫んでいるのなら、まだ少し可愛げもあるかもしれませんが(?)
……やっぱり可愛げ、無いですね。
確かに、他の異世界に転生が決められていれば、そう言った能力や技能といったものを付与して送り出す手続きも必要になるのですが、あの方の場合は、どうやら地球の人として何処かに転生されるようです。人間から見て、再度人に転生できるだけでも充分恵まれている方だと思いますが、と言うか、ある程度決まっているとはいえ、あの様な方が、再度知的生命種に転生できることが不思議でなりません。
基本的に、転生先の種の決定や変更は神様の権限で行われています。わたし達は、神様が定めた範囲での調整を任されているにすぎません。
「あなた達も大変だねぇ」
「はぁ、恐れ入ります」
目の前のおばぁさんに同情されてしまいました。苦笑して応えるしかありません。
周りの方々もチラチラとサフィエル先輩達の方を見ていますね。あの大声では内容が丸聞こえになっていますし。当たり前と言えば当たり前なのですが……。
◇
「だから、さっきから言ってるだろうが! 俺に夢幻の広さの空間収納となんでも分かる鑑定眼、魔法は全属性所持。それから、各能力値は限界突破の最高値。後、所持してる技能も、その世界の一通りのものを揃えろ。もちろん、全部レベルMAXでだ! 全神の恩恵も忘れるなよ! ついでに、可愛い女神を付けろ。あっ、お前はチェンジで。おっ、あっちのピンク色の髪の娘可愛いじゃねぇか。あっちの娘と代われ! あっちの娘と」
はぁ、またですか。ここんとこ、日本支部の人間班の窓口では、ああいった方が増えてきていて困っています。
何でも、『ラノベ』とか言うものが流行っているとかで、異世界への転生を望む人が多くなっています。
挙げ句の果てに、わざわざトラックに跳ねられてきたとか。トラックのドライバーさんもいい迷惑でしょうに。他人の人生台無しにしてまで転生がしたいのでしょうか? 転生なんて、天寿を全うすれば必ず訪れるというのに。何故、生き急いだ挙句死に急ぐのでしょうね? 理解し難い行動です。
それだけならまだ良いのですが、やれ「相手の能力をコピーできるようにしろ!」とか、やれ「何でも作り出せる技能をよこせ」とか無茶なことを言ってくるのです。どんだけ安全マージンを取っておけば気が済むのでしょうか?
それを断ると、男性には「この駄目神!」、女性には「この駄女神!」などと罵声が飛んできます。まったく、神権侵害もいいところです。
それにしても、盛るだけ盛りましたね。他にはどんなものがあるんでしょうね? あきれ半分で聞いてても一周まわって逆に興味が出て来ました。
第一、チェンジも何も、はなからサフィエル先輩は付きませんよ。何で、あの方はサフィエル先輩が付くことが前提で話しているんでしょうかね? しかも、鳥類班のメルエルちゃんと代われとか、いい加減にしてほしいものです。
わたし的には、『日本神仏界』の餓鬼界なんかが気の合う方が多そうなので、転生先にお勧めなのですが、転生先の変更や転生種の変更、その他諸々の変更は決済上、神様でないと、どうする事もできません。
◇
「お前じゃ埒が明かない! 上を出せ! 上を!」
ああ、出ました伝家の宝刀『上を出せ!』。
時折、ああやって上を呼べば話が通ると思って怒鳴り散らす方がいらっしゃいます。
人間の社会でも同じでしょうが、一定の基準や規則に基づいて手続きを行っている以上、よほど下の対応がおかしなものでない限り、上だろうが下だろうが結論が変わることはありません。
もし、それで上と話す事で結論が変わるのであれば、それは上を納得させられるだけの理由があるか、基準や規則を歪めさせているかではないでしょうか。
後は、上の者を出させて話をさせたという自己満足と優越感に浸りたいだけでしょうかね。
最初のなら兎も角、今回の場合は明らかに残りの方ですね。
どうやら、人間の社会の中で変な癖を付けて来たようですが、神界にまで持ち込まないでほしいものです。
◇
「何事かのう? 儂が話を伺わせて頂きますので、こちらにお越し頂けますかな?」
「リーイン課長!」
サフィエル先輩を見かねて、転生課の課長であり、転生神の一柱であるリーイン様が いつもの穏やかな笑みを浮かべながら奥の課長席から出てこられました。
リーイン課長は、人間から見ると、白髪白鬚の温厚そうなお爺ちゃんと言った容姿をして、大きな木の杖を持っていますが、そんな中にも威厳があり、これぞ『ザ・神様』って感じです。
「なんだ。やっと、話の通じそうな奴が出てきたじゃないか。もっと、早く出て来いよな! ったく」
伝家の宝刀を抜いて管理職が出てきたことに、多少気分を良くしたのか、悪態をつきながらも、リーイン課長の後をついて小部屋に入っていきました。
「サフィエル先輩、お疲れさまでした。大変でしたね」
わたしは、お婆さんの手続きを済ませると、サフィエル先輩のところへ行き話掛けました。
「……リーイン課長に、手数をおかけしてしまったわね」
「仕方ないですよ。最初から聞く耳持ってなかったですし。前世の人間社会と勘違いしてるみたいでしたし」
ですが、伝家の宝刀は、諸刃の剣なのです。
~ 数分後 ~
ゴットーン!!!
物凄い稲光と轟音とともに、先ほどの方が落ちて行ったようですね。
……悲鳴の方向からして、あの方向だと、多分、あの方は直接『日本神仏界』の地獄界の担当課にでも回されたのでしょう。
わたし的には同じ『日本神仏界』なら餓鬼界がお薦めだったのですが、ちょっと残念ですね。
そんな様子を周りもうかがっていたのか、自然と歓声が上がりはじめました。
「おおっ! 神対応!」
「正に真の神対応!」
「……神罰と言うのでは」




