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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
15/31

第15羽 犬猿の仲は大親友です?

 哺乳類班のミサリエルさんの所へ、先程手続きをしたタヌキとキツネを含めた書類の提出と報告をしに行こうと、哺乳類班の窓口に顔を出してみたのですが、そこは阿鼻叫喚……は『界』が違いました。千客万来……はやはり何か違いますね。とにかく、多くの魂がひしめいていました。ふう、それにしても日本地区に配属が決まって着任して来てから日本の言葉についていろいろと学んではいるのですが日本語の表現は難しいですね。

「ミサリエルさん、人間班で手続きをした哺乳類班分の書類をお届けに上がりました」

「ああパスティエルさん、ありがとう。ちょっと手が離せなくて申し訳ないけど、そこの机の上に置いておいてくれるかな」

「はい。それにしても、随分といつもより慌ただしい感じがしますね」

 哺乳類班と鳥類班、あと季節によっては虫班はそこそこにぎやかなのですが、現在はそれに輪を掛けて騒がしいと言うか慌ただしい感じがします。

「うん。実はね、物質界で数日前からかなり大規模な山火事があってね……」

 ミサリエルさんの話によると、どうやら日本の何処かの山で大きな山火事が起った様で、たくさんの哺乳類種や植物種、虫種などの方達が亡くなられてこの受付係の大ホールに来られているようです。

 先ほど人間の双子に姿を変えていたタヌキとキツネのお二方も山火事で亡くなられたと言っていたので、どうやらここにいる方達と同じ場所から来られたようですね。

 とすると、植物班のクラリエルさんが大慌てでサフィエル先輩に応援を求めていたのも同じ原因のようですが、となるとかなり大規模な山火事が起きたことになります。

「パスティエルさん、ゴメン、少し手伝ってもらえないかな?」

「分かりました。何を手伝えば良いですか?」

「助かるよ。じゃあ、サル種の手続きをお願いできるかな?」

「サル種ですね」

 と言う訳で、哺乳類班のミサリエルさんの所に報告と書類の受け渡しに来たわたしはミサリエルさんを見つけて要件を済ませた後、今現在、鳥類種の魂のお見送りを済ませて戻る途中に通りかかったメルエルちゃんと一緒に哺乳類班のお手伝いに入っています。

 そして現在進行形でトラブルの真っただ中にいたりします。

 それはどういう事かと言いますと、

「ワンワン! (オマエ、ナンデ、ココニ イル)」

「ウッキー! (ソレハ コッチノ セリフダ)」

「ワンワン! (コノサルマネヤロウ!)」

「ウッキー! (ソッチコソ、ダレニデモシッポフッテイルクセニエラソウニ!)」

 どうやらこのお二方は生前からのお知り合いの様なのですが、生前の頃の仲はあまりよろしくなかったご様子で、お互い向き合って歯を剥き出しにしながら威嚇しあって口喧嘩をしています。

 すぐ手が出たり噛み付いたりしないのは、天界では魂の状態が具現化している状態なので天界の作用の影響で攻撃的な行動はとりにくくなっている為ですが、ある程度以上の『格』であったり、『気持ち』などの感情が度を超えてしまったりするとそれなりの行動をとることもできるようになります。

 それにしても日本のことわざに『犬猿の仲』と言うものが有りましたが、間近で体験する時が来ようとは思いませんでした。

 ただ、ミサリエルさんによるとこのことわざもそれほど根拠が有る訳では無いそうですが。

 そう言えば、メルエルちゃんに読み聞かせてもらった鳥関係のお話の中に、お二方と鳥と人間の4種でパーティーを組んでオーガの住み家のある島に突撃するお話も有りましたね。

 それでも、今回に限って言えばことわざ通りの様で、お二方に触発されたのか、他の犬達や猿達もそれぞれの後ろに集まって来ていて、お互いに威嚇しあっています。

 そんな訳で現在、ホールの一角が大分騒がしくなっています。

 う~ん、これだけ集まって来ると他の種の方々も大分殺気立ってきましたね。

 渦中のお二方も正に一触即発の様相を醸し出していますし、そろそろマズいでしょうかね。

「はいはい、二匹とも落ち着いてね」

 わたしが介入しようかと考えているうちに、ミサリエルさんが手早く騒動の原因となっている二匹の間に立って抑えに入っています。流石手慣れていますね。

「パスティエルさん、メルエルさん、お願いできるかな?」

「「はい。良いですよ」ぅ」

「じゃあ、猿さんはパスティエルさんとあっちで、犬さんはメルエルさんとそっちで手続きをしてね」

 こういう事にも慣れているのでしょうミサリエルさんがこの場を抑え、テキパキとメルエルちゃんとわたしに割り振って行きます。

 人間班の、特にこの日本地区の人間種は比較的こういうトラブルは少ないですね。

 何と言うか、大人から子供までとても大人しく理路整然と列を作って並んで待ってくれていますので、この辺はスムーズに流れて行きます。

 なので、こういった場のさばき方は見ていてとても勉強になりますね。

 日本地区以外の他の地区では人間種でも列を作らせるのにとても苦労させられる地区もけっこうあるとサフィエル先輩の話で聞いたことがありますが、日本地区が初の異動場所のわたしとしては今一つピンと来ません。

 たまには守れないい方もいらっしゃいますが、概ね皆さん、自主的に列を作ってくれて、とても協力的です。それも互いに移動しやすいように通路も確保しながら並んでくれていますし。

 取りあえず、メルエルちゃんとわたしは水晶盤をお互い確認し合った後、それぞれの持ち場に別れて行きました。

「ワンワン! (アンナ ナンデモ サルマネ スルヨウナヤツト イッショナノハ ゴメンダ!)」

「落ち着いて下さいねぇ。こちらの方で希望をお聞きしますのでイヌさん達はこちらに付いて来て下さいぃ」

 別れ際にイヌとメルエルちゃんのそんなやり取りが聞こえてきました。


   ◇


「ウッキー! (アンナ ダレニデモ シッポヲ フッテイルヨウナヤツトハ オナジニハ ナリタクナイ!)」

 怒り冷めやらずといった感じに興奮しているサルの方が顔を真っ赤にさせながら主張して来ます。

<おおっ、違いが解るようになったんだね>

「え~っと、あなたの転生先はっと、ミツバチ一択になってますね」

 先ほども水晶盤で確認しましたが、再度水晶盤をいじり確認しています。当然ですが結果が変わる訳では有りませんので先程と同じミツバチと表示されています。

「そっ、それは」

「安心してください。ある程度の守秘義務がありますのであまり詳しくは教えられませんが、イヌの方とは全く重なっていませんよ」

 こういう希望になるだろうと、あらかじめメルエルちゃんと確認しておいたのですが幸いお二方の転生先の種は重なることがなかったので話が進めやすそうで助かりました。

 ちなみに、イヌの方は植物系への転生でした。これが逆なら、『サルスベリ』とか『サルノコシカケ』とかを薦めてみようかと、ちょっと考えていました。

<思い付き過ぎるだろ!>

 わたしがサルの方の危惧している事は心配しなくても大丈夫ですよと伝えたつもりなのですが、サルの方の顔色がなんだか優れないように見受けられます。どうしたのでしょうか?

「複雑そうな顔をされていますが、何か不明な点がありましたか? それとも生前、ミツバチに何かありましたか?」

「ウッキー! (ミエル! ゴセンゾサマカラノオンネンガ!)」

 なんだかサルの方がわたしの方を見て怯えているような気がするのですがどうしたんでしょうか? 威圧とかはしていないつもりですが……あれ? 後ろになにやら気配が。振り向いてみるとそこには見知った顔が有りました。

「おや、トワエルさんのところのカルキノスではないですか。無事に脱皮は成功したようですね。何よりです」

 多分喜んでるんでしょうね。トワエルさんのところのカニのカルキノスがハサミをカチカチと鳴らしながらカニ歩きで見事なサイドステップを披露しながら左右に移動しています。何となく反復横跳びの様ですね。丁度並ぶ為に引かれているラインの上なので思わず数を数えたくなります。

 それはさておき、あまり関係のない方が受付ホールにいるのは好ましい事ではないのですが、カルキノスは部外者? それとも関係者? どっちなのでしょうか?

 わたしがそんな事を軽く悩んでいると、わたしの気持ちを察したのかカルキノスが『職場見学』という文字が書かれた立て札をハサミで掴んで掲げています。

 よく見ると棒の部分はわたしがお見舞いに持って行った松葉杖を使っていますね。どうやら気に入ってもらえた様で、リユースしていて良い事です。

<本当にお見舞いに持って行くしなぁ>

 う~ん。取りあえず、カルキノスの件はトワエルさんの身内という事で保留とする事にして、サルの方の手続きを続ける事にしましょうか。

「おや、サルの方はどうかなされましたか? 少し顔色が蒼い様ですが?」

「ウッキー! (……イエ)」

「そうですか。では、手続きの続きをさせて頂きます。……来世は秋田県○○の○○にミツバチとして転生します。……はい。これで手続きは終了です。それでは、良い来世を」

 その後もわたしはサル種の列をテキパキと裁いて転生の手続きを進めて行きました。


   ◇


「ふう、何とか落ち着きましたね」

「そうですねぇ」

 メルエルちゃんとわたしは、イヌとサルの列が一通りさばけたことを見て取ると、受付ホール内が落ち着きを取り戻した事を確認し、ホッと胸を撫で下ろしました。

「それにしても何で喧嘩しているのに、亡くなられてからもわざわざ近くに寄って行くのでしょうかね? お互い近付かなければ喧嘩しなくても済むでしょうに」

「……喧嘩するほど仲が良い……」

「仲が良い? そうだと良いのですけどって、トワエルさん、何時の間に!?」

 振り返るとヘビの着ぐるみを着たトワエルさんが這い寄って来ていました。一瞬驚きはしましたが、こういう光景もだいぶ慣れてきた感じがしますね。良く見ると以前にわたしが一緒に着たヘビの着ぐるみとは違っているようですが、流石は爬虫類班と言うべきなのでしょうか? バリエーションが豊富ですね。

「……カルキノスのお迎え……蛇の目でお迎え……キクザトサワヘビ……」

「トワエル、お疲れ。トワエルのところの爬虫類班も忙しかったみたいだね」

「お疲れ様ですぅ」

 コッチノお二方は驚きもしませんね。恐るべし。慣れと天然! それにしても、お迎えだけの為に着ぐるみを着て来たのでしょうか。キクザトサワヘビって、確かあの後良い機会だと思って日本のヘビ種について調べたところではサワガニの稚ガニを食料とするのではなかったでしょうか? 世界でも3千種を超え、日本地区でも40種近いヘビ種がいる中で、何故そのチョイス? 取りあえず、病み上がりのカルキノスの精神衛生上良くなさそうなので黙っておくことにしましょう。

「……お疲れ……」

「で、結局、それぞれ何の種に転生が決まったのかな?」

「イヌさんはシロツメクサ(クローバー)ですう」

「サルはミツバチですから、まったく違う種で双方納得してくれましたよ」

「……喧嘩する程仲が良い……仲良きことは美しきことかな……」

「「はい?」何ですか、それ?」

 何か意味ありげな言い方をするトワエルさんですが、どういう事でしょう?

「……送粉昆虫……虫媒花……相利共生……」

「「あっ!!」」

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