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転生課  作者: 之園 神楽
第一翔 窓口業務編
14/31

第14羽 C*ri*は大慌てです

「サフィエル、ワルい! 植物班を手伝ってくれないかな。今、手が足りないんだ。お願い!」

 わたし達がいつものように手続きをしているとクラリエルさんが人間班の所に慌てた様子で翔び込んできました。

「どうしたの? クラリエルが慌てるなんて珍しいわね」

「ちょっと、大勢来てね。おそらく一時的なものだろうけど、手が足りないのよ。手伝い、頼めないかな?」

「分かったわ。人間班は落ち着いているみたいだし、パスティエル、私ちょっと植物班の応援に行ってくるわね。後頼んで良いかしら?」

「はい。分かりました。お任せあれです!」

「サフィエル、ありがとね。パスティエルも済まないね」

「じゃあ、行ってくるわね」

「揃って行ってらっしゃいです!」

 そういうとサフィエル先輩はクラリエルさんと共に並んで羽を具現化させて羽ばたかせ、急いで植物班の方へと翔び立っていきました。

 こうやって、他の班の応援に行ったり、逆に手伝ってもらう事は特段珍しいことではありません。

 班には別れていますが、他の班の手続きが出来ないわけではないので状況が許せばお互いに助け合っています。

 転生課には『繁忙期』という期間がありまして、主に全体的に重なるのが冬の時期となります。

 この『繁忙期』の期間はどの班もいそがしくなり、なかなか他の応援には回るのが難しいですが、そんな時でも落ち着いた班が手伝いに回ることは自然に行われています。

 それ以外でも個々の種によって生命のサイクルが有り、その『種』によって多少忙しくなる時もあるのですが、どうやら今回は突発的なことが起きた様ですね。人間班に影響が出てはいない様ですから戦争ではなさそうですが、自然災害でも起きたのでしょうか?

 そうしてわたしはサフィエル先輩とクラリエルさんの後ろ姿を見送った後、人間班の手続きを続けることにしました。

「はい。お待たせしました。次の方どうぞ」

 何時もの通り声を掛けると次の魂の方がお二方そろってやって来ました。

「「あのぉ、私達、姉妹なのですが、一緒に受け付けてもらえないでしょうか?」」

「はい???」

「「やっぱり駄目でしょうか?」」

 見た目瓜を二つに割ったようにそっくりな瓜実顔(うりざねがお)をした少女のお二方が仲良さそうに手をつないだまま、でも少し不安そうにこちらを伺う様な視線を向けながら並んで立っています。それにしても先程から見事なハモり具合ですね。

「一緒に手続きをするのは構わないのですが。えっと、タヌキとキツネの姉妹ですか? とても珍しいですね」

「「えっ!!! 何でバレたんですか! あっ!」」

 お互いしまったというような顔をしていますが、驚いたという仕草が息ぴったりですね『日本神仏界』で言うところの『阿吽の呼吸』でしたっけ? 本当に姉妹の様です。

「それはですね。皆さん、天界に来てから具現化して生前の姿になりますが、天使はそれと同時に魂自体を見ているのですよ。ですから、よほどの格でもないかぎり、わたし達を欺く事はできませんよ」

「「ごめんなさい! ごめんなさい! あやまりますから、話だけでも聞いて下さい!」」

 まずいと思ったのか、物凄い勢いで頭を下げるお二方なのですが、慌てた勢いで変化が解けかかってますね。お二方共、タヌキときつねの耳としっぽがぴょこんと出てきてしまっていますよ。

 そう言えば、ここ最近の人間班に来る方の転生希望先で異世界への転生を希望される方がちらほらと見受けられますが、その中に『獣人』を転生種に希望される方がいましたね。

 手続きの際、わたしの使っていた両親から貰った就職祝いのフェニックスの羽根ペンを見て「すごく使いやすそうですね。ペン先が滑らかでひっかかりにくそうでペン入れに最適そうです」と褒めてくれたことを良く覚えています。気に入っている羽ペンなのでちょっと嬉しかったです。あっ、でも手続きは公平に行いましたよ。

 その方は絵を描くのがお上手で、メモにネコの耳としっぽの付いた人間の少女の絵を描いて「こんなイメージの娘になりたい」と見せてくれましたが、丁度目の前のお二方の様な感じでしたね。

 あのメモは確か、添付書類として転出手続きの書類に一緒に付けたんでしたっけか?

「そんなに畏まらなくても良いですよ。ここでの具現化は、あくまで魂の取りやすい形をとるというだけで、それがたまたま生前の形が楽というだけですから。ですので別に生前と違った形でも特に問題はありません。ただ生前と違った形をとるのはそれなりに難しいかと思いますが、流石は化ける事に長けたタヌキ種とキツネ種の方ですね」

「「じゃあ、怒ったりしていませんか?」」

 恐る恐る伺うようにと言った感じのお二方ですが、その姿がまるで怯えた小動物の様ですね。って、小動物でしたね。

「はい。気にしてませんよ」

((よかったぁ))

 安堵した様で、お二方共、同時に胸を撫で下ろしています。それにしても、どうやって動きを合わせているんでしょうかね?

「そうですね。魂の取りやすい形と言うのを日本地区の人間班らしく簡単に言ってしまえば、外ではキッチリブランド物で決めている方が家の中ではジャージを適当に着てソファーでゴロゴロと過ごしているというくらいラフな格好って事ですかね」

「「(リラックスさせようとしてくれているのかもしれないけど、その例えは何かこういろいろと台無しだなぁ)「「

「そ・れ・で。天使を化かそうとしてまで一緒に手続きをしたいと思った理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「「(気にしてる! 思いっきり気にしてるよ、この天使様!!)」」

 うん。このお二方シンクロしているのは良いのですが、さっきから心の声が手に取るように分かり易いリアクションをしていますね。耳やしっぽがピョコピョコと反応しているのが何とも可愛らしいです。ちょっと楽しくなってきました。もう少し反応を楽しんでいたい気分ですが、切りが無くなりそうなのでこの辺にしておきましょうか。

「実はわたし達森で仲良く暮らしていたんですが、有る時、山火事が起って一緒に逃げていたんです……けれど逃げ切れずに炎に巻かれてしまってそのまま……」

「運よく同じ場所に来ることが出来て、そしてここでも出会うことが出来ました」

「酷い目に合ったけど、再び会えた事を喜んで哺乳類班の受付の場所まで一緒に来たところまでは良かったのですが」

「そこではさらに種ごとに集められてから手続きが行われているというではないですか!」

「このまま哺乳類の受付で手続きをすることになるとわたしはタヌキ」

「わたしはキツネで、別々の種の行列に並ぶことになってしまい、運良く来世同じ種になれたとしても」

「同じ場所に転生できるかも解りません」

「そんなのは嫌です」

「「わたし達、来世も一緒にいたいです!」」

 おおっ、見事なリレートークです! ちょっと意味が違う気がしますが。

 お互いの掌を合わせてこちらを見ながらハモるお二方の眼差しがとても真っ直ぐなのが伝わって来ますね。ですが、確認しておくべきことは確認しておきましょう。

「同じ種で同じ所に転生できたとしても記憶はまず残っていませんよ。それでもよろしいのですか?」

「「それでもです!!」」

 以前に手続きした迷いのない老執事の様に即答で返事が返って来ました。しかも、こちらに身を乗り出しているのでバイノーラルです。

「ふむふむ、事情は分かりました。少しお待ちくださいね」

 確認を兼ねてお二方に水晶盤をかざして、それぞれの『生前経歴書』を見ていきます。

 なるほど、おっしゃられている事に間違いはない様ですね。

 続いて、それぞれの転生先は、っと……お二方共変化が出来るくらい格が高い様ですから、うまくすれば……タヌキの方が『哺乳類』で、キツネの方は『陸上生物』ですか。うん。問題ない様ですね。

「大丈夫ですよ。お二方共ほとんどの転生候補が重なっています。どうせですから、人間種の双子として転生してみますか?」

 これだけ息が合っているのですから折角ですので本当に双子として転生してみてはどうかと尋ねてみました。『格』もそこそこ高いですし良い成長が促せそうですね。

「「是非、お願いします!!!」」

 思った通り、即座に息の合った見事なシンクロナイズ……名称変更で、アーティスティッ……いえ、今回は関係無かったですね。兎に角仲良く揃って返事をしてきました。

 わたしは早速このお二方の転生手続きに入って行くことにしました。

 このお二方は、人間班で手続きをしてしまいましたがそれ自体は問題ないので後で哺乳類班に報告と書類の受け渡しをしに行くことになります。

 と言う訳でタヌキとキツネの人間種の双子への手続きも滞りなく終了です。

「はい。これでお二方の転生手続きは終了です。来世は、千葉県○○市○○○で人間種の双子として転生します」

「「どうもありがとうございました」」

 お二方同時にペコリと頭を下げて嬉しそうにしています。


「良き来世を」


 どうでも良い事なのですが、最後まで気付かなかったのか? それとも正体がバレた時点で観念したのか? 魂になるまでお二方共人間の姿にタヌキとキツネのしっぽと耳が出たままの状態でしたね。

 あれが、『ケモミミ』というものだったのですね。確かに、心惹かれるものがありますね。以前に異世界での『獣人』への転生を希望された方の気持ちが少し解ったような気がします。

「……失敗しました! 今思い出しました!」

<どうしたの? 何が? 手続きでも間違えた? いつものこ……>

「確か、「ケモミミを見たらモフモフをモフモフとモフるのが様式美!!!」だと教えて頂きまして」

<それは馬鹿さ、いや、化かされているね>

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