第1羽 初めの挨拶は大事です!
「初めまして、わたしはパスティエルと申します! 転生課へようこそ!」
わたしは この度 転生課に配属となりました。具体的には、日本支部転生課転出入係人間班です。つまり簡単に言ってしまえば、日本近郊で亡くなってこちらに来られた人の転生手続きを行う仕事です。
もう、わたしの名前から何となく察しが付いている方もいらっしゃるかもしれませんが、わたしは天使で本部はヨーロッパ地区に存在しています。ですので、ここ日本地区は支部と言うことになります。
まだ新米で、至らない処も多々ありますが、改めまして、これからどうぞよろしくお願いします。
◇
周りを見渡せば、神殿造りの室内で数多くの天使達と生前の形をした魂達が、あちらこちらに行き交っていたり、集まっていたりするのが見受けられます。
魂の方々は、ここで次の種に『転生』する為に必要な手続きを受ける事になり、天使達は、その任を円滑に行う為に、魂達の誘導を行ったり、列を整頓したり、手続き処理を行ったりと右往左往……いえ、右へ左へと動き回っている訳です。
日本近郊なら日本の天界や神界や地獄界等の管轄では? とお思いの方も多々いらっしゃるでしょうが、少し前まではそれぞれの『界』の管轄地域はある程度別れていたのですが、ここ数百年位前から人の異動が各『界』の管轄地域を超えることが多くなりまして、その結果、各『界』の合意により、元々管轄していた地域を本部とし、他の『界』の管轄地域にお互いに支部を出して対応に当たることとなったそうです。
何故、最近になって、そんな事を始めたのかとお思いでしょうが、その前までも渡り鳥や回遊魚などは他の管轄地域に普通に移動していましたが、基本的に人間以外の生物は亡くなられた場所の管轄地域の『界』に魂が引き寄せられて行くことになります。
今まではこれで、特に支障も無くそれぞれの魂が向かった先の『界』で、各『界』の規則や基準に照らし合わせた処理を行って来ました。
これに対して人間は、信仰心や思想など、他の地域に強い『気持』を持って行きます。
この違う地域で亡くなった方々の『魂』が、違う管轄の『界』で転生やその他の処理をされてしまうのは如何なものかというニーズに応えて、それぞれの『界』の間での話し合いによる合意の元、お互いに他の管轄地域に支部を置くことにしたそうです。
つまりは、わたしの勤務している、ここ日本支部は、『日本神仏界』の一部を間借りしているということになります。
とは言え、入り組んでしまったが故でしょうか? 他の信仰をお持ちの方や信仰心を持たない方も引っ張られて来ることがあります。
特にこの日本地域は、おおらかと言うか、適当というか……コホン、失礼しました。とにかくそう言った方々が引き寄せられて来ることが他の地区に比べて非常に多いところです。
当然ですが、人間種だけに対応しているのではなく、他の種に対しても同じ対応をしています。
あっ、ちなみに『移動』と『異動』の違いは、『移動』は単純にA地点からB地点まで動かすことで、『異動』は所属や居住場所が動く場合です。
たとえは「ヨーロッパ本部に異動が決まった。住民票の異動の手続きと家の家具などの移動に引っ越し業者と現地での移動の為の足を確保しなければ」というような使い方ですね。
……すみません。ここに配属になるまで知りませんでした。多分合ってると思うので後学の為、調べてみてくださいね。……言わなきゃ良かった。間違えてたら恥ずかしい。
……コホン、気を取り直して次に進みましょう。
異動手続きを大まかに分けると『転入手続き』と『転出手続き』の2種類に分かれます。更に、その中にも細かい区分がありますが、この場では簡単にお話ししていきたいと思います。
なお、現世での人間の社会での住民手続きとは異なりますのでお気を付けください。
では、それぞれの手続きについて簡単にですが見て行きましょう。
- 転入手続き -
「アフリカ地区からの転入ですね。手続きを行いますので、あちらに各々の種ごとにお並び下さい!」
「中東地区からの魂が到着しました。受け入れお願いします!」
まず初めに『転入手続き』ですが、亡くなられた方を一旦この場に受け入れてから、それぞれの担当地区(わたし達の場合は日本地区ですね)に転生させる為の手続きです。
日本の地区内で彷徨っている魂を引き寄せたり、他の部署から送られて来た魂を受け入れる手続きを行っています。
よく亡くなられてから、わたし達を目の前にして「ここは何処? もしかして死んでしまったの?」みたいな反応をしている方がいらっしゃいますが、所謂そのあれです。
えっ、そんなのよくあるもんじゃないって……あっ、そうですね。失礼しました。わたし達にしてみれば、見慣れた光景だったものですから、つい当たり前の事だとおもってしまっていて……。
えっとですね。そういう反応をされる方が多いのですが、これは亡くなられてからここに来るまでの間に一旦意識を失い、球形やオタマジャクシのような形状になり到着して再び生前の形態に変化して意識を取り戻した為、当人からすると急に状況が変化した様に感じ戸惑ってしまうようです。
受け入れている魂は、現世からの魂、宇宙の別の星からの魂、同世界でも六道や喜びの野と言った人間の社会に伝えられている場所からの魂、そして異世界からの魂などです。日本地区で亡くなられて、こちらで受け入れてから、再び日本地区に転生される場合もあります。
初めの3つのケースを『同世界からの転入』と呼んでいます。「伝承や神話などで知られている世界も異世界では?」と思われる方も多いかもしれませんが、大昔よりこれらはルートが確立されているので同じグループとして『同世界』扱いとなっています。
これに対して4つ目のケースですが、最近全く別の世界から魂が引き寄せられてくるケースが出て来ました。これが『異世界からの転入』となります。
理由はいろいろあります。自然界での膨大なエネルギーによる歪みや異世界からの干渉、果ては異世界の神様同士の賭け事による負け分の取り立て……コホン、もとい交流などといったものが挙げられます。
そう言った「魂」の手続きを行うのが『転生課転出入係』の一つの仕事となっています。
こちらの神界で、来世、何に生まれ変わるかは、転出されて来た『界』の手続きである程度決まって書類にまとめられて送られて来ます。
その中で『人間』に転生する魂を処理するのが、わたし達『人間班』の役目となります。
ここで、皆さんの興味のありそうなお話しを少しばかり。
そんなわけで、地球にも最近見られるようになった『異世界からの転生者』は、それなりの数がいます。
ただ、異世界とこちらの世界では状況の異なる部分が多々あります。
その代表的な例が『魔法』でしょうか。
異世界では、いろいろな種類の魔法を使用していた方がいらっしゃる様です。ですが、魔法の源となるそれぞれの要素が地球には殆どなく、行使できる人はまずいません。それに基本的に前世での記憶は無くすか封じられるかしていますので、能力にしろ知識にしろ使うことはほぼできません。時折『才能』と言う形でその片鱗を見せる方はいらっしゃいますが……。
たまにいらっしゃる、「我の左手に封印が」などと言われている方の中には、確かに異世界からの転生者もいらっしゃいますが、いろいろ拗らせたその他大勢の方たちに埋もれ信じてもらえることはあまりありません。御気の毒ですね。
- 転出手続き -
「はい。あなたは来世、ロシア地区で哺乳類に転生することになっていますので転出手続きを行いますね」
「今回、特に転生先の地域の指定がありませんでしたので、何処か転生先の区域に希望はありますか?」
「あら、あなたは、日本神仏界での受け入れ要請が出てますね。では、それに従って転出手続きをさせて頂きます」
次に『転出手続き』ですが、基本的に担当地区で亡くなられた魂と転入してきた魂を、日本地区への転生と担当外へ送る手続きを行います。
わたし達の場合、日本地区で亡くなられた魂と転入してきた魂を規定に基づき、日本地区への転生や他の『界』や他の支部へ送る手続きですね。
人間以外は大抵流れ作業的に振り分けることができるのですが、人間はなまじ自我を持っていたが故、『希望』を出してきます。
これに対応するのが人間班の一つの仕事になります。
『転生先』についてはある程度決まっているのですが、より詳細な部分を詰めていく作業になります。生まれる場所・種族(注意:知的生命種とは限りません)・性別、その他……それらの枠に空きがあるかを他の『界』や他の支部に確認し、必要な事項を選択し、決済を取って関係各所に回します。
特に最近少しずつ出てきている『異世界転生』に関しては、スキルとか魔法などといったこちらの世界ではない要素がありますので、そういった部分をどうしていくかを決めていくのに時間が掛かりますね。
そうして、これらが決まると魂は、転入してきた時と同じように意識を失い球形やオタマジャクシの様な形状となって転出先に送られたり、そのまま転生したりしていきます。
この辺の話もまた後日できれば良いですね。
◇
いかがでしたか?
ここであまり長々と話をしてしまうと、わたしが疲れて……もとい、聞いている方が飽きてしまわれるかと思いますので、この辺にしておきましょうね。いずれ、追々話をしていきます。……多分……おそらく……できると良いなぁ。
コホン、気を取り直して。
極力、難しい言葉や専門用語は使わない様にしたつもりですが、新米なのでうまくお話しできなかったかとは思います。
ですが、それでもわたし達の仕事に少しでも興味を持ってくれたのであれば幸いです。
そんな「転生課」でのお話です。
もし、よろしければ覗いてみて下さいね。
それでは、またお会いできる事を願いまして、この言葉を送ります。
「良き来世を!」