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09 新たなる仲間

 コリスの治癒能力付与によって、ユリの身体はゆるやかに、そして健やかに回復した。



「不思議……身体中にあったアザや噛み傷が、すっかり消えておりますわ」



 つい先ほどまで痛々しかった腕や太ももを眺めまわして、感心した様子のユリ。



「回復職さんが使う治癒魔法と違ってすぐには治せないし、こうやって身体に触れてないといけないんだけど……付与術師(エンチャンター)は治癒もできるんだよ」



「たいしたものですわね、コリス。ほめてさしあげますわ」



 ユリは小さな治し屋さんの身体をぎゅうと抱きしめる。

 ついでに前髪のニオイを嗅いでいると、ふと、反対側にいるミコに気づいた。



「ミコ、せっかくだからあなたも(たしな)みなさい。いいニオイがしますわよ」



「はい。コリスさんの御髪(おぐし)は、干したてのお布団のような香りがいたします。なんだかお昼寝したくなってしまいますね」



 コリスのポニーテールに小鼻をくすぐられながら、微笑むミコ。



「ね……ねぇ、ユリちゃんミコちゃん、ホントにお昼寝しないよね? もういいでしょ?」



 ふたりの少女にサンドイッチにされたコリスは、ずっともじもじしていた。



「あと五分、あと五分だけなのですわ」



「もう少しだけ……もう少しだけお願いいたします、コリスさん」



 冬の朝の布団に潜り込んでいるかのように、ぐずるユリとミコ。


 付与術師(エンチャンター)は人に触らないと力を発揮できないので、スキンシップに抵抗がない仲間のほうが有難かったりする。

 人によっては戦闘中にいきなり触ると、嫌な顔をするからだ。


 でも、コリスは複雑な気持ちだった。


 ……わたしに触ってくれるのは、嬉しいけど……これはちょっと……恥ずかしいよぉ……。

 でも……でも……ユリちゃんもミコちゃんもしたいっていうなら……がまんしなきゃ……。



「ううう……あとちょっとだけだよぉ」



 谷間から、渋々とした声がたちのぼる。


 ……それからコリスが解放されたのは、三十分後のことだった。


 名残惜しそうなふたりの少女から離れたコリスは、ふぅ、とひと息つく。

 ようやく自由になれた……と思っていると、背後にあった茂みが激しく揺れ始めた。


 また、ラスカルラビットさん……!? とコリスが振り向いた直後、



「わぁーーーっ!!」



 新緑を散らしながら飛び出してきたのは、いたずらウサギではなく……ふたりのいたずら少女だった。


 ひとりは派手な顔立ちの、金髪ウェーブの薄着ギャル。

 もうひとりは地味な眼鏡の、銀髪セミロングの厚着っ子。


 ポニーテールを逆立てて驚くコリスにまとわりつくと、ベタベタと身体を撫でまわしはじめた。



「うわっ、うわっ、うわーっ!? マジでちっこい! マジで小顔! 制服着てないとガチ小学生じゃん!? ガチロリじゃんっ!? 超かわいいーんっ!?」



 コリスに頬をグリグリと擦りつける金髪ギャル。



「噂に違わぬ童顔……そして幼児体型……まな板どころではなく、もはやモノリス」



 コリスの平らな胸を摩擦するようにさする銀髪眼鏡っ子。



「きゃあああっ!? なっ、なんですか!? なんですかぁーっ!?」



 再びサンドイッチにされてしまったコリス。

 いきなりのことにパニックになり、じたばたともがいている。


 ユリは突如襲いかかってきた少女らの顔を見て、「まぁ」と声をあげた。



「あなたたちは……クラスメイトの火陽熾(ひよし)奏日亜(そふぃあ)さんと、魔魅(まみ)夜間美(やまみ)さん……?」



「あっ! ユリユリ、ミコっち! ちょっとぉ、マジずるいんですけどぉ!」



 ギャルはコリスのポニーテールを撫でつけながら、アイシャドウに彩られたジト目をユリたちのほうに向けた。



「ずるいって……何がですの?」



「だってぇ、学校にヴァーチユニットを持ち込んで、『ヴァーチ』で遊んで……しかも転校生をひとり占め……いや、ふたり占めするなんて、チョーずるいんですけど!」



 ギャルの後を継ぐように、眼鏡っ娘がボソボソと口を動かす。



「放課後、特別教室棟を歩くユリとコリスを見かけたので、後をつけた。誰もいない『第三視聴覚室』に入っていったので、今夜はハードコアなのかと思って覗いてみたら、ヴァーチユニットがあったので、ソフィアを呼んで後追いログインした」



 滔々(とうとう)と語る眼鏡っ子に、ユリは「んまぁ」と目を見開いた。



「もしかしてあなたたち、部室のヴァーチユニットを勝手に使ったんですの?」



 しかし、ふたりは答えない。むしろ火がついたように騒ぎだす始末。



「ええっ、部室ってナニ!? そんなの耳ファーストなんですけどぉーっ!?」「部室とは……? あそこは『第三視聴覚室』のはず」



「あぁぁぁん……なんでもいいから、離してぇ……」



 ふたりに挟まれたままのコリスはまたしても、もじもじと身体をよじらせていた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 草原の真ん中で、車座になって座る五人の少女たち。

 コリスは女の子座り、ユリは足を組み、ミコは正座と、座り方も三者三様。


 新たに加わったギャル……ソフィアは横座りをしていた。

 ユリからの説明を受けていたのだが、ようやく合点がいったようにパチンと指を鳴らした。



「なーる! 学校に『VRMMO部』を作んだね! ならウチらも入れてよ! ウチらずっと『ヴァーチ』をやりたかったんだよねー! でもユニット超高くね? って思っててさぁー!」



 「ウチら」の中に含まれていた、眼鏡っ子……ヤマミは体育座りをしていたのだが、膝の間から「入部希望」とボソリと声を漏らした。


 ユリはふたりの入部希望者を、品定めするように交互に見回したあと……ふむ、と頷く。



「本来は部員以外はヴァーチユニットを使用してはいけない決まりなのですけれど、我が『VRMMO部』はまだ部として正式に発足してはおりませんので、無断使用の件についてはお咎めナシといたしましょう。しかし……入部に関しては、テストを行いますわ」



 テストと聞いた途端、うえっ、と吐きそうな表情になるソフィア。



「ええーっ、テストなんてあんのー!? やだよそんなのー!」



「別に嫌なのでしたら、入っていただかなくても結構ですのよ」



「ミコっちとコリスっちも、テスト受けたん!?」



「もちろんですわ。先ほどのラスカルラビットでの戦闘で、入部が決定いたしましたの」



 しかし、すぐに異が唱えられる。



「ユリさん。わたくしは白ハブ様の巫女ですので、部活はできないのです。せっかくのお誘いなのですが、申し訳ありません」



「あの、ユリちゃん、わたしも……わたしもチュートリアルまでって話だったと思うんだけど……?」



 片やきっぱりと、片やおずおずと反論されてしまう。


 ユリはなし崩し的にコリスを入部させようと目論んでいた。

 ミコが入部すればコリスの考えも変わるのではないかと期待していたのだが……まさかふたりから拒否されてしまうとは……。


 ……誤算だった……!


 ユリはクッ、と唇を噛みながら、コリスとミコをなだめにかかる。



「でも……今日はあたくしに付き合う約束でしたわよね? ソフィアとヤマミが『VRMMO部』に相応しい人材かどうか、見極める手伝いをするのですわ」



「はい、今日一日でしたら、構いませんけど……」「わたしも、そのくらいだったら……」



 密かに約束を延長できたので、心の中でガッツポーズをするユリ。


 ……危ないところでしたわ……。

 でも、なんとかして今日じゅうに、コリスを心変わりさせて……『VRMMO部』に入部させなくては……!


 ユリが決意を新たにしているのをよそに、ソフィアは駄々っ子のように草原に寝転んでいた。



「ああもう、めんどくせぇー! テストってなにすんのぉ!?」



「わたくしたちはこれからニワトリ救出のためにゴブリンの洞窟に向かいますの。それに同行なさい。我が部に相応しい活躍ができたら、入部を認めてさしあげますわ」



「なんだ、そんなこと!? ならやるっ!」



 がばっ、と身体を起こすソフィア。

 「右に同じ」と頷くヤマミ。


 やる気を取り戻したふたりを見て、ミコは「がんばってくださいね、わたくしもお手伝いさせていただきます」と人の良さそうな笑顔を浮かべる。


 コリスはというと、「よぉし、ふたりが入部できるように、がんばろう……!」と内心はりきっていた。


 ……少女は、人の責任まで背負い込んでしまうタイプなのだ。

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