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コリスたちは『ファイヤー・ルーム』からいったん離れ、比較的涼しい部屋の隅でソフィアを介抱した。
鬼たちが心配そうにやって来たが「獄卒様のお手を煩わせるわけには」とミコが断る。
膝枕をして、冷たいおしぼりでソフィアの顔を拭いてあげていた。
「……ウチさぁ、暑いのもダメなんだけど、ひとりぼっちになるのもやなんだよね……。実はさぁ、ウチ、いちどだけサウナに入ったことがあるんだ。正確には、ウチを嫌ってるヤツらから閉じ込められたんだけど……。中はメチャクチャ暑いし、なによりも誰もいなくて心細くなって、さっきみたいにパニックになっちったんだよね……」
高い天井に遠い目を向けたまま、つぶやくソフィア。
「幼い頃のトラウマというわけですわね。ソフィアは人の心に土足で踏み込むようなところがありますから、それで嫌われてしまったのでしょう」
両手を腰に当てたユリが見下ろす。
言葉はかなり辛辣であったが、一応、彼女なりに心配しているのだ。
ソフィアを団扇であおいでいたヤマミは、不機嫌そうな顔でユリを見つめる。
当のソフィアは何とも思っていない様子で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……そうかも……ウチ、バカだからそのへんのこと、よくわかんなくって……。でもあん時、ヤマミが助けに来てくれたんだよね……。風呂とサウナの扉をハンマーでブッ壊して……あとでセンセーにメチャクチャ怒られちったけど……ウチ、チョー嬉しかった……」
視線を虚空に戻しながら、ヤマミが口を挟む。
「……あの時は、おっぱいを揉みたかっただけ」
「おっぱいを揉みたかった? それはどういうことですの?」
「ウチとヤマミが知り合ったばかりの頃だったんだけどさー、なんでかヤマミのヤツ、ウチのおっぱいをやたらと揉みたがったんだよねー。なんでだっけ、ヤマミ?」
ソフィアは膝枕から顔を起こしながら、ヤマミに向かって尋ねる。
その顔は、だいぶいつもの血色を取り戻しつつあった。
「胸は揉めば大きくなるので、揉みまくってソフィアの巨乳を破裂させるつもりだった。巨乳はみな敵、死すべし。いまもその想いは変わらない」
ヤマミは淡々と述べながら、隣で団扇を使っていたコリスの手を取る。
戸惑うコリスの手を導き、ソフィアの左胸に押し当てた。
もみじのような小さな手が、つきたてのお餅のような物体にめり込んだ。
「ちょっ、ヤマミちゃん!?」
「我ら巨乳ハンターは、いまや倍の数にまで増えた。コリスが左胸を破裂させ、自分が右胸を破裂させる役割分担が可能となった」
あいている手のほうで、おもむろに右胸を揉みしだきはじめるヤマミ。
その様子を「なにをやっておりますの?」と呆れた様子で見下ろすユリ。
ヤマミ流の照れ隠しであることを察し、何も言わず微笑むミコ。
巻き込まれたコリスはどうしていいのかわからず、でも、ちょっと興味があったので、申し訳程度に手を動かして胸の感触を確かめている。
当のソフィアはヤマミの言動に、最初はキョトンとしていたが……やがて寝込みを襲われたモンスターのように、がばっと身体を起こす。
胸を蹂躙する不届き者のハンターめがけ、ガオーと襲いかかった。
「そうカンタンに狩られてたまるかーっ! ええい、むぎゅー!」
ふたりの少女の後頭部をガッと掴むと、力任せに胸に押し当てる。
コリスとヤマミはスライムの洗面器に顔を突っ込んだような状態になり、呼吸困難のあまりジタバタともがきはじめる。
「あっはっはっはっはっ! ウチのおっぱいの強さ、思い知ったかーっ!」
すっかりいつもの調子に戻ったギャルの、黄色い笑い声があたりに響き渡った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そしてソフィアは決意した。
暑いのはイヤだけど、ぼっちになるのはもっとイヤだから、ウチも一緒に行く、と……!
全員で『ファイヤー・ルーム』に挑むことになったので、コリスはみんなに攻略法を伝授することにした。
「ファイヤー・ルームさんは、以前戦ったファイヤー・トーテムさんと同じで、コツが重要なモンスターさんなの。ただ、コツがちょっと独特で、覚えなきゃいけないことがいくつかあるんだ」
整列する仲間の前を行ったり来たりしながら、ちびっこ教官が言うと、
「ええーっ、ウチ、覚えゲーって超ニガテー!」
さっそく問題児が音を上げる。
他のメンバーは記憶力については問題ないと自負しているのか、特になにも言わなかった。
「落ち着くのですソフィア。まずは話を最後まで聞いてからにしましょう。で、コリス、覚えることとは何なのですの?」
リーダーらしい振る舞いのユリに促され、コリスは続ける。
「ファイヤールームさんの攻撃って一見すると、よけられないように見えるんだけど……実は規則性があって、攻撃にあわせた回避をすれば、カンタンによけられるんだ」
「コリスさんのおっしゃっている『覚える事』というのは、敵の放つ攻撃の種類ぶんのかわし方……というわけですね」
小さく手を上げて尋ねるミコに、コリスは大きく頷き返した。
「うん! 攻撃はぜんぶで12種類あって、わたしは覚えやすいように動物さんに例えてるんだ!」
言うが速いが、さっそく実演してみせる。
やおら四つん這いになり、くねくねさせた身体を舐める仕草をはじめた。
ポニーテールまでちゃんと、ご機嫌なシッポのようにくるりんと丸めながら。
「ふみゃぁぁ~ん」
わざわざ鳴き真似までせずとも、猫だというのはすぐにわかった。
戦闘教示を受けていたはずの一同に、えもいわれぬホンワカムードが流れる。
……かっ……!
かわいぃぃぃーーーんっ!! 抱っこしたぁーいっ!!
誰もがそう思っていたが、まっさきに飛びついたのはユリだった。
子猫のように抱き上げられたコリスはびっくりしたまま固まってしまい、集まってきた皆に頬ずりされてしまう。
「わわっ!? ちょ、みんな、どうしちゃったの!? これを覚えなきゃダメなんだよ!?」
教官からの一言に、兵士たちの動きがピタリと止まった。
「……まさか、あたくしたちにもその猫の真似をしろと言うんですの?」
「うん」
「……強大な『蛇魔』を前にしているのにですか?」
「うん」
「サウナみたいに、クッソ暑い中で?」
「うん」
「それが許されるのは幼稚園までだというのに?」
「う……! わたしだって、高校生だよっ!? でも、これがいちばん覚えやすかったんだもん!」
コリスはポニーテールを逆立てながら、とうとう真っ赤になって叫びだしてしまった。
ユリに抱きかかえられたまま、またしてもジタバタしはじめる。
「や……やっぱりわたし、ファイヤールームさんと戦うのやめる! わたしだけ、ここで待ってる!」
「コリス、落ち着くのです。あたくしたちもそのお遊戯に付き合えばよいのでしょう?」
「お遊戯じゃないもん! 回避方法だもん!」
「わかりました、コリスさん。わたくしも一緒にまねっこ遊び、させていただきます」
「あ、遊びじゃないのにぃ!?」
「あ、わかった! アレっしょ!? ウチもよく『ハロー拳』を出すマネするもん! それと一緒っしょ!? なら全然変じゃないって!」
「……そ、そう……? ヘンじゃない……? なら、みんなも一緒に……」
「こんなカンジ、こんなカンジ。……『はのぉけぇ~ん』」
白目を剥いて鼻の穴を広げ、裏返った声で『ハロー拳』のマネをするヤマミ。
……それがあまりに人を小馬鹿にしていたので、コリスは再び癇癪を起こしてしまった。
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