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 現れた強敵、『ファイヤー・スケアクロウ』。

 見た目はまさにカカシでひ弱そうなのだが、身軽さを活かした素早い跳躍でコリスたちを翻弄していた。


 味方の攻撃はまったく当たっていない。

 その間に、唯一の対抗手段を持つヤマミはじわじわとダメージを受けている。


 コリスは少し逡巡したあと、ミコの元へと駆け寄った。

 弓を構えたまま、目を回すように視線をさまよわせる仲間に向かって強い口調で言う。



「ミコちゃん! 『陰陽術(おんみょうじゅつ)』だよ! 昨日覚えた『土還(つちがえり)』さんを呼ぼう!」



「しょっ……承知しました!」



 ミコはあたふたと弓を降ろすと、一枚の御札を取り出す。

 焦るあまり取り落としてしまい、慌てて膝を折って拾い上げた。


 しっかりしなくてはと首をふるふる振り、気を確かに持つ。

 そして昨晩教わったとおり、『土還』のことをイメージしようとしたのだが、うまくいかない。


 瞬間、ミコの身体がやさしさに包まれた。

 覚えのある感覚に、強張った身体がほどけていく。


 ちらと視線を移すと、そこには金色の光を放つコリスが寄り添っていた。



「……落ち着いて、ミコちゃん……。初めてだから、戸惑うかもしれないけど……ミコちゃんなら大丈夫……。ミコちゃんなら、きっとうまくいくよ……」



 こんな状況だというのに、やわらかな微笑みを浮かべるコリス。

 しかしそれが何よりも、ミコにとっては何よりもの励まし……例えようのない大きな力となったのだ。



「は……はいっ……! ありがとうございます……!」



 ぬくもりをもっと感じたくて、小さな身体をギュッと抱き寄せる。

 ミコの胸に、コリスの顔が埋まった。


 こんな時、いつもならコリスはドギマギするのだが、今はじっとしている。

 まるで我が子のすることをすべて受け入れ、見守ってくれる母親のように。



「……ミコちゃんの胸、とくん、とくんっていってる……。とくん、とくん。とくん……とくん……とくん…………とくん…………」



 コリスの「とくん」の間隔が長くなるのにあわせて、ミコの鼓動がいつもの調子を取り戻していく。

 呼吸が安らかになっていくのが、自分でもわかった。



「うん……もう大丈夫……。ミコちゃんの頭のなかにある『土還』さんの呪文を唱えてみて……」



 「かしこまりました!」と顔をあげるミコ。

 そこにはもう、一切の迷いはない。すべてを吹っ切れたような、勇ましい表情だった。


 中指とひとさし指に挟んだ御札を、ピッと掲げる。



「五陽霊神に願い奉る……! 我が力となりて、悪鬼を()う力を……! 地の底よりいでよ……土還っ……!」



 途端、ぶわぁぁぁ……っと御札が土色のオーラに包まれる。


 コリスは首を限界まで捻って、背後にいるファイヤー・スケアクロウの動きをじっと観察していた。

 大縄跳びに入るタイミングを伺うように、小首を上下に動かしている。



「ミコちゃん……! わたしがいっせーので合図をするから、御札を地面に叩きつけて……! ……いい? いくよ……? いっせーの!」



「「せいっ!!」」



 ふたりの少女の掛け声は、寸分違わず重なった。


 御札はメンコのような勢いで接地したが、音もたてず地面へと吸い込まれる。


 吸い込まれたあと土が泡のようにボコボコと盛り上がり、ファイヤー・スケアクロウめがけて移動をはじめた。


 そして……カカシの着地点と、盛り上がった土が交差しようとした、その瞬間、



 ……ボコンッ! ガシイッ!



 地面から勢いよく顔を出した大きなモグラが、グローブのような手でカカシの一本足をがっしりと捕まえたのだ……!

 コリスはすかさず叫んだ。



「いまだよっ! 土還さんが押さえているいまのうちに! ユリちゃんっ! 『ナイトスラッシュ』で一気にやっつけて!」



 まさか地面から手が出てくるとは……! と予想外の攻撃に慌て、もがくファイヤー・スケアクロウ。

 しかしモグラの爪は樹皮のような肌にしっかりと食い込んでおり、びくともしない。


 カカシが最後に見たのは、テールランプのように金色の髪を振り回す、ユリの背中だった。



「ナァァァァァァァイト! スラァァァァァァァァーーーーーーーーーーッシュ!!」



 フィギュアスケートの演目かと見紛うような、華麗なる一回転斬りが目の前を通り過ぎていく。


 ……シュバアアアアアーーーンッ!!


 巻藁のようにふたつに別れた炎のカカシは、死の余韻も残さずあっという間に黒煙となって消え去った。


 カッコよく残心をキメるお嬢様の前に、わっと仲間たちが詰めかける。



「やったぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!! ユリちゃん、すごいすごい!」



「お見事な胴打ちでした……! さすがです、ユリさんっ!」



「なになに今の斬り!? ずばぁーって!! 超イケてんじゃん!」



「死ぬかと思った……走馬灯が走った……ソフィアがすっぱだかのまま鍵を忘れて、オートロックに閉め出された姿が見えた……」



「って、ヤマミ! そんな昔のこと、思い出してんじゃねぇーよ!」



「大丈夫? ヤマミちゃん、ごめんね。すぐに助けてあげられなくて……治してあげるね」



 コリスは大の字で倒れているヤマミを助け起こすと、治癒能力付与を施す。

 ユリは振り切ったポーズのまま、顔だけ動かしてコリスのほうを見た。



「……ところでコリス、この者はなんなんですの?」



 尋ねながら、足元にいるモグラに視線を落とす。



「ああ、その子は『土還』さんといって、ミコちゃんの陰陽術で出した式神さんだよ」



 治癒を終えたコリスは立ち上がろうとしたが、ヤマミに抱きすくめられていて動けなかった。


 『土還』は巨大モグラの式神。

 小熊のような毛に覆われた顔をしており、鋭い爪の生え揃った水かきのような手が特徴。



「『土還』さんはね、地面を移動してモンスターさんの足元から顔を出して、足をつかまえて動けなくしてくれるんだよ」



「へぇー! なんかおもしろーい! 触ってもへーき? おおっ、モコモコしてんじゃん、キミ!」



 ソフィアはすでにしゃがみこんで、モグラの頬をツンツンしている。

 ミコも膝をついて、「ありがとうございます、土還さん」と頭を撫でて労っていた。


 モグラは嫌がる素振りも引っ込む素振りも見せず、されるがままになっている。



「『ファイヤー・スケアクロウ』さんは動きが早いからどうしようかと思ったけど、ミコちゃんのおかげで動きが止められてよかった! ありがとう、ミコちゃん!」



 コリスの一言に、仲間たちの興味は巫女装束の少女に移った。



「ナイスアシストでしたわ、ミコ。その調子であたくしの援護を続けるのですわ」



「茄子足跡……? あっ、精霊馬のことですね。はい、わたくしは皆様の精霊馬になれるよう、これからも精進させていただきます」



「ええーっ、次はウチの番だよ! 動けないヤツだったら、きっと千点竜龍拳も夢じゃねーし!」



「『ヴァーチ』ではいくら根元で当てても点数は入らない」



「いーじゃんいーじゃん! 気分ってことで! でも大変だったけど、楽しかったー! いいトコはユリユリに持ってかれっちったけど、なんでこんなに楽しいんだろー!? 『ヴァーチ』って、やっぱサイコー!」



 強敵を打ち倒した興奮で、大いに盛り上がる一同。


 しかし……この戦いの一番の立役者は他でもない、コリスだった。


 『土還』は本来、ずっと地上にいる敵に対して使うもので、ひっきりなしに空中を飛ぶ敵には適さない。


 モグラは空中の敵は捕まえられないので、土を盛り上げただけでどこかへ行ってしまうのだ。


 しかし……コリスは土還を放つタイミングをミコに指示した。

 ファイヤー・スケアクロウが接地する瞬間を見切り、見事に捕まえることに成功したのだ。


 何気なくやってのけているが、これは神業ともいえるテクニック。

 これが並のプレイヤーであったなら、二階から目薬をさすよりも成功率は低かっただろう。


 捕まったときのカカシの驚きようからも、そのトンデモなさが伺える。


 しかし、コリスは自らを誇ることはしない。

 自分はアドバイスしただけという立場を貫き、実際に成功させたミコとユリを大いに褒め称えた。


 ちなみにカカシがドロップしたのは、袋に入ったソーセージと卵だった。

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