表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/54

31

 一行を睨みおろす、壁一面の閻魔大王の顔。

 (いわお)のようないかつい表情に、裂けたように開いた大口。


 ちょうど口の前に長テーブルと長椅子があるので、そこに座ったら食べられちゃうんじゃないかと思うほどの迫力があった。


 テーブルの側には立て看板があり、



『地獄蒸しコーナー 手に入れた食材を棒に刺して、閻魔大王の口の中に入れてみよう!』



 とあった。


 テーブルの上には先の尖った1メートルほどの棒がある。

 他にも醤油やら塩やらマヨネーズやらの調味料、ポットに入ったお茶なども置かれていた。



「ああっ、地獄蒸しができんだー! さっそくやろー!」



 ソフィアはさっそく椅子に腰掛けて棒を手にする。



「地獄蒸しってなんですか?」「なあに?」



 首を傾げるミコと、全身を傾げるコリス。



「地獄めぐりの名物ですわ。蒸気を使って食材を蒸し上げますの」



 ユリが答えながら、五人がけの椅子の真ん中に座った。



「これが『絶品のセパプリグルメ』……」



 期待どおりとも期待はずれともつかない平らな声で、ヤマミも後に続く。

 ソフィアの隣に座った。



「食材ってもしかして、さっきファイヤー・インプさんが落とした……」



「そのようですね」



 コリスとミコは空いている席につく。

 食材の入った袋はミコが持っていたので、開封して皆にひとつずつ配った。


 ひとくちサイズのサツマイモとカボチャを、立て看板の例にならって棒の先に刺す。

 インタビューするみたいに棒の先を、閻魔大王に向けて口の中に入れると、



 ……シュゴォォォォーーーーーーーーーーッ!



 唸り声のような音とともに口内に蒸気が蔓延し、すぐにやんだ。


 心の準備をしていなかったコリスは、びくーん! と体中の毛……といっても首から上にしかない毛を逆立たせていた。


 蒸気は一瞬だったのに、食材はいい感じに蒸し上がっていた。

 ほっこりとした湯気をたてるそれを食べやすいように皿に移したあと、皆でフーフーと息を吹きかける。


 ヤマミはソフィアの方に皿を持っていき、いっしょにフーフーさせていた。

 ソフィアは寄り目になって、酸欠もいとわずふたり分の食材に息を吹きかける。


 「いただきまーす!」と合唱したあと、一斉にかぶりつく。



「……お……おいしいっ!」



 コリスはひと口食べた瞬間に目を見開いた。

 たちっぱなしのポニーテールが限界まで伸び上がり、それでも足りずにパタパタと振れまくる。


 この『地獄蒸し』、コリスにとっては初体験だったのだが、実はあまり味に期待していなかった。

 が、サツマイモを口に含んだ瞬間、その考えは一変する。


 いままでにないほどの芳醇な甘みは、少女にとって初めての感覚。

 それは舌がびっくりして逃げ出すほどだった。


 隣のミコも口に手を当て、上品に驚愕していた。



「はい、とってもおいしいです……! 何もつけていないのに、お味がしっかりしていて……! これは、特別なお芋なのでしょうか……!?」




「普通のサツマイモですわ。この調理法がミソなんですのよ」



 ユリは爪楊枝を使ってサツマイモを嗜んでいた。

 優雅な彼女が手にすると、ただ蒸しただけの芋もグラッセのよう。



「へも、りはるのとちょっとちかくね?」



 サツマイモとカボチャをいっしょに口に入れ、ブレンドさせるように咀嚼するソフィア。

 「でも、リアルのとちょっと違くね?」と言っているのだが、食べながらなのでよく聞き取れない。



「リアルの地獄蒸しは閻魔大王の口ではなく、釜に入れて蒸し上げる。できあがりの時間もこんなに早くない」



 唯一聞き取れたであろうヤマミが答えた。

 食べながらの会話につきあわされているので、もう慣れっこなのだ。



「『ヴァーチ』では、魔法のおかげで物事の自由度が高いから、リアルだと大変な地獄蒸しもこんな風にアトラクションに組み込めるんだね」



 先生のようなまとめ方をするコリスに、すかさずヤマミが突っ込む。



「コリスが言うと、教育番組のマスコットのよう」



「ええっ、お姉さんじゃないの!?」



「えーっ、コリスっちってば、テレビの前のよい子よりよい子じゃん!」



「確かに、コリスほどのよい子は見たことがありませんわ」



「そうですね。いいこいいこ」



 仲間たちから撫でられるのは嬉しかったが、コリスはなんだか複雑な気持ちだった。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 最初の地獄蒸しを食べ終えた一行は、一本道の洞窟内を進んでいく。

 すると、分かれ道に出た。


 それぞれの道には、吹き出しのついた鬼の像が立っている。


 左の道には、笑っている青鬼の像。

 『この先は、楽ちんだなぁ!』とセリフがついている。


 右の道には、泣いている赤鬼の像。

 『この先は、大変だぞぉ!』とセリフがついている。



「……たぶん、青い鬼さんのいる道のほうが簡単で、赤い鬼さんのいる道のほうが難しいんだね」



「でしたら、迷う必要もありませんわね」



 ユリはさっさと右の道を行こうとする。



「ユリちゃん、そっちでいいの?」



 背後から呼びかけたコリスに、ダンスのようなターンでユリは振り向いた。



「当然ですわ。選ばれし者のあたくしには、イバラの道こそ相応しい。トゲがツボを刺激して、ちょうどよい塩梅になるのですわ。それに思い出してごらんなさい。幻の部屋へのヒントは『泣いた赤鬼』と言っていたでしょう? きっと栄光への手がかりがあるに違いありませんわ」



「なんかよくわかんないけど、ウチ、難しいゲームってチョー好きなんだよね! 『デモデモソウル』とかさ! だからさんせーいっ!」



 とユリ側に加わるソフィア。



「ミコちゃんとヤマミちゃんは簡単なほうと難しいほう、どっちがいい?」



「わたくしはどちらでも構いません。皆様の後を、三歩さがってついてまいります」「なら、自分は四歩さがってついていく」「ではわたくしは、五歩さがらせていただきますね」「ならば、自分は六歩……」



 よくわからない譲り合いが始まったが、どっちでも良いということはわかったので、希望者の多い『泣いた赤鬼』の道を進むことになった。


 その先、ふたつめの部屋で待ち構えていたのはファイヤー・インプ。

 数も同じだったので拍子抜けしかけたが、頭のすぐ上を何かが横切ったので新手の存在を認識する。



「あれは……ファイヤー・バットさんだ!」



 ファイヤー・バット。

 茶褐色のコウモリなのだが、羽ばたくたびに火の粉を降らせ、それでダメージを与えるという炎属性のコウモリだ。



「バットだろうとボールだろうと構いませんわ! あたくしの剣でホームランにしてさしあげますわ!」



「ええいっ、竜龍拳(りゅうりゅうけん)~っ!」



 レーザーポインターに反応する猫のように、まっさきにファイヤー・バットに手を出す前衛ふたり組。

 インプそっちのけで追いかけ回しはじめる。


 しかし、全然攻撃は当たっていない。

 というか、全然届いていない。


 ミコとヤマミのほうは、迫り来るインプの相手に大わらわだ。


 ミコは目の前にいるインプに矢を射ろうとしているのだが、引っかかれて狙いが定められず、ヤマミの攻撃魔法は殴られて詠唱を中断させられていた。


 コリスは心臓が止まりそうな思いだったが、なんとか気をたしかに持って叫ぶ。



「ミコちゃん、ヤマミちゃん、逃げて! ユリちゃんとソフィアちゃんは戻ってきて、ファイヤー・インプさんの相手をして!」



 悲痛な叫びに気づいたユリとソフィアが戻ってくる。

 追い立てられているミコとヤマミとすれ違いざまに、



「ちぇすとぉー!」「ちょわぁーっ!」



 インプたちを強烈な一撃でふっとばしていた。



「よし、これで、ファイヤー・インプさんのターゲットが移った……! ミコちゃんとヤマミちゃん! ファイヤー・バットさんを狙って!」



 遠距離攻撃組はいつものように側面から援護をしようとしていたのだが、コリスの呼びかけで攻撃対象を切り替える。


 滑空して近距離攻撃組を狙うコウモリたちを、寸前で矢と魔法によって撃ち抜いていた。


 コリスが指示したのは、適材適所への人員配置……相性のいい敵と戦わせるように仲間たちを動かしたのだ。


 弓と魔法であれば、空飛ぶ敵であれ難なく攻撃できる……!

 そして地上の敵を抑えておけば、邪魔されることもない……!


 ファイヤー・インプとファイヤー・バットの組み合わせは『初心者キラー』とも呼ばれている。

 初めての空中からの攻撃に惑わされ、ターゲットを見誤ってしまうからだ。


 一行も危うくそのパターンにはまりかけたのだが、流れを引き戻したのはマスコット少女の一言だった。


 コリスは逆に、こちらの得意とするパターンに敵をはめ返してやったのだ……!


 作戦勝ちにより、第2戦もあっさりと決着する。

 モンスターたちがドロップしたのは、袋に入ったトウモロコシとキノコだった。

面白い! と思ったら下のランキングバナーをクリックして、応援していただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=777162440&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ