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 ユークロース・マウンテンをバックに、高く舞い上がるふたりの少女。

 雲ひとつない青空に、翼のようなバスタオルがはためく。


 その様を、呆気に取られた表情で見上げる、脱衣所の仲間たちと従業員。


 それだけではない。

 敵であるゴブリンやトロール、そして道行く人々までもが、ふたりの天使に目を奪われていた。



「「せぇーーーーのっ!!」」



 天使たちの咆哮。



「「ふぁいやぁぁぁぁぁ……まきまきせんぷぅーーーーきゃくっ!!」」



 そして不死鳥へと変わる。


 ……ゴォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!


 花火のような火輪が、ユークロースの空を彩った。

 「おおっ!?」と街じゅうがざわめく。


 トロールの頬に、燃える足ビンタが連続ヒットする。


 ……バキ! バキ! バキ! バキ! バキっ!!


 木をへし折るような乾いた音のあと、


 ……ボオッ!!


 脂ぎった顔面が炎に包まれた。


 トロールは連続攻撃にのけぞろよろめいていたが、発火した顔に驚き、たまらない様子で前かがみになる。

 そのすぐそばに、スタッと着地するソフィアとコリス。



「「せぇーーーーのっ!!」」



 天使たちの攻撃は、まだ終わっていなかった……!



「「ふぁいやぁぁぁぁぁ…!!」」



 ハーモニーとともに、燃え上がる拳。



「「竜っ……!!」」



 ……ドガアッ!!



 トロールの燃え盛るアゴに、炎の拳がめりこんだ。

 さらなる燃料を注がれたかように、トロールの顔はさらに激しく燃えさかる。



「「龍っ……!!」」



 グググググ……! とアゴが持ち上げられていく。

 ただでさえ酷い顔が、プレス機にかけられたかのように、さらに醜くひしゃげていく。



「「拳ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」」



 ……ズバァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンッ!!



 拳を高く掲げ、再び大空へと舞い上がる天使たち。

 鳳凰のように炎をまとい、青空を焦がさんばかりに、高く、高く。


 ……これは、示し合わせたものではなかった。


 コリスはソフィアとの会話を通じ、巻々旋風脚のあとに竜龍拳を出すだろうと察していた。

 竜龍拳の頃合いを予測し、絶妙なタイミングでエンチャント・ファイアを足から拳へと移していたのだ……!


 全身を炎に包まれたトロールは大きくノックバックし、そのまま屋上から転落。

 街の石畳に叩きつけられ、ズズン! と丸い大穴をあけていた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 一行は、温泉宿の一角にある、あずま屋のような露天風呂にいた。



「まさか宿までタダになるとは思いませんでしたわ」



 洗い場のヒノキの椅子に腰掛けながら、ユリは言った。



「はい。これも、ソフィアさんとコリスさんのおかげですね」



 賛同しながら、隣に腰掛けるミコ。



「へへー! ピースピース! ウチってばもうヒーローじゃね!?」



 ふたりの肩を抱き、嬉しそうに顔を突っ込んでくるソフィア。


 その背後から、手を差し入れてくるヤマミ。

 もみゅっ、とソフィアの胸をわし掴みにした。



「あんっ!? もうヤマミ! 揉むときは揉むって言えって、いつも言ってるっしょ!?」



「……揉めば揉むほど大きくなる。おっぱいは酔拳と同じ。目指せ三桁。大台に乗ったら『おっぱいキングダム』と呼ばせてもらう」



「キングダム!? ウチのおっぱいを文房具よばわりするなし!」



「それはキングジム」



「ところで、もうひとりのヒーローはどうしましたの?」



緋色(ひいろ)……? ああ、いまのお空のことですね」



 皆はコリスを探してキョロキョロしていたのだが、ミコはひとりだけ夕焼け空を眺めている。


 探してみると、露天風呂内の隅っこにある衝立の向こうに、コリスはちょこんと座っていた。



「……こんな所で何をしておりますの?」



「どしたのコリスっち、こんなトコでロンリーしちゃって」



「お風邪を召されてしまいますよ?」



「さっそく、直腸検温しなくては」



 ぞろぞろとやってきた大人たちに囲まれ、コリスは「わぁ」と手で顔を覆った。



「みっ、みんな……! そ、そんなちっちゃなタオル一枚で……! バスタオル、しないの!?」



 スケスケのタオル一枚を身体に張り付かせただけの仲間たちに、コリスは顔を真っ赤っ赤にしていた。

 「コリスがリンゴになった」とヤマミ。



「なぜバスタオルをしなくてはなりませんの? ここは街中などではなく、家族風呂でしょう?」



 タオルは腰に巻く派のユリが、腰に手を当てたいつものポーズで見下ろす。



「ウチとコリスっちがトロールをやっつけたから、タダになったんだよ! だからさぁ、遠慮しなくていいんだって!」



 仲間たちの中で、ソフィアはタオルすらしていなかった。

 何も隠さず堂々と仁王立ちになっていて、それがコリスにとっては何よりも目の毒だった。



「この家族風呂は貸し切りだと伺っておりますので、殿方はおられません。恥ずかしがることはないと思うのですが……」



 ミコは一応、胸にタオルをあてがっているのだが、大きすぎて全然隠れていなかった。



「うぅ……そうなんだけど、わたし、女の子の裸って、お母さんの以外は見たことがなくて……」



 顔を覆ったまま、コリスは蚊の鳴くような声で言う。



「男の裸は見慣れている、と」



 ヤマミは街中を歩いていたときと同じように、厚手のバスタオルで身体をグルグル巻きにしている。

 これはコリスと違って恥ずかしいわけではなく、単純に寒いからだった。



「ち、違うよヤマミちゃんっ!? お、男の子の裸なんて見たら……わ、わたし……気絶しちゃう……!」



 コリスは男の裸を見たことがないので想像しようにもできないのだが、想像しようとするだけでも恥ずかしいのか、頭から湯気をたちのぼらせる始末だった。



「ウチらのマッパはヘーキなんっしょ? だったらいーじゃん」



「そ、ソフィアちゃん……それはそうなんだけど、なんというか、その、心の準備みたいなものが……」



「でしたら、いっぱいご覧になっていただいて、慣れてしまうというのはいかがでしょう?」



 ミコはたゆんと胸を揺らしながらしゃがみこみ、小さな子にするみたいに目線を合わせる。

 仲間たちも次々にしゃがみこみ、コリスの顔を覗き込んだ。


 ヤマミはしゃがみこんでコリスの肩を抱き、耳元で「ほら、おっぱいがいっぱい」と悪魔のように囁きかけた。



「や、ヤマミちゃん?」



「……他人のおっぱいを見たり触ったりすると、女性ホルモンが分泌されて、バストアップに繋がる」



「……そ、それホント?」



 半信半疑なコリスに対し、こっくりと頷き返すヤマミ。

 それだけで、人を疑うことを知らない幼気な少女は信じてしまった。



「えーっ、ヤマミってばウチのおっぱいしょっちゅう触ってるけど、貧……」



 ソフィアの脇腹を、ヒジで小突くユリ。



「……ソフィア! せっかくコリスの心が開きかけているというのに、余計なことを言うんじゃありませんわ!」



「……あっ、そ、そっか……! え、えっと、コリスっち! ヤマミの言うとおりだよ! ヤマミはうちのおっぱいしょっちゅう触ってて、だいぶボーンってなったもん!」



 第三者の証言が加わり、コリスの意志は決定的なものとなる。



「そ、そうなんだ……! な、ならわたし、がんばってみる! み、みんなと一緒にお風呂に入ってみる……!」



 少女は顔を覆っていた小さな手を離し、決意に変えるように握りこぶしを作る。

 言うが早いが、仲間たちはコリスの身体をひょいと抱えあげた。



「じゃあまずは洗いっこからですわね、さっそくまいりましょう」



「さんせーい! あらいっこ! あらいっこ!」



「いっぱいごしごししてさしあげますね」



「わっしょいわっしょい」



「ええっ!? ちょ、み、みんな……!? あ、洗いっこって、なに……!?」



 コリスは神輿のように担がれ、あれよあれよという間に洗い場まで連れ出されてしまった。

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