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 仲間たちとかわるがわる『百合(ももあわせ)のポーズ』のポーズをやったあと……コリスたちはようやく、森の奥へと進んだ。


 身長順に、ソフィア、ユリ、ミコ、ヤマミ、コリスという順番。

 こうして並ぶとソフィアからヤマミまでは坂道のようにスムーズに低くなっていくのだが、コリスのところでいきなり段差のようにガクンと低くなる。


 そんな一部だけアンバランスな一行は、獣道を辿って進んでいく。

 すると……大樹に穴が開いた洞窟へとたどり着いた。


 これが件のゴブリンの棲家だろう。

 チュートリアルのクエストだけあってわかりやすい場所にあり、森の開けた場所であっさりと発見することができた。


 洞窟前の広場は、ゴブリンたちの生活スペースになっていた。

 焚き火の跡や食い散らかしたゴミなどが散乱している。


 コリスはさっそく突入しようとするユリとソフィアをなだめ、作戦会議を開いた。



「えっと……最初のほうのクエストだから、難しいことはないと思う。洞窟にいるものゴブリンさんだけで、罠とかも仕掛けられてないと思うんだけど……いちおう念のため、いちばん守備力の高いユリちゃんを先頭にして、一列になって進もう。わたしがユリちゃんに付いて、『守備力強化(プロテクション)』の付与をかけるからね」



 コリスの作戦のもとに隊列変更。

 ユリ、コリス、ソフィア、ミコ、ヤマミの順番で洞窟に入っていく。


 『守備力強化(プロテクション)』を受けるユリの身体は、青白い光に包まれていた。


 コリスは継母と初めて遊びに出かける子供のように、微妙な距離感を保ってユリに付いていく。

 仲間の行動をじゃましないようにとの気遣いからなのだが、遠慮がちな歩みがユリは気になってしょうがなかった。



「……コリス、もっと密着してはどうですの?」



「ありがとう、ユリちゃん。でもモンスターさんが出たときに、ユリちゃんの邪魔になっちゃうから……」



「そうではないの。同じくっつくなら、ぴったりとくっつきなさいと言っているのです。でないと生殺し同然なのですわ」



「なまごろし?」



 キョトンとするコリスの脇に手を差し入れ、持ち上げるユリ。


 幼い我が子に接するかのように、もはや当たり前のように仲間から抱っこされる身になってしまったコリス。

 もうコリス自身も慣れてしまったのか、されるがままになっている。


 ユリは地面の岩で一段高くなっている所にコリスを立たせると、背中を向けた。



「さぁ、あたくしの背中におぶさるのです……そう、それでいいですわ」



 ユリに促され、コリスはリュックサックのようにユリの背中にしがみついた。



「……重くない? ユリちゃん」



「重いわけがありませんわ。むしろもっと太ったほうがよいのではなくて? 心配になる軽さですわ」



「うぅ……それ、よく言われる……そう思って、お菓子をいっぱい食べてるんだけど、全然大きくなれなくて……」



「お菓子食べても太んないの!? いーなぁ! コリスっち! ウチもコリスっちみたいになりたーい!」



「ソフィアちゃんはお菓子を食べたら大きくなるの? いいなぁ……」



「ソフィアの場合、栄養がぜんぶ胸部にいく。ブドウ糖ですら脳に行き渡らず、悪徳代官の年貢のように胸部に搾り取られる」



「えーっ!? 普通そうっしょー!?」



「はい。女の子の場合、いただいた栄養は真っ先にお胸に行くものではないのですか? 赤ちゃんにおっぱいをあげるために……」



 大きな胸を山脈のように並べながら、揃って意外そうな顔をするソフィアとミコ。

 対するコリスとヤマミは、平野のような胸を並べながら恨めしそうにしていた。



「……しっ! 静かに……! 奥のほうから、なにか聞こえますわ……!」



 ユリの鋭い一言に、とっさにお互いの口を塞ぐ面々。

 洞窟の曲がり角から、そーっと奥を覗いてみると……。


 そこには、一匹の巨大なニワトリから追い掛け回されるゴブリンたちの姿があった。



「コケーッ! コケーッ! コケコケコケーッ!!」



 首にかけられていた縄を引きちぎり、暴れだしたであろうニワトリ。

 土佐犬のような大きさで、翼をはためかせるその姿は大鷲のようであった。


 牙のように鋭いクチバシと、三叉槍のような爪でゴブリンたちを圧倒している。


 そのニワトリ無双を、壁際から団子姉妹のように連なって覗く少女たち。



 「あ……あれが、助け出すニワトリ?」と長女のソフィア。


 「助け出す必要はなさそうに見えますわね」と次女のユリ。


 「でも……ご無事でよかったです」と三女のミコ。


 「救出というより、捕獲の間違いでは」と四女のヤマミ。



「と、とりあえず、ゴブリンさんたちをやっつけよっか……」



 末っ子のコリスはそう提案したものの、すでにゴブリンは最後の一匹になっていて、今まさに逃げ出そうとしいるところだった。


 ゴブリンに尻を向けたニワトリは、激しいいななきとともに尻から卵をスポーンと放出する。

 砲弾のような勢いの卵を受け、ゴブリンは煙となって消え去った。


 それは卵であるはずなのにモンスターを貫通、勢い衰えず壁にガツンと当たる。

 しかし割れることなく、石のようにカランコロンと転がった。


 ……洞窟の奥にはもう、ニワトリ以外の生物の姿は残っていない。


 シュッシュッ! とシャドーボクシングのように首を振り回し、敵を求めるシャルロット。


 コカトリスばりの恐ろしい眼光が向けられた途端、少女たちは一斉に引っ込んだ。



「どーすんの!? アレ、どー見たってモンスターじゃん!?」



「いっそのこと、殺害してはどうか。依頼主には生きたままとは聞かなかったと主張する線で」



「それは……おじいさんが、とても悲しまれると思います……」



「みんな落ち着きなさい。どんなに大きくても、たかがニワトリ。ニワトリの扱いなら慣れているでしょう」



「そうなの? わたし、ニワトリさんを見るの初めてなんだけど……」



「コリスは来たばかりだから知らないのでしょうけど、大分に住む者の身体は鶏肉でできているといっても過言ではないのですわ」



「……慣れてるといっても、食べるほうなんだね……あ……そういえば、寮のごはんで出てきてびっくりしたんだけど、大分の人ってササミを生で食べるんだね! あと天ぷら!」



「ササミの生食と鶏天といえば、大分県民にとってはソウルフード。次点でやせうま」



「東京の方々は、ササミを生で召し上がらないのですか?」



「うん。鶏肉は火を通して食べるのが、当たり前かなぁ……」



「えーっ!? マジでぇ!? それって人生半分……」



 少女たちの雑談は、大きな影によって遮られる。

 おそるおそる顔を上げた、そこには……オロチのように鎌首をもたげる、シャルロットの姿が……!



「……ぎゃああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?!?」



 耳をつんざく絶叫とともに、こけつまろびつしながら洞窟から飛び出す少女たち。


 外の広場をグルグルと回りながら巨大ニワトリから逃げ惑い、ガスガスと背中を突かれまくっていると、



「ああっ……シャルロット……! シャルロットや……!」



 依頼人のおじいさんが、広場に駆け込んできた。



「コケェェェェェェェェェェーッ!?!?」



 おじいさんを見るなり、ダチョウのような素早さで飛びかかっていくシャルロット。



「お……おじいさん、あぶないっ……!」



 コリスの叫び虚しく、鋭いクチバシがおじいさんの無防備すぎる頭に襲いかかる……!


 しかしおじいさんはポカスカじゃんけんのように、ヒットの直前で鉄鍋をかぶり、クチバシ攻撃を防いでいた。


 ガアン! ガアン! ガアン! ガアン!


 クチバシの連打にあわせ、打鐘のような音が森に響き渡る。

 ついばまれている真っ最中だというのに、おじいさんはニコニコ顔でコリスたちの所に歩み寄ってきた。



「ああ、ありがとうありがとう、冒険者さんたち……! シャルロットをゴブリンたちの手から救い出してくれて……! あんたたちは、村の英雄だ……!」



「あ、あの……おじいさん、シャルロットちゃんから、おもいっきり攻撃されてますけど……」



 震える指先で、頭の上を指さすコリスに……おじいさんは問題ないとばかりに手をパタパタと振り返す。



「ああ、これはシャルロットの愛情表現なんじゃ。気に入った相手にはこうやってついばむんじゃよ」



 ヤマミがボソリと「ハゲてる理由がわかった」とつぶやいた。

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