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コンビニたん  作者: ウナ
4/4

4日目 【万引きは警察に突き出します】

【4日目:万引きは警察に突き出します】







PM8:01


「仁田くんは8時過ぎたからレジ点検しておいて」


レジ点検とは入っているお金とデータに差異が無いか調べる業務だ。


「下田さんは商品の前出しよろしく」


前出しとは売れた商品の穴を奥の商品を前に出す事で埋める業務である。

フェイスアップとも言うが、そんな小洒落た言い方は俺は好きではない。


「了解ッス!」 「はい」


二人が業務を始めたのを確認してから、

俺は事務所に戻り、PCに向かいながら煙草に火をつける。


テロンテロン……。


入り口のドアが開くと鳴る音がし、監視カメラのモニターに目が行く。

入ってきたのは30代くらいのサラリーマン風の男だった。

一瞬見ただけでPCへと視線を戻し、発注表を弄る。


「明日は雲行き怪しいからな……弁当減らすか」


コンビニとは天候で売上が大きく変わるのだ。

パパっと数字を入れ替えて送信を押してから、

再び監視カメラのモニターを見る。


「ん?」


先程入店してきたサラリーマン風の男の動きが怪しい。

どこが怪しいというのはハッキリと言えないが、

辺りを警戒しながら商品を取っては戻して、

大きさを確かめているような気がした。

その行動は見覚えがある、万引き犯のよくやる行動だ。


事務所から顔だけを出し、レジ点検中の仁田くんに声をかける。


「仁田くん、ちょい来て」


「はい、何ッスか」


耳打ちするように小声で彼にあの客が怪しい事を伝え、

下田さんをレジに戻すよう彼に伝えた。


「了解ッス!ひひっ、俺万引き逮捕してみたかったんッスよ」


「勝手に動くなよ、何されるか判らないからね」


「了解ッス!」


二人がレジに入り、俺は監視モニターでチェックをする。

やはりあの男は商品を懐に入れた。

だが、まだ会計時に出せば犯罪ではない。

その僅かな期待をしながら待つ。


「140円になります」


結局、彼は懐の商品は出さなかった。

俺は事務所から出て、ゆっくり男の元へと向かう。

彼が出口から1歩出た瞬間、肩を掴む。


「お客さん、事務所まで来てください」


一瞬逃げようとするが、肩を掴む手に全力を込める。


「痛たたたっ、判りました、行きますから」


こうして万引き犯は捕まった。

何度も謝罪をされたが、俺は容赦なく警察を呼ぶ。

しばらくして警察に連れて行かれた彼は、最後に俺に唾を吐きかけていた。


「沼津さんすげぇッスね!一撃じゃないッスか!」


「一撃って、肩掴んだだけだろ」


「でも、オーナー強そうですよね、腕の筋肉とか」


「あぁ、格闘技やってるからね」


少しだけ腕まくりをして見せつける。


「マジッスか!かっけぇ!」


「そうなんですか……ちょっと触っていいです?」


下田さんがそう言ってくるので、少し恥ずかしいがOKした。


「へぇ……すごく…硬いですね」


触り方が優しすぎてくすぐったく、俺はすぐに逃げ出す。


「じゃ、俺は発注に戻るから、君らはさっきの続きよろしく」


「はい」 「了解ッス!」



PM8:52



「そろそろ伊東くんが来る時間か」


俺は事務作業を切り上げ、制服を羽織る。

着替えながら監視モニターを見ていると、

本日2人目の万引き犯候補が映っていた。


「またか……あぁ、下手な人だな、もろバレだぞ、それ」


しばらくモニターで監視し、会計時に商品を出さないのを確認し、

俺は再び事務所を出て、万引き犯の女性の肩を掴む。


「お客さん、事務所に来てくれますか」


彼女は逃げる素振りすら見せず、素直に事務所に着いてきた。


「申し訳ありません……本当にごめんなさい」


彼女の服の中には想像以上に商品が隠されていた。

全て食品なのが少し気になり、彼女を顔を見る。


パッと見では40代か50代に見えるが、

彼女はそんな年齢ではない……30歳くらいなのだ。


頬はこけ、目はくぼみ、その下には濃いくまが見える。

髪には白髪がチラホラと見え、彼女の爪は凸凹に歪み、ボロボロだった。


あぁ……これは………本物だ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


何度も謝る女性を落ち着かせ、念のため何故盗もうとしたのか聞く。


「娘に……どうしても食べさせたくて……」


あぁ……やっぱりか……。


「あの、外に娘を待たせてるんです……その」


「判りました、ちょっと待っててくださいね」


俺は事務所から顔を出し、下田さんを呼ぶ。


「外に小さい女の子いるから連れてきて、優しくね」


「はい」


しばらくして下田さんが連れてきた女の子が事務所に入ってくる。

女の子はまだ9~10歳といったところだ。

その姿は……頬骨が浮き出ていた。


あぁ……これはダメなやつだ……参ったな。


頭を掻き、小さいため息をもらしてから、下田さんに言う。


「この子に好きなドリンクあげて、後で俺が金払うから」


「はい、じゃ、行こ?」


「いいの~?」


「うん、お姉ちゃんと行こ」


二人が事務所から出て行くと、母親は涙を流していた。


「泣かないでください、娘さんに気づかれますよ」


「はい……はい……ごめんなさい」


「今回は特別に見逃します、普段こんな事しないんですよ?」


「ありがとうございます、ありがとうございます」


やれやれ、とため息をもらし、俺は続ける。


「その代わり、二度とうちには来ないでください」


「はい、約束します」


「それと、店を出たら、裏手に回ってください

 そのまま帰ってもいいです、来るか来ないかはあなたに任せます」


「はい?」


女性は不安そうな顔をして、首を傾げる。

そんな彼女に俺はティッシュを数枚渡し、涙を拭かせた。


「それじゃ、娘さん連れて出て行ってください」


「はい、本当に申し訳ありませんでした」


オレンジジュースを貰った女の子は上機嫌に母親と出て行く。


「2Lのお茶2本持ってきて、それと廃棄のカゴ」


バイト2人にそれを伝え、俺はそれを受け取り、店の裏側へと回る。

すると、そこには先程の母娘が立っていた。


良かった、逃げなかった。


「お待たせしました」


「いえ……」


ドサッと廃棄になる弁当の山とお茶2本を置く。


「好きなのどうぞ」


「え?……そんな」


「どうぞ、その代わり、早めに食べてくださいね」


「あぁ………あぁ」


母親は声にならない声をもらし、涙を流してしゃがみ込む。

そんな母を心配した娘が彼女の頭を撫でて、こう言うのだ。


「お母さん泣かないで?」


俺はその言葉に視界が歪む。

袖口でぐしぐしと目を拭い、笑顔を作って女の子と視線を合わす。


「好きなの食べていいぞ、ほら、こっちのとか甘くて美味しいぞ」


「え?いいの??わぁーーー!」


女の子はデザートという物すら食べた事がなかった。

母親は何度も頭を下げ、俺に感謝していた。


「頑張ってくださいね」


「はい、この御恩は忘れません」


「お兄ちゃんありがとー」


「おう、食い過ぎるなよ」


「はーい!」


こうして母娘は帰ってゆく、帰る家があるのかは判らないが……。




コンビニはいつでも、どんな客でも迎えます。




※ここまで読んでくれた人へ。

 これまでの話は全て実話です(名前などは変えてますが)


読者さんの反応次第では再開するかもしれません。

一応、後20話分くらいのネタはあります。


感想、レビュー、評価お待ちしております。

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