1日目 【家庭ゴミは捨てないでください】
【1日目:家庭ゴミを捨てないでください】
AM3:05
「伊東くん、ちょっと外のゴミ捨ててきて」
コンビニエンスの業務の1つにゴミ捨てがある。
外のゴミ箱を片付けないとすぐに溢れてしまうため、
定期的にゴミ捨てをしなくてはいけない。
「了解です、行ってきます」
彼は深夜バイトの伊東くん……某ハリーなポッターにそっくりな青年だ。
伊東くんが店の外に出て行ったのを確認した俺は、
硬貨を数える時に使うコインカウンターを取り出し、
レジに入っている額とデータが合っているか確認するため、お金を数え始める。
お札を数えようとした瞬間、
ゴミ捨てに行ったはずの伊東くんが大慌てで戻って来た。
「沼津くん!沼津くん!ちょっと来て来て」
バイトの伊東くんにこう呼ばれているが、俺はこの店のオーナーだったりする。
彼とは仲が良いので別に気にしていないが。
「何、どったの」
お金をレジに戻し、伊東くんの後に着いて行くと、
……そこには動くゴミ袋があった。
「ちょ、なんで動いてるの、怖っ!」
「なんだろうね、怖いね」
「何、生き物?」
「多分違うよ」
恐る恐るガサゴゾ動くゴミ袋に近寄ると、聴き慣れない機械音が響いてくる。
ウィンウィンウィンウィン…………。
一定のリズムで何かが動いている。
「なんだろう、おもちゃ? 伊東くん、ちょっとほじくってみてよ」
「え、やだよ、沼津くんやってよ」
「え、やだよ」
怪しげに動くゴミ袋を前に、醜い押し付け合いが繰り広げられる。
「じゃあ、ジャンケンで決めようぜ」
「よし、勝負だ」
「じゃんけ~んっ……ぽんっ!」
俺はジャンケンに勝ち、伊東くんは渋々ゴミ袋に手をかけた。
ガサゴソと漁っていくと、ついに【それ】が姿を現した。
ウィンウィンウィンウィン…………。
「…………」
「沼津くん!すごいよ!すごいの出てきたよ!!」
ゴミ袋から出て来たのは、大人のおもちゃ……いわゆるバイブというやつだ。
やたら興奮している伊東くん、
彼は見た目こそ某ハリーなポッターだが、
とんでもない童貞むっつり野郎なのである。
「ってか、なんでスイッチ入ってるの」
「なんでだろうね!すごいね!沼津くん!」
「とりあえず、伊東くんスイッチ切ってよ」
「え……やだよ」
途端に冷静になる伊東くん。
「ジャンケン負けたじゃん」
「えー……それは無いよ沼津く~ん」
「ほら、さっさと片付けて」
「トイレ掃除用のゴム手使っていい?」
「あ~、いいよ」
そう言うと、伊東くんは店内のトイレまで小走りで行き、
水色のゴム手袋を装備して帰ってきた。
「じゃ、後は頼むね」
俺はその場を去ろうとしたが、伊東くんが俺を引き止める、ゴム手のまま。
「触んなっ!!」
「あ、ごめん、でも行かないで!ここにいて!」
「判ったから、触んなっ!」
ミミズがのたうち回るように暴れ狂う大人のおもちゃに恐る恐る手を伸ばす。
「うわっ!動いてる!」
いや、知ってる。
「はよ、スイッチ切って」
「判ってるよ!でもスイッチどこっ!?」
「知らんがな」
やっと【それ】を掴んだ伊東くんは変な声を上げながら電源を切る。
「あああああああ、気持ち悪かったぁ~」
「じゃあ、それは分けといてね」
「了解!」
こうして、今日もコンビニの夜は更けてゆく。