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ガールズ・トーク・バトル

「あそこへ行ったのは、薬草を採るためです。き、危険なことは承知しておりましたが、病弱な父の身体に効く特別な薬草は、あそこにしか生えてなくて・・・。ほ、本当です!信じてくださいぃ!!」


 そう言って、涙目になる女性。名をマリア、と言うらしい。歳は勇太より2つ上の17だ。綺麗な栗毛を肩当たりまで伸ばし、街娘らしい簡素な服装に身を包んでいる。総評すると、平均よりも水準が少し高いくらいの普通なお姉さんである。体の凹凸も含め。

 あの記念すべき悲惨な初バトルのあと、3人は全力でその場から逃走した。もちろんゴブリンがどうのこうのではなく、火災現場から遠ざかる為に。さながら放火犯だ。

 その後、ほうほうの体で安全圏に到達した一行は、ようやく互いの自己紹介に至ったの、だが・・・


「嘘臭い。」


「ほらな?言ったとおりじゃろ?」


「ほ、本当ですってば!!」


 先ほどのシロの発言のせいで、勇太にはマリアの主張がどうにも嘘っぽく思えてならないのだ。

 マリアとしてはたまったものではないと、信じてもらうために言葉を重ねていくのだが、言えば言うほど嘘臭くなっていく。終いには泣き出しそうになるマリアを横目に、シロは状況をぶった切る一言を投げた。


「ま、どっちでもええわ。3人とも助かったんじゃ。それで御の字というもんじゃろ。良かったなマリアよ。これからは1人で薬草を採りに出るんじゃないぞ。」


「えっ?」


 こいつ自分で容疑をかけといて飽きたらポイか、と勇太はジト目になってしまった。しかしシロの言うとおり。どうせここで解散すれば、本当でも嘘でもどっちでもよくなる。

 シロに言われてそのことに気付いた勇太も、戸惑うマリアに別れの言葉を告げる。


「ごめんねマリアさん。なんか助けに入っといて、逆に事を大きくしちゃって。帰り道気をつけてね。」


「え?いや、助けていただいて本当に有り難かったんですが・・・え?これ、このままお別れの流れなんですか?」


「そりゃそうじゃろ。もうゴブリンもおらんし。」


「また会えるといいね。じゃあね、マリアさん。」


 そう言って2人は立ち去ろうとする。しかし何故か、マリアはそれにたいそう慌てた。


「ま、待ってください!お、お礼!!そう!お礼させてください!!」


 2人は歩みを止めて、振り返る。勇太は一度、シロと目を見合わせた。どうやらシロは“お前に任せる”と言いたげだ。

 それを汲み取った勇太は、一般的日本人の模範回答をすることにした。


「いえいえ、お気遣いなく。それじゃあまたね。」


「えぇぇ!!ちょ、ちょっと!そんなこと仰らずに!」


 再び立ち去ろうとする2人を見て更に慌てたマリアは、追いすがるように2人の手を掴んで引き止めた。


「なんじゃお主?結構と言っとろうが。勇太の言うとおり、我等は助けると言われるほど何かしたわけではない。気にせんでええ。」


「そうだよマリアさん。ぶっちゃけ林に火をつけただけだからね。むしろ忘れて欲しいくらいだよ。」


「そんなこと仰らずに!命を助けていただいたことは事実ですから!是非何かさせてください!そうしないと私の気が済まないんです!!お願いします!!」


 それを聞いて勇太は戸惑った。本当に感謝されるような内容ではなかったのだが、ここまで必死なマリアを見ると、勇太としては断る方が失礼に当たる気がしてきた。しかし、シロは真逆のようで、更に疑いが深まったようだ。

 シロのくだらない、本当にくだらない戯れ言のせいで何かの容疑者的な扱いを受けるのも可哀想だ。そう思って勇太は助け船を出すことにした。


「ここまで言ってくれてるんだからお言葉に甘えようか、シロ。」


「うぅ~ん・・・?」


「あ、ありがとうございます!!」


 シロに何か喋らせると危険と思ったのか、隙を詰めるようにマリアは謝辞を述べた。いくらなんでも必死過ぎだろと、勇太は苦笑してしまった。


「ではマリアさん。1つお伺いしたいのですが、街はどっちの方角にあるんですか?」


 そう、実は放火もとい火災から距離を取るのに必死になるあまり、一行はがむしゃらに走り過ぎて遠くに捉えていた街を見失ってしまったのだ。

 今は先ほどとはまた違った林の中。勇太とシロには街の方角は検討も付かないが、土地勘のあるマリアには分かっていたようだ。顔を綻ばせて教えてくれた。


「あ、あっち!あっちの方角です!真っ直ぐ行けばすぐに街道に出られるので大丈夫ですよ!!」


「あぁ、それは良かった。」


 勇太の反応に気を良くしたマリアはまくしたてるように続ける。


「街の北側には“朝風の光亭”っていう宿屋があるんです!もちろん食事だけでもできるんですが、ここの料理は本当に絶品です!絶対に後悔させませんよ!!ど、どうですか!?」


「お!そりゃあいいですねぇ~。」


「よかったぁ~!!そ、それでは・・・」


 こちらを伺うように問うてくる。それに勇太がはっきり答えた。


「はい!ありがとうございました!では、お元気で。」


 そう言ってシロとともに立ち去っていった。


「は・・・?」


 マリアは数秒固まった。理解することを脳が拒否している。しかし時間とは無情なもので、段々と2人の背中は小さくなる。


「ちょ、ちょっと待ったあぁぁぁぁ!!」


 マリアは固まる身体に無理やり喝を入れ、ものすごいスピードで2人に追いつき、2人の前に躍り出た。


「あれ?どうしたのマリアさん?」


 勇太はキョトンとした顔をしている。もしや新手のイジメかとすら思ったが、どうやら本人は至って真面目のようだ。益々意味が分からない。


「いやいや!なんで行っちゃうんですか!?」


「え?そんな流れじゃなかった?」


「どこがですか!?“朝風の光亭”で一緒に御飯食べるんじゃなかったんですか!!?」


「ん?そうなの?」


 そう言って勇太はシロを見る。シロは状況を見守ることにしたのか、無言を貫いている。


「そうですよ!!お礼するって言ったじゃないですか!!」


「いやいや、お礼はもうしてもらったじゃん?」


 どうも勇太と上手く噛み合わない。シロだけでなく、今やマリアにも勇太の群を抜いた空気の読めなさが牙を向いているようだ。


「いつですか!?まだ私何もしてないじゃないですか!?」


「いや街の方角を教えてくれたじゃん。しかもおすすめの宿屋まで教えてくれて。本当にありがとうね。助かったよ。」


「・・・はっ?」


 どうやら齟齬の原因はそこにあったらしい。2人のお礼の内容が互いに思い違いをしていたことにマリアは気付いた。そして、気付いたのはマリアだけではない。


「おぅおぅ!勇太の言うとおりじゃ!いや~すまんかったのうマリアよ!!このままじゃと迷いに迷って街にたどり着けんかったかもしれん。いや、むしろこちらが命を助けてもらったようなもんじゃのう!」


「!?」


 はっきり言って、シロにも勇太バカが何を勘違いしていたのか分からなかった。だから適当に合わせて成り行きを見守ることにしたのだ。


 しかし勇太アホの意図を察するやいなや、自分の望むルートに誘導し始めた。

 別にマリアを嫌っている訳ではないが、こうもガツガツ来られると何となく対抗したくなる、シロはそんな天の邪鬼な神だった。


「いや、いやいや!そんなんじゃお礼のおの字にもなりませんって!!是非ご飯をご馳走させてくださいって!!!」


「いや~いくらなんでもそこまでは迷惑かけられんよ。我らは冒険者。貸し借りは過不足なく行わねばな。」


「へぇ~。そういうもんなの?」


「あぁ。勇太も肝に命じとくんじゃぞ。冒険者とはいつ死ぬとも分からぬ根無し草。貸したらきっちり返してもらうが、必要以上の報酬は甘い罠か自由を縛る鎖にしかならぬ。貰えるものはなんでも貰うは三流のすること。一流ならば謙遜とは別の意味で、常に己を厳しく評価せねばならんのよ。」


 うまい。巧過ぎる。さすが腐っても神。人心の誘導などお手のものらしい。今適当に考えた方便だが、こう言われるとマリアとしてもこれ以上お礼など口にする事はできない。

 シロとマリアの間に火花が散っている。勇太にとっては意味の分からなすぎる無駄な牽制が応酬していた。


「そ、そうですか・・・。冒険者ってめんど・・・いえいえ、しっかりと自分をもってらっしゃるんですね。」


「じゃろ?じゃからもう我らのことは気にせんでええんじゃ。達者での、マリアや。」


「で、でもでも!これから街に行くんですよね!?じゃあお礼とは別に、普通にお食事しましょうよ!同じ場所を目指してるのにわざわざ別れる意味もないじゃないですか!」


「いや、我らは別にすぐに街に行かんよ?方向も確認できたし、もう少しこのあたりをまわってから街に行くからの。」


「えぇ!?じゃ、じゃあ私もお付き合いしますよ!この辺りは迷いやすいですから!私といれば安心です!!」


「優しいのぅマリアは。でもええんじゃ。冒険者たるものその程度の苦難自分でなんとか出来ねばな。それよりもマリアは今日ゴブリンに襲われて大変だったではないか。早く病弱な父の元に帰った方がよかろう。」


「ご、ゴブリンなんて週3くらいで襲われてますから余裕ですよ!父もきっとその程度で帰ってくるなって怒鳴ります!えぇ!そのはずです!!」


「マリアよ。勢いでとんでもないこと言っとるぞ。」


 どうしてこうなったのか。最初は軽い冗談のつもりだったのだが、ここまで来るとシロにはマリアが怪し過ぎて一切信頼出来なくなっていた。


「なんじゃお主。なんでそこまでして我らに同行したがる?まさか本当に勇太に惚れたんか。」


「だ、誰がこんなちんちくりんに!」


「え?」


「じゃあこの唐変木目当てじゃないんじゃな?」


「唐変木?」


「違いますよ!命を助けられてもこんな頭ぱっぱらぱーな男に惚れたりしません!!」


「ねぇ?なんか僕の悪口大会になってない?僕なんか悪いことした?」


 勇太を差し置いて、2人の戦いは佳境を迎えつつあった。


「では、これで何も問題ないな。勇太に欠片も興味もなし。付いて来る理由はどこにもない。と言うことで、これで解散じゃ。勇太よ。行くぞ。」


「なんか僕納得いかないんだけど・・・」


 勝敗は決したとばかりに勇太の手を引いて立ち去ろうとするシロ。ぐっと言葉に詰まっていたマリアは、最後の抵抗に出た。


「わ、分かりました!ここでお別れなら仕方ありません!!で、でも!ひとつだけ教えてください!」


「なんじゃしつこいやつじゃのう。ひとつだけじゃぞ。」


「い、今からそのあたりを見てまわるとのことでしたが、今夜はどちらに滞在するご予定ですか?」


 突然の話題転換にきょとんとしてしまう2人。まさか夜に押し掛けるつもりか、とシロがマリアをねじ伏せる詭弁を考えている間に、勇太が正直に答えた。


「そりゃ、流石に野宿なんて出来ないから、街の宿屋に行くと思うけど・・・」


「それはおすすめできません。」


 してやったり、とマリアはやっと会話の主導権を握ることに成功し、笑みをこぼした。シロは嫌な予感を覚えたものの、相手に理由を問うしかなかった。


「なんでじゃい?そんな人気な宿屋なんか。」


「いえ。隠れ家的な名店なので問題なく泊まれるでしょう。街に入れれば、ですが。」


「え?街って簡単に入れないの?関所でもあるの?通行手形みたいなのが必要なのかな?」


 勇太はその可能性は思い当たらなかったと、焦りだした。しかし、理由は違うところにあるらしい。


「大丈夫ですよ。門番はいますが、街に魔物が入らないようにするのが彼らの仕事ですから。人なら誰もが自由に出入り出来ます。平常時、ならね。」


「含んだ物言いをしおって。じゃあ何が問題なんじゃ!」


 シロは痺れを切らしたように問う。マリアは薄ら笑いを浮かべながら口を開こうとしたが、ちょうどそのとき、3人の耳にパカラパカラと、何頭かの馬の蹄が響く音が入ってきた。


「どうだ!!何か分かったか!?」


 どうやら近くの街道で、誰かが話をしているらしい。相当焦っているようで、林の中まで響くような大声で喋っている。


「いや、何も!!そっちは!?」


 会話の相手も焦っているようだ。一体何があったのだろうか?勇太が確認しようとして街道に向き直ったが、走り出す前にマリアに手を掴まれた。

 見るとマリアは唇に人差し指を当て、ウィンクしている。黙って聞いていろ、と言いたいようだ。


「あぁ!どうやらこの大規模な火事、火種は誰かの魔法だったらしい!!教会の神官が言ってた!!」


「くそ!やっぱりか!?自然に発火したなら火の周りが速過ぎると思ったぜ!犯人は一体どこに行きやがった!!」


「「!!!」」


 一瞬にして、勇太とシロの背筋がピンと伸びた。やばい。この会話、ヤバすぎる・・・!!


「どこに行ったか分かんねぇが、もうお天道さんも傾き出した。犯人は最終的に街ん中に入ってくるだろうよ!」


「じゃあ街に検問をはるか!」


「そうしよう!急ぐぞ!!犯人が街に入る前に何とかしねぇと!!」


 その会話を最後に馬の足音は遠ざかっていった。再びあたりは静寂に包まれた。

 勇太もシロも、言葉を発することは出来ない。見れば2人とも、真っ青な顔に滝のような汗をかいている。


「ちなみに・・・」


 静寂を打ち破るマリアの一言に、2人の肩が再びビクッと動く。マリアはさながら慈愛溢れる聖母のような笑みを浮かべて、2人に救いの手を差し伸べる。


「街の近くに行商人や冒険者が愛用する馬宿があります。そこまでは流石に捜査の手は及ばないでしょう。良ければ・・・御案内しましょうか。」


 2人は激しく頷いた。軍配はマリアに上がった。しかし、そんな下らない勝負の結果を気にする余裕は、シロにはなかった。

 ただの練習のつもりで書き始めた本作ですが、正直百人以上の方に読んでいただけるとは思いませんでした。

 こんな拙作に目を通していただいたこと、心より感謝申し上げます。

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