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プリーズ・ビー・クワイエット

「お主をここに呼び出したのは、頼み事があったからじゃ。」


 ようやく怒りが収まって、勇太との会話も慣れてきた頃合いに、とうとう話は本題までたどり着いた。


「頼み事?」


「うむ。端的に言うのならば、我と共に地球ではない世界を冒険して欲しい、ということじゃ。」


「え・・・?」


 勇太は驚いたように、両目を大きく見開いた。その後、一度瞼を閉じて静かになった。何か考えているのだろう。幾ばくかの沈黙の後、勇太が口を開いた。


「とりあえず質問がたくさんあるんだけど。」


「構わん。何なりと聞くがよい。」


 当然のことだろう、と神は思う。勇太にとって意味不明過ぎる頼み事だ。どんな質問が来るかは大体予想が付くのだ。全ての質問に誠心誠意答えることで、理解を得よう。


「まず君の名前をまだ聞いてないんだけど。」


「我は神だと言うとろうが!!いい加減その話題から離れんかい!!!」


 いきなり予想外の質問だった。この男、空気が読めない上にしつこい。何度も何度も同じやりとりを・・・


「いやいや、そうじゃなくて。君が神様なのはわかったから、神様である君の名前は何って聞いてるの。」


「え・・・わ、我の・・・名前?」


「そう。君の名前。ようは神様って僕にとっての“人間”みたいなもんでしょ?種族名って言って正しいかは分かんないけど・・・。“人間”望月勇太、みたいな感じで、神様の名前を教えてよ。」


 これこそ本当に予想外の物言いだった。いや、どちらかと言うと“盲点”と言った方が正しいのかもしれない。何故なら、神に名前などないからだ。


 名前とはつまり、個々を区別する為にある。逆に言うと、その必要がないなら、名前などいらないことになる。ここ天界において、天使は全て神が造りたもうた。故に名前も全て神が付けたのだ。


 しかし、神は唯一にして絶対の存在。天使には恐れ多くて名付けなど出来ないし、神自身には、そもそも自分に名前を付けるなどという発想がなかった。


 そう、勇太に指摘されるこの瞬間まで、自分に名前がないことに気付いていなかったのだ。


「な、名前のう・・・。なんというか、その・・・」


「あれ?名前ないの?神様なのに?」


「ぐっ・・・!!」


 こいつは、本当に煽りよる。また必殺の神様ビンタを繰り出すかと神は思ったくらいだが、ここでフレイヤがフォローに入った。


「神様だから(・・・)、名前がないんですよ。」


「ふぅーん。そんなもんですか。」


「えぇ。そんなもんです。」


「そっか。分かりました。」


 納得したようだ。それはそれでいいのだが、なんでコイツは我の話は突っかかってくるのに、フレイヤの話は素直に受け止めるんじゃい、と何か腑に落ちない。そもそもなんでフレイヤには敬語で我には・・・


「では勇太。良ければ神様に名前を付けてください。」


「!!!」


「え?僕がですか?」


「えぇ。よろしくお願いします。」


 ここでフレイヤから予想外の発言が出た。勇太に神の名前を決めさせる?いや別にいいのだが、いいんだけども・・・。にわかに緊張感が神の体を走る。どんな名前を付けてくるのだ、と思わず身構えてしまう。


「じゃあ髪が白いからシロで。」


「ネコか我は!!!!」


 思わず頭を叩いてしまった。


「え?ダメかなぁ?可愛くていい名前だと思ったんだけど。」


「か、かわいい・・・。い、いやいや嘘付け!絶対適当に付けたじゃろうが!!」


「そんなことないんだけどなぁ。」


 この男は本当にどこまで本気か分からない。しかしシロという名前に少し心が傾いたのも事実は事実だった。


「神様が気に入らないのでしたら、他の候補はありますか?何か神様の美しさを表すような御名前にすれば、神様の気も済むことでしょう。」


「美しさを表す・・・ですか。」


「はい。例えば今までで勇太様が一番美しいと思ったものの名前とか。」


「うーん。・・・じゃあフレイヤでどう?」


「ケンカ売っとんのかぬしゃ!!」


 神を差し置いてフレイヤが一番美しいだと!?と憤慨する。しかも、天使の名前を神に付けるとはなんたる暴挙。当のフレイヤは「あらあらまぁまぁ」と普段からは考えられない赤い顔をしている。なんでコイツら我を差し置いてラブコメしてるんじゃ、と神の怒りボルテージがぐんぐん上がっていく。


「そもそも唯一絶対である我を何かに例えようとするのが間違いなんじゃ!!我の美しさたるや表現のしようのない神々しさじゃ!凡愚には格が違い過ぎて伝わらないんじゃい!!」


「凡愚には伝わらない・・・」


「おおそうじゃ!!勇太には分からなかったんじゃろう!?つまりお主は・・・」


「わかった!思いついた!!」


「お!?なんじゃ!言うてみい!!」


「どぶねずみ!」


「そうそうブルー○ーツのな。リン○リン○でも言うとるもんな。写真には映らない美しさが・・・ってアホかぁぁぁぁぁ!!!!」


 必殺!神ビンタがとうとう炸裂した。不敬の極まりである勇太は錐揉み回転しながら、5メートルくらい吹っ飛んだそうな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「話が進まんからもうシロでええわい!!」


「え?でも嫌がって・・・」


「あぁん!?」


「いえ、何でもないです。」


 一個目の質問でこれだ。本当に勇太を相手にすると進まない。もう神様は色々面倒くさくなったのでどんどん先に進めることにした。


「勇太よ。他に質問があるなら先に全部出すんじゃ。」


「ええっと・・・。他には、異世界って何かが分かんないな。地球じゃないって、火星みたいなこと?それと、なんで僕が選ばれたのかも分かんない。後は、神様さっき神の力を封印したって言ってたよね?それはなんで?最後に・・・それを断ったらどうなるの?・・・これくらいかなぁ。」


 多くの質問を通して、本当に勇太はマンガやゲーム、ライトノベルといったサブカルチャーに縁がなかったことが伝わってきた。


「あいわかった!ひとつずつ答えよう。まず異世界についてじゃ。名を“アガルタ”という。地球と違う星と思ってよい。地球と同じく、人が生活できる環境であるが、違うところも多い。」


「例えば?」


「魔法が存在する。」


「ま、魔法!?」


「そう、魔法じゃ。どうじゃ、ワクワクするじゃろう?」


「うん!決めた!!冒険行くよ!!」


「そうかそうか冒険に・・・って早すぎるじゃろ!!」


 他にあった質問など自分から一蹴して、冒険に身を投じることを決めた勇太であった。


「まったく・・・一応他の質問にも答えておくぞ。何だったかの・・・そう、我のお供に勇太が選ばれた理由じゃが、これはまぁ最近死んだ人物の中から適当に見繕ったとしか・・・」


「うんうん」


「いや、気分を悪くするでないぞ、勇太。“適当に”は言い方が悪かったな。候補者の中でお主が適任であると、我は確信したのじゃ。そう、言うなれば勇太は神に選ばれし存在なのじゃ!」


「はいはい」


「我が自身の力を封印した理由じゃが、まぁこれは元々フレイヤが言い出したことじゃ。我自身が冒険に出ること、その際神の力を封印すること、とな。」


「へぇへぇ」


「つまり何故自らの首を締めるようなことをするのか、その本当のところはそこにいるフレイヤに聞くしかないのじゃが・・・恐らく教えてくれんじゃろう。しかし、じゃ。我自身はこの封印を通して、全知全能では出来なかったことが、出来るのではないか、と思うとる。それはきっと今後我がより良い神であるために必要なんじゃ。」


「ほいほい」


「最後に、お主がこの申し出を断った場合、特に何をするでもない。死んだ他の者たちと同じように輪廻の輪に戻ってもらう。ま、つまりは別の存在に生まれ変わるということじゃな。悪いようにはせんから、気兼ねなく選んで欲しい。」


「うむうむ」


「分かったか?」


「分かった!」


「ウソつけぇ!!!!」


 超必殺!神パンチがいよいよ炸裂した。ゲージ3つ消費する程の威力を一身あごに受け、勇太は天高く舞い上がった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、神による有り難い(?)講義は2時間にも及んだが、どれだけ勇太に伝わったのか分からない。勇太は魔法という言葉に魅了され、心ここにあらず、であった。


「はぁ・・・大丈夫なんかい、こいつは。」


「神・・・いえ、シロ様。もう説明は追々道中にてなさったらいかがでしょう?結局のところ、冒険に行く気になってくれたのは同じことなんですから。」


 フレイヤの言うことも最もだ。よく理解したうえで同意して欲しかったが、まぁよしとしよう。


「そうじゃのう・・・。よし!勇太よ!聞け!魔法っぽい話をしてやるぞ!!」


「魔法!?」


 魔法という言葉にだけ敏感に反応する勇太を見て、シロは思わず苦笑してしまった。相当夢見ているらしい。生前はサブカルチャー全般を禁止されていることに不満はないとのことだったが、憧れは人並み以上にあったようだ。なんだかちぐはぐな青年に思えた。


「魔法というと少し違うが、まぁ地球にはなかった不思議な力という意味では同じじゃろう。今からお主に授けるもの、それは“スキル”という。」


「スキル?」


 スキルはどうやら聞き覚えがないようだ。まぁ、魔法よりは浸透していない言葉だろう。


「うむ。スキルは詳しく説明すると長くなるでな。詳細は省くが、要は特別な力のことじゃ。今から行く“アガルタ”では、魔法はスキルの一部のような扱いを受けている。例えば、筋力が100倍になったり魔法が無限に使えたり、といった具合じゃな。」


「おお!!すごい!!」


「まぁ今挙げた例は滅多にお目にかかれないレア物じゃ。そのスキルを所持しとるだけで世界有数の強者になれる程のな。本来なら10年、いや100年に1人、所持者が出るかどうかというレベルの代物じゃが・・・。今回は特別に勇太に好きなスキルをやろう!!」


「えぇぇ!!!まじでぇぇぇぇぇ!!!」


「ああ!大真面目じゃ!!!」


「シ、シロ最高ぉぉぉ!!」


「え?そ、そうか?でへへへ・・・。」


「シーロッ!!シーロッ!!シーロッ!!」


「や、やめんか・・・。でへへへへぇ・・・」


「エル・オー・ブイ・イー!プリティーシーロッ!!」


「し、しょうのないやつじゃのう・・・。そんなに喜んでいるのなら、本来はひとつだけの予定だったんじゃが、今だけ10こスキルをやろう!!!」


「Fooooooooooo!!!」


さながらライブ会場のように場は熱気に包まれた。たった2人だけだというのに、その2人は本当に楽しそうだ。案外いい相性なのかもしれないな、とフレイヤは傍目から見て思った。そのせいか、とあることに気付くのが遅れてしまった。


「・・・あ!!だ、ダメですよシロ様!勇太様!スキルはひとつという約束ですよ!!」


異世界アガルタにぃ、行きたいかぁぁ!!」


「Yeaaaaaaaaaaah!!!」


 時既に遅し。ボルテージMAXの2人を止めるのは、フレイヤであっても難しかった。

すみません本当に。

今回で旅立ちまで行く予定でしたが分割します。

次の回でスキル選定→旅立ちです。


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