ロングタイム・ノー・シー
「はぁ・・・はぁ・・・。まだ、課題も・・・多い・・・。が、しかし・・・」
チラとセーランを見やると、笑顔で頷いてくれた。セーランをして合格点ということらしい。
「とりあえず・・・“シロガトリング”!!完成じゃ!!」
そう宣言するシロの眼前には、以前セーランがゴブリン集団を相手に作ったのと同等レベルの、
大小様々なクレーターが出来ていた。
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「いやぁ~楽しみじゃのう!勇太はどれくらい強くなっとるかの?」
「ふふっ。シロちゃん、もうそのセリフ10回目よぉ。」
「しょ、しょうがないじゃろ!楽しみで仕方ないんじゃから!」
赤面しながら反論するシロをセーランは愛おしく見つめた。シロが勇太との再会を待ち望んでいることを、痛いほど理解しているのだ。
シロが先に挙げた自身の課題は大きく2つ。まず、足を止めて撃つしか出来ないことだ。
元々その予定であったが、試しに少し移動しながら魔法を使ってみると、想像以上に難しかった。現状シロでは使用不可能なテクニックだと改めて痛感した。
次に、狙いが上手く定まらない。秒間5発程度の連射力を誇るシロは、その細い腕で反動を押さえ切れないのである。無論それを補う為の手数でもあるわけで、この欠点も織り込み済みではある。
しかし、2つの課題をひとつに集約するとつまり、“連射以外は何も出来ない。”と言うことになる。清々しいまでの1点特化。その分型に嵌まったときの威力は折り紙付きである。
だからこそシロは待ち遠しいのだ。勇太と久しぶりに出会える嬉しさ以上に、勇太とならより高みへと行ける確信がある。
己の欠点が明確になったからこそ、勇太の必要性はグンと増した。祭まであと2日。しかしそれだけあれば十分事足りる。後は勇太と連携を確かめ合うだけで、“シロガトリング”は真に完成するのだ。
「今行くぞ勇太よ!!」
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「・・・」
「うわぁ~。すごぉい!こんなの初めてぇ!」
約1ヶ月振りに“朝風の光亭”へと帰って来たシロとセーランは、衝撃的な光景を見た。
閑古鳥が鳴いていた“朝風の光亭”に、大行列が出来ていたのだ。
あまりの人だかりに、2人は裏口から入ることを余儀無くされた程だったが、店内は更に衝撃的であった。
「店員さん!オークラーメンとマンドラゴラ炒めちょうだい!」
「はい!只今!!」
「こっちはフォレストウルフのステーキね!」
「かしこまりました!ヤタさん!ラーメンと野菜炒めとステーキ入りました!」
「ちっ!手が足んねぇっつーのに注文バラしてんじゃねぇバカどもが!」
「おい大将!そりゃあ客に言っちゃいかんだろ!」
「「「アハハハ!!」」」
「うるせぇ暇人どもが!文句あるならよそで食え!おい勇太!野菜炒めとステーキはお前やれ!」
「分かりました!あと五番テーブル空きました!次のお客さん入ります!」
「それもお前が何とかしろ!」
「えぇ!?は、はい!!」
「お!勇ちゃん厨房に立つのか!じゃあ俺はベビーライガーの唐揚げとローガルフィッシュのたたきもらおうかな?」
「じゃあ私にはスノーラットのホットケーキとアイスコーヒーくださぁい!」
「あわわわわ!!」
「めんどくせぇことすんじゃねぇバカども!水でも飲んでろ!!」
「「「アハハハハハハ!!」」」
まるでそこは戦場であった。飛び交う客の注文をひとつ残らずキャッチしつつ、多種多様な料理をしながら空いたテーブルの片付けと新規客の案内、そしてレシートもレジも無しの会計。
それらをたった2人でこなしている片方が厨房に入れば片方はフロントへ。料理を運びながら注文を伝達し、料理をしながら隙を見て皿洗い。これは、お互いがお互いを完璧にフォローし合って辿り着く境地と言えた。
「うわぁ~。2人ともすごぉい!」
「す、すごいっつーか・・・。馴染み過ぎじゃろ勇太・・・。」
感心などしている場合でないことは、直ぐに分かった。
「あっ!2人ともおかえりなさい!丁度良いところに!!」
「「え?」」
勇太に見つかってしまって、2人ともめでたく戦場送りになったからだ。
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「つ、つかれた・・・。死ぬかと思ったのじゃ・・・。」
「ありがとうシロ。本当に助かったよ!」
ようやく日も沈み、閉店の時間となった。半日以上ノンストップで働いて、ようやく一段落ついたのだ。
今四人は食堂のテーブルに着き、休憩を取っている。怒涛の時間が過ぎ去って、体を動かす気にもなれない。
「ふぃ~・・・ちかれたねぇ~。ヤッくん、いつの間にこんな人気店にしちゃったのぉ?」
「勇太が悪ぃんだよ。こいつがやたら張り切るから近所の暇人どもが面白がって毎日来るようになりやがった。ここ2、3日はずっとこんな調子だぜ。」
セーランは「すごぉい!」と勇太を誉めるが、シロからしてみればこれを連日繰り返している事実に戦慄を覚える。
苦笑する勇太の顔をまじまじと見れば、どことなく精悍さを醸しているようにも感じる。どうやら、修業の成果はあったらしい。普段の佇まいからして、一皮剥けたような印象だ。
「ふふふ・・・。勇太や、修業の塩梅はどうじゃ?」
それでも、いやだからこそシロは勇太に問う。勇太の成長譚は、本人の口から聞きたいのだ。
「え?・・・まぁ、シロの予想を超える成果だと
思うよ。」
そう言って勇太は不敵に微笑んだ。言いよるこいつ、とばかりにシロの口角もつり上がる。これは実際にこの目で確かめねば、とシロが思ったその矢先、突如としてトラブルは舞い込んだ。
「邪魔するぜぇ!!ヒャハハァ!!」
店のドアを蹴破らんばかりの荒々しい勢いで、如何にも柄の悪そうな2人組の男が入ってきた。その礼儀のなってない行いに、ヤタの目が鋭さを増す。
「・・・すみませんがお客さん。もうウチは店じまいなんですよ。確か表にも“Closed”の看板が掛かってたと思うんですがね。」
普段よりむしろ丁寧な言葉遣いでヤタは対応した。他の3人には一触即発であることが言わずとも伝わっている。しかし残念なことに、肝心のならず者どもには伝わらなかったようである。
「あ?そんな看板見えたかワッカ?」
「いえ!俺にゃあ見えやせんでしたぜリヤスの兄貴!」
「だとよぉ!こりゃあ店側の落ち度だろぉ?あぁん!?」
肩で風を切って練り歩いてくる2人組。こんなに分かりやすい噛ませ犬も昨今中々いない。
シロはよく事情が飲み込めないが、ここに来てもまだ勇太の落ち着きは消えていない。もしかしたら何かしら知っているのかも、とシロは勇太に小声で尋ねた。
(勇太や、あの恥ずかしいまでの古典的なチンピラはなんじゃ?)
(あぁ。地上げ屋さんだよ。ここんとこうるさくてさ。嫌がらせしてくるんだ。でも大丈夫。いつもヤタさんがボコボコにして追い返すから。)
(それは大丈夫になるんかの・・・?)
その暴行から悪評を流されて店に影響が・・・などということなぞヤタは一切気にしない。その程度を気にするような繊細さがあるなら“カタナシのヤタ”などと呼ばれはしないのだ。
しかし、今回。どうやら勇太の予想していた展開にはならないようだ。
「ここが朝風の光亭かい?貧相なところだねぇ。」
新たに入り口から、妙齢の美女が入ってきた。まるでチャイニーズドレスのような深いスリットの入った服を着て、しなりをつけて歩いている。
露出が高く、顔もスタイルも良い絶世の美女である。が、同時に、触れれば切れそうな危うい雰囲気も醸し出している。
「ノワールの姐さん!お待ちしておりやした!」
「騒ぐんじゃないよみっともない!・・・さて、悪かったねぇ。ウチのもんが迷惑掛けたみたいで。」
「分かってんならさっさとそいつら連れて引き上げてくれや。迷惑極まりない。」
にべもないヤタ相手に、ノワールと呼ばれた女性は余裕を崩さない。先程のチンピラよりは手練れであるのだろう。
「まぁそう言わずにさ。ここを立ち退くこと、少し考えちゃくれないかい?金ならいくらでも積むからさ。」
「断る。話は以上。お帰りはあちらだ。」
即答。取り付く島もない。それでもまだ、相手方には余裕があった。むしろここからが交渉と言わんばかりに。
「おぉ怖い怖い。いやぁ賭場を作るに絶好の立地を見つけたと思ったらこれだもの。」
「お前ぇらの都合なんぞ知ったこっちゃねぇ。早く帰れ。」
「有象無象ならなんとでもなったんだけどねぇ・・・。よりにもよって、
“朝風”が出てくるとはねぇ。」
ピタリ、とそこにいる者たちの動きが止まった。半分は聞き慣れない単語に戸惑ったようだが、もう半分はどうだろう。
後者であるヤタも、セーランも、そしてノワールも。表情に変化がなく心情を察し難い。
一瞬の膠着を破ったのは、それを作り出したノワールだった。
「ねぇ大将。アタイと勝負しないかい?」
「断る。帰れ。」
「もしアタイが負けたら二度とここへ来ないことを誓おう。もちろん子分どもも来させやしない。でも、アタイが勝ったらここから立ち退いてもらう。」
「断ると言った。次は実力行使だ。」
「もしこの勝負受けてくれないんならしょうがない。そんときゃ今の情報を・・・ねぇ?」
言い終わったとたん、何かが落ちる音がした。小銭のような金属類の音。ノワールの足元からだ。皆の視線がノワールの足元に向いた。
そこに落ちていた物は2つのアクセサリー。それは、数秒前までノワールの両耳を飾っていた派手なイヤリングだった。
「なっ・・・!」
ノワールが恐る恐る耳に触れると、無い。耳とアクセサリーを繋ぐリングの部分だけを残して、何もない。アクセサリーも、そして傷も。
「おい。」
皆の視線が、今度はヤタに集まる。彼は先程と何も変わっていない。ただそこで煙草を吹かしているだけ。
「今お前、俺にケンカ売ったか?」
煙草を吹かしているだけ、なのに。ただそれだけなのに。刀も持たないヤタが、ノワールのイヤリングだけを切り落としたことを、そこにいる誰もが察した。
「俺は売られたケンカは全て買う性分だ。言い値で買ってやるよ。そんかわり・・・。」
ヤタは白煙とともに、吐き出した。脅しではなく警告を。
「全身弾け飛んでも文句は言うなよ。」
ノワールの頬に冷や汗が伝った。間違いない、本気だ。あの“カタナシ”が本気を出すのだ。それはつまり敵対相手の敗北が確定したことを意味している。
が、それでも。無理やりにノワールは笑顔を創り出した。やっとヤタを挑発に乗せたのだ。ここで引いては意味がないのだろう。
「言い値で買うと言ったねぇ!男に二言はないかい!?」
「くどい。好きに条件を決めろよ。精々無い頭絞って考えろや。お前ぇらが少しでも有利になるような条件をよぉ。」
ヤタは敵対すると決めたからか、かなりの強気な姿勢だ。今までもそうやって蹴散らして来たのだろう。だからこそヤタのこの発言は、狙い撃たれたのだ。
「ならこうしようじゃないか!アタイの勝負の相手は、そこのガキだ!」
「はぁ!?」
ノワールの指した指先にいたのは、勇太であった。戸惑う本人よりも先に、ヤタが反応を返した。
「ふざけんじゃねぇ!てめぇのケンカを買ったのは俺だろうが!調子に乗るのもいい加減にしろやぁ!」
「アタイはこの店の大将としてのアンタに勝負を挑んだつもりさ。アンタ個人に売っちゃいない。それに好きに条件決めていいって言ったのは他ならぬアンタだろう?」
「屁理屈こねりゃあなんでも通ると思うなよサンピンが。お前が今五体揃って立ってるのは俺が我慢強いからだぞ?」
「おぉ怖い。随分嫌がるじゃないか?もしかして何かい?あの“カタナシのヤタ”の弟子っつーのは師匠の名に泥を塗る程の雑魚ってことかい?」
「てめぇ!」
「師匠。」
ノワールとヤタの間に勇太が割り込んだ。怒気を発するヤタに怯むことなく、勇太は躍り出たのだ。
「この勝負、どうか僕にやらせてください。」
ヤタが固く拳を握った。堪えている。怒りを向けるべき相手を間違えることのないように、マグマのような怒りを堪えている。
ヤタは勇太に何か言う前に、ひとつ息を吐いて、怒りを体の外から追い出した。
「勇太、おめぇの出る幕じゃねぇ。おめぇの実力如何の話じゃなくて、俺の買ったケンカをおめぇにやらせるような腐った真似をしたくねぇんだ。」
「そこをなんとか。」
そう言って勇太は頭を深く下げた。ヤタが譲らないように、勇太もまた譲らない。
「馬鹿にされたまま引き下がれないんです。お願いします。」
「気持ちは分かるが我慢しろ。雑魚呼ばわりされたくれぇで死にゃあしねぇ。」
「違います。」
そう言って勇太は頭を上げた。その瞳には今までの勇太では感じられなかったような怒りの炎が宿っていた。
「師匠を馬鹿にされたことが許せないんです。証明させてください。師匠は世界一だってことを僕自身に。」
ヤタは再び強く、先程よりも更に強く、拳を握った。今度は何を堪えたのだろうか。
「・・・馬鹿野郎が。好きにしやがれ。」
「ありがとうございます!」
パチ、パチと水を差すように乾いた拍手が聞こえた。手を叩いているのはノワールだ。
「美しき師弟愛だねぇ。じゃあそこの・・・勇太って言ったかい?アンタとアタイで勝負するってことでいいね。」
「はい。受けて立ちます。」
「威勢がいいやつは嫌いじゃないよ。容赦はしないけどね。」
「お好きにどうぞ。」
意趣返しなのか、天然なのか。勇太もまたノワールを煽る。
「かっ!その言葉、後悔するんじゃないよ!」
このやり取りを、シロはずっと黙って見守っていた。ともすればシロの大好きなテンプレ展開であったのに、だ。
その理由は、意表を突かれたからだ。シロには意外だった。勇太が自ら前に出たことが。修業前の勇太ではやろうと思っても出来なかったことだろう。
この勝負、ある意味ではシロにとって都合が良い。この勝負を通して、勇太の約一ヶ月が分かるからだ。勇太は一体どのように過ごし、どんな力を身につけたのか。
期待と不安がまたもシロの胸に去来する。勇太は本当にシロの心をざわつかせるのが上手い。勝負の行方を一瞬たりとも見逃すまいと、シロは刮目して勇太を見守ることにした。
次回、勇太が修業の成果を発揮して無双します。プロット段階では一番書きたくなった場面です。お楽しみに。




