グロウ・アップ・トゥギャザー
遅くなりました。すみません。バラモス倒すのに時間が・・・
ローガル山の山小屋までの道のりは、なかなかに険しいものだった。急な登り坂、不安定な足場、手すりのない断崖。
つまりは登山としては険しい、という意味だ。
シロの通る道に魔物は一切出てこなかった。登れば登るほど魔物が強くなるとは一体何だったのか。故に険しい道のりではあったものの、シロの思うほど辛い旅路ではなかった。
「ふむぅ・・・。何で魔物がいないんかのぅ?」
「うぅ~ん。でもぉ、私が来るといつもこんな感じよぉ。これが普通なんじゃないかなぁ?」
「そうかのぅ?」
まぁ、地元の人間が言うのだからそうなのかもしれない。まさか自分やセーランに臆したわけでもあるまいし、気にしても仕方ないとシロは悩むのを止めた。
「では、セー・・・ママや。先ずは何をすればええんかのぅ?」
「うぅ~んとねぇ・・・。」
顎に指を当てて少し悩んだ後、セーランは告げた。
「先ずはぁ、シロちゃんのぉ、ステータスの確認かなぁ。」
「よし分かっ・・・あっ。」
シロはこの段階でようやく己のステータスに“神”と明記してあることを思い出した。
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「わぁ~。シロちゃんすごいねぇ~。MPがママより高いわぁ~。」
「えぇ・・・?」
悩んだものの、結局シロは何かごまかすようなことはしなかった。ありのままの自分を把握して貰わないと適正な修業が出来ないし、何よりセーランに何か嘘をつくことに躊躇いを覚えたからだ。
しかし蓋を開けてみれば、MPを誉めるばかりで称号には注目すらしていない。
「え?どうしたのぉ?ママ何かダメなことしたかなぁ?」
「え?あっ、いや・・・ダメというわけではないんじゃが・・・。そのぅ・・・。」
歯切れ悪くうつむくシロをじっと見て、ようやくセーランも察したようだ。
「あぁ、もしかして称号のことぉ?シロちゃん元は神様なんだねぇ。すごいすごい~。」
「軽いのぅ!!それでええんか!?」
「え?なんかダメかなぁ?」
セーランは本気でシロの称号に違和感をもっていないらしい。何か予想した展開と違ってシロは肩すかしを食らった気分だ。
「いや、お主が」
「ママ」
「ま、ママが良ければそれでええんじゃが・・・。我は何というか・・・、人間じゃないから・・・。」
その発言を聞いてますます謎は増したのか、セーランは首を傾げてシロに言った。
「え?シロちゃんが人間じゃないのは会ったときから知ってたけど?」
「ななな、なんじゃとぉ!?」
たったひとつの発言でいくつもの疑問を生む衝撃。シロは何となくセーランと勇太が似ているような気がした。
「な、何で分かったんじゃ!?」
「えぇ~とねぇ。まぁ、何となくかなぁ。」
「な、何となくで見破れるんかぃ!!」
「流石に神様とは思わなかったけどぉ。レベルが低い割にマナに好かれてるしぃ。それこそ天使さんか精霊さんかなぁって思ってたよぉ。」
「ま、マナに好かれてるって・・・。」
高位の魔法使いはマナを感知する力が高いものだが、まさかマナの僅かしかない自我も感じられるとは、セーランは思った以上の魔法使いかもしれない。
「それにぃ、シロちゃんが人間でも神様でもぉ、私の可愛い娘には変わりないものぉ。」
「!!!」
その発言に肩をプルプル震わせて、シロは唇を噛み締めた。そう、シロはこういう・・・
「あれ?シロちゃんどうしたの?どっか痛い?」
「・・・ま、ママぁぁ!!!」
「きゃっ、あらあらぁ。シロちゃんは甘えん坊さんねぇ。」
セーランの豊かな胸に飛び込んでシロは泣いた。そう、シロはこういうベタベタなお涙頂戴に弱かったのだ。
シロがようやく落ち着いてから、セーランは魔法の基礎知識を踏まえつつ、今後の方針を発表した。
「シロちゃんがぁ、本当にローガリア祭で結果を残したいならぁ、一点特化の魔法使いになる必要があると思うのぉ。」
「そうじゃのう。時間もないのに火も水も風もと手を出せば結果は見えとるからのぅ。」
「それだけじゃないわぁ。」
「なぬ?」
セーランは木切れをもって、地面に図と文字を書きながら教えてくれた。
「魔法ひとつとってもねぇ。色々な力があるのよぉ。」
曰わく、魔法の威力・射程・弾速・同時に撃てる数・次弾を展開する早さ・MPの魔法変換効率などなど・・・
「このどれもがステータスでは“まりょく”とひとまとめにされているわぁ。ほっとけば大体どれも同じように成長していくんだけどぉ、意識して修業することでぇ意図的に特化させることも出来るのぉ。」
「ふむふむ。つまり我はどれを伸ばしていけばええんかのぅ?」
「シロちゃんの場合ぃ、まずMPがすごいでしょう?だからぁ、その強みを生かしていきたいわねぇ。」
「たしかにのぅ。とすると、威力を高めるか手数を増やすかというところかのぅ。」
「正解ぃ~。どっちかというとぉ、手数を増やすのがおすすめかなぁ。威力を高めるのに神経使うくらいならぁ、百発でも二百発でも打ち込むぞぉ~ってスタイルの方がMP高い人にはおすすめぇ。」
「なるほどのぅ。」
「更に言うとぉ、勇太ちゃんの存在も大事ねぇ。」
「勇太の?」
自分の修業に勇太が関わってくるとは思わず、シロは首を傾げた。
「シロちゃんが魔法使いならぁ、勇太ちゃん前衛でしょう?案外魔法を使いながら移動するってすごい大変なんだけどぉ、勇太ちゃんいるなら足を止めて魔法使えるじゃない。」
「そうか。つまり我は完全な固定砲台と化すわけか。名付けるなら“シロガトリング”と言ったところじゃな!!」
「わぁ~。かっこいい~。」
おそらくガトリングの意味も知らないが、セーランはパチパチと拍手を送った。
「じゃあ、方向性も決まったところでぇ。ママからシロちゃんにプレゼントぉ。」
「む?」
そう言って、セーランから指輪を渡された。よく見ると小さな赤い宝石がしつらえてある。
「これはぁ、“ファイヤーボール”が込められた魔法具だよぉ。“ファイヤーボール”しか入ってないけどぉ、その分少しだけ早く撃てるからぁ、初心者におすすめなのぉ。」
「うおぉ!!ありがとうなのじゃ!!」
さっそく指に嵌めてうっとり眺めてみた。なかなか似合っている、とシロは自画自賛したくなった。
「じゃあそれを使ってぇ、練習しましょうかぁ。外に的を作ってあるからぁ、沢山撃って“ファイヤーボール”に慣れましょう。」
「分かったのじゃ!!百発でも二百発でもどんとこぉい!!」
そう意気込むシロに、セーランはまた首を傾げて言った。
「え?シロちゃん、練習は1日千発からよぉ。」
「・・・え?」
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「おら、これをおめぇにやる。相棒と思って大事にしやがれ。」
「え・・・?」
場面は変わって、勇太とヤタの師弟コンビ。こちらも師からプレゼントを貰っているようだ。
「なんだ?遠慮すんじゃねぇ。それとも何か。こんな安物じゃあ不満だってのか?」
「い、いえ!ありがたくいただきます。」
「おう。取り扱いに気をつけろよ。」
勇太はそう言われて受け取る。刃物なぞ今まで数える程しか持ったことはなく、考えてみれば自分専用の刃物はこれが初めてかもしれない。
「最初にも言ったが、俺ぁ完全な我流だ。人に教えるっつったって実践以外やってやれることはねぇぞ。上手くなりたきゃ俺から見て盗め。いいな?」
「はい!頑張ります!」
「返事だきゃあ一人前だなおい。ま、生意気よかぁマシってもんだろう。」
そう言って、ヤタは照れを隠すように頭をガシガシ掻いた。そして、煙草を灰皿に押し付けて、勇太の目を真っ直ぐ見据えた。
空気が変わったことを勇太は肌で感じる。始まるのだ。自分の修業が。
「目ん玉見開いて付いて来い。少しでも遅れたら置いてくぞ。」
「はい!!」
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「ぬおおおおお!!」
「はいはい!シロちゃん頑張って!!とりあえずMP使い切るまでやってみよぉ~!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと休憩を・・・」
「あと五時間したらねぇ!」
「ふ、ふりゃあぁぁぁ!!こなくそぉぉぉ!」
「いいわよぉ!その意気その意気ぃ!」
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「何休んでやがる!手ぇ止めんじゃねえ!!」
「ぐっ・・・!す、すみません!!」
勇太の手が震える。これほど沢山のものを切ったことなどない。とっくに右手は腱鞘炎だ。
それでも、泣き言は言わない。言っていられない。シロだって今、踏ん張っているはずだ。自分だけ立ち止まっていられない。
「おらぁ!雑になってきてんぞぉ!最初っからやり直しだこらぁ!!」
「はい!!」
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「うぎぁぁぁぁぁぁ!!助けてぇぇぇぇ!!」
「頑張ってシロちゃん!あと一時間!」
シロは今、文字通りの火炙りにされている。と言っても、セーランの編んだ半透明の結界で守られつつ、だが。
「熱くないでしょう!大丈夫大丈夫ぅ!!」
「そういう問題じゃないんじゃあ!!」
これは、シロと火の親和性を向上させる訓練らしい。一切熱くも痛くもなく、酸素も確保されてはいるのだが、如何せん視覚的にトラウマが残る。親和性が逆に下がるような気さえしてしまう。
「何か段々熱くなってる気がするんじゃがぁ!?」
「気のせい気のせい!あと二時間!!」
「さっきより増えとるぅぅぅ!!」
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「うっ!!」
手から刃がこぼれ落ちる。相棒と言われて渡された物なのに、己が未熟なあまり逆に自分の手を切ってしまった。あまりの痛みに思わずしゃがみこんでしまう。
「痛てぇか?」
ヤタが冷たい眼差しで勇太を見下げている。修業に付いてこられない苛立ちか、それとも刃を相棒と扱えていないことへの落胆か。感情が読み取れない。
「おめぇに渡したもんは、はっきり言やぁ安物だよ。だがな、それでも命を奪う為の道具だ。おめぇは今、それを使って何かを殺してんだ。そしてこれからもそうだ。数え切れねぇほどの命を自分の都合で奪うんだ。」
そう言って、膝を折った。勇太と目線を合わせる為だ。冷たいように見えた眼差しも、こうして同じ高さになると、奥に優しさが見えるような気がした。
「それが辛ぇってんなら、悪りぃこたぁ言わねぇからここで止めとけ。誰もおめぇを責めたりしねぇよ。」
これは、勇太を煽った言葉ではない。ヤタの本心なのだろう。不器用なだけで、ヤタは本当に優しいと勇太は思う。だからこそ、応えねえばなるまい。
「いえ!やります!やらせてください!!」
「・・・いいのか?これからもっと辛い目に合うかも知れねぇぞ。」
「それでもやります!誰に責められていようが関係ありません。僕自身が、ここで逃げる自分を許さないんです。」
勇太の眼差しを、ヤタはじっと見つめた。しかし、折れたように苦笑して、立ち上がった。
「ふっ・・・いつもはポヤポヤしてるくせにここ一番ってときは頑固になりやがる。お前、セーランに少し似てるぜ。いや、ガキのときの俺かな。」
冗談混じりにそう言って、勇太の右手を取った。
「ったく。こんな深く切っちまいやがって。手元への注意を怠るからだ。ほれ、消毒すっから動くんじゃねぇぞ。」
「・・・はい!ありがとうございます!」
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そうこうしている間に、約三週間が過ぎていった。シロとセーランは修業をまとめの段階へと進め、後2日ほどで下山する予定だ。
「いやぁ~楽しみじゃのう!勇太、しっかり修業しとるかのぉ!!」
「ヤッくんがいるから多分大丈夫よぉ。」
「しかし、心配じゃのう。我よりもレベル高くなっとったらどうしようかのぅ?威厳というものが・・・。」
くだらないことを心配するシロに、セーランは笑いながら確信をもって答えた。
「あ、それは心配いらないわよぉ。下手したら勇太ちゃん、レベル1のままだからぁ。」
「・・・なぬぅ!それはそれでマズいじゃろ!」
焦るシロに余裕を崩さないまま、セーランは大丈夫大丈夫と語る。
「じゃあ、ヤッくんにはママが言ったって内緒ねぇ。少しだけ教えてあげる。“カタナシのヤタ”のこと。」
「カタナシの・・・ヤタ?」
次はまた閑話になります。ゾーマ倒したら更新します。




