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マジック・マスター・マザー

 ルビの振り方がいまいち良く分からない。それだけのことで表現が縛られてしまう。


 ルビの振り方を知ってる人がいたら教えて欲しいなぁ。


 

 早く強敵とかいて“とも”と読ませるようになりたいなぁ。

「それではこれより第1回“シロとその他”会議を始めるのじゃ!」


「わぁ~。ぱちぱち~。」


「ねぇ。その“シロとその他”ってなに?もしかしてパーティの名前じゃないよね?」


 食後、テーブルをお借りして今後の方針について話し合うことになった。参加者はもちろんシロとその他(勇太)。更に魔法の実力高い、セーランをアドバイザーとして迎えた。


 セーランの夫、名をヤタというらしい。彼は我関せずとばかりに隣のテーブルで煙草をふかしている。奥に引っ込まない辺り、本当は少し気になっているのかもしれない。


「では、まず現状確認からじゃ!勇太、我らの目的は!?」


「え?薬草の区別がつくようになる?」


「たわけがぁ!!」


「ぎゃあぁぁ!!」


 勇太の目にレンゲが突き刺さった。先程のチャーハンで使ったレンゲをいつの間にか確保していたらしい。


「おい。食器を投げんじゃねぇよ。」


「後でしっかり勇太が洗うのじゃ!」


「じゃあ仕方ねぇな。」


「いや仕方なくないでしょ!!」


 勇太の訴えなぞ聞く耳持たず、シロは話を続ける。


「我らの目的はローガリア祭で2位を取ることじゃろうが!!」


「あ、そういやそうだったね。」


 今日1日が濃密過ぎて、勇太の頭からはしっかり消え去っていた。そう言えば、2位をとって“迷子の指輪”を手に入れることが目的だった。


「次に難易度の確認じゃ!セーランや、ローガリア祭とは通常どれくらいの人数が参加するか知らんかの?」


「えぇ?そうねぇ・・・。その時々で変わるけどぉ、だいたい千人くらいかしらねぇ。」


「せ、千人!?」


 それは勇太の予想を大きく上回った数字だった。何の根拠もなく百人いるかどうかと考えていた分、一気に困難さが増したように感じる。


「ちなみに、上位入賞となるとどれくらいのレベルが必要なのじゃ?」


「えっとねぇ。それこそぉ、今回みたいな変則ルールだと分かんないけどぉ。純粋な力勝負の時はぁ、最低でも20は欲しいわねぇ。」


「に、20!?無理無理!無理だよそんなの!!」


「うろたえるでない。セーランも言うとろう。今回の経験値をストックするルールは低レベルな我らに有利なんじゃ。勝ち目はまだまだ消えとらんわ。」


 そうは言ってもレベル差を補う経験も実力もないのだ。望みが薄過ぎる。ただ、シロもそれはしっかり理解していたらしい。


「ま、確かに勇太の不安も分かる。現状我らでは2位など夢のまた夢。勝負にもなりはすまい。」


「でしょ?シロは何か良い考えがあるの?」


「・・・あると言えばある。」


 意外にも対策があるらしい。その割には気が進まない部分でもあるのか、微妙な顔をしている。


「何だよその考えって。」


「う~む。本当はもっと色々と冒険してから入りたかったのじゃが、まぁこの際文句も言ってられん!」


 突然はテーブルの上に躍り出て、握り拳を震わせながら叫んだ。


「勇太よ!今日から祭りまでの約1ヶ月の間!“修行パート”に入るぞ!!」


「・・・修行パート?」


 また勇太の聞き覚えのない単語が出てきた。シロのこだわりの分野であろうことは想像に堅くない。


「ええか勇太よ。主人公たるもの必ず1度は通る道、それが修行パートじゃ。」


「ねぇシロ。前々から言おうと思ってたんだけどさ、僕は別に主人公になりたい訳じゃないからね。」


「現状では決して越えられぬ困難!運命に定められし敗北!そんな無理や不可能という現実をねじ伏せる為に、主人公は己の心身を限界まで鍛え上げるのじゃ!!」


「あ、ダメだこれ。何も聞いてないわ。」


「限界の限界まで自分を追い詰めて、その限界を乗り越えたとき、人は新たなステージに立つ。その高見に至りし者に叶うものなぞあるものや!つまり!修行パートを超えることで!!我らも俺TUEEEEの仲間入りじゃあぁぁぁ!!!」


 握り拳を天高く突き出して、己が主張を言い切った。セーランがよく分からぬまま拍手している。勇太は時々起こるシロの発作(?)にも段々と慣れて来た。


「それは分かったけどさ。いや本当は分かんないけど分かったとしてさ。具体的に何すんの?」


「うむ。それについては心当たりがある。・・・我は、な。問題はお主じゃ。」


「ん?どういうこと?」


 シロに問題があると言われるのは勇太にとって甚だ心外なことであるが、修行パートなど勇太には勝手の分からぬこと。大人しく自称冒険者専門家の言を聞くことにしたようだ。


「未だどういう方向性に進むのかも決まっておらんからのぅ。良き修行パートには良き師が不可欠。しかし勇太の場合、師を探す前に将来像を定めねばならん。」


 それはその通りだろう、と勇太は納得できた。しかしその言い方だと・・・


「え?じゃあなに?シロは師匠をもう見つけたの?」


「何を言うとる。目の前に飛びっきりの魔法使いがおるではないか。」


 その言葉に2人の視線が一点で交わった。



「・・・へ?私のことぉ?」


 そう。見た目二十歳のおっとりお姉さんこと、セーランである。


 それからのシロの行動は早かった。テーブルから飛び降りて潔く膝を降り頭を地面に叩きつけた。


「頼む後生じゃセーラン!!我に魔法のいろはを教えてくれんか!?」


 曲がりなりにも元は神だった者が、プライドをあっさり捨てて土下座をしている。あまりのガチっぷりに勇太はいっそ清々しさすら感じてしまった。


「えぇ・・・?うぅ~ん。」


 セーランは迷っているようだ。セーランの人柄が良いことはほんのわずかな付き合いでも伝わってくる。断りにくいだけかもしれない。


 そんな勇太の考えとは裏腹に、セーランはちらっとヤタの方を見た。ヤタはセーランの考えなど言われなくても分かるらしい。


「いいんじゃねぇの?セーランの好きにすりゃ。どうせ客なんて大して来ねぇんだ。嬢ちゃんの相手してやれよ。」


「そうねぇ。ヤッくんがそう言ってくれるならぁ。」


「ヤッくんて言うんじゃねぇ。」


 大して客が来ないと自ら言っていいものなのか微妙だが、思ったよりも乗り気のようだ。セーランはまた少し考えて、シロの方を向き直って言った。


「ねぇシロちゃん。シロちゃんの師匠になってあげてもいいけどぉ。こう見えておばさん、魔法のことにはぁ、手を抜けないんだけどぉ。それでもいいのぉ?」


「構わん!」


「本当にぃ?かなり厳しいかもしれないわよぉ?つら~い目にあっちゃってもぉ、耐えられるぅ?」


「もちろんじゃ!!」


「修行中は私の言うことにぃ、絶対従うぅ?」


「従う!お主が言うたことなら何だってするのじゃ!!」


「今何でも言うことを聞くって言った?」


「・・・え?」


 場の空気が変わった。セーランは普段、目を閉じているのかと思うほどの糸目だ。話し方もそこだけ時間の流れが違うかのようにおっとりしている。


 しかし急に両目をカッと見開き、鋭い口調でシロに投げかけた。あまりの変わりように先程まで調子良く喋っていたシロが固まる。


「ねぇシロちゃん。何でもするって言ったよね?改めてここで誓って。私の言うことなら何でもするって。そうしたら師匠になってあげる。」


「うっ・・・。」


 ものすごく不安を煽る言質の取り方。流石のシロも尻込みをしてしまう。


 勇太はちらっとヤタの方に目を向けた。ヤタは現実逃避でもしてるのか、下を向いてわずかに震えている。


「ぐっ・・・!」


「誓えないのね?じゃあこの話はなかったことに・・・」


「ま、待て!!」


 ここで逃げるとは、冒険を諦めることと同義だ。未知を恐れて安定を取ることがあっていい。でもそれは今じゃない。前に進む為に差し出された手を掴めない愚を、シロは認めない。


「わ、我に二言はない!主の言葉、何が何でも従うことをここに誓うのじゃあ!!」


 震える足を叱咤して、シロはセーランに宣誓した。しばらく無言でセーランはシロを見る。そして、満足したようにニッコリと微笑んだ。


「シロちゃんの覚悟ぉ、確かに受け取ったわぁ。あなたのお師匠さん役、喜んでやらせてもらうわねぇ。」


「有り難い!よろしく頼むぞセーラン!!」


 そう言って握手を交わす2人。ここに1組の師弟が誕生した。魔法使いの頂を目指す師弟が。


「じゃあさっそくひとつぅ、師匠命令ねぇ。」


「な、なぬぅ!ど、どんとこい!!」


 シロはすかさずファイティングポーズをとるが、内容は肩すかしをくらうものだった。


「私の呼び名を変えてもらおうかしらぁ。」


「な、なんじゃそんなことか。」


 シロはほっと安堵した。どんな無理難題を言われるかと思えばそんなことか、そう思った。


「びっくりさせよってからに・・・。いや、よく考えればお主の言う通りじゃ。我は教えを請う身だというに、セーランセーランと呼んでいては礼を失するの。すまんかった。師匠と呼べばいいか?」


「ママ。」


「・・・は?」


「礼なんていいから。ママって呼んで。」


「・・・ぶふぅ!!」


 ヤタは我慢の限界というように吹き出した。どうやらずっと笑いを堪えていたようだ。


 勇太も口を挟みはしないものの、シロと同じで展開についていけない。しかし、ヤタにはここまでの流れが読めていたらしい。夫婦とはここまで気持ちが通じ合うものか、と勇太は少しズレた感心をした。


「ほら、はやく。ママって。」


「え?いやちょ、ちょっと待て。・・・え?本当にそれでいいのかお主?」


「お主じゃないから。ママだから。ほら早く。」


 シロは別に否はないが、すっと口に出せなかったせいか急に気恥ずかしくなった。セーランがグイグイきたり、ヤタが爆笑したりしているせいかもしれない。


 もしくはこのやりとりを真っ直ぐな瞳で見ている勇太のせいかも。


「ほらほら。ママ~って。ママ~って言ってごらん。」


「うっ。わ、分かったから少し落ち着けぃ。」


 そこで少し深呼吸して、意を決したようにシロは言う。


「・・・ま・・ま。」


「え?何?聞こえなかったからもう1度言って。」


「くっ・・・!ま、ママ!」


「え?何何?ごめんもう1度。」


「マァ!マァ!」


「もう少し甘えた感じで。」


「ま、ママぁ~!」


「ママ大好きって。」


「ま、ママ大好きぃ!」


「私もよシロちゃぁぁぁん!!」


「ぎゃあぁぁぁ!!」


 会話のたびにセーランはシロににじりよっていたが、とうとう我慢が出来なくなったようだ。最後にはシロに抱きついて頬ずりをしている。


「任せてシロちゃん!私が絶対シロちゃんを世界最高の魔法使いにしてあげるからねぇ!!」


「や、やったのじゃあ!」


「だから今日は一緒のベットで寝ようねぇ!」


「わ、わぁぁい!」


 よく分からないが、シロの望み通りに事は運んだらしい。セーランも嬉しそうだし、きっとこれで良かったのだろう。


「シロちゃぁぁん!」


「ま、ママ!ちょっと!首がしまっちゃ・・・た、助けてぇ!!」


 これで良かった。その事に、勇太は何故か確信が持てなかった。



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