デス・オア・アイス
この拙作も累計で二百人程度に読んでいただけました。ただそれだけで僕は幸せです。本当にありがとうございます。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「止まったら死ぬぞ勇太ぁぁぁ!!」
「分かってるわぁぁぁぁ!!!」
ローガリアから北に少し行くと“ローガル山”という山がある。そのふもと辺りで、全力疾走で駆け抜ける集団がいた。
「ギャギャギャァァ!!」
「ゴブリン先輩が怒ってらっしゃるぞぉぉ!!」
「シロのせいじゃんかぁぁぁ!!!」
否、訂正しよう。正しくは、30近いゴブリンの集団に追われている2人組がいた。言わずもがな、勇太とシロである。
地を揺らすかのような怒号を背に浴びて、2人は走る、走る。しかし悲しいかな、彼我の距離はジリジリと縮まりつつある。
何故2人が冒険2日目にして死の淵に立たされているのか。事の起こりを遡るとあれは1時間ほど前になる。
「「誰か助けてぇぇぇ!!!」」
始まりはクエストの受注からだった・・・
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異世界“アガルタ”に置ける経験値の入手法は基本的にひとつだけである。それは、敵との戦いだ。
そもそも、シロが作った“レベルアップ”というシステムは、肉体的な成長とは厳密には違う。アガルタでも筋トレをしたり、走り込みをしたりすることで肉体は成長し、ステータスが上昇する。
しかし、そのような成長で得られるステータス上昇は、レベルアップにおけるステータス上昇と比較すると雀の涙と言っていい。
“レベルアップ”とは、言わば魂の拡張。敵との切磋琢磨により、経験値を得ることで己を心身共により高次な生命へと昇華させるのだ。
「つまり敵をぶっ倒すだけで筋力だけでなく頭の良さや魔法に対する素養も上がるということじゃな。」
「無茶苦茶じゃん。なんで魔物を倒すだけで頭がよくなるんだよ。」
「主ら人間が“勉強したくない”と文句をぶーたれるから、このアガルタでは魔物さえ倒せばなんでも出来るシステムを導入したんじゃろが。」
シロの言い分に、勇太は渋々納得する。勉強より魔物倒す方が難しいと思ったが、今更言っても意味のないことだろう。
「敵との戦いで経験値を得られると言ったが、必ずしも倒す必要はない。」
「え?どういうこと?」
「例えばゴブリンを倒すと、経験値が10入るとしよう。」
当然、ゴブリンを倒すことで、経験値が10入る。倒せなくとも互角の死闘を繰り広げたら5くらいは入る。一目見て逃げるだけでも0.1くらいは入る。
「何だそれ!?じゃあゴブリン見つけて100回逃げたらそれだけで一匹倒したことになるわけ!?」
「まぁ、極論言うとそうなるの。」
「それ設定甘過ぎでしょ!?そんなの皆戦わなくなるじゃん!!」
「いやいや、仕方ない設定だったんじゃ。」
そう言ってシロは制作者ならではの苦労話を語り出した。
シロが経験値のシステムを作る時に苦心したのは、まず判定は誰が行うのかであった。当初は自分が行う予定であったが、アガルタに住まう全ての生命の行動を把握し、つぶさに評価して、経験値を振り分けるという作業は、まぁ出来なくはないが非常に面倒くさかった。
そこでシロはアガルタ全土に“マナ”という地球にはない新たな原子をバラまいた。
マナは魂を器として溜まっていく魔力の根幹。それと同時に、魔物の核をなす存在。このマナのやり取りを経験値ということにしたのだ。
「最初は倒した場合のみ経験値が入ることにしたんじゃがのう。そうすると皆、他人と協力しなかったんじゃ。」
「あぁ、そりゃ確かに。」
RPGはパーティプレイ派、もとい人々が手を取り合う世界を望むシロとしては、それはよろしくない。
そこで、倒せなくとも傷をつけたり仲間のアシストをしたりすることでも経験値が入るように設定し直すことを余儀なくされた。
苦肉の策として、シロはマナに意志をもたせることにしたのだ。
「・・・は?意志を?」
「うむ。勇太は集合的無意識という言葉を知っておるか?」
ようは、シロは「世界中に存在する全てのマナは、ひとつの意志によって束ねられている」としたのだ。
マナは大いなる意志の元、生命の成長を促す。魔物を倒せば、魔物のマナは倒した者に移る。それだけでなく、魔物と戦ったり、仲間を助けたり、あるいは逃げたり。そのような行動を取ることで己の中のマナは少しずつ膨れ上がっていく。つまり経験値が溜まる。
「ぶっちゃけアレはダメでこれはいいとか細かいルール決めるの面倒になったからマナ自身に決めさせることにしたのじゃ。」
「ぶっちゃけちゃったよ!!」
「気付いたら筋トレするより知性が高い魔族とジャンケンする方が経験値が入ったりしとってのぅ・・・。」
「筋トレ頑張ってる人に謝れ!!」
「大丈夫じゃって。まだ経験値がどのように入るのか詳しい研究はなされとらんし。知ってるの我らだけ。」
知らない方が幸せだったかもしれないと、勇太は世の理不尽さを噛み締めた。
「・・・で?それがクエストの受注とどのように関係してるわけ?」
長くなりすぎたシロの経験値談義に区切りを付けて、勇太は話の核心に触れた。
「お、そうそう。脱線してしまったが、ようは魔物との戦闘を回避すれば経験値が入ってこないということじゃ。」
「あ、そうか。今はローガリア祭に向けて極力経験値を取りたくないから・・・。」
「そう。魔物の討伐などではなく、薬草の採取などにすれば良いということじゃ。」
初のクエストという意味でも、敵と戦う必要のない薬草採取はうってつけ。勇太に否やはなかった。こうして2人は薬草採取のクエストを受注したのだ、が・・・。
場面は冒頭に巻き戻る。
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「何が“後ろからコッソリやればイケる”だよぉぉぉぉ!!!魔法当たってもピンピンしてんじゃぁぁぁぁん!!」
「うるさいぞ勇太!お主このままゴブリンごときに舐められてもええんかぁぁぁ!!」
「死ぬよりマシでしょうがぁぁぁ!!そもそも経験値いらないって言ってたのにぃぃぃ!!これだけでレベル上がっちゃうかもしんないじゃぁぁぁん!!」
「バカもん!レベル1といえどそんな簡単にレベルが上がってたまるかぁぁ!!・・・あ、今我のレベル上がった。」
「シロのバカぁぁぁぁ!!」
そうこうしてる間に2人の背中に死が迫る。ゴブリンたちは諦めるどころか数を増やしているようにすら見える。
その時、2人の眼前に人影が移った。
「!!!」
「まずい!!」
30メートルほど前方で、岩に腰掛け座っている女性が見える。エプロン姿で、傍らにバスケットを持っている。特に武器や防具などは見えない。明らかに冒険者ではなさそうだ。
2人はがむしゃらに走りすぎて街に近付き過ぎてしまったのだろうか。このままでは女性を巻き込んでしまう。
「くそ!おおおい!!」
シロが危険を知らせようと女性に向かって叫ぶ。勇太も同じように有らん限りの声を出した。
「すみませぇぇぇん!!逃げてくださぁぁぁい!!」
「あら?」
女性はすぐこちらに気付いたようだが、すぐには行動に移っていない。勇太はもう立ち止まって少しでもゴブリンを足止めするしかない、と覚悟を決めた。
その瞬間、勇太の視界が揺れた。足元にある何かに躓いたのだ。最悪だ。大失態だ。やってはならぬミスを犯した、そんな思いが勇太の頭を駆け巡った。
隣のシロを見やると、自分と同じく何かに躓いてこけたらしい。どうやらやっぱり自分達はお似合いのコンビのようだ。そう苦笑して、気付いた。
やけに時間の流れが遅い。これはまるで死の間際に見るという走馬灯のような・・・。そこでやっと理解した。頭は悟っているのだ。1秒後に迫る死の気配を。まるでコマ送りのようにゆっくり流れる時間の中で、勇太は色んな物を見た。
まず足元。てっきり石か何かに躓いたもんだと思っていたが、
自分とシロは普段そこにあるとは思えない氷に足を取られていたようだ。
次に後ろ。ゴブリンの集団。転んだ自分たちに襲いかかろうと駆け寄っているが、勇太が見たその瞬間は、
表情が恐怖に彩られていた。
さらに、自分たちが巻き込んでしまった女性。岩から腰を上げることなく、困ったように左手を頬に添え、あらあらとこちらを見たままだ。
変わったのは一点。彼女の右手が、こちらに差し出されている。そして勇太は確かに聞いた。
「あらあら。危ないから伏せててね。」
という彼女の声と小さなフィンガースナップの音。
最後に見たのは死の具現。彼女から放たれたおびただしい数の氷柱が倒れゆく勇太とシロの間を縫って、後ろのゴブリンに降りかかる。
その後は地面に顔を打ってしまったので見えなかった。ただ、爆撃でもしたのかという轟音が背中から聞こえるばかりであった。
轟音が鳴り止んでやっと顔を上げ、後ろを見ると、そこには大小様々なクレーターと、ゴブリンの魔核が転がっているばかりであった。
勇太は理解した。自分の頭が勝手に悟っていた死の気配はゴブリンたちのものでなく、自分の鼻先約5ミリを掠めるように通っていった氷の柱に寄るものだ。
怖過ぎてずっと固まっていたかったが、そうもいかない。ぎぎぎっと、まるで錆び付いた機械のように前を向き直すと、やっぱり岩に腰掛けたままの女性が、のほほんと声をかけてきた。
「急に魔法を使ってごめんなさいね。大丈夫?怪我はなかった?」
「あ・・・ハィ。大丈夫・・・です。助けていただいてありがとうございました。」
「あらいいのよ。こんなおばさんでも役に立てたのなら光栄だわ。」
ただのおばさんがこんな爆撃機みたいなことを平然とやってのける。勇太はアガルタの恐ろしさを垣間見た。
「あ、また我レベルアップした。」
「ちょっと待てぇぇぇ!!!」
(本当は感想とかブクマとかあるともっと嬉しいです。)
(。・ω・。)




