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リーズン・フォー・クッキング

 急に父親のことが心配になりました。申し訳ありませんが、お暇させていただきます。また会える日まで、お元気で。


 マリアより


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「と、書いてあるぞ。」


「そうか。マリアさんとはまた会えるといいね。」


「そうじゃのう。」


 朝起きてみると、シロの枕元に置き手紙があった。どうやらマリアは昨晩の内に家に帰ったらしい。


「あれ?シロはマリアさんを避けてなかったっけ?」


「はぁ?何でじゃ?我がマリアを避ける理由がなかろう?」


「う~ん。・・・ま、いっか。」


 あれだけ意味もなくマリアを避けといてよく言う、と違和感を感じたが、勇太は特に気にしないことにした。よく“察せ”と怒られているのだ。よく分かんないが、分かったふりをしておこう。


「とにかく準備をするぞ。今日こそ街に入らないとな。」


「え?大丈夫なの?まだ検問されてんじゃない?」


 昨日の今日で街の検問が無くなるものなのだろうか?そう考える勇太の不安を、シロは一蹴する。


「大丈夫じゃろ。そりゃ事件直後に街を出入りする輩は疑われたかもしれんが、1日経てば誰が林を燃やしたかなんて分からんよ。商人の出入りもあるし、検問で犯人を見つけるなんて土台無理なんじゃよ。」


「それ結構希望的な観測が入ってるじゃん・・・。」


 ま、シロの言うとおり悩んでいても仕方ない。とりあえず2人は朝食を取ることにした。


 そして、とうとう露見した。シロと勇太の2人で冒険をするうえで弊害となる数多くのうちのひとつ。かなり大きな問題が。


「ゆ、勇太・・・。お主・・・料理出来んのか・・・。」


「いや、シロこそ・・・。」


 2人の目の前には真っ黒に焦げたナニかが置いてある。とても食べる気にはなれないが、捨てるわけにはいかない。何より他に食べるものもない。


「うん。口の中を暴れまわる苦味、飲み込んだ後に鼻を通る臭み、胃の中で尚主張を続けるエグみ・・・。ここまでマズい料理もそうなかろう。」


「わざわざ解説しなくていいから・・・うぷっ。」


 昨日の夕飯はマリアがちゃちゃっと作ってくれたから気付かなかったが、2人とも料理が出来ない。


 今朝は2人で協力して料理をしたが、出来ないもん同士が集まったところで結果は同じ。特にここには、地球と同じような調理器具があるわけでもなし。焚き火で焼く、これが2人の限界だったのだ。


「こういうとき、普通は主人公がプロ級の料理の腕前をもっていたりするもんじゃぞ。勇太よ。」


「いやいや、僕まだ中学生なんだけど。」


「何を言うとる。今時の主人公を捕まえれば、10人に8人くらい中高生で料理上手じゃぞ。もしくは剣か空手の達人。」


「見たことないよそんな人・・・。」


 やっぱり自分は主人公の器じゃなさそうだ。ハイスペック過ぎる。そんな自覚のない勇太に喝を入れんと、シロは熱弁を振るう。


「甘いぞ勇太よ。これらの主人公は殆どお主と同じ“普通”が売りの男子なんじゃぞ。」


「僕の売りって普通なことだったの?」


「そうじゃ。普通とはつまり、料理はプロ級、喧嘩は軍人並、重火器の扱いは一通りでき、学力は全国模試一位。更に隣の家の幼なじみは超絶美人で出会う美人は全員自分に惚れるくらいのイケメン・・・」


「待って待って。普通ってそのレベルなの?じゃあ僕普通じゃないよ。相当な底辺だよ。」


「意識が低いぞ!それでは冒険を楽しむことなぞ出来ん。本当の本当に普通なら、今から何かを見つけるんじゃ!世界レベルの何かを!!」


「世界レベルって簡単に言うなよ。」


「いいや!簡単に出来る!これからお主は何か偶然もの凄い力を手に入れ、周囲の人間を幾度となくあっと言わせるんじゃ。しかしお主は謙遜して自分の力を低く評価するから、こう言う。“あれ?僕また何かやっちゃいました?”とな。」


「めちゃくちゃじゃん。なんだよそのセリフ・・・」


「よく覚えておけよ。自分以外がよく分からんけど固まったときに言う決めゼリフじゃからな。」


 勇太は使う機会が来るとは到底思えなかった。シロは満足したようにこの会話を終わらせて、現実と向き合うこととした。


「さて・・・目の前の黒い物体を早く食わんとな。」


「改めて言うなって・・・」


「何よりもまずは料理のレベルをアップさせんといかんかもしれんの。」


 それに関しては、全面的に同意する勇太であった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 何とかダークマターもとい朝食を処理して、2人は街へと向かった。結局検問などしておらず、すんなり街に入ることに成功し、勇太はほっと胸を撫で下ろした。


「〝始まりの街ローガリア”・・・?」


「そう、ここローガリアは始まりの街と呼ばれておる。駆け出しの冒険者はまずここに訪れ、力を身に付けていくのじゃ。この辺りに出る魔物はかなり弱いからの?」


「え?何で?」


「は?何がじゃ?」


 ここでまた何かに引っかかったのか、勇太はシロに問いかける。


「駆け出しの冒険者がここに集まるのは近くの魔物が弱いからなの?つまりそれって〝ここにくるまでの魔物は強かった”ってことだよね。ここにこれないじゃん。」


「うっ、言われてみれば確かに・・・。でも、でもでも、基本そういう感じなんじゃよ。主人公が旅立つ場所周辺の魔物が強かったら旅立てんじゃろう。」


「いやいや、それは主人公側の都合じゃん。じゃあ魔物は主人公がどこにいるのかに合わせて生息地域を変えてるの?八百長じゃんそんなの。もしくは魔物が強い地域に住んでる人は冒険に出ることができないの?そっちの人のほうが強そうなのに。」


「い、いやだからそれは・・・。」


「それは?」


「こ、こういうことじゃい!!」


「がぶほっ!!」


 追い詰められたシロに許されし行動は、ひとつしかなかった。本日1回目の肉体言語、神回し蹴りが街中で炸裂し、2人はひと時の間周囲から白い目で見られることとなった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ここ、ローガリアにある冒険者ギルドは、世界各地に点在する冒険者ギルドの中でも最初に創設された、本部となっております。冒険者登録はどこでもできますが、ゲンを担いでこの本部で冒険者登録をする方も多いのです。故に、ここローガリアは歴史的にも現状的にも冒険者にとって〝始まりの街”と呼ばれるのです。」


「なるほどぉ。シロの説明より断然分かりやすいや。」


「うるさいわ!」


「いた!足踏まないでよ。」


 ローガリアの中心部に一際大きくそびえ立つ建物、冒険者ギルド。勇太とシロはそこに来ていた。冒険者登録をする過程で、受付を担当していた女性に説明してもらったのだ。


「では、冒険者登録に関する説明をしてもよろしいでしょうか。」


「はい。お願いします。」


 受付嬢の分かりやすい説明を受ける。要約するとこういうことらしい。


1.冒険者にはG~Aまでのランクがあり、それによって受注できるクエストが違う。


2.ランクはクエストをこなしていくことで昇格していく。失敗を重ねれば降格することもある。


3.魔物は倒すと魔核という結晶を落とす。基本はそれがクエスト達成の証明となる。


4.ギルド内は喧嘩御法度。発覚すれば厳正な処罰が下される。



「素晴らしい・・・。我ながら基本を踏襲した古き良きシステムじゃ・・・。」


「何に喜んでんのさシロは。」


 シロは説明を聞きながら感涙している。分かりやすさ、シンプルさが〝アガルタ”誕生時のコンセプトだったのだ。その出来を自画自賛しているらしい。


「お、お連れ様は大丈夫でしょうか。」


「あぁ。ほっといてください。そういうアレなんで。」


「か、かしこまりました。では、こちらのカードに一滴血を垂らしてください。」


 急に泣き出したシロを無視して、話は先に進める。受付嬢が出してきた2枚のカードには何も書かれていなかった。


「え?これに血を垂らすんですか。」


「はい。このカードには特殊な魔法が込められておりまして、血を垂らすと個人情報が記載されるのです。」


「それならステータスを見せた方が早いんじゃ・・・。」


「たわけ。よく考えてみぃ。」


 そこで、感動から復帰したシロが口を挟む。ギルドのシステムに少しでもケチがつくことが許せないらしい。


「ギルドカードに記載されるのは名前と年齢、レベル、達成したクエストの一覧くらいじゃ。ステータスは元来他人には見せないようにするもんじゃ。自分の得手不得手を簡単にさらすのは命取りになるじゃろが。」


「へぇ~。」


 さらに勇太の耳に口を近づけて、小声で語る。


(何より称号を忘れたんかお主。いちいち異世界やら神やら書いてあるのを見られたら面倒じゃろ。)


(あ、確かに。)


 なるほどシロの言う通り、合理的にシステムが組まれているらしい。


「よろしいですか?よければ血を一滴お願いします。」


「あ、はい。すみませんでした。」


 受付嬢が催促したことで、話が元に戻ってきた。迷惑をかけるのも申し訳ない、とカードに向き合うが・・・


「・・・すみません。血を垂らすってどうしたらいいですか?」


「え?親指をかみ切るとか、唇をかみ切るとか・・・。あ、それか果物ナイフをお貸ししましょうか?」


「うむ。悪いが借りてもいいかのう。」


 そう言ってシロはナイフを借りて、躊躇いなく親指を少し切り、カードに垂らす。すると、カードが光り、シロの名前や顔写真のようなものが浮き出してきた。


「ほれ。次は勇太じゃ。」


「・・・えぇ~。正気の沙汰じゃないよぅ。」


「はぁ!?この程度で何を言うとる!!冒険者になろうというものが、血の一滴くらい流せんとのたまうほうが正気の沙汰ではないぞ!!」


「いや~。自分の身体を傷つけるってどうなのそれ・・・。他に方法ってないんですか?」


「え?あ、あの・・・。すみません。他にはない、ですね。」


 受付嬢も困ってしまった。こんなヘタレが冒険者登録なんて前代未聞なのだろう。このやろう、物理的に血を流させてやろうか、とシロは息をまいたが、そこでふと良い案を思いついた。


「しょうがないのう勇太坊やは・・・。おい、こっち向け。」


「え?なに?」


 勇太がシロの方に目を向けると、シロは両手を体に巻き付けて、よく分からないポーズをとっている。目がどことなく勝ち誇った感じなのが勇太的にはイラっときた。


「・・・。」


「・・・。」


 全く意味が分からない。場が凍り出したことがシロにも伝わったのか、ポージングを変えてきた。


「うふん。」


「・・・。」


 今度はシロが身に付けている純白のワンピースを少し捲り上げ、細い足を勇太に見せつける。何が言いたいのか。足にどんなメッセージ性があるというのだろうか。


「こ、これでどうじゃ!」


「・・・。」


 最後にシロは前かがみになって、首元の服をパタパタし出した。暑いのだろうか。暑いから奇行に走ったのだろうか。受付嬢を横目で見ると、必死に、必死に笑いをこらえている。勇太は悟った。また自分は何かを察せていないのだろう。だとするとこの後の展開は・・・・


「こ、この朴念仁がぁ!!!」


「やっぱりねぶらぁ!!」


 本日2回目、シロの神フックが勇太の顔面にクリーンヒットした。そのおかげで、勇太も冒険者登録をすることが出来たのだ。鼻血によって。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「い、以上で、ぷふっ・・・。ふぅ、失礼しました。以上で冒険者登録は完了です。クエストを受注したい場合は、そこの掲示板をご覧ください。」


 受付嬢が笑いを必死でこらえながら仕事を続ける。素晴らしいプロ根性である。自分ならこんな2人組、門前払いにしているかもしれないと勇太は思った。


「また、別件ですが、1か月後に行われるローガリア祭に関するご案内があります。説明してもよろしいでしょうか。」


「ローガリア祭?」


 祭りであることは分かるが、冒険者に関係のある祭りとは何なのか。興味もあるし時間もある。2人は説明を聞くことにした。


「それでは説明させていただきます。ローガリア祭とは・・・。」


 ローガリアは元々、周囲の魔物が弱い平穏な地域である。しかし半年に1回程度、魔物が大量発生する時期がある。それはローガリア周辺にすむとある2種類の魔物の産卵期が関係しており、今回はそのうちの1種類、ゴブリンの大発生が1か月後に控えている。


 ローガリアではその対策として、魔物の大発生の時期に合わせて冒険者による祭りを行っている。誰がどれだけ特定の魔物を、今回はゴブリンを狩ることができるのかを競うことで、興行と環境管理の2つを同時に行っているのである。


「祭りの上位者には、もちろん賞品が用意されております。ゴブリンは冒険初心者でも安全に狩ることができるので、お二方も参加なされてはいかがでしょうか。」


「ゴブリン先輩かぁ・・・。」


 勇太はあまり乗り気になれなかった。ゴブリン先輩に痛い目を見せられてまだ1日しか経っていない。もう少し力をつけてからでもいいのではないだろうか。


「ちなみに、賞品はどんなものがあるんじゃ?」


「はい。こちらが賞品のリストになっております。」


 シロは賞品次第なようで、リストをじっと眺めている。勇太も横から覗き込んでみると、よくわからない言葉の羅列ばかりだった。


「1位の聖魔剣ダーク・カリバーンってなんだよ。良いのか悪いのか分かんないんだけど。」


「上位の賞品は最近になって近くの遺跡から発見されたものばかりですね。ギルトとしても効果が分からないものが多いんですが、その・・・冒険者の方々はそういうものの方が好みのようでして・・・。」


「あぁ・・・。なるほど。皆ギャンブル好きなんですね。」


 刹那を生きるとはよく言ったものだ。効果が分かっている物よりも、効果が分からない物の方が人気が出るとは皮肉な話だ。


「!!!」


「ん?どうかしたシロ?」


 シロの様子が変わった。リストのある一点を注視している。何かよい賞品を見つけたのだろうか。


「参加する!我らも参加するぞ!!よいな、勇太!?」


「え?あぁ。まぁいいけど。」


「では、お2人はパーティ登録でよろしいですか?」


「うむ!!」


 即決してしまった。祭りまでの間に、ゴブリン先輩に勝てるくらいには力をつけねばならない。


「登録承りました。それでは、今回の特別ルールを先に言っておきます。」


「特別ルール?」


「はい。」


 曰く、冒険者という人種は熱しやすく冷めやすい。ただ狩った数だけを競うのでは賞品が良くても段々と人気が無くなっていったそうな。苦心の末に、運営は毎年特殊なルールを入れて、冒険者を飽きさせないように工夫をしてきたという。


「以前は〝ゴブリンぶっ飛ばし選手権”と題しまして、捕まえてきたゴブリンをどれだけ遠くに飛ばせるかを競ったこともあります。」


「人道的にどうなのよそれ・・・。」


「それはもう大不評にもほどがありました。今回は〝経験値カウント勝負”でございます。」


「経験値カウント?」


「はい。経験値ストックの腕輪というものを用意致します。3日間かけて、よりたくさんの経験値をためたパーティの勝利となります。」


「え?それだと倒した数を競うのと変わらないんじゃ・・・?」


「違うぞ勇太よ。倒した数を比べるよりもかなり戦略性が高まる勝負じゃ。」


「そうなの?」


「そうじゃ。考えてみぃ。まず・・・」


 まず、ゴブリンでなくともよい。周囲一帯はゴブリンが大量発生しているが、ゴブリンは弱い分経験値が少ない。ゴブリンより強い魔物を討伐してもいいだろう。

 さらに、経験値は敵との実力差が大きいほど、実入りが良くなる。ただ魔物を倒すだけなら、強い方が有利だ。しかし、経験値の量を競うなら、冒険者としての強弱の差が埋められる。


「シロさんの仰る通りです。祭り中は経験値をストックする分、参加者はレベルアップできません。もちろん、祭りの終了後に経験値ストックの腕輪を外せば、その数値分成長しますのでご安心を。」


「つまり、今から祭りに備えてレベルアップすることもできるが、強くなればなるほど経験値は得ることが難しくなる、ということじゃ。」


「複雑過ぎてどうしたらいいか分かんないよ。」


 受付嬢は、頭が混乱した勇太を見て苦笑した。今は幼いシロの方がお姉さんのように見える。


「このルールは冒険初心者の方々に配慮したルールです。毎回、祭りでは冒険ランクの高い方々が早々にゴブリンを殲滅してしまったので、ゴブリン以外にも討伐範囲を広げるとともに低ランクの方にも優勝のチャンスを作りました。お2人は登録して間もないのですから、最初はゴブリンを狙うことをお勧め致します。」


「アドバイスありがとうございます。」


 そういって、受付から離れた。今後の方針を固める為にも、ギルド内にあるテーブルに着席して2人は会議を始める。


「まずさ、シロ。なんの賞品が欲しいんだよ?」


「うむ。これじゃ。2位の〝迷子の指輪”が欲しかったんじゃ。」


「なにさ、迷子の指輪って。」


「これはの、装備した者が何か探し物をしているときに、それがどこにあるのかを教えてくれるマジックアイテムなんじゃよ。」


「・・・え?それだけ?」


「馬鹿言え。それがどれだけすごいのか分からんのか。人だろうと物だろうと一度見たものなら場所が分かるんじゃぞ。何より我らにはこれ以上必要なものもないじゃろう。」


「・・・あ!何それ、もしかしてスキルの書も見つけられるの!?」


「その通りじゃ。やっと気づいたか。」


 そうだとしたら、是が非でも手に入れねばならない。シロの即決は間違いではなかった。


「じゃあ、これからどうする?ゴブリンに勝てるくらい鍛えないといけないけど、やり過ぎると不利なんだよね。」


「そうじゃなぁ。バランスをとっていかんとならんが、どちらにせよゴブリンを倒せねば話にならない。まずは慣れる意味合いも含めて、今日は簡単なクエストを受注してみるとするかの。」


「賛成!!」


 こうして勇太とシロは、初となるクエストの受注へと向かうこととなった。

あらすじと題名を変更致しました。

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